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勇者到着する


 僕らは近くの丘から魔王城を見下ろした。。

「なんだこの大きさ」

 圧倒的、スケール。

 全貌がよく分からない。

 魔王城は鏡のような艶やかな黒色をした石をきっちり計算されて積み上げられていた。

 遠くに見える尖った塔がある場所が、本城だろうか。

 入口からかなり距離もある。

 僕らは入口と思われる門に近づいた。

 門には、手をかけるところもない。

「どうやって開けるんだ?」

 僕はバリィに聞いた。

「ちょっと待ってろ」

 バリィは通信機を取り出すと門にかざした。

 通信機はピピっと音が鳴ると、

 門にバリィの姿が映し出されて、

(第三部隊所属のオークバリィ本人と確認)

 ゲームのようなメッセージが表示されて、

 門が音もなく勝手にひらきだす。

「技術力高すぎないか?」

 同じ魔法とは思えない。


 魔法の威力は、人間の方が上だが、

 技術力は、魔族のというより、魔王の方が上だ。


 案内がやってくるのかと思っていると、黒い壁に矢印が表示される。

 僕はこの矢印に見覚えがあった。

「これ、あれですね」

 カレンちゃんが嬉しそうに言う。

「ああ、ゲームの進路表示だ」

 僕らは、現実にいながら、ゲームの中にいるような錯覚を覚えた。

 僕はゲーム機を取り出してみる。

「ああ、やっぱり」

 ゲーム機に埋め込まれている石が、魔王城を構成している石材と同じ素材だった。

 僕らは客としてきたが、敵が攻めてきたら、ゲームの応用で、視覚と聴覚を奪い幻覚を見せて戦いを有利にすることができるのだろう。 


 ただ、僕もふくめて、勇者の暴力的な魔法の前には、無力かもしれない。

 

 僕らは、誰かに会うこともなく、僕は広間まで案内された。

 広間の一番前には、玉座があった。

 玉座には、誰かが座っていた。


「よく来てくれたな」

 聞きなれた声。


 魔王と思われる人物は、玉座から立ち上がると、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


 僕は姿を見た。

 髪も瞳は、ゲームの魔王と同じだが、肌の色は、所々虹色に輝いており、お尻から爬虫類の尻尾が生えている。

 どう見ても、人化魔法を使用しているドラゴンだった。


 僕は、魔王の肌の色を見た瞬間。

 あの日のことがフラッシュバックした。


 燃えていく村と、空を飛ぶ虹色のドラゴン。

 灼熱で灰になっていく人々。

 ドラゴンの大きな口が僕の方を向いて……。


「おい。クラン、俺魔王初めて見たぜ」

 エレンの言葉で我に返る。

「僕もだよ」

「クランはいつも会ってたんだろう」

「ゲームの中だけど」

 エレンは興奮している。


 初めて見たなんて嘘だ。

 僕はあの日至近距離で魔王を見た。

 爛れた左頬が、じりじり痛い。

 魔王の目を見ることができない。

 

「君がエレン殿かな」

「そうだ。よろしくな」

「うむ。長旅で疲れたであろう。部屋や浴場を用意してあるからゆっくり休むといい」

「本当か!?」 

「ご馳走も用意しているから、あとで一緒に食べよう」

「魔王いいやつだな」

 エレンに警戒心とかないのだろうか。

 僕の友達ではあるけれど、人間の宿敵なんだけど。

 馴染むの早すぎないだろうか。

「部下に案内させよう。君来てくれないか」

 進み出てきた部下は羊のような、角を生やしていた魔族だった。

 着ている服に見覚えがあった。

 確かゲームの文化祭の喫茶店で女の子がきていたメイド服というやつだ。

 お城の雰囲気によく似合う。

「クラン、先に行ってるぞ」 

「わかった。シルフ、エレンを見ててくれないか」

 シルフに頼むとなぜか拒絶された。

 珍しい。

 エレンの護衛をしたくないというより、僕の心配をしてくれているらしい。

 大丈夫だといっても、シルフは首を振るばかり。

「ウィンディーネ、頼めるか?」

 ウィンディーネも嫌がられた

 シルフと違い、単に億劫そうだった。

 それでも、エーテルを多めに渡すと渋々従ってくれた。

 ウィンディーネは、ノームやサラマンダ-のようになにか破壊する心配はない。

 了承さえしてくれればちゃんとこなしてくれるので、安心だ。


「バリィもご苦労だったな」

「いえ、滅相もありません」

「妹をやすませてあげるといい。カレン殿だったかな?」

「は、はい」

 カレンちゃんは、エレンと違って緊張していた。

「お兄さんと一緒が安心だろう。しばらくは一緒の部屋で過ごすといい」

「ありがとうございます」

「カレン行こう」

「はい。お兄ちゃん。クランさん、私たちも先に行ってますね」

「ああ」

 カレンちゃんは、バリィがいれば大丈夫だろう。


 ここは、魔族にとってもっとも安全な魔王城なのだから。

 

「他の者たちも、勇者と二人っきりにしてくれないか。和平について二人っきりで話したい」

 控えていた魔族たちに、魔王はそういう。

 特に、異論を唱える者はおらず、みんな、広間から出て行った。

「すまないな。君に神聖魔法をかけてもらうところを部下たちに見せるわけにはいかない」

 魔族思いの優しい魔王だ。

「早速でわるいが、治してもらえないだろうか」

 笑いかけてくる表情もいつもと変わらない。

 

 そのはずなのに、あの日の光景が目に浮かぶ。


 目をつぶれば、ゲームの中の魔王の姿が浮かぶのに、

 七色の鱗が目に入るたびに、ぐらぐらする。


「どうした勇者具合が悪そうだが」


 魔王が近づいてくる。


 いつものゲームの距離。

 

 魔王が僕に触れようとして……。


 僕は思わず飛びのいた。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 僕は荒く息をした。


 魔王は自分の手の甲、七色に輝く肌を見て悲しそうな顔をする。

「そうだな。やはりこの肌は君にとって憎しみの象徴だ」


「神に愛された種族、人間こそが進化の最終系、何万年も生きることができる竜種はただの神の乗り物にすぎない」


「私もある意味獣人、私は人にあこがれを感じる」


「だが、君は人間。神の規制、本来人が私を……竜種に親しみを感じることはないのだ」


 髪の色、声、表情はゲームと変わらないのに。

 あんなに会いたかったはずなのに。

 人の形をとったトカゲ。

 僕はそうとしか思えなかった。


 魔王と共に積み上げてきたものが崩れ落ちていく音がした。

 無限に嫌悪感が心の内側から湧き上がってくる。


「ごめん」


 僕は、かつてゲームの中で魔王にしたように、魔王の首に触れて……。

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