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勇者語り合う

 僕は伸びをして、目を覚ました。


 戦いが終わった後、体を引きずるように、オークの村跡まで戻ってきて、適当に食べたあと、気絶するように眠った。

 今は少し体力が回復してきている。

 目覚めも悪くない。


「なんとかなったな」

 作戦はうまくいった。


 僕は四体いるうち『三体』の精霊を解放した。

 魔力とエーテルがつきかけたら、シルフ以外の三体の精霊を解き放って、仕切りなおす。

 僕が事前に立てておいた作戦通りにうまくいった。

「シルフありがとな」

 僕はエーテルを他の三体より、シルフに多めに渡した。

 シルフも暴れたかっただろうに、我慢してくれた。

 シルフだけは僕の意思を組んで、大地の勇者とその部下達を守ってくれた。

 全員、町のそばまで、嵐で吹き飛ばされただろうが、多分誰も死んでいない。


 守護勇者としての役割を果たせたようだ。 


 シルフ以外の他の三体が不平不満を言う。

「なんだって? 俺らはシルフが守ってくれたのがわかっていたから、思いっきりやっただけ? 本当かよ。その証拠に町まで被害は出していない。うーん。確かに。後払いでいいから、俺らにもエーテルよこせって?」

 結構な量、大地の勇者がくるまで、前払いでも渡していたんだけど、まだ取るのか。

「それはそうと楽しかったからまたやりたい?」

 サラマンダーは、久しぶりに暴れることができて、楽しかったようだが、満足にはほど遠いらしい。

「どうせまたやるんだよ……」

 僕はうんざりした。


 ただ拗ねて戦ってくれないよりは全然いい。

  

 きっと何度も戦わないといけないだろう。

 大地の勇者が諦めるか、

 魔王が天空と南の勇者に勝つまで、これを繰り返すしかない。

 とりあえず、大地の勇者の魔法はわかった。


 まさか、大地の勇者の信仰が死を司る大天使『アズライール』だとは思わなかったが、

 受胎を司る大天使『サンダルフォン』を信仰している僕には効果はない。


 大地の勇者達も、魔力切れだと思うから、すぐには来ないだろう。

 といいつつ、裏をかいてすぐ来るかもしれない。

 誰も死なせていないとはいえ、サラマンダーとウィンディーネに拷問紛いのことをやり続けていたから、結構脱落してくれることを期待している。

「でも、軍人だもんな」

 軍の方針がわからないが、出撃しない方が罰が大きいということもあるだろう。

 さらに言えば、援軍を呼んでくる可能性もある。

 僕も手の内をすべてさらしてしまった。

 精霊を四体従えている僕に対策も取りづらいだろうが、無策では来ないだろう。


「はあ、竜種倒す方が断然簡単だなぁ」


 全力でやれないというのは、辛い。


 そもそも精霊魔法は、手加減が難しいのだ。

 精霊達は、意志を持っている。

 魔法と違い、エーテルを渡したとしても、必ず魔法を使ってくれるわけではない。

 逆に、エーテルを渡さなくても、魔法を使ってくれることもある。

 精霊たちの機嫌の管理が重要だ。

 基本的には、よっぽど機嫌が悪くない限りは、エーテルを渡して、敵を倒せと命じれば、倒してくれる。

 なのだが、

 殺すなと命じていたのに、サラマンダーは兵士達を黒こげにしていた。

「少数精鋭の軍隊で助かった」

 普通の兵士なら死んでいる。 

 数だけの一般兵で来られる方が戦いづらい。

 事前に、こちらも情報を集めておく必要があるだろう。

 とはいえ、僕自身が町に出向くのは目立ちすぎる。 

「偵察は……」

 シルフ以外の三体はそっぽを向いた。

「お前らは、暴れること以外あまり言うこときいてくれないよな……」

 僕は仕方なしに、シルフの方を向く。

「シルフ、おねがいしてもいいか」

 頷いてくれた雰囲気があった。

「よろしく頼むよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 僕は何回か大地の勇者を迎撃に成功していた。

 拠点にしているオークの村で休んでいると、村に誰か入ってくる気配があった。


 僕が剣に手をかけ、警戒しながら、待っていると、

 侵入者が誰か判明した。


「なんだエレンか…………東の勇者」


 エレンが東の勇者を一緒に連れてきていた。


 ロングの黒髪、男が見てもほれぼれするような顔立ち。

 間違いなく東の勇者だ。

 前あったことがある、神官の女もつれている。


 エレンを見ると、安心しろとアイコンタクトを送ってくる。

 エレンを信頼した以上、説得できたと信じるしかない。

 僕は剣から手を離した。

 

 僕が何も言えずにいると、東の勇者の方から、話しかけてきた。

「大地の勇者とやりあっているようだな」

「そうだ」

「西の勇者を倒すのを手伝って欲しいと泣きついてきたぞ」

 泣きついて?

 あの冷酷そうな大地の勇者が?

「知り合いなのか?」

「幼馴染だ」

 東の勇者は貴族。

 軍隊と知り合いであっても不思議ではない。

 大地の勇者も貴族の出なのだろう。

 それにしても、

 こいつの知り合い、美人ばっかりだ。

 うらやましい限りだ。

「それで、大地の勇者の味方しなくていいのか」


「さすがに殺されたのなら、考えるがお前はあしらっているだけだろう。それにエレンのお願いの方が大事だ」

 

 美人で幼馴染の女勇者の願いより、エレンの方が大事と。

 愛の力か。


「エレンは、魔王の言葉を信じたお前の言葉を信じるそうだ」


「ならば、俺は、魔王の言葉を信じたお前の言葉を信じたエレンの言葉を信じるとしよう」


「つまり、魔王との共存に共感してくれるということか?」

「そうなるな。少し予定より早いが魔王討伐(新婚旅行)を切り上げるとしよう」

「なんだって?」

 なんか今魔王討伐が変な感じに聞こえたぞ。

「それでいいな。お前も」

 エレンではなく、たしかシーラという神官の女に言う。

「はい。あなた」

 あなた⁉ つまり東の勇者が旦那ってことか。

「そこの女神官は嫁さんか」

「前、紹介しただろう」

「紹介はされたが……」

 確かに紹介はされた。

 でも、嫁だと紹介はされていない。


 ということは、エレンは初めから実らぬ恋だと知っていて、東の勇者のパーティーに入って……。


 僕がエレンのことを不憫に思いはじめていると、

 東の勇者がエレンに向かって言った。

「それでいいな。エレン」

「ありがとう。お兄ちゃん」

 エレンが東の勇者に頷く。


 ん? なんだって?

 お兄ちゃん……?

 お兄ちゃん?

 お兄ちゃん!?


「なに? エレン、東の勇者が兄貴なのか?」

 僕は驚いて、エレンに確認する

「だから、大丈夫だって言っただろう」

 大丈夫だとは、言ったが、どうして大丈夫なのか聞いていない。

 てっきりお気に入りだからとかそういう理由だと思っていた。


 よく見ると東の勇者とエレンは顔のパーツがいくつかそっくりで、兄妹としてみると、そうとしか見えない。

 大事な情報全部言わないところとか性格もそっくりだ。


 エレンは東の勇者を大好きって言っていたが、ただのお兄ちゃんっ子なだけかい。

 本来夫婦水入らずの新婚旅行についていぐらいなのだから、確かに大好きに違いない。


 いやいや、魔王討伐が新婚旅行ってどういうことだよ。 

 

「新婚旅行で、魔王討伐ってどういうことなんだよ」

 僕は、心の中でとどめておくことができずに口に出してしまった。

「お前に武道大会で負けたからな。魔王討伐ぐらいはお前に勝ってやろうと思ってな。お前が勝負から降りるというのなら、もうあまり興味はない」

 東の勇者は、律儀に答えてくれる。

 僕が理由というのはうれしいが、

「王女と結婚を狙っているんじゃないのか?」

「ははは、この俺が王女と結婚だと? 何を言っているんだ」

 既婚者だから、興味ないのも当然か。

 嫁を隣に連れていて、堂々と浮気宣言はしないだろう。

「俺はお前を負かしたかっただけだ。武道大会も本当は、余裕で優勝するつもりだった」

「僕もそうだ」

 あまりに戦いが激しくて、観客がほとんど逃げ出したほどだった。

 一位でも二位でも、勇者の称号はもらえたが、僕はどうしても、『西』の称号がほしかった。

 選択権が得られる一位になりたかった。

 勝負に勝ちはしたが、場外アウトという結果だ。

 命を懸けて戦えば、どちらが勝つかわからないだろう。

「もう僕は勝ち逃げするつもりだ」

「まあ、いい。お前は、ドラゴンを倒しまくっていたからな。お前に負けたからと言って、俺が弱いという評価にはなっていない。くだらないやつに負けたりするなよ」 

「わかったよ」 

「そんなことよりエレンはお前と一緒にいきたいそうだ」

 東の勇者がエレンの背中を押す。

「いいのか?」

 僕はエレンに聞いた。

 エレンは僕の目を見て答える。

「もちろんだ。カレンちゃんを助けるためだからな」

 思いは同じ。

 ならば一緒にいる方がいいだろう。 

「わかっていると思うが、お前に妹を任せる以上、妹に何かあれば許さない」

 今までで一番真剣な顔をして東の勇者は言う。

「お兄ちゃん。それは言わない約束じゃ」

 僕は、エレンの言葉を遮って答える。

「わかってるよ。エレンはなにがあっても守るよ」


 もちろんそのつもりだ。

 仲間は絶対守ってみせる。


 神官の女は、エレンの手を握る。

「エレンさんも頑張ってくださいね」

「はい。シーラお姉さま」

 二人のやりとりを見ながら、東の勇者が言う。

「王に多少は口添えしといてやろう」

 王に謁見もできるとは、

 さすが貴族だ。

「助かるよ。ありがとう」

 僕がお礼を言うと

 ふっ。とわずかに東の勇者が笑った。

 絵になるかっこよさだった。


 二人を見送りながら、

「どうしたんだクラン」

 エレンが聞いてくる。

「東の勇者、いい奴だな」

「当たり前だろ。自慢のお兄ちゃんだぞ」

「そうだな」

 

 完全に東の勇者のことを誤解していた。

 おんな二人侍らして、魔王倒して王女様と結婚を狙う浮気性の最低やろうじゃなかったのか。

 強くて、かっこよくて、一途で、妹想いで、僕のことをライバルと認めて、


 本当に最高の勇者様じゃないか。


 僕は僕なりの勇者を目指すけれど、

 できることなら、あんな勇者にもなってみたいものだ。

 僕はそう思うのだった。

  

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