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孤独の勇者ゲームを始める  作者: 名録史郎


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20/37

勇者と魔王

 僕はゲームを起動し、ブロックされている魔王のアカウントであるメリアンヌの名前をしつこくコールした。

 こんな時だからこそ、情報収集のために、定期的にインしているはずだ。


 通常であれば、ブロックされていれば、

 コールできない仕様になっていると思うが、

 あっちは開発者。

 数あるアカウントの中から僕とマッチングをしたり、

 無理やり承諾なしにメンバーにしたりとやりたい放題していた。

 きっと僕がインしたとなれば、気になるだろう。


 粘ってみるしかない。


 僕は一時間ほど鳴らし続けて、

 まだまだやってやると思っていると、

 突然フレンドのブロックが外れた。


(メンバーに選ばれました)

(告白コース)

(イベントをスキップします)


 お決まりのメッセージの後で、視界が暗転し、世界が変わった。

 いつもの夕暮れ時の教室に魔王が現れた。

 悠然と椅子に腰掛け、足を組んでいる。

「はあ、君はしつこい男だな」

 色っぽい仕草で、銀色の髪の毛をかきあげる。 

「絶交だといっただろう」

 最後に僕を睨みつけた。

「君とはもう話すことはないと言ったはずだ」


 魔王になくても僕にはある。


「君は魔王、魔族の王だろう?」

 一応、もう一度確認した。

「そうだといったはずだ。だから、私を殺したければ、魔王城に」

 僕は魔王の言葉をさえぎるように言った。


「魔族の女の子の保護をお願いしたい」


「魔族の女の子の保護? ……なにがあったのだ」

 魔王は、ようやく話を聞く気になった

 僕は今までのいきさつを話した。


 このゲームでオークの友達ができたこと。

 オークの村にゲームで仲良くなった友達がいたこと。

 オークの村が大地の勇者に滅ぼされたこと。

 オークの友達を僕が助けたこと。


 魔王は最後まで静かに聞いていた。

「……確かに彼女の兄が魔王城で勤務しているな。彼に暇を出そう」

 魔王はそう言ってくれた。だが、

「一人だけか。大地の勇者がそばにいるんだぞ、一人で安全に保護できるとは……」

 魔王は首を振る。

「仕方ないだろう。今魔王軍は、天空と南の勇者と交戦中なのだ」

「天空と南の勇者と? そうかだからあんなに天空の勇者のことを僕に聞いていたのか」

 確かにギルドでもそんな話を聞いたことがある。

 実感が湧いていなかったが相当激しい戦いのようだ。

「あの頃は天空の勇者だけだったが、南の勇者も参戦し、戦況がよくない。……今しがた、幹部の一人がやられたと連絡があった」

 魔王に悲壮感が漂っていいた。

「今全軍であたって前線を維持するのでいっぱいいっぱいなのだ。そちらに軍を分けることができそうにない」

 魔王は嘘をついているようには見えなかった。

 そちらが情報をくれたのなら、こちらも情報を渡すのが礼儀だろう。

「僕の予想では、オークの村を滅ぼした大地の勇者が、もうすぐ侵攻を開始すると思う」

 僕は状況も説明した。

「そうか。君が姉さんを倒してしまったから、大地の勇者も動きやすくなったのだろう。もう魔族はダメかもしれないな」

 あきらめにもにた言い方だった。

 諦めてもらっては困る。

 カレンちゃんの未来がかかっているのだから。

「何を弱気になっているんだ」

「君たち勇者は倒しても倒しても、次から次に強い勇者があらわれてくる」

「魔王だってそうだろう」

「君たち人間から見ればそうかもしれない。だが、もう後がない。もう私より強い魔族はいないのだ。もう私が倒されたら、終わりだ。みなわかっているのだ。だから私は泣き言もいえない。皆が不安になるからな」

 魔王に疲れが見えた。

 ぽつりぽつりと零れ落ちるように魔王は話し出した。

「この間だって、本当は、姉が倒されたと聞いても、笑って君から情報を聞き出すつもりだったのに、うっかり感情をコントロールできなかった」


「もう私の愚痴を聞いてくれる、兄さん姉さんたちはもういない」


「勇者助けてくれ……私は死にたくないのだ。って何を言っているのだ私は、君は……勇者はむしろ私を倒しにくる存在だろうに」


「今日はいつもの君だな。うっかり本音で話してしまう」


「もう本当は魔王だって辞めたいのだ」


「どこか遠くで穏やかに過ごしたい……。けど、みんなのことを思うと、それもできない……」


 押しつぶされそうな責任感が伝わってくる。


「昔は我らが優勢であったはずなのに、君たちは次々新しい魔法を習得した。暗黒魔法、神聖魔法、それに君の精霊魔法だ。対抗するため、我らもその魔法を覚えようとした」


 魔王は、長い吐息を吐いて続ける。


「だがダメだった。悪魔は我らの魂を受けつけず、神は我らの信仰を欲さない。精霊達は我らの声に耳を傾けてくれないのだ」

「当たり前だ。僕らがどれだけ君たちに滅ぼされかけたと思う」

 ある者は悪魔に魂を売ってまでも力を得ようとした。

 ある者は神にひたすら祈りを捧げた。

 精霊達は、嘆き悲しむ声を聞きに来てくれた。

 諦めず、逃げ出さず、苦しくても祖先は歩き続けてきた

 何世代も蓄積されたものが、ようやく芽を吹き出しただけなのだ。

 覚悟とため込んできた思いの量が違う。

「僕が使う精霊魔法は、本来生活魔法だ。風が風車を回し、地が大地を耕し、火が料理をし、水が喉を潤す。とても攻撃に使える威力がある魔法ではなかった」

「では、なぜ竜種を倒せるのだ」

「精霊たちは、気が狂うほど、僕の怨嗟の声を聞き続けてきたからだ」

「怨嗟?」


 過去の出来事は人に話したことはなかった。


 僕はずっと一人。

 孤独だったから。


 現実でまともに話したのは先代西の勇者ぐらいだろう。

 ただあの人は、僕の強さに劣等感をいだいていた。

 結局、心を開いたかと言われるとよくわからない。


 最初に話すのが魔王、それもいいだろう。


「僕は七色の鱗をした竜種を探している」

 ゆっくり僕は話しだした。

「僕の村は片田舎だったが、昔から魔法の研究が盛んで、勇者をよく輩出していた」

 僕は、記憶に染みついたあの日を思い出す。

「あの日は別に特別な日ではなかった。僕は朝起きて、釣りに行って帰ってきたただそれだけだったのに、村は炎に包まれていた。空を見上げれば、恐ろしい炎を吐く七色鱗をしたドラゴンが飛んでいた」

 僕は、現実では焼けただれている左頬を触る。

「その七色の竜が僕の村を滅ぼし、両親を殺し、僕の顔を焼けただれさせた張本人。他の魔族は興味ないが、僕はその七色の鱗を持つ竜だけはこの手でたおしたいと思っている」

 あの日までは、僕は戦いとは無縁の生活だった。

 両親の研究を手伝いながら、釣りや農作業をしていたただの少年だった。

 あの日を境に運命が狂った。

 僕は七色の鱗を持つ竜種に復讐を誓った。


「竜種のトップならそいつがどこにいるか知っているだろう?」


 僕が質問してから、随分時間があいた。


「その竜は……私だ……」


「やっぱりそうか」 

 魔王だと告げたあの時よりも意外ではなかった。

「そんな気がしていたんだ」

 魔王は頭を抱える。

「怖かったのだ。神聖魔法、暗黒魔法が生まれ、魔族は押されはじめていた。そこに新しい魔法が加われば、魔族がどうなるか……だが、家はすべて燃やしつくし、生存者がいないかしらみつぶしに確認した。生き残りなどいないはずだ」

 その認識は間違いない。

「僕はあの日確かに一度死んだ。君が僕にドラゴンブレスを撃ったとき、とっさにエーテルを山ほど精霊たちに与えた。意図したものではなかったが、君という脅威が去った後で、精霊たちが僕を蘇生してくれた。あの頃はまだ神聖魔法を覚えてなくて、肌などはうまくいかずに、焼け跡が残ってしまったが」


 精霊達は生きている最低限の状態にしてくれただけだった。

 なんとか隣町までいき、治療を受けた時には、肌などは魂に固定され、元に戻ることはなかった。

 記憶だけでなく、体にも染みついた。

 恨みを忘れるなと言われている気がしていた。


「私が君の恨みを買い、君を竜殺しの勇者にしたのか……」


「私達は最初から戦う運命だったのか」


「まあ、いいか。君に首を取られるなら、本望だよ」


「君に勝つ自信は最初からなかった。ゲームの世界で仲良くなっていれば、命乞いしやすくなるかなと思っていたぐらいだ」


「他の勇者がやって来る前に、私の元に来るといい」


「できれば、ひと思いにやってくれ」

 魔王は力なく笑った



「まあ、魔王最後まで話を聞け」

 さっきまでは過去の話。

 ここからが、僕の今の思いだ。

「確かに目の前にお前がいたら戦うしかなかったが、お前が殺し合いをする事ができず、話し合いしかできないこの空間を作ったんだ」

 竜種を見れば、我を忘れる僕も、今は心を保っている。

「僕はカレンちゃん……魔族のオークである彼女と友達になった。僕はわからなかったが、彼女にとって僕らが人間であることは明らかであったはずなのにだ」

 顔のやけどの跡が恨みを忘れるなと言われている気がしていたのは今までの話だ。

 人間である僕を見て、ゲームの中と同じように笑ってくれたカレンちゃんを見て全部吹き飛んだ。


「僕は仇をとることよりも友達をカレンちゃんを守りたい」


 そう。

 これが今の僕の気持ち。


「君が死んで魔族が滅ぶというのなら、僕は君を殺せない」


「ただ僕は人の勇者でもあることもやめたくはない。君が人を滅ぼす魔王だと言うのなら、僕は今から君を倒しに行く。カレンちゃんを助ける方法は別に探す」


「だけど、君が人との和平を望む魔王だというのなら僕は人と魔族どちらも守る勇者となろう」


 これが僕の結論だった。


「君が人に嫌われるぞ」

「どうせ今も嫌われている」

「口約束だけかもしれないぞ」

「僕は友達の言うことは信じる」

「友達……君は騙した私のこともをまだ友達と呼ぶのか。絶交しただろう」

「それは君が勝手にしただけだ。君がしたことを許したわけではないが、僕はまだ友達だと思っている。ゲームのことを楽しそうに話すときの君は、僕を騙そうとは思っていなかったはずだ」

 僕はゲームのことを楽しそうに話しているときの、魔王を信じたい。

「僕の本当の姿を知っていて、普通に話かけてきてくれた君のことは好きだった」

「下心があっただけだ」

「そうだったとしても、敵であっても変わらない」


「お互いがお互いの恨むべき敵だぞ」


 彼女は僕の家族を殺し、

 僕は彼女の兄弟姉妹を殺した。

 人と魔族が今までずっとそうであった


「それでも手を取り合おう」


 守るべき友達のために。

 助けたい仲間のために。

 恨みよりも大切なことのために。


「わかった。そこまでいうのなら」

 魔王は涙を拭いて、立ち上がる。


「私は人と和平を望む初めての魔王となろう」


「僕は、人と魔族どちらも守る初めての勇者になる」


 僕らは、手を取り合った。

 共に戦うために。

お読みいただきありがとうございます。


物語はようやく折り返し地点です。

後半も頑張って書きたいと思いますので、

続きが読みたいと思っていただけたら、

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モチベーションアップにつながりますので、応援よろしくお願いします!

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