勇者ゲームと出会う
僕は勇者である。
だが、勇者を辞めたい。
正直疲れた。
◇ ◇ ◇
僕はクライン。
剣技も一流。魔法も精霊魔法を極めたエレメンタルマスターで、当然神聖魔法も使える。
出身は田舎だけど、王国の武道大会で優勝をはたして、勇者の称号を手に入れた。
勇者の中の勇者といっても過言ではないと自分では思っている。
ただ、いかんせん人気がない。
理由は明白である。
容姿がぱっとしないのだ。
体はもちろん勇者なので鍛え上げている、が、昔魔族から受けた攻撃で顔の左半分以上は焼けただれていて、無事な右半分もひきつっており、目つきは魔物より鋭い。
自分と目があうとだいだいのものが、恐怖におののく。
それは、魔物だけでなく人間も同様である。
本来は魔王討伐の名目があるのだから、無理やりでもパーティーをくまなければいけないところであるが、いかんせん何でもできるせいで、不足ロールが存在せず、戦闘面でくみたいと思う人間がなかなかいないのである。
……という言い訳をしているが、なかなか自分から声をかけれないというのが実情である。
過去に数回声をかけたことがあるが、全て玉砕。
心がおれてしまった。
「魔王を倒したら、お姫様と結婚できるらしいけど、本当かなぁ」
武闘大会で遠目にみたお姫様は、美人ではあったけど、俺みたいな人間と快く本心から結婚してくれるだろうか。
「ないよなぁ」
と思いながら、遥か遠く見えもしない魔王城にむかって歩いていた。
僕がぼんやりさぼりながら歩いていると、
追い抜た豪奢な馬車が、急にとまった。
「よう西のぼっち勇者」
中から聞いたことがある声がした。
西というのが僕の勇者の称号だ。
僕は四方守護勇者の一人である。
あんまり、西という言葉に意味合いはない。
国が決めた称号の一つだ。
他にも、勇者の称号には森羅万象勇者などがある。
馬車から降りてきた男をみた。
「ああ、東のか……」
中からわざわざ降りてきたのは、黒髪ロングの超美形の貴族上がりの勇者である。
僕と同じ四方守護勇者の一人だ。
契約している悪魔も炎系統の最上位との噂。
武闘大会で見た車輪のような炎の魔法を見るに、契約している悪魔はベリアルだろう。
「相変わらず一人みたいだな」
そういいながら、僕の腰につけている名剣を一瞥すると舌打ちをした。
武闘大会の優勝品の一つだ。
勇者の称号と共に送られるものだ。
武闘大会の決勝戦で、打ち負かしたことをいまだに根に持っているのだろう。
僕らが武闘大会に出た時、勇者の空席が二つあったので、彼もおこぼれをもらった形だ。
まあ、プライドが高い彼のことだ、おこぼれということが許せないのだとは思う。
不機嫌だった顔が一瞬で、得意げな顔になった。
「俺の新しい仲間を紹介しよう。格闘家のエレンとシスターのシーラだ」
馬車の中から二人の女性が現れた。
一人は露出度の高い絹の服をきており、見せつけるような肉体は均整がとれており、力強い。拳にだけ、最高純度のオリハルコンのナックルをつけている。もう一人はいかにもシスターといった格好をしており、少しうしろにさがっており控え目だが、うちに秘めた魔力も大きく神聖魔法の使い手なのが一目でわかる。
そして、どちらも美人である。
素直にうらやましいと思った。
そう思った時点で相手の思惑は成功である。
「何でもできるお前さんには、パーティーなんて必要ないだろうがな」
東の勇者はそう皮肉を得意気に言うと、二人を馬車に戻るように促した。
「お前には二度と負けない。魔王を倒すのは、俺達だ」
それだけ言い残して、東の勇者御一行は行ってしまった。
おもわずため息がこぼれた。
すでに敗北感でいっぱいだ。
何もかも、東の勇者の思惑通りであった。
◇ ◇ ◇
新しい町につくと、いつもの習慣通りに魔法屋を訪れた。
僕は神聖魔法も使えるためそれほど回復アイテムなどは必要ないが、最新の魔術書などは定期的に確認しておかなくてはいけない。
僕は精霊魔法の使い手であるため、悪魔契約が必要な魔術は使えないが、敵対者が使用してきた場合の対抗手段は常に考えておかなくてはいけない。
強さとは数値で計測できるものではなく、自分ができる手札をいかに増やして、相手に対していかに最適の行動がとれるかどうかにかかっている。
腕力や魔力量などは鍛えれば強くなるという次元は終わり、頭打ちになり始めている。
さらにもう一段階強くなるためには、何かしらのきっかけが必要なのだが、最近は強さに貪欲になる気力がない。
正直、今が最大なのかもしれない。
ぼんやり本棚を眺めてみても、気になるのは、
『悪魔ニ体同時契約の秘儀』
『ニ属性複合魔法の可能性』
の二冊ぐらいだろうか。
「新規の悪魔や、神の情報はなさそうだな」
そう呟きながら、ふと奥の方に目を向けると見慣れない魔法を施された石盤があった。
手にとってもどう使うのかわからなかったので、
「ばあさん、この石盤はなんだい?」
いかにも魔女といった風貌の店主に問いかけた。
「何でも、最近できた新しい会社が作ったゲーム魔法というものらしい」
「ゲーム魔法?」
ゲームという言葉がよくわからない。
「恋愛シミュレーションMMORPGとかなんとかいっておったなぁ。何でも使用した人間たちは、同じ夢の中で、ある方向性を持った夢を見ることができるらしい。それは学園バージョンらしい」
らしいばかりでよくわからないが、要約すると、
「同じ夢を見るか」
なんだかちょっと面白そうではある。
「これいくらなんだ?」
「それ自体は、金貨一枚だけど、毎月金貨3枚払ってもらう月額課金制なんだと」
「え? 毎月金とるの?」
そんな支払方法はじめてだ。
「始めたひと月は金をとらないらしいし、石盤を返してくれたら、金貨一枚返却してくれるらしいよ。支払いは好きな魔法屋でしてくれたらいい。支払いが滞ると魔法が発現しなくなるらしい。できればうちで支払いしておくれ、マージンがうちにはいるから」
相変わらず魔法屋のばあさんはらしいばっかりである。
どうやら手数料が結構いいらしく魔法屋協会で置くように決定したらしいが商品が特殊すぎて困惑しているようだ。
毎月金貨3枚だと、庶民には苦しいだろう。ただひと月以内に返却すれば実質ただである。逆に、そういう値段設定にしたということは、この魔法を作った人物はは、ひと月で客が返さない自信があるということだろう。少し裕福な家庭であれば少し無理すれば払える程度なんとも絶妙な金額設定である。
ただ、自分にとっては、金貨3枚ぐらいならたいしたことではない。
気晴らしにはいいかもしれない。
「ばあさんこれ買うよ」
「本当かい!? 物好きな勇者様だなぁ」
そういうとばあさんは嬉しそうに、魔法の石盤を箱に入れてくれた。