表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/37

勇者奥の手を使う

 

 オークは豚頭の獣人である。

 カレンちゃんだと思われるオークも、間違いなくその特徴を持っていた。

 大きな鼻に、頭の上に付いた尖った耳。

 ただ人としての特徴も持っている。

 ピンクのほっぺに、しっかりした眉。

 僕らがゲームで一緒に遊んでいたカレンちゃんのイメージ通りの

 可愛らしい姿だった。


「クラン……」

 エレンは泣いていた。

「本当に助かるのか?」

 そう言いたくなる気持ちもわかる。

 息はしていないし、

 体温も感じない。

 間違いなく死んでいる。

 ただ損傷は激しくはない。

 これならどうにかなりそうだ。

「大丈夫。あとは任せてくれ」

 僕はカレンちゃんを抱き起こしながら、

 意識を集中し、神に祈りをささげる。

 

神聖魔法「サンダルフォン」


 男とも女ともつかない、美しき天使の仮初めの姿が 浮かびあがる。

 天使は両手をあわせて、優しく穏やかに歌い始めた。

 歌がカレンちゃんを包み込むと、胸にある傷が消えていく。

 回復ではなく復元。

 究極の神の魅技。

 ただ傷が消えたところで、死体は死体だ。

 よみがえったわけではない。

 今はまだ。


 今度は僕は、精霊達を呼んだ。

「みんな来てくれ」

 火の精霊サラマンダー

 風の精霊シルフ

 地の精霊ノーム

 水の精霊ウィンディーネ

 精霊たちは、死者たちの死に間際の嘆きを受けて、暴走気味で、力が膨れあがっている。

 僕は精霊たちに、ありったけのエーテルを分け与えた。

 

「精霊たちよ頼む。カレンちゃんの魂のかけらを集めてくれ」 

 

 精霊達は四方に散らばっていった。

 しばらくすると精霊達は、仄かに輝く何かを持ってくると、慎重にカレンちゃんに渡していく。

「これは?」

「魂だと思う」

 失われかけている魂。

 人は触れることができないし、神は次の世界に連れて行ってしまう。

 唯一無邪気な精霊たちだけが連れ戻してくれる。

 ふわりふわりと、光り輝くものがカレンちゃんに吸い込まれていく。


 肉体という器に、魂が満ちる。

 

 時が逆巻くように、

 暖かさを感じる。 

 鼓動を感じる。

 生を感じる。


 カレンちゃんは、ゆっくり目を開けた。  


 僕と目が合うと、

「に、人間!?」

 僕の腕から飛び退き怯えたように後ずさっていく。

 無理もない。

 僕はおっかない大男だ。

 それにカレンちゃんは一度、

 僕らと同じ人間に殺されたのだから。

 カレンちゃんは、震えていた。

 瞳が恐怖に染まっている。

「カレンちゃん大丈夫だから」

「落ち着いてカレンちゃん」

 僕ら二人が、声をかけると、カレンちゃんの震えはぴたりと止まった。

 カレンちゃんは恐る恐る、僕らに尋ねてきた。

「もしかしてクランさん、エリックさんですか?」

「どうして僕らのことがわかって」

 僕もエリックもゲームの中の姿は全然違うというのに、なぜそんなにすぐに分かったのだろう。

「だって、私の名前を知ってる人間なんてお二人しかいませんから」

 にっこり笑ったカレンちゃんは、ゲームの表情とそっくりだった。

 

 僕らはようやく、三人そろって現実で出会うことができた。


 

 僕らは村のオークたちのお墓を作ってあげた。

 カレンちゃんは、家族や村人たちのお墓に手を合わせながら言った。

「どうして私は助かったんでしょうか」 

「たまたま傷が浅くて、回復魔法が間に合ったんだよ」

 もちろん嘘である。

 蘇生魔法のことは、伏せておいた。

 優しい彼女のことだ。蘇生魔法の存在を知れば自分より他の人をと思ってしまうにちがいない。

「家族はもちろん好きでしたけど、毛むくじゃらじゃない人間の女の子に少しあこがれていました」

 カレンちゃんが、袖をめくると、人間の男性よりも毛深い腕が見えた。

「お二人とゲームで遊んでいるとなんだか人間になれた気がして、すごく楽しかったです。でも、やっぱり私はオークでした。罰が当たったんですね」

 罰とか、そういう運が絡んだことではないことを僕はよく知っている。

「違うんだ。僕の所為なんだよ」

「クランさんは関係ありませんよ」

 関係がないわけなかった。


 だって、


「僕がドラゴンを倒したんだから」


「クランさんがドラゴンを?」

 隠していてもしょうがない。

 いずれバレるのならば、今全部話しておいた方がいい。

「僕は西の四方守護勇者。竜種討伐専門の勇者なんだ」

「クランさんが勇者……火竜様を……そうだったんですか」

 エレンは僕がドラゴンを倒したことは、当然知っていたのだろう。

 目を伏せている。

「エリックさ……エレンさんと一緒に討伐したんですか?」

「違う。俺は別の勇者の仲間だよ。でも魔族討伐が仕事なのは変わらない」

「そうですよね。お二人は私のような魔物を討伐している冒険者かもしれないと気づいていながらずっと遊んでいたのは私なんです。お二人が気に病む必要はありません」

「そういうわけにはいかないだろう」

 僕らが直接オークを攻撃したわけではないが、

 間接的に攻撃したも同然だった。

「僕が少しでも、カレンちゃんが魔族かもしれないと考えていたらこんなことにはならなかったかもしれないのに」

「隠していたのは私なんです。オークだってバレたら嫌悪されると思っていました。でも、助けにまで来てくれて嬉しいです。ありがとうございます」

 お礼を言われると心苦しい。

 なかったことに……

 は、さすがにできない。

 ただ、もともと敵だったのだから、

 今までのことを話してもよくはならないだろう。

 今考えるべきは未来のこと。

 勢いだけで、カレンちゃんを助けに来たが、

 これからどういう立場でどう行動するか考えないといけない。

「これからどうする?」

 多分同じようにかんがえていたのだろう。

 エレンが聞いてきた。

「どうするの前にエレンはどうしたいんだ?」

 気持ちが一致しなければ、三人一緒には行動できない。

 まずはお互いの意思確認が必要だった。

「俺はもちろんカレンちゃんを助けたい」

 エレンは、迷わず言った。

 お前は、そういう男……ではなく、そういう女だよな。

「僕ももちろんそうだ。カレンちゃんを助けることを優先して動こうと思う」

「二人ともありがとうございます」

 カレンちゃんは嬉しそうに笑った。

「でも、お二人にこれ以上ご迷惑はかけられません。実は兄が魔王城で働いています。そのうち帰ってきてくれると思うので、それまでは、森の奥地に住んでいる他の仲の良い魔族の村にしばらく避難させてもらおうと思っています」

「それなら大丈夫か」

 エレンは安心したようだが、僕は不安がました。

「いやダメだ」

「なんでだよ。クラン」

「大地の勇者は、僕らと違い軍人なんだ。依頼を達成して終わりというわけではない。オークを簡単に倒せたんだ。一旦報告に戻った後で、次はもっと大規模侵攻にうってでると思う」

 無理せず一旦ひいて、体制を整えて、という感じだろう。

「絶好の機会だ。多分、そんなに日もあけずに戻ってくるだろう」

 この森は魔族領に侵攻するのにかなり邪魔だった。

 火竜もいて、なかなか踏み込めずにいた。

 攻略しやすいと分かれば、すぐにでも攻勢に出るだろう。

「そんな、じゃあ、この森に住む他の魔族たちも」

「魔王軍にすぐ来てもらわないといけないのか。カレンちゃんのお兄さん魔王軍で偉かったりする?」

「いえ、普通の兵士です」

 カレンちゃんは申し訳なさそうに言った。

「どうするんだよ。クラン、俺達には魔王軍を動かせるような知り合いも、ましてや連絡を取る手段なんて……」


 連絡を取る手段はある。

 それに魔王軍を動かすことができるとびっきりの奴も知っている。


 僕は念のため持ってきていたゲームの石盤を取り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ