勇者調査する。
カレンちゃんがオークであるというのは、カレンちゃんを探し出すための情報だ。
オーク、オーク、オーク?
魔族のことを調べるなら、まずはギルドだ。
あそこには、いろんな情報が集まってくる。
僕は、ギルドを訪問すると、
まずは以前オークについての貼り紙がしてあった掲示板を確認した。
以前と同じ紙が、いまだに貼られている。
オーク目撃情報。
詳細を見ると、小さい子供のオークと書いてあった。
きっとカレンちゃんだ。
目撃された時期も、僕がこの町に来た数日前、時期的にもあっている。
ただそれ以上のことは、なにも書いてない。
「おい。受付」
僕はいつも通り座っていたぐるぐる眼鏡の受付を呼んだ。
「は、はい」
「オークの情報、これ以外にないのか」
「ギルドに来ているのは、それだけです」
討伐依頼はギルドに出された依頼じゃないのか。
「おい。なにか知らないのか。オークのことじゃなくてもいい、僕以外の勇者のことでもいい」
「えーと、天空の勇者と南の勇者が、連携して魔族領の北側からを攻めようとしているのは聞いたことありますが」
北側?
ここは、どちらかというと南よりだ。
南の勇者が北から攻めるとか、本当に僕らの称号は意味がない。
とにかく天空と南の勇者二人は関係ないのだろう。
「他には?」
「他には特に」
なんて役に立たないんだ。
ギロリと睨むと、
「ひぃ」
と受付は震え上がった。
「ああ、悪い」
気が立ちすぎている。
少し落ち着こう。
ギルドが情報を持っていないということは、国から勇者に直依頼ということなのだろう。
僕は、竜種討伐以外基本やる気がないので、余計な依頼を回してこないように伝えている。
やっぱり情報ぐらいはまわすように伝えておくべきだったと後悔した。
少なくとも、火竜の行動範囲のなかにカレンちゃんの住んでいるとこもあるはずだから、
そんなに遠くはないはずだが、
ドラゴンは移動範囲が広い。
当てずっぽうに向かっても、見当違いの場所にいってしまう。
オーク、オーク、オーク……。
あと誰かがオークのことを言っていた気がする。
だれだったか?
「そうだ。町長の娘だ。受付、町長の家はどこだ?」
「えっ。あ、はい。それならわかります」
受付が地図を広げて、教えてくれた。
ここからそう遠くない。
「ありがとう。あとこの剣預かっててくれ。ちょっと重たいからきをつけろよ」
僕は背中に担いでいたドラゴン退治用の大剣を受付に預けた。
急がないといけないときは、邪魔だ。
武闘大会でもらった普通の長さの剣があればいい。
「ちょっとじゃないんですけど、どうやって持ち上げればいいんですか」
僕は、受付の苦情を無視して、町長の家に向かって急いだ。
僕は最短ルートで町長の家まで行くと、
ちょうど門から、町長の娘が出てくるところだった。
優雅に日傘をさしている。
僕に気づくと、あちらから声をかけてきた。
「あ、勇者様」
様? 僕は以前と態度が違うことに驚いた。
「ドラゴンを倒していただきありがとうございます」
彼女は、お礼を述べる。
お礼を言われるとは思っていなかったので、僕は戸惑った。
「以前はあんな態度をとってしまい申し訳ありませんでした。ドラゴンをお一人で倒せるとはとても信じられなくて」
以前とは比べ物にならないほど、礼儀もただしい。
前まではあれほど口が悪かったのに。
「まあ、それは仕事だから」
なんとかそれだけ僕は言った。
「まあ、そんな謙遜なさって」
クスクスと幸せそうにわらう。
本当に誰だよ。
顔は確かにあの時と同じなのに、別人にしか思えない。
ギルドで見かけたときは、あんなに必死で余裕がなかったのに。
……。
それはそうか。
僕がドラゴンを倒したことで、不安感が解消されたのだろう。
こっちが彼女の素なのかもしれない。
「それより君が以前見かけたオークについて教えてくれないか」
「その件も申し訳ありませんでした。私今まで自分で依頼もしたことなくて」
「それはいいから、情報を頼むよ」
「はい。私がオークを見かけたのは、魔法屋の前です。魔法屋で買い物をしたその子が飛び出してきて、私にぶつかりました。その時私はちらりと見たんです。その子の耳が頭から生えていて、豚の耳にそっくりだったんです」
間違いない。
カレンちゃんだ。
ギルドの掲示板の貼り紙はこの子が提供した情報だろう。
「もしかしたら、また来るかもしれないとおもい、衛兵に魔法屋の傍をはらせていました。案の定、また現れました。衛兵には、討伐はせずに、住処を特定するように伝えておきました。そしたら、結構おおきなオークの村が見つかって、お父様から正式に国に依頼をだしてもらえました。どうやらしっかり受領してもらえたようです」
やっぱり、依頼はこの子が出したのか。
この子が依頼したからカレンちゃんは……。
僕らは人間。
この子は悪いことをやったわけではない。
むしろ、町長の娘として立派に務めを果たしている。
「受領したのは誰かわかるか」
僕は平静を装いながら質問する。
「私はそこまでは、わかりません。ただこれでみんなも安心してこの町に戻ってくれます」
ギルドよりもしっかりした国が受け付けたのだ。
間違いなく遂行される。
「びっくりしました。この町の近くに、魔族の村があったなんて」
どちらかというと、この町の方が、人間が有利になってきてから、発達した町だ。
多分ずっと前から、オークの村は近くにあったのだろう。
火竜がうろうろしていたのは、勇者を警戒しながら、町の住人を追い払いたかったのだろう。
町を攻撃したのなら、間違いなく僕に依頼が回ってくる。
僕は町を攻撃したドラゴンを迎撃した実績もある。
「早く魔族が滅ぶといいですね」
町長の娘は僕にそう言った。
以前は僕もそう考えていた。
恨んでいるのは竜種だけだったが、
別に他の魔族も滅んでくれてもよかった。
今はオークだけはそう思えない。
「お詫びといってはなんですが、一緒にお茶でもいかがですか」
「は?」
僕は信じられない申し出に、変な声を出した。
僕の素顔を見ているのだ。
今でも怖いだろうに、礼節を優先させるしっかりした娘だ。
僕がした話をしっかり受け止め、自分のできることを考え実行にうつしている。
みんなの幸せを考えている子だった。
ほんの少しだけ心動いたが、
「僕は急ぐから」
僕はそう言った。
「そうですか。残念です」
本当に残念そうに言う。
「オークの住処の場所はどこだ?」
僕は一番大切な情報を尋ねた。
「東の森の、北側です」
それだけ分かれば十分だった。
ある程度範囲を絞ることができれば、風の精霊シルフが見つけてくれるだろう。
「そうか。教えてくれてありがとう」
僕はそれだけいうと背を向けて走りだした。
僕は町長の娘が言った言葉を思い返す。
早く魔族が滅ぶといいですね
みんなの幸せを願う言葉。
ただその言葉のみんなの中に魔族は……オークであるカレンちゃんは含まれていない。
後ろから声が聞こえてくる。
「あなたのおかげでドラゴンの脅威はなくなりました」
つまり魔族はドラゴンの守護を失ったということ。
「本当にありがとうございました」
以前はあれほどまでに欲しかった言葉が、僕の心にナイフのように突き刺さっていた。




