勇者お別れする
いつの間にかゲーム内の自分の家に戻っていた。
(フリーモード)
と表示されている。
「ゲームからはじかれたりはしないのか」
ゲーム内の僕はなにも脅威ではないということなのだろう。
確かに何もできない。
安全機能以前に、ここはただの映像の世界だ。
すべてが輝いていて、素晴らしい世界。
そうだったはずなのに。
「まさか、このゲームが魔王がつくったものだったなんて」
気づこうと思えば、気づけたはずなのに、
世間知らずな、開発者というのを素直に信じしすぎた。
いや、世間知らずな開発者というのは確かに嘘ではなかった。
「そうだよ。それは嘘ではなかった、魔王という事実を伏せていただけだ」
初めから知っていた僕が勇者だということを。
人間社会にゲームをばらまいた。
姿を偽装できるゲームを利用して、人間に近づき、情報を聞き出すために。
僕に勇者のことをよく聞いていた。
特に天空の勇者のことを探っていた気がした。
「僕はたいした情報は持っていなかったけど」
僕の話は、他の人間からでも聞けただろう。
他の勇者の動きは、把握していない。
特に仲がいい勇者がいるわけでもない。
連携して動いているわけでもない。
「ちゃんと調べておかないと」
なんて煩わしい。
こんなことをやるために勇者になったわけではない。
戦いが好きなわけでもない。
魔王を倒したいわけでもなかった。
ただ竜種が許せなかっただけで。
竜種を倒すのに勇者になるのが都合がよかっただけだ。
「結果として、他の竜種が、どこにいるかわかったな」
魔王が竜種だというのなら、
勇者の本来の目的通り、魔王を倒す。
ただそれだけだ。
魔族の仲間になることはない。
ただ思惑通り、戦いずらくなったのは確かだ。
目の前に君がいなければ、戦いたくないと思う自分がいる。
ゲームのことを楽しそうに話していたから。
あんまり普通に話すものだから。
普通に友達だと思っていた。
演技ががかった仕草が、本当に演技だとは思わなかった。
本当の姿をしっているのに、話しかけてくれたことが、嬉しかったのに。
「やっぱり我慢していたんだよな」
僕にとって彼女が復讐の相手であるように。
彼女にとっても僕が復讐の相手だ。
そんなに数が多くない、竜種を4匹も倒した。
火竜のことを姉だと呼んでいた。
きっと他の竜も、近い関係だろう。
どんな気持ちで、僕に笑顔を向けていたのか。
想像もつかない。
このゲームで知り合った友達。
エリックとカレンちゃん。
二人に何と言おう。
魔王が作ったと知ってしまったからには、今までのように楽しむことはできないだろう。
敵がどこにいるかわかった以上、遊んでいる場合ではない。
そして、その敵を倒した時、このゲームでは遊べなくなる。
魔王がこのゲームの開発者なのだから。
ちゃんとお別れは言おう。
少なくとも二人と過ごした時間は本物だったと思うから。
現実の二人を知っているわけではない。
仮に現実ですれ違っても、気づくことはないだろう。
話せばわかるかもしれない。
でも現実の世界で僕に話しかけたいと思う人間なんて、
今はもうどこにもいない。
呆然とゲーム内の自分の部屋を眺めていると
カレンちゃんのフレンドマークがオンになった。
(メンバーに選ばれました)
(合流しますか?)
今度は確認メッセージが現れた。
僕は
(はい)
を選択する。
エリックはいないので、幼なじみライバルコースは選べない。
僕の部屋に、カレンちゃんの姿が現れる。
僕は、カレンちゃんの姿を見て少しほっとしたが、
「ああ、よかった。クランさんつながって」
カレンちゃんは、僕の顔を見て泣き顔になった。
「どうしたのカレンちゃん」
キャラクターの向こう側でカレンちゃんが本当に泣いている雰囲気があった。
「クランさんにずっと黙っていたことがありました」
カレンちゃんは突然そう切り出した。
「何?」
嫌な予感がした。
僕はその続きを聞きたくはなかった。
「私は魔族、オークなんです」
「カレンちゃんが?」
本日二人目だ。
開発者が、魔族だったのだから、当然その可能性もあった。
だけど、カレンちゃんが僕のことをだましていたとは思えない。
思いたくない。
「だから、お別れです」
「いや、ちょっとまってくれ」
結論が早すぎる。
「カレンちゃんは魔族軍の関係者?」
「いえ、そういうわけではありません」
そうだよ。
カレンちゃんは、僕からなにか聞き出したりしたことはない。
むしろそっとしてくれた。
僕が聞かれたくないことを察してくれた。
優しい子だ。
いつだって自然な笑顔で接してくれた。
「確かに僕は人間だけど、カレンちゃんがオークだったとしても僕は構わない」
僕は必死に言葉を探した。
「これからも一緒に遊ぼうよ」
さっきまでこっちが別れを切り出すつもりだったのに、僕の口からそんな言葉が飛び出した。
オーク。
竜種とはわけが違う。
僕は魔族全体に恨みがあるわけではない。
竜種以外に恨みはない。
それに僕は高難易度の依頼しか基本受けない。
弱いオークは倒したこともない。
魔王とは違う。
仲良くなれるはずだ。
だけど、僕の言葉に、カレンちゃんは目を伏せた。
「クランさんもエリックさんと同じことを言うんですね」
すすり泣く声が大きくなった。
「そうだよ。エリックも気にしないだろう。今まで通り、三人で遊ぼうよ」
あいつは僕なんかより、おおらかでいいやつだ。
魔族だからって差別したりしないだろう。
「お別れの理由は、それだけじゃないんです」
さっきよりもさらに嫌な予感がした。
「私が暮らしている地域を守っていたドラゴンが勇者に倒されました」
「えっ?」
ドラゴンが勇者に倒された。
僕はその言葉に心当たりがある。
ドラゴンはそんなにいっぱいいるわけではない。
誰でも倒せるわけでもない。
倒したのは僕だ。
魔族最強の種族。
竜種を一匹倒すたびに、
人間は有利になっていった。
その反対に、魔族は厳しくなっているのは当たり前だった。
「その勇者とは別の勇者が、私の村に迫っているようです」
別の勇者? 誰だ。
わからない。
今、勇者の称号を持っているのは僕も含めて六人もいる。
見当もつかない。
「私が人間の魔法屋に料金を払いに行った帰りにつけられてしまったみたいで、住処がばれてしまいました」
魔王は人間の情報を集めるためにゲームをばらまいていた。
魔族にばらまく必要はない。
カレンちゃんがゲームを手に入れるためには、人間の町に行く必要がある。
「どうして、カレンちゃんは人間の町なんかにきたんだ?」
「ははは、私変ですよね。魔族なのに、人間にあこがれていたんです」
聞いたことがある、魔族は最終進化系である人にあこがれを持っていると。
進化した魔族が人の形をとれるようになるように、
本能的に、その姿になることを夢見ているのだと。
「いつも人間の町にこっそり入り込んでいました」
カレンちゃんは、見た目よりも度胸があるのを知っている。
僕の運転する車を楽しかったといい。
ジェットコースターやお化け屋敷も楽しそうにしていた。
「人間の町の魔法屋で出会ったんです。人間になれるゲームに」
実際は魔王が作ったゲームだったなんて普通の魔族に知りようもない。
「うれしくて私油断してしまって、人間に姿を見られてしまいました」
僕の滞在している町だろう。
確かにオークの出現情報が掲示してあった。
「一回目は、ちゃんと逃げ切れたんですけど、二回目は後を付けれれてしまいました。こっそり隠れて暮らしていた村の場所がばれてしまいました」
だから、あんなに更新メッセージが出た時動揺していたのか。
更新するために、人間の町にいかないといけなかったから。
「勇者は、ドラゴンを倒すほどです。弱い魔族である、私たちはひとたまりもありません」
「逃げよう。今すぐ」
僕はそう提案した。
「村のみんなは戦うつもりのようです。故郷は簡単に捨てられません」
「カレンちゃんだけでも」
「私の所為なのに、自分だけ逃げられません」
覚悟が見えた。
「だから、お別れです」
悲しみも伝わってくる。
「お二人と一緒に遊んで、人になれた気がして本当に楽しかったです」
楽しかった。
カレンちゃんは過去形でそう言った。
「クランさん。今まで遊んでくれてありがとうございました」
僕の言葉を聞かずに、カレンちゃんはログアウトしていた。
僕はカレンちゃんが消えた後を呆然と見つめていた。
彼女が実は魔物のオークである。
それはかなりの衝撃的なことである。
嘘だと思いたいが、そんなこといってられない。
今一番重要なことは、カレンちゃんがオークであることではない。
カレンちゃんがピンチであるということだ。
ピンチである。
だけどまだ、
カレンちゃんは生きている。
僕が勇者として今やるべきことは嘆くことではない。
「カレンちゃんを助けないと」
僕は急いでゲームの世界からログアウトした。




