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勇者学校に到着する

 僕とエリックとカレンちゃんは、学校の傍まで来ていた。

「ようやくだな」

 結局、あれから何日もかかってしまった。

「クランの所為だからな」

「わかってるよ」

 少し進むと気になるものが出てくるものだから、なかなか前に進まなかった。

「ショッピングモールとかも楽しかったですね」

「補導されたけどね」

 逮捕されなかっただけ、ましだった。

 注意ぐらいならたいしたことはない。

 

 渡り慣れた横断歩道を横切ると(学校)が見えた。

「あれ?」

 なんだか見覚えがあった。 

 学校の門も見たことがある。

 自転車がたくさん並んだ駐輪場。

 僕は建屋の中を覗き込むと、開発者と告白モードで会った机がたくさん並んだ部屋。

「ここ、学校だったのか」

「おい、クラン学校来たことあるのかよ」

「二人がログインしなかった日に他のモードをしてみたら、学校がスタート地点だったんだよね」

「なんだよそれ。裏切者め。三人で絶対いこうって約束しただろう」

「うん?」

 そんな約束しただろうか。

 したような気もするけど、多分してないと思う。

「ごめんって、わざとじゃなかったんだ」

 エリックが一番学校に行きたがっていたのに、僕が抜け駆けしてしまったのは事実。

 僕は素直に謝った。


ミッションを見ると

(教室に行ってみよう)

に変わっていた。


「とりあえず、ミッション通り、教室に行ってみよう」

「そうだな」

 教室につくと知らない人たちが、いっぱいいた。

 特に紹介などもなく、矢印がついている席につく。

 三人とも席は近くだった。

 しばらく待っていると、リーダー格の男の子が前に出た。

「今日は待ちにまった文化祭だ。今までみんなで頑張ってきた結果を出し切ろう」

 うん? 文化祭?

 いやなにも頑張ってきていないのだが。

 僕ら三人は顔を見合わせた。

 とりあえずミッションを見てみると


(期間限定イベント、文化祭開催中)


「おい。なんかイベント始まってるぞ。学校さぼりすぎたからか」

「いや違うんじゃないか」

 多分、常に恋愛イベントが学校で行われている設定なんだろう。

(日常バージョンに切り替え)

 というコマンドもでている。


「どうしましょうか」

「いや、まず日常パートやってからだろう」

 エリックはそう言った。学校が普通どういったものか知ってからというのもわかるが、

「期間限定書いてあるぞ。このイベントがいつ始まったのかもわからないから、今日を逃すとなくなるかもしれない」

 僕は断然期間限定の方が気になる。

「クランはそういうよな。学校になかなか来れなかったのもその所為だし」

「そういう性分なんだよ」

「私も、文化祭が気になります」

 カレンちゃんも僕と同じタイプだった。

「仕方ないな。次は、日常バージョンをやるからな」

「ありがとう」

 エリックはなんだかんだ言って、僕らに付き合ってくれる。 


 前の黒緑の変な壁に、出し物、メイド喫茶とかいてある。

 喫茶店はわかるが、メイドがわからない。

 冥土か?

 いや、そんな怖い意味ではないと思うのだが

「おい、メイドとはなんだ? 何をすればいいんだ?」

 僕は仕切っている男の子に尋ねた。

「打ち合わせ通り頼むぞ」

 あ、これ、説明してくれないパターンだ。

 父親、母親のように、ゲーム内のキャラクターは、一応こちらの聞いた内容にあわせて、答えてくれるが、アクションバリエーションが限られていて、完全に対応してくれるわけではない。

 基本説明はなく、体感してみろと言わんばかりの対応をされる。

「さあ、着替えましょう」

 知らない女の子がやってきてカレンちゃんを捕まえた。

「えっ、ちょっと待ってください」

 戸惑っているうちに、カレンちゃんが他の女の子たちに連れられて行ってしまった。

 しばらくすると、カレンちゃんは、着替えてやってきた。

 カレンちゃんの衣装を見てようやく理解する。

「メイドって給仕のことか」

 カレンちゃんは黒地の服に白地のエプロンをした給仕の服に着替えていた。

 ただ現実の給仕よりもフリルなどがたくさんついていて、機能性よりも見た目が重視されている。

 なんといってもカレンちゃんが可愛い。

「似合ってるね」

「そうですか? ありがとうございます」

 嬉しそうにしている姿も可愛い。

「クラン。何ポイント稼いでるんだよ」

 そういえば、設定は幼なじみライバルモード。

 エリックとカレンちゃんの奪い合いをしているんだった。

 カレンちゃんはにっこにこで接客を始めている。

「僕らの衣装もあるみたいだな」

 仕切っていた男の子が僕らの衣装を渡してくれた。

 どうやら執事の恰好らしい。

「よし、僕らも着替えに行くか」

 エリックに僕がそういうと、

「クラン、先に着替えててくれないか」

「うん? ああ、わかった」



 僕が着替えて戻ってくると、エリックの方が先に着替えていた。

 エリックは体格が大きいから、衣装がピッチピチだった。

「エリック、サイズあってないんじゃなか」

 現実の僕もサイズが合う服がなくいつも困っていた。

 親近感がわいて笑ってしまう。

「笑うなよ」

「ああ、悪い」


 僕らが、接客を始めようとすると、仕切っている男の子が近づいてきて言った。

「そろそろ交代しようか」

「はやくね?」

 エリックが抗議する。

 ゲームだからか、時間の経過が早い。

 二人の衣装を見れたし、喫茶店も満足はしていた。

 僕らはお言葉に甘えて、文化祭を回ることにした。


「クラン、お化け屋敷があるぞ」

「いや、今日はいいよ」

「今日逃すと、明日はないかもしれないぞ」

「お化け屋敷は、永遠になくていいよ」

 僕はしつこく誘ってくるエリックをかわすため、近くにあった占いの館を指さした。

「それよりこっちの占いの館に行こう」

「よし、クラン、カレンちゃんとどっちが相性がいいか勝負だ」

「わかった」

「楽しそうですね」


 占いの館の中にはいると特にお客さんもいなくてすぐに案内してくれた。

「相性占い頼む。誰と誰の相性がいいか教えてくれ」

 僕がそういうと占い師の女の子は無言でこくりと頷く。

 水晶が壊れるんじゃないかと思うぐら見つめる。


「さあ、こい!」

「どうだ?」

「ワクワクしますね」


 結果は、


 僕とエリックの相性が抜群だった。


「なんでだよ」

 僕は叫んだ。


 占い師の女の子はやりきったといった表情をしている。プレイヤーキャラではないからか、僕の叫びに気にもとめない。


 僕は占いの館の外にでてため息をついた。

「ライバルなのは、僕とエリックだろう」

 幼なじみライバルモードという設定はどこにいったのだろうか。

「三人の相性どれが一番いいって聞き方がダメだったのかもしれませんね」

「そうだったとしても、あの占い師、男同士占うなよ」

「相性悪いよりいいですよ」

「そうだけども」

「引き分けですね」

 カレンちゃんは引き分けで一番嬉しそうだった。

「エリック、勝負はまた今度な」

「ああ、そうだな」

 なんだか、エリックも少し嬉しそうだった。

 エリックの顔を見ていたら、この結果が一番よかったかもしれないと僕も少しだけ思った。


 

 楽しい時間はあっという間だ。

 占いの屋敷に限らず、文化祭の出し物は本当にいろいろあった。

 音楽、出店、芸術、などなど。

 剣や魔法ではなくて、ああいうものに、人生を捧げるそんな人生が羨ましかった。

 

 いろいろまわっているうちに、いつもの眠る時間になってしまった。

「また明日遊びましょう」

「明日は、ちょっとインできないかもしれない」

 僕はそう言った。

「なにかあるんですか」

「ちょっと仕事でね」

 町長の娘に言われたからではないが、そろそろ遠征し本気出してドラゴンを探す時期だろう。

 野宿中に、耳と目が完全にふさがれるゲームをする勇気は、さすがの僕にもなかった。

「仕事……」

 少しだけ、カレンちゃんは仕事の内容などを聞きたそうにしたが、結局聞かないでいてくれた。

 嘘をつくのは気が引ける。

「お仕事頑張ってくださいね」

 カレンちゃんはにっこり笑ってそう言ってくれた。

「ありがとう」

 カレンちゃんがどこに住んでいるのかわからないが、ドラゴンを退治すれば、住みやすくなるだろう。

 少しだけ、やる気が出てきた。

「そういや、二人とも更新はしたのか。警告メッセージ出ているだろう」

 エリックがそんなことを言ってきた。

「警告?」

 僕はメニュー画面をみると、

 

(継続更新、お願いします)

 とメッセージが出ていた。


 まだ日数は残っていたが、そろそろ課金しなければ、ゲームができなくなるのだろう。

「そうですね。どうしましょう」

 カレンちゃんが少し慌てていた。

「払うお金がないとか?」

 ぼくらは、同じ時期に始めたので、カレンちゃんも試用期間中だろう。

 石板をかえせば実質無料なので、継続は考えていなかったのかもしれない。

「いえ、そういうわけではないんですけど、魔法屋さんが少し遠くて」

「そっか。それは大変だね」

 かわりに払い込みするというわけにもいかない。

 カレンちゃんがどこの誰かも知らないのだ。

 でも、お金がないのではなく、遠いぐらいなら、大丈夫だろう。

「また遊びましょうね」

「またな。クラン」

「ああ、じゃあな」

 僕は、二人に別れを告げて、ログアウトした。

 僕らは、普通に約束して別れた。


 僕らは知らなかった。

 普通に遊べるのが、今日までだったということを。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に遊べるのが今日まで、とはいったい何が起こるのでしょう…すごく楽しい生活が終わってしまうのでしょうか…気になります。
2023/04/04 16:14 退会済み
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