勇者デートする
僕がフリーモードでログインすると、
(メンバーに選ばれました)
突然、メンバーに選ばれた。
こちらの承諾なしに、
(ラブラブカップルモード)
勝手にモードが選ばれる。
(自動プレイモード)
今回は靴がたくさん置いてある、玄関からスタートだった。
隣を見ると銀髪の美女がいる。
僕に微笑みかけてくる。
「一緒に帰りましょう」
「そうだね」
僕らは、手をつなぎ、学校の玄関をでると二輪の乗り物が沢山並んでいるところに向かった。
僕がその乗り物の一つにまたがると、彼女は、僕の後ろに座り、腰に手を回してきた。
(自動プレイモードを終了します)
「いや、ちょっと強引すぎないか」
僕は金縛りがとけてすぐに、あいかわらずな開発者様に抗議した。
「すまないな。君がログインしたのを確認したので、いてもたってもいられなくてね。他の子と遊ぶ約束をしていたのかね」
「約束はしてないよ」
二人とはなんとなくいつもの時間にログインして、遊んでいただけだ。
二人もログインできない日もあるし、問題はないとは思う。
「それはよかった。今日は少しゆっくり話せると思うんだ。付き合ってくれるかな」
「ああ、かまわないよ。ところでこれはなんだ?」
僕は自分が跨がる(自転車)という物を指差した。
「これは自転車という乗り物だよ。そのペダルを漕ぐことで進むことができる」
「僕が乗ってもいいのか?」
確か自動車は、免許とやらがいったはずだ。
「これは、高校生設定の君でも乗って構わないよ」
「高校生設定?」
「恋愛を楽しむため、プレイヤーは高校生、簡単にいうと大人になる直前の年齢に設定されるのだよ」
確かに子供すぎたり既婚者で恋愛ゲームというわけにはいかないだろう。
「このあいだは、抱きつくのを拒否されてしまったからな。ラブラブカップルモードを選ばせてもらったよ」
自動モードが終わった段階ですでに抱きついている。
「振り落とされてはたまらないのでね。しっかりつかまらせてもらうよ」
「し、しかたないな」
「触感があれば、君の背中に胸でも押し付けて、からかって遊ぶところだが、残念だ」
「お、おい」
なんてことをいうんだ。
僕が経験少ないことわかってやっているな。
なんて悪質なんだ。
触感なんてなくても、こっちはドキドキしているというのに。
「さて、目的地にむけて出発してくれ。矢印が出ているだろう」
「わかった」
僕はペダルに力を込めた。
僕らは目的地である、土手に降りた。
並んで座る。
沈む夕日をみながら、寄り添いあった。
カップル以外の何物でもなく、少し恥ずかしい。
ただ開発者様は、少しふらふらしている。
「今後、君に乗り物を渡すのは、やめにしよう」
「ごめん」
僕はペダルをこいでいるうちに、スピードを感じはじめて、いつの間にか暴走していた。
開発者様は、最初は軽く捕まっていただけだったのに、途中からは必死で腰につかまっていた。
どうやら僕は、乗り物にのると性格が変わるようだ。
寄り添いあっているのもどちらかと言えば、ふらふらしている彼女を支えるためだ。
本当に申し訳ない。
「この世界は死ぬことのないただの映像だが、加減してほしい、いくら安全機能がついているとはいえ」
「安全機能?」
「そうだ。このゲームには、恋愛を楽しむための、安全機能がつけてあるのだ」
「どんな?」
「まずは死亡したり、怪我をしたときに、血まみれの映像がでたりしないように、すぐさまゲームオーバーになる機能だな」
「あれは、安全機能だったのか」
「もちろんそうだ。恋人がしんだり怪我した映像がうつれば、恋愛ゲームとして台無しだろう。ちょっとした怪我でもゲームオーバーになるようになっている」
グロ映像を見てしまったら、確かに恋愛どころではないだろう。
「そういえば、死ななくても、ゲームオーバーになったぞ」
「ゲームオーバーになる他の条件は……犯罪者になった場合だな」
「黒ずくめの男たちに、金属の輪っかをはめられて」
「警察官だな。それに手錠もかけられたのか。なにをしたのだ」
「車の運転を」
「あれは君の所為か。部下が、ゲームに異常負荷がかかったため、制限をかけたと言っていたが」
「ごめん」
「今後はこのゲームで車の運転しないでくれよ」
開発者に禁止されてしまった。
自転車で我慢しよう……。ダメかな。
「なんの話だったか……。そう安全機能のはなしだったな。あとは対人安全機能だな」
「対人安全機能?」
「恋愛シミュレーションとはいえ、対人ゲームである以上、トラブルは発生する。なので、フレンド登録していない者同士は、体の接触などができない仕様になっているのだ」
恋愛ゲームとはいえ、いきなり脈絡もなく抱きつかれたりするのが嫌な人間もいるだろう。
「フレンド同士なら、働かないのか?」
「ああ、もちろんだ。フレンドのオンオフは簡単だから、セーフティー機能は簡単に発動できる。なにより恋愛シミュレーションゲームだからな。言葉でのいやをそのまま安全機能のオンオフにしてしまえば、ちょっとした恥じらいなどで触れ合うことができなくなってしまう。いやよいやよも好きのうち、まあ、そういうことだ」
「へぇーすごいな」
「フレンド同士でなくても、特定のモード例えば、告白モードなどでは、自動プレイモードが終わった直後一定時間安全機能がオフになるように設定されている、盛り上がったところに水を差すようなことはしたくないのでな。そのかわりイベントの強制終了コマンドが隅っこの方に現れている仕組みだ」
「よく考えられているんだな」
「はっはっは。もっとほめたたえるがよい」
開発者様は僕の手を握っている。
フレンド登録しているから可能なのだろう。
触っている感覚はないとはいえ、本当にドキドキするゲームだ。
「とはいえ、現状のログインで男女比がきれいに1対1になっているわけではないからな。あぶれてしまう人間がでてくる。今はマッチング時間などで調整しているのだが……どうしてもの時は、スタッフにログインしてもらったりしている」
「随分大変そうだな」
「お金はもらっているしな」
常時調整している人間が必要ということは、継続的にお金を取る仕組みがいるのだろう。
料金体制があのようになっているのも納得だ。
「それに、外見はどうとでもなるが、内面で嫌われる人間もいるだろう」
「まあ、そうだろうな」
「嫌われているからと見放すのは、恋愛ゲームとして、欠陥だ。そこで今開発しているのは、NPC恋愛機能だ」
「NPC恋愛機能? なんだそれは」
「ノンプレイヤーキャラクター、実際のプレイヤーがいないキャラと恋愛ができる機能だ」
ノンプレイヤーキャラクターというのは、僕の父親、母親のようなキャラクターのことだろう。
「中に魂が入っているわけではないから、好きだといえば、私もと返すぐらいしかできないが、それでも恋愛を疑似体験できるだろう」
「ああ、なるほど、ゲーム開始時の自動プレイモードの応用か」
「そういうことだ。かなりパターン数用意しなければいけないので、オプション料金を設定する予定だ」
「抜け目ないな」
「はっはっは。完璧だろう」
開発者様は、商売人としても一流らしい。
「君はなにか追加要望はないのか?」
「じゃあ、あの車で競争する機能を」
「いやいやいや、それはもう恋愛ゲームではないだろう」
「別ゲームでもいい」
「うむ? 意外と君は無理を言うのな。さっきも言った通り、このゲームを維持するだけでも相当大変なのだ。魔法の維持もそうだ。映像と音を出力する魔法は、ゲームをしている人間から拝借しているので、問題ないが、プレイヤーの意識を反映させているサーバーというものは常時稼働させる必要がある、部下たちが魔力が枯渇しないように注いでくれているがそれなりに量が必要なのだ。ちゃんと給料を払えるだけのお金は稼げているのだが」
「じゃあ、手伝うから」
「なるほど。君は私が現実でも美人だと言っていたから会ってみたいのだろう」
「いや、そんなつもりで言ったわけでは」
「はっはっは、冗談だよ」
開発者様は、楽しそうに笑っていた。
「それに君は勇者だろう? 魔族討伐はいいのか?」
「そうだなぁ。どうせ魔王討伐だって本気でしていないしな」
「本気でしていない……?」
「どうしたんだ」
「ああ、いやなんでもない。手伝ってもらう方法はいろいろあるし、デバック作業でもお願いしようかな」
「デバック作業?」
「実際プレイしてもらって、おかしなところを報告してもらう作業だよ。作っただけではよく誤作動を起こすものだからな。ゲームはそういう作り込みが大切なのだ」
「そのくらいお安いごようだ」
「ただ今は少し忙しいし、暇ができたら作ってみようかな」
「お願いするよ」
「君は忙しくないのか?」
「特には」
ドラゴン討伐はしているが、いつも通りといえばいつも通り、忙しいというほどではない。
「そうか……それはいいな。うらやましい。私もたまには休みがほしいものだ」
随分とゲーム開発は多忙らしい。
「君は勇者であろう。実は私は、あまり勇者について詳しくなくて少し教えてほしいのだが」
「ああ、構わないよ」
「特に天空の勇者の情報をなにか持ってはいないか」
「勇者のファンだと言っていたな」
僕以外の勇者にも興味があるのだろう。
「ただ僕は四方守護勇者だからね。あんまり森羅万象勇者のことは知らないな。僕らは傭兵の最高峰に位置するけど、あいつらは、軍の隊長に与えられる称号だからね」
「軍の隊長?」
「ああ、天空の勇者が空軍、大地の勇者が陸軍、海洋の勇者が海軍だ」
「そうだったのか」
「こんなことぐらいなら、その辺の子供でも知ってるだろう」
「いやー。私はゲームの開発ばかりしててな。四方守護勇者の他のメンバーはどうなのだ」
「僕は西の称号だが、北は今は欠番、半年ほど前に魔王に倒されたそうだ」
「ああ、そうだったな」
「南はよく知らないが、東は、暗黒魔法の使い手で、僕と同等の強さを持っている」
「君と同等……、東の勇者はどんな魔法を使うのだ」
「魔法使用時に見える悪魔の姿から、推測するに悪魔ベリアルだろう僕はあいつの魔法を獄炎車輪と呼んでいる、炎の威力もさることながら、車輪による物理破壊力がものすごい」
「そんな極秘情報話していいのか」
「極秘情報?」
妙なことを言う。
「はは、何を言っているんだ。僕が勇者なのを知っているのだから、僕は武闘大会で見世物として、東の勇者と戦ったのは知っているだろう」
「そうだったな。なぜ君たちは四方守護と呼ばれているのだ」
「四方守護勇者は、武闘大会の高成績者や、高難易度の討伐などを達成した者に送られる称号。昔は、各地域の優秀な傭兵をそう呼んでいたらしいから東や西というらしいが、今は名前ばかりだな」
「そんな由来があったのか」
「君は美人なのだろう。飲み屋にでもいけば、酔っぱらった兵士がこのくらいすぐ教えてくれるさ」
「私は引きこもりなのだ。君と普通に話せているのも、ゲームの中だからだよ」
「意外だ」
「特に君とは話しやすい。他にもいろいろ教えてもらってもいいかな」
「もちろん」
僕らはそのあとも、いろいろな話をした。
開発者様は、思ったよりも世間知らずで、いろいろと僕に質問をしてきた。
僕は、それに一つ一つ答えた。
美女とは、会話をするだけで楽しいというものだ。
ひとしきり会話をした後で、開発者様は僕に言った。
「いろいろ教えてくれてありがとう。ゲームを作る参考になるよ」
「こんな話でよければ、いつでも」
僕がそう言い終わると、顔が急に近づいてきて、彼女の唇が僕の頬に当たった。
「おわぁ。なにするんだ」
僕はびっくりして、飛びのいた。
「ラブラブカップルモードなのだぞ。別れ際にはキスするものだろう。君はうぶだな」
「からかうなよ」
彼女は、ふふふ、と笑う。
「ではまた、会おう」
このあいだと同じように手を振り消えていった。
僕はゲームだと分かっているはずなのに、いつまでも頬が熱いままだった。




