プロローグ
「よし、あいつで最後だ!」
僕は勇者の合図を受け、僕は心を奮い立たせ、周りで騒ぎ立てる精霊に語り掛ける。
「シルフ」
風が駆け抜け、ふわりと背中に羽を生やした精霊『シルフ』が僕と共に駆ける。
敵はオーガ。
オーガ、人より巨体で、角を生やした凶暴な種族である。
単純な力なら人型最強の魔族だ。
勇者が真っ向勝負を挑む。
激しい金属音と共にオーガの斧と勇者の剣が交わる。
「ぐっ」
勇者が吹き飛ばされて、岩肌に叩きつけられる。
僕は勇者の後方から援護しようとしていたが、標的を僕に切り替えたオーガが斧を振り下ろしてきた。
「ノーム」
大地から現れた小人のような精霊が土を柔らかくし、衝撃を和らげる。
僕は人にしては大きな体で力負けすることなく、オーガの放った衝撃を精霊と共に受け止めた。
「サラマンダー」
今度はトカゲのような精霊がひょっこりと現れ、
オーガに巻き付くように駆け抜ける。
精霊が歩いたところから炎が走り、オーガを燃やしていく。
「がぁあああああ」
オーガがうめき声をあげて、ひるんだ。
僕は大きな自分の剣を、オーガに向かって思いっきり振り下ろした。
◇ ◇ ◇
「勇者大丈夫ですか?」
僕は心配そうに勇者を抱え起こしながら、声をかけた。
「このくらいならたいしたことないさ」
と、勇者は軽く笑って答えようとするものの、強がっているのはすぐに分かった。
僕は、信仰している天使を呼び出す。
神聖魔法「サンダルフォン」
サンダルフォン。それが僕の信仰している天使の名前だ。
男とも女ともとれない美しい仮初の姿が現れると、歌を奏でた。
歌は、まるで巻き付くように、体をおおうと、勇者の体をすぐさま癒される。
後方で支援してくれていた他の仲間も同じように回復させた。
僕は安心させるために、笑いたかったが、
右目のあたり以外を覆いつくした仮面をつけているので、多分相手には伝わらないだろう。
せめて声色だけは優しくなるように努力した。
「大丈夫さ。敵はたいしたことなかった」
僕の安心させようとした言葉に、勇者の表情が暗くなる。
他のメンバーも同じような表情を浮かべていた。
僕はなにか間違ったことをいったのだろうか?
コミュニケーションはあまり得意ではない。
僕はわからずに困惑していると、怪我が治った勇者は、体をおこしながら、僕に悲しそうに言った。
「君にはパーティーを抜けてもらいたい……」
その言葉に、僕の心は凍り付く。
「どうして……?」
今思いついたといった感じではなかった。
どうしても、もう耐えられないといった感じだった。
心当たりはあった。
僕はコンプレックスである顔の仮面を触りながら呟いた。
「やはり、この顔のせいでしょうか」
仮面の奥には醜い爛れた素顔があった。
勇者は、顔を横に振る。
「君に何一つ非はないんだ」
勇者は頭を振りながら、続けた。
「私らは、君について行ってるだけなのに、優秀な勇者のパーティーだと言われている。強いモンスターを倒したなどと、不釣り合いな賞賛を浴びる。みなは君を後ろ指にするのにだ」
「それは別にかまわない」
「それに私らは君に頼りっきりになってしまう」
「頼ってもらっても……」
「それでは私は、無力なあのままと変わらない」
僕が加入した日のことを思い出しているのだろう。
「あの日、ドラゴンをほとんど一人で倒してしまった君のことだ。今日の敵も確かにたいしたことはないのだろう。ただ私たちにとっては、勝てるかどうかギリギリの敵だ」
勇者は自分の手を見つめながら言った。
「なさけない。あんな敵にも手が震えている勇者なのに」
勇者は僕を見つめた。
「リーダーは私だった。だけど勇者の称号は君がもらうべきだったのだ」
「そんなことありません。勇者は……リーダーは立派な人です」
こんな僕でもパーティーにいれてくれたのだ。
僕の素顔をみたことあるのに、それでも 僕のことを仲間だと言ってくれた。
だけど、ここでの別れはこの人にとって必要なことなのだろう。
他の人のように僕の姿を嫌悪しているからではなく、
大切な自尊心を守るために。
「本当にすまない。だがパーティーを抜けてもらえないだろうか」
後ろの仲間二人も同じような顔をしていた。
僕はぐっとこらえながら
「いままでありがとうございました」
そう言って一礼をした。
「こちらこそ短い間だったが、ありがとう。きっと、次会うときは、君と対等に戦えるようになるよ。その時はまた仲間になってくれるかな」
僕は手を出してきた勇者の手をにぎった。
「はい。もちろんです」
僕は肩を並べ、背中を預け、共に戦いたいと願う心を尊重した。
◇ ◇ ◇
ただそれは叶わぬ夢と化した。
ほどなくしてギルドで勇者のパーティーが全滅したと聞いた。
心が締め付けられるようだった。
「無理しても一緒にいたら……」
その場合は、あの人達の心の方が砕けていたのだろう。
勇者がだれであれ、
強いのがだれであれ、
強い勇者のパーティーだと胸をはってくれたらよかったのに。
僕は強くなくても、居場所をくれる仲間が欲しかっただけなのに。
君達がくれた優しさが、余計に僕を孤独にするのだった。
チラシが落ちていた。
命を問わない武闘大会。
優勝すれば、今空席の勇者の称号をもらえるらしい。
席が空いているのは知っている。
あなたが僕がもらうべきだというのなら、僕がもらっておこう。
僕は武闘大会の会場を目指した。