表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

私は花になりたい

今回のブラックユーモア焙煎度

重量感:★★

コク深め:★★

華やかさ:★★★

「好き」と「愛してる」の違いについてブッダはこう答えたそうだ。


“花が好きと言う場合、ただ花を摘むだろう。

だが花を愛していれば、世話をし毎日水をやるだろう”





私は合鍵を使い彼の家に上がりこんだ。

この時間、彼が家にいないのは確認済み。


今日、彼の家で私は死ぬ。


私にはあの人が全てだったのに。

なのに突然、別れを告げられるなんて。

もう、生きていくのが嫌。

これは、彼に対する復讐心。


ぶら下げたロープで首を吊る。


頸動脈が自重で圧迫され、勝手に足がバタつく。

薄れていく意識の中で私が最後に見たのは、私があの人にプレゼントしたドライフラワーだった。



もし・・・今度・・・生まれ変われるなら・・・綺麗な花になりたいな。



そんな事を思いながら、私は一生を終えた。


……。

…………。

………………。

……暗い。

……ここは……どこ……。

……どこでもいいや……。



……。

……眩しい……。

……光……。


……花。花、花……。


沢山の花が咲き乱れている。


ここは、もしかして天国?


体が……動かない。

どうなっているの私の体?


突然、私の目の前に大きな人が現れた。


巨人!? なに? 大きい女の人。


「うわー。芽が出てる。嬉しい。もっとすくすく育ってね」


その女の巨人は大きなじょうろで上空から雨を降らしてくる。


ひっ! 冷たい! なんなの!あっ、でも気持ちいい。もっとかけてほしい。

巨人の女はしばらく、水をかけるとその場を去っていった。


……もしかして私が小さい。というよりも、この感じ……私は花になったの!?


私は花に生まれ変わっていた。


死ぬ瞬間に願った事が叶ったのだ。


第二の人生は花か。いいじゃない。

置かれた場所で咲いてやろうじゃないの。


私は花として生きていくことに決めた。



「すくすく育っていますね。もう蕾ができています」


私に水をやっている女の人。


この人の名前は、りん。誰かがそう呼んでいるのを聞いた。

そして、りんは花屋さんで働いている。

つまり、私は花屋で咲く花だ。


野原や野道に咲く花でなくてよかったと本当に思う。

犬におしっこをかけられたり、無邪気な子供にむしられたり、虫に喰われる危険性なんてないんだから。

ここにはそんな心配はない。温室でぬくぬくと生きられるわ。


あと、ここだと退屈もしないわ。りんが毎日、話しかけてくれるもの。

まあ、彼氏の話しがほとんどなんだけどね。


「今日は、たかしと動物園に行ってきたんだよ」

「たかしにご飯を作ったら、喜んでくれたんだ」

「たかしと喧嘩しちゃったけど、すぐ仲直りしたよ」


などなど。

ずっとニコニコ話しかけてくるのよね。

順調に愛を育んでいるようで、なによりって感じかしら。



「ああー。花が咲いてる。キレイ」


りんは朝早く私を見てそう言った。


ぬくぬくと育った私は何の弊害もなく花を咲かせた。


「やっと花が咲いた。咲いてくれてありがとう。花が咲いたら彼氏にプレゼントしようと思っていました」


りんはニコニコ笑いながら私に話しかける。


おおっ。私はりんのお気に入りだったのね。

私は嬉しくなった。

彼氏にプレゼントね。喜んでもらえるかしら。

いいえ。ここまでりんが私を大切に育ててくれたんだもの。

きっと喜んでくれるわよね。


「こっちの植木鉢に引っ越しです」


りんはそう言うと、私を綺麗な鉢に植え替えてくれた。

その日、いつもよりニコニコと上機嫌の様子。

そして、仕事が終わり、綺麗に梱包された私を持って店を出ていった。



「ねえねえ。今日はなんとプレゼントがあります」


「おお、嬉しい。なになに」


男の人の声。

きっと彼氏のたかしって人ね。


「開けてみて」


私を覆っていた箱が開けられる。


「うわー。綺麗な白い花だ。ありがとう。花をプレゼントされたの初めてだよ」


りんの彼氏は私を見て、笑顔で喜んでくれている。

爽やかで優しそうな人。顔もイケメンね。やるじゃない、りん。


「喜んでくれて良かった」

りんがニコニコと笑う。


微笑ましい。

幸せそうな二人を見て、私はあの人の事を思い出していた。

……この二人なら大丈夫ね。

私が見守ってあげる。

それが私にできる恩返し。って感じかしら。


「そういえば、花の名前はなんていうの?」

「ガマズミっていうんだよ」

「きいたことない」

「珍しい花だからね。種から大切に育てていたんだよ。ねえ、ガマズミの花言葉。なんだと思う?」

「なんだろう。うーん。わからないな。なに、教えてよ」

「花言葉はね『無視したら私は死にます』なんだよ。だから枯らさずにちゃんと水をあげてね」


りんはニコニコ笑って言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ