9話
あー、眠い。
市原一姫と入れ替わった翌日、俺は欠伸をしつつ学校へと向かっていた。
朝方4時に起きて慣れない料理をしたせいか、朝からすごく疲れていた。
外はポカポカした陽気が照らし、今日も暖かい。
桜の花は既に散っており、緑色の葉が、そろそろ僕の出番と言わんばかりに顔を出していた。
「ふぁーあ」
何度目かの欠伸を繰り返す。今日は教室で寝るかぁ。
そんなことをのんびり考えながら歩いていると、目の前に見知った後ろ姿の人物の姿を認めた。
髪を下ろしており、首の半分が顔を出していた。
よく知る人物。戸山桜だ。
うーん、今の俺はあいつとは他人だし、スルーするか?
いやいや、わけはあるが一緒に暮らしているんだ、姿が変わったからってスルーする訳には行かない。
意を決し、彼女の後ろから話しかける。
「戸山さん、おは……うわああああ!」
挨拶をする前に俺は反射的に膝を曲げ、胴体・頭部を下げた。
瞬間、俺の首があった辺りには何かが空を切っていた。
バクバクと鳴る心臓。
ドクンドクン……!
やばい、まさかスイッチ入ってるか……?
恐る恐る、首があった位置を見上げると、桜の手にはカッターナイフが握られていた。
「避けちゃダメだよ、市原さん」
桜の瞳からはハイライトが消えていて、クスリと笑みを浮かべていた。
口元はニヤッとつり上がっているが、目は笑っていない。
「市原さん、世の中には暗黙のルールがあるのが知ってる?誰かがダメだって言ったわけじゃないのに、みんなこれはやっちゃダメだって理解してることあるよね?それと同じで、私と勝の間には誰も入っちゃダメなの」
そんな暗黙のルール俺は知りません。
ていうか、いつもならそんなふうにならないように、桜とは一定の距離を離していた。
「私と勝の仲を壊そうとするものには死を与えないと」
カッターナイフを構える桜。
やっべ、逃げろ。
俺は気がついたらダッとその場からダッシュをしていた