8話
「美味しそう……!」
井上くん宅のリビングにて用意されている夕ご飯を前に私は思わず、声をあげてしまった。
メニューはハンバーグ・ネギと豆腐とわかめの味噌汁・ポテトサラダと普通だが、普段私は作る側なので、他の人が作ったご飯というのについ感動してしまった。
ハンバーグは大皿に千切りキャベツ、ミニトマトと一緒に添えられている。
味噌汁は見た目は普通だが、味噌とダシの匂いが食欲をそそる。
ポテトサラダはよく潰されたじゃがいもにきゅうりが混ざっており、マヨネーズと上手く絡まっていた。
ガタッと椅子をずらし、席へと着く。
「はい」
戸山さんがお茶碗に盛り付けた白米を渡してくる。
私はそれを受け取る。
よく炊けている証拠だろう、白い煙と一緒に手のひらに少し熱いくらいの熱が伝わる。
どのおかずも私にはキラキラと輝いて見え、早く食べてと言わんばかりにひとつひとつが主張していた。
私はつい喉を呑んで、橋を取った。
「どうしたの?」
戸山さんが少し戸惑ったように聞いてくる。
「何が?」
「いつもより、目がキラキラしてて、ソワソワしてるから」
「いや、今日も美味そうだなって思ってな」
内心ドキリとしながら、井上くんっぽく答える。
「いつも食べてるじゃない」
クスリと微笑を浮かべて、答える戸山さん。
その笑顔に私の心はトクンとときめいてしまった。
天使。その言葉が似合うかのような優しく、柔らかく、可愛らしい笑み。
井上くん、目の前にこんなに可愛くていい子いるのに、私なんかに色目使ってる場合!?
私が男だったら、こんないい子放って置かないわよ!?
まったく羨ましいわね。こんないい子とひとつ屋根の下、しかも余計な大人もいない環境で生活できるなんて。
全男子の夢が詰まってる生活じゃない。
私は頭に浮かんだひとつの疑問を彼女に投げかける。
「戸山さ……じゃない。桜は今好きな人いるのか?」
ぼっと音が鳴ったように聞こえたような気がした。
彼女の顔は茹で上がったタコのように真っ赤になっているのがわかる。
「そ、それは……///」
チラチラっとこちらを横目で恥ずかしそうに目線を送る彼女。
あー、井上くん、あなた鈍感ね……。
私はひとつの答えを察した。
しかし、私の心はついイタズラしたくなってしまった。
「学校の男子か?」
ニヤッと自分でも気持ち悪い笑みを浮かべている自信があった。
「そうだけど、学校の人達とは違って距離的にも近くにいる人、かな……」
照れくさそうに答える。
井上くん!今すぐ私に身体を返しなさい!
そしてこの子と付き合いなさい!
答えは確証に変わった。
まったく、こんな子を放っておくなんて……。
井上くんはバカなのかしら?
「勝は好きな人、いないの?」
目の前の天使は、おずおずと質問を投げかけてくる。
「わた……俺か?」
「うん」
「気になってるのは、同じクラスの市原一姫」
一瞬答えに迷ったけど、私と答えておいた。
しかし、その答えが彼女のとあるスイッチをonさせてしまったのに気付いたのは、そのすぐあとだった。
スーっと彼女から、照れや、期待の表情が消えた。
代わりに殺人鬼のような殺気がこの空間を支配したのがわかった。
「そう、市原さん……消さなきゃ……」
ボソッと物騒なことが聞こえたのは気のせいかしら?
いいえ、気のせいでは無いわよね!?
井上くーーーーん!
ごめんなさい!
逃げて!全力で逃げて!