5話
屋上から校庭を眺めていた。
校庭の隅に列を作り植えられている桜の木はその花びらは、ヒラヒラと舞っては地面に伏している。
暖かな陽気は、俺を含めて今外に出ている全てに平等に与えている。
ぼーっとすること数分、屋上の扉がギィっと開く。
振り向いて確認する。
俺の姿をした女の子、市原一姫がやってきた。
「遅れてごめんなさい」
開口1番に、謝る彼女。
「いや、全然。桜は何か言ってたか?」
「今日の夕飯何がいい?だって」
「桜に今の状況のこと言ったのか?」
「言っても信じてくれないわよ、今までの経験上」
今までの経験上。
その言葉で悟った。
「今回のような状況は初めてじゃないのか?」
「そうよ、一ちゃんのイタズラで今までも何度かあったの」
「えへへー」
会話に入ってくる神様。
その態度に少しイラッとしたのか、市原の口調が強くなる。
「えへへー。じゃない!またいつものイタズラに付き合わされるこっちにもなってよ!」
「だって、この方が楽しいんだもーん」
反省の色を見せない神様は、俺と市原の周りを縁を描くようにふわふわと回っている。
「神様、見えてるのか?」
「当たり前じゃない。私たちの一族はこの子、私は一ちゃんって呼んでるんだけど、この子を祀ってるのよ。今日だって何度か頭の中にテレパシー送ったでしょ?このこの力」
「心が読めるって聞いたけど?」
「そう、心を読めるのがこの子の力」
神様自身が心を読めるのは既に知っていた。
市原がテレパシーを送れるのは何故だろう?
その事も気になるよな。
「それよりも、私の体で変なことやってないよね?」
気になることを聞こうと思ったら、向こうが目をジトーっと細め、問い詰めてきた。
ギクッ。
変なことはやってないが、想像はしていたため、目が泳ぐ。
「やったの?」
俺の態度に相手はYESと受け取ったらしく、顔をずいっと近づけてくる。
ジトー。
目の前では変質者を見るような表情をしていた。
「してはないけど、想像はしました」
早めに謝ろう。
そう思って、腰を90℃曲げて頭を下げる。
「変態……」
ボソッと一言、言葉のナイフが心臓を襲う。
「だって、用足す時とか嫌でも見ちゃうし」
「それはしょうがないわね。私も見ちゃったし」
「は!?」
なんでこいつこんなに冷静なんだ…!?
俺はこんなに動揺してるのに。
動揺して心臓がバクバク言ってるのに……!
「さっきも言ったけど、今回のことは初めてじゃないの。男のディ○ダだって何度も見てるわよ。私から言わせて貰うと、介護士や看護師みたいに慣れてるから今更なんとも思わないわ」
これが慣れってやつかー。
理解したら、心のざわつきは1周回ってなくなっていた。
サーっと冷静になっている俺をよそに市原が疑問を投げかける。
「あなたと戸山さんの関係は?」