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36話

「うぐっ……ひっく…。ずっとお礼を言いたかった。あの時助けてくれてありがとうって」

桜は滝のように流れ出る涙を嗚咽混じりに拭いながら、落葉と話す。

「いいんだよ。僕は体がなくても存在できるから」

「うぅ……でも……!でも……!」

「いいんだよ」

優しく囁き、小さな体で桜に抱きつく姉。

10分くらいだろうか、泣いていた幼なじみが落ち着いた。

「さて、そろそろ行こうか」

「どこに?」

「市原一姫を助けに」

「ああ、それじゃあ市原神社に殴り込みだな!」

グッと手のひらに力を込めて天井に向かって突き上げる。

「いや、今から行っても間に合わない」

「じゃあ、どうやって?」

焦っても仕方ない。けど間に合わないと言われると自制が効かない。

直接一神(いちかみ)の精神世界に飛び込むしかない」

「そんなのどうやって?」

「ついてきなさい」

今まで黙っていた神主が、静かに告げる。

ガチャ。

トントントン。

部屋を出て長い廊下を進んでいく。

やがてひと部屋のふすまの前にたどり着く。

ガラっ。

開くとそこは6畳程の畳の部屋だった。

藁の匂いが鼻を通る。

新しく変えたばかりのようだ。

「2人ともそこに横になりなさい」

「はぁ」

桜と顔を合わせる。

とりあえず指示に従うことにした。

「くっつきすぎず、目を閉じよ」

1人分の間隔をあけて、言われた通りにする。

心臓の当たりがビリッと痺れた。

その刹那、ほんと一瞬のうちに俺・桜・落葉は石段の上に立っていた。

「ここは?」

「一神の精神世界だよ」

空を見上げる雲ひとつなく、青空。だけど太陽が見当たらない。

暑くもなく寒くもない。

石の通路は先へまっすぐ伸びている。

その左右には、木々が並んでいた。

虫や鳥の鳴き声は聞こえない。

風は吹いてなく、葉は揺れていない。

「ようこそ」

背後から声。

振り向くと市原一姫が立っていた。

いや、でもなんとなくだけど、市原本人では無い。雰囲気が違っていた。

「お前は一神様か?」

「うん」

「市原はどうした?」

「うーん、闇の中?」

「闇?」

「そう」

短く答え、腕を右側へ向ける。

石畳に渦巻く黒い渦が現れた。

「ここに沈めたの」

「市原はどうなったんだ?」

「少しずつ存在が薄れて行ってるよ」

落葉が口を挟む。

「うん。これからは私が市原一姫」

「どうして永遠に生きたいと願う?」

「あ、知ってるんだ」

「ああ」

「じゃあ、これは聞いた?私とそこの神、今は落葉ちゃんだっけ?私たちは元は人間だったの」

え?

衝撃の事実。まるで後付け設定のようだ。

「まるでじゃなくてほんとだよ」

「いや、それ言っちゃダメだろ」

「なんで?」

「いや、なんとなく」

本当に言っちゃダメな気がした。

「ゴホンっ!話を進めよう」

わざとらしく咳払いをして脱線した線路を元に戻す落葉。

「肺炎。現在だとそう言われてる病気かな。今だと治療可能だけど、当時は不治の病いだった」

静かに語り出す一神。

「私たちはね、もう助からないって言われてた」

「うん、その運命を受け入れるしか無かった」

市原の姿をした神に同調するように知の神も続ける。

「だけど、死の直前。生と死の狭間で声が聞こえた」

「あなたたちは生きて欲しいと」

「そうして私たちは神様になった」

「いや、話が飛躍して意味がわからないんだけど」

わかった人いる?俺はわからん。

「うーん、つまり私たちより上の神様の力かな」

人差し指をこめかみにつけて落葉が付け足す。

「そう。だけど寿命は500年」

「500年も生きれば十分じゃないか?」

「十分?バカ言わないでよ」

怒りの表情でたんたんと吐き捨てる。

「私たちが苦しんでる間、周りの子はそれぞれの人生を謳歌していた!学校に通って、恋をして、大人になって働きながら結婚して幸せな家庭を作る!死を待つ私たちにはそれが羨ましかった!」

「うん、羨ましかった。それは500年前にも話してたね」

「あんたは良いわよ!転生して1から人生歩めるんだもん!」

「じゃあ、なんでお前はそれをしなかった?」

俺の問いに怒りの表情を曇らせた。

「私は悪さをしすぎた。だから私たちの上の神がそれを許さなかった」

「だけど、私は諦めきれなかった。誰かの身体を乗っ取ってでも私は私の人生を歩む!市原一姫の体が朽ち果てたら、また次の器を探す!そうやって何百年!何千年!太陽が爆発して地球が飲み込まれるまで生きる!これが私の願い!」

大声で野望を叫ばれた。

「でもさ」

俺は冷静だった。

「太陽が爆発するのはあと何億年も未来だ。そこまで生きても、結局は死ぬんだぜ?」

「そう……そうだけど……!」

力を込める両手。病気で自分の歩みたかった人生を絶たれた彼女。俺はこれからも自分の人生を歩める。

だけど、目の前の神様はそれを実現出来なかった。

そこまで生きたいと言う願いは強かったようだ。

「話は聞かせて頂きました」

天から声。

見上げると、眩い光とともに、ウェーブのかかった蒼白色の髪、白鳥を思わせる白い翼はまるで鷹のように大きく広がっていた。

「あなたは?」

自然とこぼれる疑問。その女性は静かに俺たちと同じ高さまでゆっくりと降下し、答えた。

「私は全知全能の神、全ちゃんとお呼びください」

「いや、それ怒られません?」

「誰にですか?」

「いや、誰かに」

「大丈夫ですよ。既に別の作品では吉野とか、異次層とかスレスレのことやってますから」

ニコッと笑う全神様。

「別の作品って何!?」

「それは私より高貴な存在、作者(絶対神)の力です」

なんか、どんどん神が出てくるぞ。

「それで全さん」

「全ちゃん」

「全ちゃんは今までどうして黙認していたんですか?」

「それは、この子達を見守っていたから」

「どうして?」

「この子達にも感性や知性があって、自分で考えて行動できるからです。それを尊重したかった」

「でも、流石にもう看過できなかったと?」

「そうです」

頷く全さん。

「全ちゃん」

「人の心読まないで貰えます?」

無視された!?

「さて、思の神」

「私の存在を消すんですね。散々悪さしてきましたので」

いや、それもやばいって。

「いいえ、私から提案です」

「提案、ですか?」

訝しげに問う。思の神様。

「市原一姫さんと共存しませんか?」

「共……存……?」

「ええ、二重人格のようにひとつの体にふたつの魂を納めるのです」

「それって」

「次のお前のセリフは『それって、かれ〇んとカ〇ンちゃん・アレ〇ヤとハレ〇ヤのようにですか?』と言う!」

「それって、かれ〇んとカ〇ンちゃん・アレ〇ヤとハレ〇ヤのようにですか?」

はっ!

「だから怒られますってば!」

「一度は言ってみたくありません?」

ニコニコと笑顔を悪びれもなく絶やさない。

「いや、言ってみたいですけど!決まったら最高に気持ちいいと思いますが!」

「大丈夫です。パロディやオマージュは様々な作品で使われているでしょう?」

ダメだこの神……。

げんなりとする。10歳は老けたわ。

「話を戻します」

スルー!?

「あなたが良ければですが、市原一姫さんと一緒に今からでも人生を歩みませんか?」

「でも、それって私だけの人生じゃないですよね?」

「そうです。けど体をこれからも奪うことは私は許しません。本当に存在消しますよ?」

脅しだ……!

「かずちゃんは、なんて行ってるんですか?」

「賛成」

あっさりしていた。

「でも恋はできないですよね?」

「でーも恋は迷えー♪そーんな簡単にー♪運命的ー、出会いなどー♪あーってたまるーか♪」

ダメだこの神。ツッコムの疲れた。

「恋だけが人生ではありません。人生には様々な困難・様々な楽しみがあります。今からでも私は経験して欲しい。もし恋がしたいなら知の神のように転生もできますが」

「私は最初から人生を楽しみたい。恋をして、学校に通って、部活に精を出して、青春を謳歌して、大人になって社会人になって苦労と楽しさを味わいたい」

「わかりました。それがあなたの答えですね」

ピッと人差し指を思の神の背後に向ける。

光のような、ガラスのような階段が、現れた。

「進んでください。あなたの来世に幸があらんことを」

スっと市原の体から一ちゃんが抜け出した。

「最後にかずちゃんに伝えてください。今までごめなさいって」

「わかりました」

すっと憑き物が取れたような爽やかな表情を向け、階段を一段一段登っていく。

「終わったんですか?」

「ええ」

短く答えたあと全ちゃんは、俺たちに頭を下げた。

「私の判断の誤りで迷惑をかけてごめんなさい」

「いえいえ、そんな……」

「私は今晴れやかな気分次第」

「桜?」

「あの神様には恨みはあるけど、悲しみや悔しさは理解出来ました。次の生では幸せになって欲しい。そう思います」

「桜……」

ピキっ!

いい事言おうと思った瞬間、空にヒビがはえた。

「あの子が居なくなったことでこの空間は維持できなくなっています。落葉、この子達を元の次元に戻してください」

「はい、勝くん、桜、行くよ」

「待ってくれ」

俺たちの肩にぽんと手を乗せた落葉を制止し、全知全能の神に俺も頭を下げた。

「ありがとうございました!」

「ええ、こちらこそ」

そう言葉を交わし、俺たちの意識はこの空間から消えていった。

一神様、いや、思の神、あんたの人生、応援してる。

それは多分届かない。けど、伝えたかった。


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