35話
俺たちは客室の一室に案内された。
部屋の中央にはガラスの机、それを挟むように1人がけの椅子、そして反対側には3人ほど座れそうな広さのソファがあった。
久保田さんは、椅子に座り俺たちに言う。
「まず、座りなさい」
「あ、はい。失礼します」
俺と桜は腰をソファに預ける。
「あの、早速ですが、落葉や市原のことを……」
「まず、わしらのことから話そう」
「いや、時間が無いので、その話はいずれ折を見て……」
「いいから聞けぃ!」
カッと瞳孔を開き、叫ばれた。
そのすぐあとに、はっとなったのか「ゴホン」と咳払いをし、伝えてくれた。
「焦る気持ちはわかる。じゃが、焦って求める結果にろくなものは無いぞ」
「でも……!」
「いいから聞きなさい」
今度は静かに、でもずっしりと重い声音だった。
「これはわしらが産まれる前じゃ。わしらの母は、天啓を受けることが出来た」
「天啓……ですか?」
「うむ、その内容は、わしらが子どもたちを教え導く歳になったら、1人はこの神社の神主に。そしてもう1人は、市原の者とその周囲の子をサポートしなさい。そのために貴女に子を2人授けたのだと」
「神様はまだいるんですか!?」
「知らん!」
えぇ……。
俺はつい、渋い顔をしてしまった。
けど、少なくとも3人はいることがわかった。
「どうして久保田さんは神主に、お兄さんは教師になったんですか?」
桜の問に「待ってました」と言わんばかりに神妙な面持ちになった。
「単純にわしの方が神力が強かったんじゃよ」
「神力ってどんなことができるんですか?」
「例えば、今お主らの後ろで見守ってる知の神、落葉ちゃんをお主達にも視認できるようにする。とかじゃ」
「え!?落葉がいる……!?」
俺も驚いたが、桜の衝撃はそれ以上だった。
「それはどうすれば?」
桜ははやる気持ちが抑えられず、うわずった声をあげた。
スっ。
久保田さんは無言で机の上に手の甲を差し出した。
「この上にぬしらの手を重ねなさい」
俺たちはお互いを見やる。
桜は意を決したようにコクっと頷き、ご老体の手に自分の掌を乗せる。
俺もそれに続く。
彼は無言で目を閉じた。
次の瞬間、ビリッと軽い電流が流れるような感覚が走った。
一瞬。本当に一瞬の出来事だった。
静かに両目を開き、俺たちに告げる。
「後ろを振り向きなさい」
言われた通り、背後に体を回転させ、振り向く。そこには。
「やあ」
小さな、本当に小さな幼児さんの姿があった。
「おち……ば……?」
桜の声は震えている。
その問いに幼児さんは答える。
「うん、僕だよ、落葉だよ」
照れたようにはにかみ、自分の存在を認めた。




