19話
「あれで良かったのかい?」
井上くんと戸山さんが店を後にして、その2人の後ろ姿を見つめながらクマさんは私に話しかけた。
「ええ……今は距離を取りたいの」
「まぁ、君たちの問題だからオイラは余計な首は突っ込まんさ」
ハッハッハと高笑いでお店の奥へと消えていくクマさん。
私と井上くんは実は昔会っていた。
と言っても向こうは私の事覚えてなかったけど。
あれは中学生になったばかりの冬だった。
私は当時人と関わることを避けていた。
理由はお察しの通り入れ替わりのため。
必要以上に人と関わると誰かに迷惑をかけてしまう。
それが嫌だった。というのもあるし、何より私自身が長く生きられないからだ。
といっても一ちゃんと契約した時点で私の体は一ちゃんのもの。
そう、言うなれば私は生贄なのだ。
一ちゃんがまた数百年生きるための。
だから私は生きることを諦めていた。
そんな折りに出会ったのが彼、井上勝くんだった。
彼は輝いていた。
生きる意味を見失っていた私には眩しいくらい。
彼との出会いは市内にある図書館だった。
私は1人で学校の宿題に着手していた。
私はその図書館を頻繁に利用していたのは、単に1人になりたかったから。
家に帰ると両親がいる。
学校に残るとほかの生徒と一緒になる。
静かで勉強をするにはちょうどいいところだった。
一方彼はいつも数人のグループで図書館に訪れていた。
いつも楽しそうに話をしながらシャーペンを走らせていた。
といってもあんまり大きな声だと周りの人に迷惑になるので、声のトーンは控えめだったけど。
ある日、井上くんは私に話しかけてきた。
「いつもお疲れ様」
そう言って私に缶のココアを手渡してくれた。
「……ありがとう……」
突然の事で声はか細かったが、井上くんには届いたようだった。
「どういたしまして」
笑顔でそう答える彼に私は不覚にもときめいてしまった。
「じゃあな」
手を振ってお別れをした彼はそれ以降私に話しかけることは無かった。
ただ私はずっと彼らを目で追っていた。
やがて受験生になるとその集団は図書館に来なくなって来ていた。
私は内心寂しかった。
1度きりしか話さなかったけど、彼の素行を見ると、明るく、いつも楽しそうだった。
私もその輪に入りたい。
けど、当時の私にはそこに踏み込む勇気は無かった。
それから数ヶ月、高校で再会するとは思わなかったけど。
まぁ、さっきも話した通り、相手は私のことを忘れていたけど。
けど、これでいい。
あまり仲良くなっても相手に迷惑をかけるだけだ。
そう自分に言い聞かせていた。
あの日入れ替わるまでは。




