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第1話

  朝起きると知らない場所にいた。

  俺の部屋はフローリングでベッドがあり、そこでいつも寝ている。だが、起きると畳の上で太陽の光を良く吸い込んだのかふかふかな布団。その布団からはかすかにフローラルな匂いがした。良く手入れがされている布団だ。

 窓は紅色のカーテンが太陽の光を遮っているが、中央に空いた間隔からわずかに光が入り込んでいた。

 外からはチュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる。

 1部だけ陽の日差しが入り込んでいるが、部屋全体は暗い。

 よいしょ。心の中でそう呟き、体を起こして部屋全体を調べる。

 机の上に時計があり、現在時刻を確認すると午前5時。

 季節は桜の花びらがヒラヒラと舞う春。

 午前5時といえど、春らしく日は上り初めている時期。

 部屋はだいたい6畳程の小さな部屋。その部屋の棚の上やカラーボックス、本棚、至る所の上にロボットのプラモデル?フィギュア?が飾ってあった。

 ロボットの種類は様々だ。紅くスラッとしたボディを持つ機体。

 白く、体全体が角張っていて、ずんぐりとした機体。

 この部屋の主はロボットアニメが好きなのだろう。

 いったいここはどこだ?

 見知らぬ家に上がり込んだ記憶は無い。

 俺はこの春から高校生になった。大人の階段を上がった記憶はまだない。なので酔いつぶれてどこの誰とも知れず家に上がり込むことなどないはずだ。

 部屋の隅には、大きな鏡があり自分の姿を確認する。

 驚愕な状況に陥っていることに気づかなかった俺は。

「なんじゃこりゃああああああああ!?」

 と脇目も振らず大声を出していた。

 俺の名前は井上勝(いのうえまさる)。職業高校生、性別は男。

 だが俺の姿は、俺が密かに想いを寄せている女の子。黒色の腰まで届くロングヘアは寝癖でボサボサ、雪のように白い肌に仰天とした表情。名前は市原一姫(いちはらかずき)になっていた。

「あはは、おはよう♪」

 不意に背後から声がした。

 振り返るとぷかぷかと浮かぶ小さな女の子。

 ピンクのショートヘアにクリクリした両目。整った顔立ちに花柄の着物を着ている女の子。

 俺の知り合いにこんな子はいない。

 いや、むしろこんな宙に浮かぶ女の子の知り合いがいるなら挙手して欲しい。

「…!?」

 びっくりしすぎて声が出ない。

 あたり前だ。

 朝起きたら姿は想い人になっていて空中自由に彷徨うことの出来る女の子が出てきたら状況が飲み込めるはずがない。

 パクパクと口を閉じたり開いたりしている俺をよそに彼女はいたずらっぽく笑い話す。

「初めまして♪私はここ、市原神社に住まう神様♪名前はないから市神様って呼んで♪突然だけどあなたを市原一姫の姿にしたのは私♪」

 俺が市原一姫の姿になったのはこの神様のせい?

 なんで?なんでこんなことを……!?

「あの、なんでこんなことを…?」

 ようやく声を絞り出すことが出来た。

 本当にようやくだった。と言っても彼女の回答から5秒ほど経って、頭の回転が徐々に追いついて来たからだ。

 少女は顎に人差し指をつけて言う。

「うーん、そうだね。一言で言っちゃうとあなたの恋を応援するため♪」

 ニコーっと笑う神様。

 その笑顔はイタズラが成功した女の子のような表情だった。

 恋?

 俺は誰にも話したことないぞ…!?

 え?え?え?なんでこの自称神様は、俺の心がわかるんだ?

 さらなる疑問は次の神様の回答によって明らかになる。

「隠したって無駄だよ♪私の特技は、相手の心を読めるの♪」

「へ…!?」

「あなたがこの神社に頻繁にお参りに来ていた理由、それは市原一姫に会うこと♪それは私は最初から知ってたよ♪いつもあなたに協力したいって思ってあなたたち2人の体を入れ替えたの♪」

「ってことは今俺の体には市原さんが…!?」

「そう♪」

 ニコー。

 再びイタズラが成功したような笑顔。

 その笑顔は正直な笑顔だった。

「今頃一姫もびっくりしてる頃だと思う♪」

「なんだってー!?」

 俺には秘密がある。

 その秘密がよりにもよって市原一姫にバレてしまう……!?

 やばい、彼女はクラス中に言いふらすタイプでは無いと思うが、よりにもよって好きな人に秘密が知られるんだぞ……!

 俺の焦りとよそに宙に浮く少女は未だにニコニコしていた。

 神様、なんてことしてくれたんだああああああああぁぁぁ!!!

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