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メアの日銭の稼ぎ方

 小鳥が囀るかどうか、朝日が昇って間もなくした頃。

 魔王メアの朝は基本的には遅いが、数週間に一回、働く日だけはかなり早い。

 早朝五時。のそっと起き出したメアは軽装に着替え、すぐさま部屋を出る。

 そして、街の中を足早に進んで行く。

 辿り着いた場所は…ゴミ捨て場。

 彼女は近場で身を隠せるところに潜み、ゴミ捨て場の方を観察し続ける。

 すると、数人がかりで車から何やら大きなものを取り出す集団が現れた。

 その集団はゴミ捨て場に大きなものを放棄すると、その場を去っていった。


 メアはその姿を確認すると、周りに人がいないことを確認する。

 そして、周りに誰もいないことを確認すると、メアは忍び歩きでその大きなものへと近づいていく。

 近くに来ることで、鮮明になるソレの詳細な姿。

 それは――洗濯機。でかでかと「粗大ごみシール」が貼られている。

 メアはそれに手を伸ばし――瞬間、洗濯機が消えた。


「ふう…もう一仕事終わったようなも――」


「何してるんだ?」


「どわうわあああ!? ヨヨヨヨッヨ、ヨータ!? どうしてここに?」


 桃色のツインテールを振り回し、背後を振り返るメア。

 そこにはゴミ袋を数個持っているヨータが居た。


「俺は普通にアパートのゴミ出しに来ただけど…で、メアは何してたんだ? さっきなんかでかいのが一瞬で消えたような気がしたんだが…」


「い、いや! 気のせい! 気のせいだから!」


 首をと両腕を激しく左右に振るメア。


「…ふーん、気のせいか」


「そうそうそう気のせいよ! じゃあ私はもう帰るから、ヨータは学校頑張ってねバイバイ!」


 そう言い捨てるなり、メアは超速でその場を後にした。







「ハァ…ハァ…まさかあんなところにヨータが居るなんてね…」


 住宅街の中にポツンと開いた空き地。

 そこで息も絶え絶えになりながら額の汗を拭う。


「さて…とりあえずタナカ電気に行こうかしら」


 そう言いながら、メアはおもむろに腕を振る。

 すると刹那、何もなかった筈の空間に先ほどの洗濯機が出現する。


「ふぅ…やっぱりこっちの世界で魔法を使うと少し苦しいわね…」


 そう呟きながら、洗濯機に張り付けてあるシールを剥がす。


「これでよし。さて、行こうかしら」


「どこへ行こうというのかね」


「ぎょわあああああ!?」


 再び背後から声を掛けられ、飛びのくメア。


「気になって着いてきてみたが…お前これ、犯罪じゃないのか…? これ、シールも貼ってあるし…」


 そう言いながら、ヨータは置かれている洗濯機を若干震えながら指差す。


「あー! 聞こえない聞こえない! 耳にピーナッツが詰まって聞こえないわーッ!」


「そんなチャチなごまかしが通用する訳ないだろ! これ犯罪!」


「うるさーいっ! バレなきゃいいのよバレなきゃ! 実際私はこれ五回目だけどバレてないから!」


「お前滅茶苦茶常習犯じゃねえか!」


 腕を振り回し抗議の声を上げるメア、頭を抱えて蹲るヨータ。


「どうすんだよこれ…てか四回やったのにまだ捕まってないのかよお前…」


「つ、捕まってないからセーフに決まってるでしょ!」


「いや、今すぐ自首しよう! 俺がコネで大した罪にはならないようにするから!」


「えぇい、ごちゃごちゃうるさいわね! 一回黙ってくれないかしら!?」


 メアの怒り任せに振り上げた腕。

 瞬間、何もない空間から一振りの禍々しく巨大な槌が現れる。


「魔槌ミョルニル! でやああああああああああああ!」


 黒光りする閃光を纏い、神速でミョルニルはヨータの頭蓋骨を狙う。


「何するんだよ! 真剣でも白刃でもないけど真剣白刃取り!」


 それを横から真剣白刃取りのように受け止めるヨータ。

 黒光りする雷が放電し、空き地の地面を焦がす。


「ちょ、だからなんでミョルニル止めれるのよ!?」


 黒光りする放電があらかた終わった後、若干手を黒く焦がしたヨータがミョルニルから手を離した。


「全く…ピンチでもないのに最終兵器みたいなの出すなよ…」


「いや、最終兵器だって思うならそう簡単に止めないでよ…ちょっと手、見せてくれる? すぐ治すわ」


 いつしかミョルニルを完全に消滅させたメア。

 多少ケガを負わせた負い目からか、ヨータの方へと歩いて近づく。


「はあ、俺は大丈夫だから、それより早く自首しよう。…いや、自首したくないなら頑張って揉み消すけど。もうゴミ捨て場漁るなよ?」


「で、でも私お金ないし…働きたくないし…」


「えぇ…じゃ、じゃああんまり働かなくても稼げる仕事紹介するから! な?」


「ほ、ほんとう!? ありがとうヨータ!」


 赤紫色の瞳がまるで輝いたかのような美しさを見せ、ヨータを見つめる。


「じゃあ今日はもう帰ろうか。今までメアがパチってきたものは全部揉み消しておくから。盗ってきた洗濯機だけはせめて元の場所に戻すんだぞ…って、あれ」


 洗濯機が、ない。


「あ、あれ、メア、洗濯機知らないか?」


 ヨータの問いに、


「へ、へへ、実はミョルニルの雷に当たった無機物は確率で羊さんになっちゃうんだよね~…ハハ…」


「メェ~」


「おいどうするんだよこれ」


 いつの間にか背後では、白色の毛をした羊が空き地に生えている草を食い荒らしていた。

 しかもなんか洗濯機の面影が残っている。

 体に、洗濯機っぽい穴が開いているのだ。気持ち悪い。


「ちょ、これ元に戻せないの?」


「う~ん、殺すかミョルニルをもう一回当てれば戻るんじゃないかしら」


「よし、メア、さっきのハンマー出せ!」


「メッ!?」


 すると、その不穏な単語を聞いた羊が凄まじい速さで逃げて行った。


「逃げるな洗濯機羊ィ!」


「ああ…あの羊、ミョルニルパワーで生み出されたから、下手な悪魔より強くなっちゃってるわよ。まあ人に危害は加えないと思うから無視してもいいとは思うけど…まず早すぎて捕まえるの無理。あのスピードは頭からソーセージが生えるくらいにはヤバいわね」


「そんなにか…仕方ないからお前は先に帰っててくれ。俺はとりあえずお前のやったことなんとかがんばって揉み消しとくから…って学校ヤバ。絶対遅刻だコレ」


「あー、一応感謝はしておくわ…」


「謝りはしないのな」


「それは、私はこれを続けてても捕まる気がしないし――」


「キミ、ちょっといいかね?」


 突如、メアの後ろから剛腕が彼女の肩に手を置く。


「は、はひ」


 見るからに顔を青ざめさせ、壊れたおもちゃのように振動するメア。


「最近ここら辺で回収する筈のゴミが消えてる事例があってだな…そこでキミには事情調査として署まで来て欲しいんだが」


 肩に手を置いていた警察官がメアの背後から正面に立ち、震えている腕を強引に押さえ、手錠をかける。


「なぁに、ただの盗難ならそこまでの罪にはならない。返してくれればこれは不問にしてやれるぞ。とは言っても、それを勝手に売ってたりしたら…どうなるんだろうなぁ?」


「アッ…アッ…」


 涙目になりながら警察官に連行されていくメア。


(とりあえず適当に破損させた家具見つけてくるか…)


 そんな姿をこれからどうするかを考えつつ傍観するヨータであった。

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