放浪者は無限を目指した
何もなかったように風が吹いている。諦めて気力を失い、座り込んだサルファの前へ、大剣を携えたパルガンが歩いてきた。
「……何か最期の言葉でもあれば、聞くけど。」
「あぁ……この期に及んで、もはやなにも言うことはない。俺は負けた……パッション・ワンダラーの絆に負けたんだからな。」
そう言ってサルファは、目だけを合わせる。パルガンの表情はよく見えなかった。
「なら……こっちから質問させて。君は……何がしたかったの。」
サルファはすこし、呆けたような顔をした。"何を言っているのかわからない、どうしてそんなことを聞くんだ"なんて言いたげな、そんな顔をした。だがすぐに……側から見た自分は、何がしたかったのかすらわからないほどに、迷走していたのだと気づいた。
「あぁ……そうか……そうだな。俺は……クリフォトから逃げたかったんだ。クリフォトから逃げて、ゼニス・ワンダラー全員を再び集めて今度こそ平和に暮らしたかったんだ。」
「再び……そういえば、ゼニス・ワンダラーには、前世の記憶があるんだっけ。」
「そうだ。10人全員、この星に似た……地球って星に生きてた。俺たちがクリフォトを恨む理由は、話せば長くなる。それに……もはや今さら同情を誘ったところで、お前が背負った夢に比べたらな。」
「……そうだね。」
今更情に流されて無限の力を諦めることはできない。とっくに戻れない場所まで来ているのだ。
「俺は……大事なところで間違えたんだろうな……」
「うん。……人は独りでは生きていけない……2人でも、3人でも……10人でも生きていけない。無限ほど居る人々、その全てがどこかで繋がっているんだ。繋がって、一緒になって生きてるんだよ。僕たちと君も、どこかで繋がってるはずだった。それを絶ってしまった、それが君の失敗。」
「あぁ……そうか。そうだったんだな…………」
「まだ来世があったら、その時は。」
そして……『ケテル』のセフィラが解放される。
全セフィラ解放。
空に、光の球が浮かんでいく。白色、灰色、黒色、青色、赤色、黄色、緑色、橙色、紫色、マーブル模様……
光は、セフィロトの配置に並んでいく。やがて光の球は、光の線で結ばれる。
空には巨大な魔法陣が広がった。
雷雲が集まり、渦を成していく。
風が吹き荒れる。
寒気。凍り付いたかのような寒気。
そして……空が割れる。
魔法陣ごと、セフィロトごと、空が……いいや、空間が割れて。巨大な竜が現れる。空をうねるようにして飛び回り、パルガンの横を掠めていく。それが通った後には何も残っていない。空間が飲み込まれて、黒よりも暗い『無』になる。
胸の奥が……湧き上がる。
無限の力を、目にしたのだ。
剣を握る手が震える。ここまでの震えとは違う。武者震いだった。
無限の力は解放する、それを手に入れられるかどうかはわからない。
ただ、ひとつ。パルガンの今の目標はひとつ。
それが竜という形で、生き物として現れたのなら。
──「《領域》」
倒す。倒してみせる。無限の力を越える……それが、無限を手にするということだ!
無限竜の鳴き声だろうか。古今東西の楽器を一度に鳴らしたような、かつ単なるけたたましい音ではない、鳴き声が。
あぁ、やはり、無限竜は生き物なのだ。パルガンの殺気を受け取って、受けて立たんと突っ込んでくる。
竜は領域に侵入する。
そして、微かな恐怖ごと竜を斬り裂こうと放たれた一太刀は……
無限竜に傷ひとつつけることはできなかった。
それどころか、竜の突進にやられた剣が『無』に変わってしまったのだ。咄嗟の判断で手放した剣。伝染するかのように、跡形もなく無に帰す。
「そんな……いや、違う。」
アルターと繋がりが途絶え──と、視覚に囚われかけた心を取り戻す。
繋がりというのは目に見えるものだけじゃない。人間は全て繋がっている、さっき自分が言ったばかりの言葉だ。
「目には見えないみんなの想い……繋がり……」
世界が無に還ったとしても、パルガンがここに居る限り、想いは消えない。繋がりは途絶えない。
(世界が作り物だとかどうでもいい。僕にとっての世界はみんなと居るこの世界だ。みんなの存在が僕の世界を作っているんだ。大切なこの世界を守るために──)
「──力を貸して。」
パルガンの元へ、どこからか光が集まってくる。
それは、魔法ではない。それは、セフィラのスキルでもない。それは、想いが呼んだ物。
『無』は『無限』となった。そして『無限光』が溢れ出す。人はそれを、『奇跡』と呼ぶだろう。
「……《領域》」
竜が空を駆ける。空が『無』に染まっていく。消去されていく。
パルガンは領域の中だけに意識を集中する。全ての仲間の力を借りた、その光の、無限の可能性に全てを賭けて。
無限光は、腰に現れた鞘に納められ、刀となる。
──明鏡止水。
「《抜刀》」
***
──いつから気を失っていたのだろうか。パルガンはどこかの草原に転がっていた。意識を取り戻して目を開くと、陽の光が眩しい。
「なに……? 勝った……のかな……」
ぼんやりとした意識の中、足音が聞こえた。草を踏み締めて歩く音が。そして……骨がぶつかる乾いた音が。拍手をしているらしい。
「いい見世物でしたよ、パルガン。いえ──パルガン・ダアト。」
目がパッと覚めた。
「えっ……嘘でしょ、またなの……???」
呆れたことに……それはプレェトだった。
「ええ。またお会いできて光栄に存じます、パルガン・ダアト。」
「どこまでしつこいわけ……?」
「あなたに勝つまでは……地獄から何度でも戻ってきて差し上げますよ。」
どうやら、月食や日食でも悪縁は断ち切れなかったらしい。
パルガンはふと腰に手をやる。刀はある。光の刀のままかは抜くまで分からないが。
「戦う気?」
「そうですねぇ、ここは再会を記念して一戦……交えましょうか!!」
急激に速度をました歩み。手が揃えられ、手刀を繰り出す準備は万端だ。
「《領域》」
だが、何度も何度も後ろから攻撃されるのはうんざりだ。パルガンの領域はセンジュを対策して生まれたものであるが、プレェトにもよく刺さるものだ。
「《ボースハイト》」
「やぁっ!!」
一太刀。手刀よりも早く、刀での一撃が加えられる。
「おっと」
首の節に見事に命中したその一太刀は、プレェトの頭を吹き飛ばす。その頭を、プレェトの胴体が最初から落ちる位置がわかっていたかのようにキャッチした。
「これほどまでに正確で素早い太刀筋……先に戦った際よりも強くなっているとは、益々敵わないということでしょうね。」
何度も負けて逆に心が洗われたのだろうか。その言葉には、ある種の尊敬が含まれているように感じた。
振り上げられた刃先は光ってはいないが、白い刃に、他の色がぼんやりと重なって見える、独特な風貌になっている。セフィラや仲間の力が染み込んだということなのか。
「戦うために来たってわけじゃなさそうなのは、どうしてなの。」
「ええ。そうですね。……私はあなたに勝つという一心で転生を実現させた、言うなれば独特な存在でしてねぇ。そのせいで、この世界との整合性が取れていない……言わばバグのようなのです。あなたと同じ。」
「バグ……?」
「私は……つまり私はクリフォトのように、システムに干渉することが出来ます。」
「……えっ?」
「今のこの世界について教えて差し上げましょうか……そうですねぇ、例えば……長い長い夢を見て……それが覚めた時。その夢は、夢という世界の中でまだ続いているのです。起き上がってしまったために見ることは出来なくなり、干渉もできないのですが。」
プレェトが語り始める。
「クリフォトという者は夢から覚めさせられてしまったのです。彼は元の世界に帰りました。そして二度とここに来ることは出来ません。そして彼が作ったゼニスという存在も消滅しました──いえ、設定が白紙になった、というのが正確でしょうね。」
「ラスボスどうこうはもう無いってこと……?」
「そして……興味深い知らせがひとつあります。」
「……なに?」
「死文明が復活しました。まぁ、人が死ぬ限りは在る物ですからね。」
「……まさか?」
「あなたの大切な、愛してやまないお仲間は全て……地獄に落ちたのですよ! 人殺しに加担した罪人ども──」
「みんなが転生して復活するってこと!?」
「…………ここで勘づくなんて、つくづくあなたは憎たらしいですね。」
ため息のような音がする。骨のぶつかる音でしかないが、多分ため息だった。
「あなたには無限の命があります。パルガン、旅をしなさい。転生した仲間を探しなさい。」
「……君に言われなくたって。」
「あなたの仲間を集めるのです。そして幸せに暮らしなさい。それがあなたに……夢を追い求めたもの同士の戦いで勝ったものの責務です。」
パルガンが目を少し伏せる。しかし……すぐに、またプレェトに向き直る。
「人殺しに加担することが罪なら、きっとゼニス・ワンダラーも復活してるんだよね。」
真面目な顔で言い放たれた言葉は、プレェトにとっては思いもよらないものだった。一瞬の沈黙が流れる。
そして、骨は、顔を覆った。爆発的といえるような笑い声を上げた。
「……あっはっはっはっは!! そうですか、あなたはゼニス・ワンダラーとやり直すおつもりか!! いいでしょう、気に入りました。そんなあなたに、呪いという祝福を与えてあげましょう!!」
プレェトが身体で大の字を作ると、次第にその体はモヤになって広がっていく。
「《憑依》!」
「えっ……うわぁぁぁああああ!!!」
そのモヤは……パルガンの身体に吸い込まれていく。
「なに、なんなの、なにされたの!?」
「私も旅に加えて頂きましょう。火炎文明、水文明、自然文明、神文明と交流のあるあなたです。死文明の私も加えて頂きましょう。」
「嫌だよぉ………………」
パルガンはその場にへたり込む。
「いままで色んな敵と戦ったよ、それこそ死文明からスライムとかいろいろ出て来たりさぁ……でも……僕が『気持ち悪い』って思った敵って、君くらいだよ……」
「私を特別視していると捉えておきましょう。嬉しいですねぇ。」
「うぅ……おぇっ……」
軽い嗚咽が出た。
そして……立ち上がった。
「しょうがない……君も連れて行くよ……」
その言葉に、なんとなくプレェトの表情が明るくなったのがわかる。
その瞬間、肩にもふもふとした生き物が召喚された。
「うわっ」
思わずはたき落とす。
「心外ですねぇ、私ですよ。」
「はぁ……?」
「人型の方がよろしいですか?」
すると、もふもふは消えて、影に包まれて中身が見えないローブに変化する。
「その方が幾分かいいよ……でも、よっぽど姿は見せないでね。」
「……はて、そうなってしまうとどこに行けば、どこに隠れればいいのかはてさてわかりませんねぇ……憑依したからには宿主の中に入るなら隠れられるかもしれませんが……なにぶん私は気持ち悪いので中には入れたくないと宣う宿主様でいらっしゃいますゆえに〜」
「……僕の中に居て。」
「その命、謹んでお受けいたしましょう。」
モヤに変わってパルガンの中に取り込まれる。
「はぁ……」
「旅の始まりがため息では締まりませんね。」
「誰のせいだと……」
放浪者は無限を目指した。届かないその力を仲間と共に追い求めた。
無限に手が届くことは無かった。しかし、彼らは無限より永いものを手にしたのだった。
そして、この物語は無限につづく。
2年間のご愛読ありがとうございました。処女作であるこの小説に完結までお付き合いいただいた皆様へ、深く感謝申し上げます。
***
くぅ〜疲れましたw これにて完結ですw
2年間広げた風呂敷は畳めたと思ってます。
本当は話のネタなかったのですが←
なんとかライブ感で乗り切り完結はできました。
この小説って、書き始めた頃と現在とでまっっっったくストーリーの展開予定が違うんですよね。カクヨム版でそこは修正します。(サルファが迷走していたのはだいたいそのせいです。)
ちなみに完結まで行けた連載小説は人生でこれが初めてです。処女作ってことですね。
以下は盛り込めなかった設定などです。
Q.ダアトってなに?
A.デウス・エクス・マキナです。(話を畳むために出てきた舞台装置のこと)
Q.パルガンの精神力強すぎない?
A.デウス・エクス・マキナだからです。
Q.多色魔法ってなんだったの?
A.元々は火炎・水・自然・死・神の五属性での多色魔法でゼニスゲート開いたり無限竜呼び出したりする予定だったんです。カクヨム版での扱いをお楽しみに。
Q.ガンダムとか特撮ヒーローとかいろいろからパクリすぎじゃない?
A.全くその通りでございます。ですが、リスペクトを欠いたつもりはありません。ちなみに仮面ライダーとスーパー戦隊とプリキュアとガンダムはこの世界でもほとんど同じものが放送されてる設定です。少なくともなろう版では。
その他、質問・意見等あればなんなりとお申し付けください。次回作以降や、カクヨム版での参考にさせていただきます。
この作品のテーマは「人と人との繋がり」なのですが、そのテーマすら決まったのが連載途中です。マジ終わってますね。




