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最後のゼニス

「《ブレイズ・バースト》!」

蛇が爆ぜて破壊される。肉片が飛び散る。プライマル・ヴェノムの蛇だったものが。その光景を見て、微笑を浮かべるシアノは意味深な言葉を呟く。

「地は裂け……野は焼け……空が堕ちる。宵の暁星の昏き底よ……ククク……」

「何言ってんだお前?」

「……《†爆ぜる大いなる深淵(セカンダリ・ヴェノム)†》」

「うぉっ」

影から這い出る蛇は、急速に加速し、ブレンネンを捕まんと飛び出す。ブレンネンが逃げようと構える。しかし──

「さぁ……レクイエムだ。《שאקה(色欲)》」

──シアノのセフィラの能力が発動する。

「なに!」

魔法の発動に気を取られて、ブレンネンの足に蛇が巻き付いてしまう。もがくも、蛇は力強く巻きついて離れない。

「シャアアアアアッ」

鳴いた蛇の目が光り──爆ぜた。血煙に包まれる。

「──だァっ!!!!」

むせるブレンネン。血飛沫を吸い込んだ、口が肺が鉄の味。

その姿を見てシアノは口角を上げた。

「《†穿つ大いなる深淵ターシャリー・ヴェノム†》」

堂々と地面を踏みしめるシアノが次の魔法を発動する。四方八方、ビル群の影から、蛇が這い出てきては加速してブレンネンに飛びかかる。

「シャアア!」

右に避ければ右に、左に避ければ左に。無数の蛇が、避けた先に攻撃を繰り出してくる。

「ぐおおおぉぉぉっ!!」

ブレイズ・バーストを荒々しく使ったマニューバ。

だが。

「《שאקה(色欲)》!」

「!!!!!」

──まただ、どうしても気を引かれる! これが効果そのものか!

蛇は隙の出来たブレンネンを逃すまいと、鳴き声を上げ加速し……貫かんとする。

「だったらぁぁぁ!!!!」

ブレンネンは……あえて蛇の居る方向に飛び込んだ。決死の回避機動。

「ハァッ……ハァッ……」

「《†昏い大いなる深淵クォータナリー・ヴェノム†》!」

「なにっ!?」

ブレンネンが避けた方向に、透明化が解けていき現れたそれは、群れではない。偏平な巨体を持った一匹の……コブラ。アギトを開き、ブレンネンを呑み込む。

「貴様は逃げられん。そのままジワジワと体を潰されていく恐怖を思い知れ……!」

コブラが蠕動する。

「終わりだな……」

シアノが背を向けた時だった。


「《ブレイズ・ブレーズ》!!」


ブレンネンが、何かを発動する声……瞬間、炎の煌めきとともに、剣の翼が生えたブレンネンがコブラの腹を裂いて現れる。威風堂々たる姿で、その場に浮かんでいた。

「舞え、剣よッ!」

刹那、ブレンネンは炎に巻かれた。

翼の剣が飛び回って、コブラをたちまち刻んでしまう。

剣の軌跡は炎に飾られる。範囲内の全ては、塵さえ残らない。

「なに……?! バカな……」

「ハーッハッハ! 燃やし尽くしてやったぜ! 足りないな、まだあるんだろ、蛇!」

「味な真似を……《†揺るがす大いなる深淵(クイナリー・ヴェノム)†》」

おかわりに応えて現れた蛇はその巨体をブレンネン目掛けて叩き付けんとする。

しかしそれらも全て、たどり着きはせずに燃え尽きてしまうのだ。

蛇の攻撃が加わるも、ただ炎に巻かれて、次の瞬間には何事も無い。

触れるもの全てを焼き尽くす圧倒的なロマン(情熱)! それがブレイズ・ブレーズである。

「チッ」

「分かったであろう! この情熱の炎の前には、一切の攻撃は無駄なのだ!」

だが……


──シアノが不敵に笑う。


「……なんだ、まだ隠しダネがあるってか。」

「あるさ……とっておきが。《שאקה(色欲)》」

もはや見慣れた魔法。だが……

「うぐっ……だが、蛇も出さずに────」


「《ゼニス》」


「なっ」


ショックに、ブレイズ・ブレーズが消えてしまう。


後ろから……サルファ。


背中に手。


「ふっ……最後の一人はお前だ!」


身体にヒビが入っていく。


ブレンネンの目に……涙と諦めの顔が浮かぶ。


そこに駆け寄ってくる足音が、徐々に遅くなり、やがて止まる。

「うん……? ハッ、遅かったなァ!!」

上機嫌なサルファが振り向いて声を上げる。

「見ての通りさ! お前の大好きなブレンネンはゼニスだ! 俺の仲間さ! お前の仲間はもう居ない! お前たちの夢も、ここで終わりだ!!!」

「……」

ムボガの時と同じだ。手遅れになってから。

膝から崩れ落ちてしまう。

「パルガン。」

見かねて、崩れていくブレンネンが呼びかける。

身体が砕けていくブレンネンは、力を振り絞ってパルガンに目線を送る。

「……!」

その目線には、ブレンネンの意思がこもっていた。アツいその意思が。眼差しが、勇気を出させた。パルガンに夢を思い出させた。

「そうだ……そうだね……終わらないよ。僕たちの夢は。…………みんなの夢を受け継いで、僕が生きるから。ブレン──ブレンネン。君が率いたパッション・ワンダラーの夢を……情熱の(パッション・)放浪者(ワンダラー)が目指した無限を、僕は最後の1人として……叶えるから。」

ゆっくりと立ち上がる。

白い刃が、鞘から姿を表す。

「へっ、立派になりやがって……パルガン」

つぶやきが空に消える。砕け散り……再構築が始まる。

「な、なんだかわからんが、3対1だ!! 逃げ帰っても今なら……」

パルガンの雰囲気が変わる。気圧されたサルファが強がった言葉を吐く──

「だったら俺も、船長としていいとこ見せねぇとな。」

「……は?」

「《לֹא יַצִיב(不安定)》!」

──それは正に刹那の出来事だった。

白く輝く爆炎が上がったと思えば、3人は姿を消していた。パルガンは軽く咳き込み空を見上げる。

「ブレン…………?」

ブレンネンは、ブレイズ・バースト・スカイでサルファとシアノを連れ去り空へ飛び立ったのだ。

それを追ってパルガンは、ビルの屋根に飛び乗った。

「なぜ! なぜこんなことをする!!!」

「へへへ……最初っからァ、お前には一杯食わしてやりてぇって思ってたんだよ!!」

「なんだと……!?」

「うわぁっっつ高いっ、高い、降ろせぇ!! 高い!!」

シアノが騒ぎ始める。暴れるシアノをものともせず、ブレンネンは淡々と呟き始めた。

「パルガン、お前とはもうパルティータで決着がついてる……俺はお前に負けて……嬉しかったんだ……リベンジマッチなんてことはしねぇよ。」

「クソっ……ブレンネン、貴様ぁぁ!!」

ブレンネンは加速していく……

「へへっ、みつけたぞアルターの野郎! ついでだ!」

「ん? うわっ、おい!!」

アルターまでも加えて。

1本の大樹に向けて、加速していく。

「『船長と決闘して勝った者が次の船長となる』……パルガン! お前はパッション・ワンダラーの……!」

目を閉じる。一瞬のうちに、一生の思い出が駆け巡った。


「船長だ!!!」



世界から音が無くなったと錯覚するようなあまりの爆音。色が無くなったと錯覚するように白い、日食の爆発。

「ブレン……そんな……」

「ゼニスの樹が……? まさか……ゼニス……ゼニスっ……ゼニス……!!」

魔法を唱えようとするサルファに、焦りが込み上げてくる。

「もしかして……今の大樹が?」

「解析情報によれば……ゼニスの源だな。」

再構築されていくアルターが答える。

全てのゼニスワンダラーを倒せばゼニスが消える……それは、ゼニスワンダラーの魂が集まる木を破壊する事でも達成出来たのだ。

「じゃあ……」

パルガンが剣を構え、サルファに近づこうとする。明確な殺意を放ちながら。

「……通してよ、アルター」

しかしアルターが立ち塞がる。

「サルファを殺させる訳にはいかない。」

「君は……ゼニスの洗脳を受けているんだ?」

「洗脳? 違う。ゼニスの効果は思い出させる効果に過ぎない。俺たちはゼニスによって前世の記憶を思い出したんだ。サルファと仲間であった記憶をな……ブレンネンは、お前との思い出を優先したらしいが。」

アルターは機械を取り出す。アルターの、変身ベルト。腰に当てると起動し、自動で巻きついた。

「悪いが俺はそうも行かない。……お前に会って、幾度となく苦難を乗り越えて……パルガン、お前には感謝してもしきれない。本来なら星を追われたあの時点で終わっていたはずの命だ。それがここまで生き延びたんだからな。」

最初で最後の戦いが始まる。

「だが、俺にも……譲れないものがあるんだ。」

「どうして……今まで何度も助けてくれたのに、サルファの事がそんなに好きなの!?」

「……俺は……お前を止めてみせる。《変身》」

冷気が発せられる。周囲の地面が、草が、空気すらも凍りついて行く。

「《CHANGE - ALTER QUANTUM》」

そして凍てついた物全ては、跡形もなく消え去る。

禍々しくも映るそのアルターが、パルガンに立ちはだかった。

「アルター!」

「《殲滅プログラム》」

パルガンの叫びも虚しく、機械部分から小型のドローンがいくつか射出される。パルガンに銃口を向け、囲む。

「どうして……」

「お前には分からない……!」

ドローンは反粒子を放つ。

「《ドロップ》!!」

飛び上がったパルガンを追って行く。

「っ…………」

休みなく襲いかかるドローンは、息つく暇など与えない。

そんな中、パルガンはひとつの思いつきに身を任せて、身体をひねり空間に向けて刀を振る。

「…………《月食》!!!」

苦し紛れ、だが功をなす。少しのドローンが墜ちる

「ドローンとの接続が!?」

「《月食》!」

刀を振る。ドローンが墜ちる。

「なら直接叩くしかないか……」

残ったドローンは仕舞われ、アルターは懐から『氷点下ブレード』の柄を取り出す。

近接戦の構え、なら初撃を取った側に分がある!

「《龍炎刺突》!!──」


刺突を構え、ドロップで加速……しかし。

柄はブラフ。アルターは背を向ける。


「──《月光蝶》!!!」


グレベーシを覆ったあの虹が、パルガンを挟む。


「何っ!」

だが、パルガンの刺突は、アルターのバックパックに命中。

「手加減? あの時とは随分と出力に差があるみたいだけど!」

「エンジンが? なぜ不調なんだ!」

アルターの視界が警告のマークに埋められる。

「《!FATAL ERROR!》」

「僕を止めるんでしょ、だったら手加減なんて!」

「世の中、確実なもんなんてあったもんじゃねぇな……」

「《COMPILING NEW PROGRAM - 反粒子ブレード》」

生成されたそれは、あまりにも禍々しい剣。目に刺さるような煌々とした緑色の色味。

「《CHANGE - AVENIR ALTER》」

だがパルガンが臆することは無い。葬送刀は仕舞われ、別々の刀になり再び握られる。

「《火柱刀ヒメバショウ》」

ヒメバショウが地面に突き立てられる。

「《葬送刀ジギタリス》《爆裂刀ホオズキ》《美双刀サクラフブキ》」

そして刀が手に握られる。

「《百花斉放》」

刀の効果が一気に起動する。辺りは火の海に。

「《奥義 - 百花繚乱・舞》」

「《演算プログラム》!」

一撃。演算が始まり、未来予測が始まる。

「ぐっ……再構築のせいか……」

「まだまだ!」

爆発と共に繰り出される一太刀は、斬撃というよりは、爆撃。

「っ……装備が体に合わない!」

厚い装甲。しかし、着実に削れていく。

「うおおおおぉ!!!」

叫びと共に。

しかし。

「だが演算は……終了した」

反粒子ブレードが、据えられた。

構えた刀が、反粒子ブレードと対消滅していく。


辺りは光に包まれる。

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