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決戦・シアノ

「……何か起きてる。」

シアノがつぶやく。上の空といった表情でぽつりと。

「“何か”とは、なんですか? 面倒なので、聞き返す必要のないようにお願いしたいのですが。」

凛とした声で返答するピサンリ。凛とした、心底面倒そうな声だ。

「“何か”でしか無いんだ……違和感程度というか。」

「種族のせいでしょう。厨二病原体でしたっけ? 私はなにも感じませんから。」

「そうか……」

そこに、ゼニスによってゲートが開き、サルファが現れる。

「あれ、サルファ?」

サルファはアルターと居るはずじゃ? という疑問。同時に喜び。上の空が、しっかり意識を取り戻す。

「シアノの直感は当たってる。面白いことになった……カモがネギ背負ってやってきやがったぞ!」

余裕ぶったその声と裏腹に、サルファの手は震える。長い付き合いのシアノがそれを見逃すわけもなく。

「……最悪なことになったらしいな。引きこもっていて欲しかったパッション・ワンダラーが、来られるはずもなかったここに来たんだ……」

その気を察するのなんと簡単なことか。精一杯取り繕っていたサルファの表情が暗く。そして、震える。震える声のサルファ。

「誤魔化しが効かねぇな……あぁ、そうだ。こんな日は来て欲しくなかった。パッション・ワンダラーとゼニス・ワンダラー……どっちが生き残るか、最後の戦いだ。」

始まる最後の戦い。どちらかが、滅びる。どちらかが、夢を叶える。



「破れたか……ゼニスの結界」

ヤツエルの物知りげな呟きと共に、アツィルトの上空から、空間に張った膜のようなものを破ってパッションワンダラー三人が現れる。

「う、うわぁぁぁ!!」

空中に放り出され、ムボガが愛らしい叫び声を上げる。

「《聖比礼アネモス》」

「ショーちっ!!」

そこにアネモスとハチエルが現れる。アネモスは呼び出されて出た瞬間に、大きく広がる。

「おお、何人でも乗れるのか!」

「おふこーすヨ!」

この場所は、ちょうど昼間なのだろう。陽が差し、明るい街並み──アツィルトには街が広がっていた。

「文明……どの文明にも似ていない」

しかしそれは、水文明の機械で形成された街並みでもなければ、火炎や自然の木造の家でもなく、神文明のような黄金郷でもなく、間違っても死文明のような地獄でもない。

「第六の文明とはこのことだな……!」



「サルファ、ピサンリさん、先に戻っていてくれ。俺は1人じゃないと戦えない、だから。」

ついに上空に現れたその影を見て、シアノが翼を広げる。精神感応を使うシアノは味方にもダメージを与えてしまうため、単騎でなければ戦えない。

「……わかった。シアノ。ぶつかり合うこともあったが……お前は、俺のかけがえのない友人だ。それだけは忘れるなよ。」

「死なないでくださいね。面倒ですから。」

ゼニスのテレポートにより、2人が安全な場所へ移る。そして、シアノは翼を広げ……覚悟を決める。

「……《†暁闇に魅せられし狂躁サクリファイス・ザ・ムーン†》」

その厨二病な名前のスキルを発動し、シアノの瞳は紅く輝く。

勝利(ネツァク)真名(セフィラ)を冠するこのシアノ・ヴェノムに……敗北は無い……」

敗北のフラッシュバックを振り切り、飛び上がる。



「止まれぇっっ!!!」

「うわぁっ!!」

ブレンネンの怒声に急停止したアネモス。眼前を、黒色の光球が過って行く。当たったらどうなっていたことか。

「ッ……早速、手荒いご歓迎だな!」

「シアノ……とか言ったっけ!」

そして、目の前に現れ羽ばたいているシアノを見つめる。シアノは俯いた状態からゆっくりと顔を上げ、パルガンたちの方を向き、見栄を切る。赤い眼が、より一層輝く。

「うッ──なにか、クソ、精神汚染だ!」

「ブレン!」

ブレンネンが頭を抑える。

「まずは地上に降りないと……《葬送刀ジギタリス》!」

ジギタリスを取り出し、シアノに向ける。アネモスの先頭に、パルガンが乗り出す。

「《ドロップ》!」

「《ブレイズ・バースト》!」

放たれた二つの火球を、シアノは翼をはためかせ、アネモスの上を通るようにして避ける。

「ムボガ、操縦できる?」

「自信ないな……」

「誰にでも簡単ヨッ! やってみ、やってミ!」

パルガンの手についていた操縦桿は、ムボガの小さな腕に移る。

「わたーしのサポートにかかればぁ、動かしたいように動いちゃう!」

「う、うん……そうだ、ぼ、僕だって役に立てるんだ……!」

ムボガは気合いを入れて、アネモスの操縦を自在にする。シアノの背後を追いかけるように軸を合わせていく。

「いいぞムボガァ!《ブレイズ・バースト》!!」

「当たれっ!《ドロップ》!!」

再び火球が放たれる。シアノを追うアネモス、シアノの背後に火球が迫る。

「フンッ!」

シアノは翻り、翼で火球をかき消してしまう。

「消されただとッ?!」

「ドロップはまだしも、ブレイズバーストまで!」

シアノの口角が上がり、『暗黒微笑』を浮かべる。

「このL.D.シアノ・ヴェノムがァ……その程度の攻撃で撃てるとお思いかァ……?」

「やぁっと口を開いたか……ブキミな笑顔だぜ、全くよぉ!」

「《†深淵の遠吠え(アビス・スクリーム)†》」

「──来た!」

パルガンとブレンネンが反射的に耳を塞ぐ。しかし、初見のムボガは間に合わない!

「ああああぁあああっっ──」

「ムボガぁ!!」

「ムボガって、耳とかあるの!?」

「言ってる場合か! 操縦代わってやれないのか、パルガン!」

「ハチエル!!」

「ムゥん、喧嘩よくないネ、本人のじゃなきゃノーよ」

「クソッ! パルガン、エンドレ!」

「《聖比礼エンドレ》」

ブレンネンはエンドレを半ば奪うように受け取ると、同時に展開し、三人は包まれ球となる。

「フン、小癪な!《†冥府より降り(シュバルツ・)注ぎし彗星(シュテルン)†》」

シアノの周りに現れたその黒い光弾は、シアノが指差して合図すると飛んでいき、エンドレに覆われた3人へ攻撃する。

「へへん、エンドレの中なら安心だぜ!」

「油断しないで、言ったでしょ、エーデルさんは対策してた!」

「げっ、そうだったな……!」

スペリオルのような、エンドレをも貫通できる技が無いとも限らない。

再び、エンドレに光弾が当たる。

「御三方、地面が見えますよ。」

懐から見慣れない大精霊。

「誰!?」

「宝玉ミエのタルエルです。以後お見知り置きを。」

赤いメガネをかけた大精霊。確か、他のアーティファクトの位置を特定できるとか言ったっけ。

「《ブレイズ・バースト》!」

エンドレの外側で爆発を起こし、着地する。エンドレを解くと、見慣れない黒色の地面、灰色の隔壁。よく見れば、それは壁ではなく、建物であることに気がつく。

「《シュテルン》!」

目を取られる間も無く、その光弾は再び襲う。地面に当たると深い音とともに地面が抉れていく。怪音にムボガも叫んで目を覚ます。

「ちぃっ、《ブレイズ・バースト》!」

火球が放たれるも、シアノは再び易々と翼で防いでしまう。

「その程度の攻撃が、我に効くとお思いかな?」

余裕綽々とした気味の悪い笑顔。

「《眷属召喚 - †其れに使えし者(ショゴス)†》」

ビチャっと音を立てて地面にその眷属が落とされる。

「うわ……気持ちわる」

ネトネトとした粘液でできた、これまた黒色で、不定形の……オステオンの黒いスライムとも、少し違う存在。

「テケリリ テケリリ」

飛びかかってくるショゴスを躱す。ブレンネンは一瞬ずつエンドレを展開し、ショゴスを弾きながらいなしていく。

その最中だ。

「《多蝕(たしょく)魔法-†混沌を呼ぶ流星雨シュテルン・カオス・パンデモニウム†》!!」

「いつ詠唱──うわぁっ!!」

先のシュバルツ・シュテルンが、分裂したり、一度に大量に出たり。その流星の弾幕が、ショゴスと相まって3人を翻弄する。最中、ムボガが考えついた逆転の一手を、行動に移す。

「できる、できる、できる、できる……できる!!《形質顕現》っ!!!」

巨大化して行くムボガ。光弾をものともせず、大きく跳び上がり、陽を隠すほどの巨体はシアノを捉える。

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

「くぉおっ!!」

黒い地面に叩きつけられる。地面が砕け、風。

「テケリ──」

同時にショゴスも姿を消す。

「やったか!?」

「──ダメ、ムボガ!!」

パルガンの叫びと同時に、反射的に縮んだムボガ。

「《形質顕現 - †地這う隠り世の大罪(アラクネ)†》」

衝撃波。ムボガは吹き飛ばされ──それと同時に、壁から壁へと糸が張り巡らされる。シアノは、反撃の魔法を発動したのだ。

「《眷属召喚 - 狡猾な探検隊トラップ・スペランカー》!」

呼び出された、黄色く輝く妖精は、その糸を色付けて見えるようにして行く。つまり罠の判定。引っかかれば何が起きるかわからない。

シアノは、悪魔の姿から一変。獲物を待ち侘びる蜘蛛に同じく、不動。

そして3人も、不動。

「動くなよ……? あの糸……触れたら死ぬって考えて間違いねぇだろうな……いいか、動くなよ?」

無言で頷くパルガン。

「……タルエル、ムボガの居場所が見えたりしない?」

「大精霊は、さして万能というものでもないんです。申し上げたとおり私は大精霊の居場所を──」

「出来ないんだね、わかった。」

不機嫌そうなタルエルの口ぶり。早いところ話を切り上げたくなってしまう。そのための食い気味な返答。

しかし、その直後に。

「──出来ないとは申し上げておりません。やれと言うのでしたらやりましょう。」

「えぇ……じゃあやってよ! 状況を考えてよ、こんなくだりやってる場合──」

「承りました。」

距離の掴めない大精霊だ。呆れた顔しかできない。

「……見えます。無事ですね。」

「そっか、それはよかったよ!!」

「パルガン! 糸に触れずに奴に攻撃する方法を考えるんだ!」

ブレンネンの至って冷静な、しかしいつも通りにアツい言葉に、フラストレーションもいったん放置。

そしてパルガンは……ピンときた顔。

「思い当たるか!」

「うん。オキツエル、ヘツエル!」

「なんじゃ!」「はい」

収納空間から伺う2人。意図に気づいたチカエルが興奮気味に口を挟む。

「そっか! オキッさんとヘッちゃんの合わせ技のビームなら!」

サウラと戦った時に使用したそのビーム。細く、弾速もあり……なにより、ブレない。

「うっし! わしらに任せぃ!」

気のいいおじいさんと言った感じの大精霊オキツエルが、ヘツエルと一緒に、糸に触れないよう最新の注意を払いながら、射線の通る位置を探す。

「タルエル、手伝ってあげてくれるよね?」

「はい。」

タルエルが目を閉じると、タルエルの宝玉、ミエが光る。その光に辺りが包まれると──

「おぉ、助かるぞぉ!」

「ありがとうございます!」

どうやら良いポジションが光って見えるらしい。二人は糸を避けながら、その位置に移動する。

「行くよ、おじいちゃん」「ほっほ、行くぞい!!」「せーのっ」


「「《神座之光耀(カムクラノヒカリ)》」」


光が集められ、収束し、光線となって放たれる。


「なにぃっ!!」


しかしその光線が焼いたのは……シアノではなかった。


思えば、シアノの周りには糸が全く見えなかった。

トラップスペランカーがハイライトできない高度な罠の糸を、シアノは自身の周りにだけ張っていたのだ。光線に焼かれて、糸は赤く光り焦げていく。

「まずい! 反撃がくるぞ!!」

刹那──爆音。糸は瞬時に光の線になり、一気に弾ける。地は裂け、建物は崩れ。土煙が立ち込める。

「げほっ、げほっ……パルガン! げほっ、生きてっか!!」

咳き込みながらも、ブレンネンが声を張る。エンドレを展開して耐えたのだろう。かなり魔力を持って行かれただろうに、立っていられるどころか声を張るとは、さすがはブレンネン。

「……《ドロップ》」

空で火球が爆ぜる。それに土煙が吹き飛ばされる。土煙を巻き込んで、竜巻のようにぐるぐると風がうなる。ドロップだけのものではない。シアノ──薄らぎの中で、妖しく光る眼光。

「下等な貴様らの小癪な魔法が……上位存在である我の糸を本当に見切れたとでも思っていたのか?……哀れな!」

「トラップスペランカーにハイライトさせたのは、油断させるための罠だったのか……!」

苦虫を噛み潰したような顔をしたブレンネンと、瓦礫にもたれかかるパルガン。

「ムボガ……は……?」

「……妙です。ムボガさんの姿が見えません。」

「見え……げほっ、ないって……?」

「痕跡はあります。……少し前、テレポートしていますね。」

「まさか、死文明?!……いや、新手のゼニス・ワンダラー!!」

「我の勇姿も待たずに……動くというのか、ティファレト……」

それぞれのつぶやきや叫びが、タルエルのその情報から生まれる。遠くを見るシアノ……

「……《殲敵》」

金属音。苦し紛れの突きは、やはり翼に防がれる。

「つまらん。貴様から潰してやるか。」

「まずいパルガン!」

エンドレが投げられる。パルガンの手に渡り──

「《†自我への侵入(イーヴィル・ザナドゥ)†》──チィッ! 思い上がるなァーーーッ!!!!」

モヤに包まれたその突進を防ぐ。

「なにか……何か逆転の一手がないと!!」

「フハハハハハァァァ!!!!」

エンドレを貫通せんと、狂った叫び笑いとともに、突進を諦めない。


そんな中、口を開いたのは意外にもイクエルだった。


「あれをやるか」


どれを? しかし、大精霊のギョッとした声が収納空間から聞こえたことを鑑みるに、おそらく大精霊にとってはやりたくない手法なのだろう。

だが。


「方法があるなら……試してみるしかないよね?! ねぇ、今!」

「うぅぅ……やりたくない!!」

「このままじゃ全員やられちゃうんだよ!!」

林檎の木の空間からの復活が、何度でもできると決まったわけではない。

「何をしようとォ、ハハハ、我に通じると思い上がるな、小童どもが!」

「《ブレイズ・バースト》!!」

「くどい!」

翼にかき消されるブレイズ・バースト。それだけでなく、シアノはエンドレを離れる。

「ブレンネン!!」

「……モゥちゃん、やってくれる?」

チカエルの呼びかけに、エーデルの遺した、サクラに括りつけられていた聖比礼が収納空間から出てくる。聖比礼シュンテシス。そしてそれに続いて、アーティファクトが全部。

「《†自我への侵入(イーヴィル・ザナドゥ)†》!」

「やれぇぇぇっ!! パルガァァァァァン!!!」


──そしてシュンテシスは光を放ち……シアノをも吹き飛ばす。

思わず目を覆ったパルガン。再び前を見たときにあらわれたのは、全く知らない大精霊だった。アーティファクトの大精霊と異なり、人ほどのサイズ。大精霊と呼んでいいのだろうか? もっと違う存在なのかもしれない。そう思わせる存在感を放つ。


そして、その大精霊が口を開く。


「我が名は……アマツエル。」


荘厳な鐘の音が聞こえた気がした。堂々たる立ち姿。確かに、何とかしてくれそうなほどの。


「馬鹿な……アマツエルだと!!」


そして意表を突かれたらしいシアノ。


「今更アマツエル……邪魔しに出てきやがった!!」


サルファが握りこぶしを机に叩きつける。戦況を監視しているらしいモニターにも、アマツエルの姿がはっきりと映る。


シュンテシスの効果。それは、包んだものを融合させる効果。


すべての大精霊は融合し、アマツエル……唯我独尊の大精霊となったのだった。

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