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夢のため

パルガンは、ゆっくりと立ち上がる。

「僕には……僕たちには夢がある。夢のためなら……僕は前に進める!」

ゆっくりと、ゆっくりと、立ち上がる。

「夢……」

「僕たちパッション・ワンダラーは無限の力を手に入れる! そして無限に……無限の幸福、無限の冒険! それを手に入れる! そのために戦うんだ!!」

立ち上がり、気合を入れて地面に立つ。刀を構える。そこに……


──クリフォトが現れる。


「その答えが聞きたかった。」

「……クリフォト」

エーデルが、ぽつりと。

「この際だ、お前に言っておいてやろう。」

目を伏せるエーデル。クリフォトの言葉が、身体に、浸透するような感覚。

「無限の力は実在する。手に入れるためには……全てのゼニス・ワンダラーを殺せ。」

刀が鳴る。パルガンが、柄を強く握る。


「全ての……ゼニスワンダラーを……?」


揺れる。


「な、ならん、パルガン……お前の敵はサルファのみ!」

「ゼニスとかいうスキル……あったよなぁ、パルガン」

「……」

「あれの攻略方法。サルファ以外のゼニス・ワンダラーを殺せば、ゼニスは発動できなくなる。人ももう消されずに済むだろうなぁ。」

「そ、そんな……そうな……の……」

「パルガン! 惑わされるな、そいつは、そいつはお前の敵でもあるんだぞ!」

「敵……クリフォトは……クリフォトは……」


揺れる。


「クリフォトは嘘をついている! 」

エーデルの糾弾。

「パルガン……敵の言葉と、お前たちの味方である俺の言葉……どっちを信じる?」

鼻で笑うような、クリフォトの顔。

揺れる。だが、結論は……

「僕にはまだ分からない……でもその答えは……」


「戦いの中で見つけるしかない……!」


──クリフォトが去る。


「そうか……ならば……勝負……!!」


パルガンに、迷いはない。いや、迷うのを後回しにした。目の前の敵に集中する聡さを、手にしたのだ。

エーデルも、今更何を言おうが変わらないことを感じとる。パルガンと自分は戦うし、ゼニス・ワンダラーが生き残れるかどうかは未知数なのだ。今考えたところで、しょうがない。ならば、今は目の前のパルガンに──敵に向かい合うべきだ。

「《月食》……」

息を吸い込む。落ち着いて受け流す。エーデルの攻撃を、受け流す。弾く。月食なら、それが出来る。

「……《領域(ドミニオン)》」

やがて自然と、その型となっていた。ドミニオン。領域を指定し、その範囲内に攻撃が入るまで、動くことは出来ない。だが、領域内に相手が侵入した瞬間、パルガンの体感時間は、遅くなる。


「──春高楼の花の宴」


エーデルは、踊り始める。唄いながら。

(詠唱……?)

「──めぐる盃かげさして」

刀を自在に操り、舞う。その軌跡は魔法陣を描き、時折発動し、エーデルを強化していく。

「──千代の松が枝わけいでし」

風が巻き起こる。多色魔法と同じ風が。

「──むかしの光いまいずこ」

だが、パルガンは待ち続けた。


「《多無色魔法 - 荒城之月》」


扇で仰ぐように、舞を締めくくる。さすれば、花が咲き誇る。ファレノプシスの決闘場に見えるはずのない月が現れる。二つはエーデルに力を与える。


「《春光 - 穹架鉄翼》」


地面を蹴り上げ、風を纏ったエーデルが、パルガンに突進する。

「《烈火抜刀》っ!」

葬送刀の鞘からは炎が噴き上がり、刀と刀がぶつかり合い、弾け飛ぶ。切り抜けたエーデルが、仕切り直すように刀をかちゃりと鳴らす。


「《炎夏 - 天照穹架鉄翼》」


ドラコニウムと同じ姿勢、流れ。だが、その刀は燃え盛る。

「ハァーッ!」

炎が翼になり、煌めきながら、パルガンの領域に侵入する。

「────」

瞬間、パルガンの時は加速する。思考が加速し、一瞬を悠久に過ごす。

「《月食》《殲敵》《烈火抜刀》」

刀の能力を二重発動。炎を断つ。同時に、エーデルを弾き逸らす。


「《金秋 - 蒼穹環》」


エーデルはなおも飛び、舞い続ける。その技は、天空から気刃、斬波を放ち続ける。その斬波は無数に放たれ、パルガンの領域に侵入する!

「《月食》《殲敵》《烈火抜刀》──《鳳蝶》!!」

納刀すると、刀にかかった効果はすべてリセットされる。発動しなおし、そして領域の効果が切れながらも発動する、ほぼノータイムでの鳳蝶!


「《冬麗 - 天照大山鳴動》」


エーデルは、加速する。


まっすぐと領域に侵入する。


「《烈火抜刀》──違う!」

「ヤァァァァ!!!!」

エーデルは、舞った。世界の中心のように、回転して舞う。それは風を、炎竜巻を起こし。大山が鳴動するように、大きく荒れる。美しく荒れる。

「──!!!」

刀が弾き飛ばされる。一撃でも喰らえばアウトだった攻撃。それが、何度も、何度も。回転によって。

「……安らかに眠れ。」



泡の音。低い何かの音。深い、深い場所。暗い場所だった。


パルガンは、沈んでいた。


(……いや……違う……違う。)


何かを、否定し続ける。何かを。頭の中を、否定が埋め尽くす。違う、違う、違う。


目が開く。果てしない水。仄暗い底。

コポ、コポと呼気の音。泡の音。

パルガンの視界に、目立つ物。それは林檎の木。知識に反してその林檎の木には色とりどりの果実が──


(違う……あの林檎は……食べちゃダメだ……触れてはいけない……見てもいけない……考えることすら……!)


誰が、それを禁じたのか思い出せない。誰にも禁じられてなどいなかったような気がする。ただ単に自分の本能が訴えかけていたのか。


(僕は……こんなところに居ちゃいけない……どうしてここに?)


目を閉じる。林檎を視界から消す。思考からも消える。次第に思考は澄んで行き──


「違う……」


何が『違う』のかを理解する。



「違う…………僕は……」

「……なんだと」

エーデルの驚きも無理はない。死んだはずのパルガン。喋りだすのだ。

「貴様もゼニスワンダラーだというのか……?」


「違う。僕はパッションワンダラーだ……そして僕たちは……夢がある限り、僕たちは前に進める!!」


刀を握る手。握れる。よし、握れる。問題など何もない。切り刻まれた痛みもない。夢が叶わなくなる、その痛みのほうが圧倒的に痛いから。

「もう……何も怖くない」

「覚醒……したと……いうことか……パルガン!」

「《月食》──《ドロップ》!!」

パルガンが、ドロップによって加速する。足にエンドレ。防御を捨てたのだ。どうせ意味などない(スペリオル)のだから。

「「《延焼天》!」」

同時。全く同時に、同じ技を繰り出す。

「何っ!」

「っ……」

ぶつかり合った魔纏刀と月食葬送刀。反発しあい、刀身がお互いに折れ、はじけ飛ぶ。

「「《烈火抜刀》」」

再びの、同時。納刀し、刀身を回復。烈火のごとき勢いで、刀を抜き、神速の斬撃を放つ。甲高い音。金属か、魔力の反発か。次の動きはまたも同時。後ろに跳ねて距離を取る。


「『魂を送る刀よ、真の力を以て彼の者に安楽を与え給へ』《日食》《奥義 - 百花繚乱・幻》」

「来るか!」


その均衡が崩れる。

さらに加速。ドロップドロップドロップ。加速し続け、エーデルを切り刻みながらそこに幻が残っていく。


「咲き誇れ!」


パルガンの合図で、その幻は、一斉に咲き誇る──エーデルを斬る。


ピシッ


そして、クリファは砕け、セフィラが顕現する。


ホドのセフィラが顕現。今までとは違い、見た目に変化はほとんどなかった。


エーデルが口を開く。


「……言葉はいらぬな……パルガンよ」


パルガンは、無言でうなずく。


そして、パルガン、エーデル、両者同じ構え。


魔法陣は帯となり、纏わる。


パルガンには、それが可能になっていた。そしてエーデルは、それを直感で感じ取った。


自然と、心が通じ合い。


「「《颱穿天虹架(スペリオル)》」」


閃。


「カハッ……やはりか」


交差するスペリオル。


末に倒れる、エーデル。


「エーデル様……どうして」


「オロチエル……私は……お前の主ではない……エンドレはもう……パルガンに託した」


「どうして、あなたは、どちらの味方なのですか……?」


エーデルはゆっくりと、答える。


「私は敵でも……味方でもない……ただ幸せに……なりたかった」


そして、ゆっくりと、絞り出すように続ける。


「パルガン……手段がどうあってもいい……何があっても……必ず……サルファを……討ってくれ」


そして、そして。木が伸びる。林檎の木が。水の中で見たその木が。


「《アイン・ソフ》」


橙色の光は天に上り、アツィルトに還る。アツィルトの大樹に。


「……うん」


立ち去らんと、振り返ってみれば。


そこには、もう片方の美麗刀。墓標かのように地面に勇壮たる姿で突き刺さる。吹いていないはずの風に、括りつけられたシュンテシスがなびいている。


桜の花びらが、舞った気がした。


「エーデルさん……ありがとう」


***

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