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アルターの隠れ家へ

パルガンが階段を駆け降りるのに対して、サウラがゆっくりと落ち着いて降りていく。

「パルガン、急いては事を仕損じるぞ!」

「で、でもアルターと早く合流しなきゃ!」

「急がば回れ、とも言う。一旦止まれ、パルガン。」

パルガンが歩みを止める。長い階段、終わりはまだ見えない。サウラは追いつくと、話し始めた。

「まずもって、アルターとは何者なのだ?」

「水文明の天才科学者……って言って伝わるかな?」

サウラはパルガンの一歩前に出て、歩く。パルガンがその後ろを着いていく。

「機械文明とよく揶揄される水文明であるか。」

「そう、水文明が機械文明と呼ばれるまでに機械を発展させたのがアルターなんだ。」

“揶揄”と言われながらも、パルガンの口調は得意げだ。

「貴殿らとはどのような付き合いで? 文明混合部隊とは言っても、そのような人は立場も高かろう。冒険には不向きではないか?」

前を向いたままサウラは歩く。階段を降りる足音と二人の声が、気の遠くなりそうな金属製の螺旋階段に響く。

「まぁ、出会いは突然だったんだけどね。色々訳ありで。アルター、すっごい強いんだよ。」

説明は不得意だ。人の境遇など長いものは特に。というか、パルガン自身にもあまりよくわかっていないのだ。

「その者が、行方不明とな。」

「うん。強すぎちゃったもんでちょっと狙われちゃって。本人はどこかに隠れてて、使い魔……みたいなのを代理に立ててもらってたんだけど。使い魔がこの前やられちゃったんだ。」

「ほほう……由々しき事態であることは伝わったぞ。」

次に、背筋の凍るような一言を、サウラは発した。

「その者が敵になったらとは……考えたくないものだな。」

「……そうだね」

確かに、そうだ。アルターが敵になったら? 倒せるだろうか?

感情を抜きにしても。アルターは強い。サウラに勝てなかったパルガンが、勝てるのか?

ドロップによるブレイズ・バースト・スカイの真似事は、魅開杖ファレノプシスによる決闘空間があってこそのものだ。サウラと戦った森ではそのような高機動は使えなかった。小細工無しの戦闘はフラゴルにも劣るだろう。


カツ……カツ……カツ……コツ。


金属製の階段から、コンクリートでできたその地下室に降り立つ。

「気張っていくであるぞ、パルガン。」

サウラは背中のバックルから剣を抜く。

「……アルターに会うだけだよ。」

「それで済めばいいが。」

いつものはつらつとしたサウラはどこへ。しかしそれが、人を護るときのサウラなのだ。

足音。進んでいく、足音。しかし段々と、蛍光灯の光に、ブルーライトが混ざっていく。


「アルター」


パルガンがその言葉を口にする。


ブルーライトに照らされた椅子に座っている誰か──アルター。アルターは床を蹴り、椅子を半回転させ、パルガンの方を向く──


「……じゃない!」


刹那。サウラの剣は振り上げられ、アルターの首を落とす。


「心外だな、パルガン。」


どういうわけか、2人の後ろからアルターがもうひとり現れる。


「……だって、アルターじゃないでしょ。」

「根拠は?」

「…………無い。」


椅子に座るアルターが消える。ホログラムだったのだ。そして出てきた生身のアルター。


だが、その纏う空気は。明らかに、アルターのものとは違うのだ。


「《葬送刀ジギタリス》」


刀を、アルターに向ける。


「パルガン……さらばだ」


刹那──刹那の連続。


アルターの後ろから、身体をすり抜けて、現れたのはエーデル。とてつもないスピードで、パルガンの首に斬り掛かる。魔纏刀の一撃。葬送刀では弾けない。


「──っ!」


パルガンを押しのけたサウラの盾を易々と斬り裂いて。サウラの顔を斬りつけた魔纏刀。血が噴き、押しのけた勢いで壁に叩きつけられる。


「ぐ……っあ……か、神よ……『神よ、我が血を捧ぐ、敵前逃亡の恥を……どうか、お許しあれ……!』《神属性魔法 - 空間跳躍》」


サウラが光に包まれ、消える。

「さ、サウラさん!」

「かのものはどうでもいい。私はお前と戦いに来たのだ。」

「アルター!!──もう!!」

アルターは、いつの間にか消えている。

「パルガン、私と戦え……」

「アルターは、どこいった……!!」

「答えは私が知っている。その答えと──」

懐紙のように、ひとつの布──聖比礼を取り出す。

「あれは、モノエル!」

十種神宝(アーティファクト)、最後の1つ。モノエルの、聖比礼シュンテシス。

「──このアーティファクトを賭ける。……お前に、決闘を申し込む。」

刀をお互いに向ける。

「負けないよ……!」

「魔剣士の誇りにかけて……センジュ御前の仇討ちのためにも!」

ファレノプシスによる決闘場が広がっていく。

「パッション・ワンダラー、一刀両断のパルガン。」

ゼニス・ワンダラーになろうと、剣士としての礼儀というものは忘れない。

「ゼニス・ワンダラー、エーデル・ホド」

まるで、時が加速していくような……そんな感覚。そして、心臓の音。


時は動き出す。


「やぁぁぁぁぁ!!!!!」

突進。魔纏刀は既に虹色に輝いている。

「《月食》!」

魔力を斬らんとする太刀と、魔力を纏って全てを斬る太刀。互いに反発し、刀がぶつかり合う。虹色の魔力が、月食によって切り離され、消える。

「『魔を纏う刀よ──」

「させない!《聖比礼アネモス》!」

アネモスに乗り、加速。

「はぁっ!!」

切り抜けようとしたのを、エーデルはやはり刀で弾く。アネモスで、自在にフィールドを飛行するパルガン。

「魔力を纏わせるだけが魔剣士ではない!《穹繰ル鉄翼(ドラコニウム)》」

「飛んだ!?」

風がエーデルの身体を持ち上げる。その速度は、パルガンのアネモスに追いつく。

「《颱穿天虹架(スペリオル)》」

「なぁっ?!」

その速度から、さらに加速する。魔法陣が帯となり、まとわりつく。空中からの、さらなる突進。

エンドレが展開される。


「は?──」


エンドレが、円状に。


穴が開いて、消える。


「──うっ」


血。足をかすめた刀。エンドレで守られていたはずのパルガン。傷が。血が。

アネモスが消え、パルガンは地面に落ちる。

「『麗しい刀よ、真の力を以て慈愛を与え給へ』……!!!」

それも気休め程度にしかならない。

(なにが、何が起きた!!)

「『魔を纏う刀よ、真の力を以て全てを斬り給へ』」

「……勝てる気がしない!!」

混乱する頭。頼りきりだったエンドレが、通用しない。

「弱音を吐くな、お前はもっと強くなれる……ならなくてはならない!」

「何を言って……あなたも僕を、鍛えたいのか!! エーデルさん、あのセンジュのように!」

パルガンは立ち上がる。刀を地について。

「そりゃそうさ、強くなりたいさ! アルターとかブレンネンみたいに、もっと強く! どうして僕が葬送刀を持ってるんだ?! 僕みたいな、弱いのに、センジュはどうして葬送刀を渡そうとしたんだ? フラゴルで良いじゃないか……! どうして僕が戦わなくっちゃならない!」

「……お前じゃなきゃ意味が無い」

エーデルは、息を吸い込んで、その言葉を言い放つ。


「お前にしか、サルファは止められない!」


「……は?」


サルファを……止める。そう聞こえた。エーデルはサルファの味方になったはず……ゼニス・ワンダラーはサルファが率いるワンダラーのはずでは無いのか?

魔纏刀から魔力が消える。そして、向かってきて、鍔迫り合い。

「全て話そう、納得したら私と戦え!」

「どういうこと!?」

「時間はない、サルファはともかくクリフォトにバレると厄介だ。1度しか言わない、全て聞け、全て信じろ」

「何を──」

刀と刀がぶつかり合い、火花が散る。攻撃、戦っている()()をしている。

「私たちゼニスはクリフォトに命を狙われている……! 理由はクリフォト自身の愉悦……」

「命!? 愉悦って、それ!」

刀が交差したまま。クリフォトが悪人とでも言いたげなその言葉。

「だから私達は隠匿生活を試みたんだ……それぞれ思い思いの生活をして! クリフォトは私たちに直接手を下すことが出来ない……だから!」

「ゼニスワンダラーは……僕らの敵だよ!」

「違う! 敵はサルファだ! シアノですら、騙されているに過ぎん……」

「あれが?!」

片翼一つ目の悪魔、シアノが、騙されているだけだというのか? それが仮に本当なのなら──

「シアノを説得し、サルファを殺して──


「せめて、()()2()()だけでも幸せに……!」


あの2人……その言葉に気を取られていたパルガン。エーデルは、既に1度仕切り直すため距離を取っている。

「全力の私を越えろ……私を越えなければ、サルファは私よりも強い!『魔を纏う刀よ、真の力を以て全てを斬り給へ』──さぁ、勝負!」

「ま、待ってよ! うわぁっ!」

「ハァッ!」

魔纏刀の振られた軌跡が、鈍い虹色に煌めく。交差する視線。先程までの、助けを求めるような視線は消えている。闘志と気高さを孕んだ、鋭い目付き。それは、決闘大会でエーデルと戦った時よりも増して見える。

「エーデルさん!」

「本気になれないか……ならば!」

魔法陣が、描かれる。

「センジュ殿の仇!《颱穿天虹架(スペリオル)》!!」

「なぁっ!?」

スペリオル。全ての障害を退ける刺突。魔法陣の帯が、エーデルの周りにまとわりつく。

「剣の神であるセンジュ御前を殺めた貴様には! 私と戦う責務がある! 分かっているのかパルガン!!」

「《アネモス》!!!!」

「ゼリャアア!!」

アネモスで、間一髪避ける。アネモスが、掠めたスペリオルの魔法陣によって2つに裂ける。アネモスが消える。

「うわぁぁぁぁ!!!」

「情けない声を!」

パルガンが着地に失敗し、地面に転がる。

「一発でも喰らえば死んじゃう攻撃を冷静に避けられるわけないだろぉぉぉ!!!!!」

一息に弱音を吐き、息切れ。

「死を恐れるな、パルガン……」

エーデルの姿が、だんだんとセンジュに重なってく。

「恐怖を乗り越えてこそ人は成長する、そうであろうが!!」

「うるさいよ!《ドロップ》!!」

火球が放たれる。しかし、コントロールを失った火球はエーデルの後ろで爆ぜる。

「冷静さを失ったお前に……私は倒せない!」

「わぁぁぁぁ!!!!」

パルガンの単純な斬りかかりを、ひらりと躱し、背中に柄で一撃を加える。

「ぐぁ」

「冷静になれ……戦いに集中しろ!」

「ど……の……」

刀をつく。再び。

「どの口がぁぁぁぁ!!」

「単調!」

再び避け、次は蹴り。和装が、蹴りあげによってひらりと舞う。

「いい加減にしろ! お前は!」

パルガンは、地面に伏す。


「お前は、なんのために戦う!」


戦う、意味。


パルガンの頭の中に、時計の針の音のような、心臓の鼓動。ドクドク、ドクドク。

「僕は……」

仲間の顔が、脳裏に浮かぶ。



「いいのかよ、ブレンネン。こいつはともかく、お前は追放なんて勿体ねぇだろ。」

フラゴルが毒の聞いた一言を放つ。こいつ──考えずとも、パルガンのことだった。視線。

パッション・ワンダラーの募集が始まり、数週。

ひとつの風説があった。ワンダラーとして送り出されることが、実質的な、火炎文明からの追放であるということ。

名誉ある派遣部隊と銘打たれてはいるが、実際良く考えれば、無限の力なんてそんな訳の分からないものを探すなんて、正気じゃない。

予算もほとんど降りていない。冴えない連中が、バックアップ部隊として付けられていることも、その裏づけとされていた。

「事実かどうかも分からないことを! 追放だと言ったな!」

「っ、悪かったよ」

「いや、ならん! ワンダラーは追放処分などでは決してない。この際だ。」

フラゴルの謝罪も聞かずに、ここぞ好機とブレンネンが語る。


「我々は夢を手にするために旅をする! 文明を捨てるためなどではない!」


そして、フラゴルの方へ向き直り続ける。

「甘い考えで着いてきたのなら、この星に残れ、フラゴル!」

「……夢、なぁ。それ本当に叶うとでも思ってるのか?」

「叶うさ! お前もそう思うだろ、パルガン?」

パルガンの方へ、視線が集中する。

「……夢が叶うかどうかなんて、未来のことはよく分からないけど……みんなと一緒に居て、少しでも僕に情熱ってのが宿るといいなぁ……って思うよ」

「ふっははは! 結構!」

風が吹く。ブレンネンの隊服がたなびく。その姿が、妙に記憶に残る。


「我々は! 夢を追い求める、パッション・ワンダラーである!」

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