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創世の光

死文明の収縮により起きた、現世の膨張。宇宙が広がっていき、まだ見ぬ惑星系が姿を現す。

この星、ゼーメーアもその新たな惑星のひとつだ。

「なんだこの星……海しかないぞ?!」

ブレンネンが声を上げる。

「1度も遷移が起こっていないと考えると陸地は無いだろうね……一面海で、気温的に見ても、水文明系の星のようだ。陽の当たっていない部分なら、氷河はあるだろう。」

クチワの座る席周辺のパネルには、各種情報が表記されている。気温もだ。船が位置しているのは、近くの惑星群の恒星の陽が辛うじて当たっている部分。

「この船で深海は探索できるのかい?」

「えぇと……宇宙が行けるってことは、行けるんじゃないですかね?」

「でも、潜れても探索ってのは厳しいよ。」

海底に何かがあっても、アームなどないセスランスでは回収しようがない。ならば、人が海に入ることになる。

「結局僕らが飛び込むしか……?」

「そうなるな! さて、この中に環境適応系、つまり海中探索用の魔法を持っているものは居るか!」

ブレンネンが高らかに発言する。船内が静まり返る。

「うむ! 無理もないな! 我々パッションワンダラーの往く道に、海などかつてなかった! 新天地だな! ガハハハ! ……どうする?」

ブレンネンが、事態の深刻さを目の当たりにしてしまった。やはり静まり返る船内。


その船内に、誰かの声が入った。


「おいおいィ、ありゃ機械文明の生き残りじゃねぇかァ?」

通信系の魔法。アンテナがそれを拾い、スピーカーに流したのだ。

「あれが宇宙船……機械文明が大昔から宇宙を旅していたというのは事実だったわけか……」「何感心してんだ!」

相手船内も、1人だけでは無いらしい。

ブレンネンが、筒抜けになっている会話に耳を傾けた。

「待てよ……この声どこかで……ゾンマーの声じゃないか?」

ゾンマー。ブレンネンの魔法学校時代の知り合いだと言うのだ。即座にブレンネンは、運転席のマイクをとり、同じ通信魔法を使用する。

「《光る風》……お前! ゾンマーだろう!! 俺だ、ブレンネンだ!!」

音割れするほどの声量で、マイクに殆ど叫ぶように語る。クチワが思わず耳を塞ぐ。

「…………デケェ声ださなくたって聞こえてんだよ!!」

ゾンマーも張り合うように大きな声を出す。船に衝撃が走れば、窓からのぞく景色は、船にイカ型の生物が激突してきている。

「ドア開けます!」

セスランスの側面のドアが空くと、潮風が勢いよく吹き込んでくる。パルガンのちょっとした嘆きと、ムボガの苦しそうな声がする。塩害の類か。ムボガを連れて、パルガンが別室に避難した。

イカ生物の肉壁に穴のようなものが開き、内部が顕になる。どうやら、イカ生物は眷属ではなく船自体だったらしい。

「はは、おいブレンネン! 何年ぶりにあったかと思えば、こんな寄せ集めのシケたパーティーで旅してやがったか!! まぁ、お前にはお似合いだぜ?!!」

風の音をかき消すほどの声量で、ゾンマーが叫ぶ。

「貴様こそッ、なんだその生物は!! 機械は、船はどうしたんだ!!」

「おいおい、今どきテセウスも知らんやつが居るとはな!!」

「ほう、それはテセウスというのかゾンマー!!! ありがとうなぁ、教えてくれて!!!」

「てめぇ、バカ正直に感謝してんじゃあねぇぞッッ!!!」

スピーカーを通じて、その会話が別室のムボガにも届く。

「テセウス……って、確か『クロロフィツムの大予言』にあった……」

呟いたその内容。

「《召喚 - クロロフィツムの大予言》」

続いてムボガが唱えると、分厚い本が召喚される。それをベッドにおいて広げる。ページの目星が付いているのだろう。

目線で追っていきながら、テセウスに関する記述を探す。

「あ……これだ 『眷属テセウス 魔法の新時代に現れ、機械文明の船に取って代わるであろう』……だって この絵、あの生き物にそっくりだよね」

「だね……でも、魔法の新時代? そんなもの、あったっけ?」

魔法の新時代など来た覚えがない。2人して目を合わせる。グレベーシ事変からの間、別にひとつの星にこもっていた訳では無いのだが。

パルガンが部屋から出て、ゾンマーに啖呵を切るかのように問い(ただ)す。

「魔法の新時代って、なに!!!」

「あぁん?! てめぇら、何年間同じ星にいたんだ! はは、相当の田舎に篭っていたらしいなァ!!」

ゾンマーがそう言い放つと、ゾンマーの仲間も笑い出す。冗談……ではない?

「何だと!!? 俺たちはせいぜい一日程度しか滞在していない!!」

「ははん、さてはブレンネン、時間操作タイプの結界にバクられてたな!! この、マヌケどもめ!! 類は友を呼ぶとなァ!!」

「なんだとこの──」

「そのくらいにしたまえ!」

「ぶっ」と声を上げ、ブレンネンが転ぶ。船から飛び出そうとしたブレンネンを、ゼレが触手で止めたのだ。

「転ばされた……おいおいおい、ブレンネン、船長気取ってるくせに、良いざまじゃあねぇか!!」

ギャハハと笑うゾンマー。それにつられてなのか、ゾンマーと同じテセウスに乗っている仲間も笑いだした。柄が悪そうに見える。正直いってかかわり合いになりたくなかった。

「ゾンマー君……と言ったね」

「……あん?」

その情景に、ゼレの目に冷たい炎が宿る。それに反応し、ゾンマーらの目線が鋭くなる。

「魔法の新時代……テセウス……歪んだ時間……色々と気になることはあるがひとつだけ確実なことがある。それは何かわかるかね。」

「……てめぇらが弱──」

「我々は決して寄せ集めのパーティーなどではない。真に船長を尊敬して集まっているのだよ。……《武器召喚 - アリス》 これは挨拶代わりさ」

ゼレの手に召喚された、二丁拳銃(アリストテレス)の片割れ。

「ゼレ!」

フラゴルが抑止しようとすると、既に撃っていた。

「なに!?」

ゾンマーの驚声。テセウスの穴が塞がっていく。

「安心したまえよ、ただのスモークさ。死にはしない。」

テセウスの穴が塞がり切る前に、銃弾はテセウスの内部に着弾。煙を放ち始める。

パルガンが手を貸して、ブレンネンが立ち上がり、ドアが閉まった。

何か、ゾンマーの叫び声か何かが聞こえたと思えば、大きな物(テセウス)が入水する音がした。

「……死にはしないさ。」

「ほんとかよ……」

フラゴルが呟いた。



「船長、ありゃ氷河ですよ」

周遊するように進んでいたセスランス。クチワが指差す。

「でかしたぞクチワ、着地できそうか?」

「『診断プログラム』によれば着陸自体は問題ないはずです。しかし、気温が低くて……正直活動は無理ですね。」

「なんせ恒星が遠いね。空が広がってるとするのなら、この惑星系の中核となる恒星が出てきてもおかしくはない。それを待つことになるかな。」

ゼレの見立てでは、時間が経てば多少は気温も上がるだろうし、恒星が見えれば明かりも灯る。

「どうやって探索するんだ?」

「だからね、待ちだよ船長。空が広がるということは──」

ゼレの言葉の途中だった。


空に、穴が空く。そして、黄金に輝く、巨大なオブジェクト。

「……槍?」

巨大な……聖槍。

「耐衝撃姿勢!!」

聖槍は空から伸びて、落ちる。海を切り裂いて、突き刺さる。

その衝撃波で、船は吹き飛ばされる。海には津波が起こる。槍から巻き起こる、凄まじい光。

「……無限光。」

その単語が、ブレンネンの口からこぼれる。

ひとつの星を包み隠す、無限の光。



光が晴れるまで、いくらの時間が過ぎたか。


「……起きろ。」


体を揺さぶる何か。


「起きろッ! パルガンッ! いつまで寝てんだッ!」


……夢?


ゆっくりと目を開く。木漏れ日が染みる。


……あれ、水文明の星じゃなかったっけ。どこからが夢……


「驚いているね、パルガン君。無理もない。この星は異常だ。」


ゼレ。フラゴル、クチワ、ムボガもいる。パッションワンダラーの全員……セスランスが止めてあるのも見える。

「え……何が、何があったの?」

「おはよう、パルガン!」

ブレンネンがパルガンの疑問を無視して挨拶をする。

「うん、おはよう……で、何が?」

「あの聖槍……いや、生命の樹のせいさ。」

「せいめいのき……?」

眠気に、ボヤつく頭。

「どうやら私の科学的知見では測れないことだったらしいね……惑星の創成というのは」

「わく……せい……惑星。」

だんだんと目が覚めて、言葉が認識でき始める。それを見てなのか、ブレンネンは事情を話し始めた。

「少し前、ここにクリフォトが来た。」

ブレンネンが、その名前を口にする。



光に眩んだ目。辛うじて開けると、陽の暖かな光に包み込まれる。水文明、海に埋め尽くされていたはずのこの星。だが、草葉のざわめきは間違いなく本物だ。

ありえない。これではまるで、自然文明。あったとしても火炎文明だ。水文明の星じゃない。水文明の星ならば、もっと冷涼な──

この思考を打ち切らせたのは、聞き覚えのある声だった。

「どうして、お前らがこの星に?」

「……あ……あんた……確か──」

ブレンネンが辛うじて答える。

「クリフォト。俺はクリフォトだ。会うのは2度目か?」

暗い炎でできた、揺らぐ頭部。クリフォトの特徴だ。ブレンネンがゆっくりと起き上がる。その物音に、みんなが目覚め始めた。

「この星は非公開領域のはずだ。なぜここにいる。それも、お前らイレギュラーだけでなく、一般的な探検家共まで……」

「非公開領域?」

ブレンネンが首を傾げるも、クリフォトが聞かんとしているいることをゼレが察して答える。

「死文明が滅亡したことによる現世の拡張……が関係あるのかね?」

「そうか……流石はイレギュラーだ、イレギュラーにも程がある……想定外だ。」

クリフォトが、片手で顔を覆ってしまう。熱くないのだろうか?

「なぁ、クリフォトさん。」

「……気味が悪い。さん付けはやめろ。」

「クリフォト。あんたならさっきの現象を知っているはずだ。」

「……こうなれば教えるか……あれは生命の樹。惑星ができた時に、文明をランダムに決定する機能だ。今回は自然文明らしい……」

「その話、本当かい?」

「誰がお前に嘘をつく。現にお前らが目撃した現象だろうが。あの創世の光を幻だと切り捨てるか?」

「そうか……」

「あぁクソ……探索したいなら好きにしろ。その結果何を見つけることになっても、俺の知ったことでは無い。……はぁ。」



「あいつすげぇ嫌そうな顔してたぜ。」

笑っているのか、感情の読めない遠くを見るような顔をしたブレンネン。

「……そんで、そんな話し込んでる間にもパルガンが起きなかったもんだからな。お前、疲れてんじゃないか?」

「あ……うん。ありがとう。」

ブレンネンの手を借り、パルガンが立ち上がる。

「おっと……ちょうど来客のようだ」

ゼレが呟き、アリストテレスを召喚する。

「えっ? 誰が?」

「雉も鳴かずば……なんとやら。」

耳をつんざく銃声。射出された銃弾が、落ちる葉を貫きながら、森の中を駆けていく。

「《マジックジャマー弾》」

銃弾は空中で爆ぜ、銀色に輝く鱗粉となる。

「魔法が使えない!?」

遠くでそんな声がした。

「今の声って……ゾンマーとかいう?」

パルガンが、そのどよめきを聞き覚えていた。

「あぁ、今のはゾンマー……俺の魔法学校時代のライバルだ。やつもブレイズ・バーストを使う。」

「何?!」

「ブレイズバーストって、オリジナルじゃないの?」

パルガンの疑問。

「あいつは……パクったんだ。俺の魔法をな。ブレイズバーストは──」

通り抜けたのは熱気と、沸騰した湯のような爆ぜる音。

「やってくれたじゃねぇか……ブレンネン」

ゾンマー隊が、ガラの悪い歩き方をしてやってくる。

「ゾンマー、こんな異常事態で戦うというのか! それは情熱的とは言えんぞッ!」

「先輩気取りやがって!! てめぇなんぞ、俺の足元がお似合いなんだよォォッ!!!《ヘリオス・バースト》!!!」

「やめろッ!」

ゾンマーのヘリオス・バーストと、ブレンネンのブレイズ・バースト。同じ性質を持った火球がぶつかり合い、大きく爆ぜ、森を揺らし焦がす。

「引火するぞ、止めたまえ!」

魔法のぶつけ合い。その果てに立ち止まり、睨み合う2人。

「……勝負は預けた」

「なぁ、この森を探索するには手が足りん。自己紹介くらいはしておかないか。」

「……協力ってか?」

ゾンマーが笑う。ブレンネンに、パルガンが耳打ちした。

「ちょっと、何言ってるの?! この人たちが協力してくれるようには……」

「まぁ見とけ。情熱的だぞ。」

ゾンマーは立ち上がり、ブレンネンに背を向ける。やはりそのまま帰る……と思ったのだが。

「……ゾンマー。そいつ(ブレンネン)と同じ魔法学校の……後輩だ。」

ゾンマーの、表情の見えない自己紹介。それに続いてなのか、ゾンマー隊の面子3人も話し出した。

「ラト。召喚術士。」

面で顔を隠した魔法使い。背が低い。赤い宝珠の短い魔法杖を腰に携えているのが、外套がたなびくと見える。

「ベラーノ、斧戦士だ。あーっと、よろしくな。」

好青年といった風貌の、一般的な有鱗種(パノプリア)のベラーノ。背負った斧が目を引くが、斧使いにしてはかなりの軽装備だ。

「我が名はサウラ! 誇り高き聖剣士であるぞ! 貴殿らに祝福あらんことを!」

盾と剣を持った、明らかに前衛のサウラ。盾の装飾は確か神聖なシンボルだ。言葉からも、信徒であることがよく分かる。

「名乗られれば、こちらも名乗るが礼儀だよなぁ!」

ブレンネンが快活な声を発する。

「俺はブレンネンッ! 爆発魔法を使う! ゾンマーの古い友人だ! よろしく頼むぞっ!」

ゾンマーが舌打ちした気がする。

「えぇと、なんだろう、一刀両断のパルガン……です。」

「フラゴル。前衛だ。」

「私はゼレ。文明は違うけど、仲良くできることを願っているよ。」

「……ムボガ……です。」

1連の自己紹介が終わる。

「一刀両断のパルガンに、爆発の貴公子ブレンネン……そうか、君たちがパッション・ワンダラーか!」

「ベラ、あいつ、決闘賭博の胴元の弱み握ってるとかいうフラゴル……だよね」

ベラーノの興味津々そうな声。それから、ラトの訝しげな声が続いた。歓迎されてるんだが、されてないんだか。ゾンマー1人取ってもその微妙なスタンスは見受けられる。

「おい、俺が不正で稼いでるとでも言いたいのか?」

「どういうわけか一点賭けでぼろ儲けしている……単なる運とは思えない」

「……減らず口もそのくらいで止めておかないか?」

フラゴルは、明らかに声色を変える。キレている……

「信用できないよ」

「よし! ならばこうしよう! 時間はありそうだしな、これより親善試合を行う! 決闘形式で戦い、親睦を深めようじゃないか!」

「人数合わないよ?」

「ゾンマーと俺、フラゴルとラト、ベラーノとムボガ、サウラとパルガン! ゼレは見学だな! クチワと一緒にセスランスで退避するといい!」

「ふむ、賢明な判断と言えるね。私は決闘向きじゃない。」

二丁拳銃で有効な近接択を持たないゼレは決闘向きではない。見学。……それは見学ではなく、辺りの探索を先にゼレが始めるという意味だ。

「親善試合だァ? んなことやってる暇は──」

「やろう。」

ラトが、火炎文明らしく目を燃やす。

「ゾンマー、やろう、親善試合。……ボコボコにしてやる……」



「剣士……だよね。」

ジギタリスを取り出したパルガン。口上の確認をする。

「ほほーう、正式決闘か! 貴殿もなかなかに敬虔な信徒であるな!! さて、僭越ながら先に名乗らせて頂こうぞ!」

サウラが鞘を兼ねた盾から剣を抜く。そして剣先を地面に突き立てると、木々がざわめく。

「我が名は聖剣士アル=サウラ! ここに、この親善試合を主に捧げると誓う!」

「一刀両断のパルガン。準備は出来てる。」

「アーレア・ヤクタ・エストォォ!!」

二人は互いに突進した。


「《殲滅剣カタバミ》」

「起きて……私の杖……」

ラトが取り出した杖の宝珠が微かに光る。

「けちょんけちょんにしてやる……」

「ボコボコじゃなくっていいのか?」


「なぁー、俺は子供が観戦だと思ってたんだがな。」

「うん……僕……戦うことになる……って……思わなかった……ゼレさんの……方が……僕よりも強いと思うよ……」

ムボガの声が震えている。

「あーもう、すっと喋る練習は子供のうちにしといた方がいいぜ。」

「ご……ご……ごめんな……さい……」

「目が合わないなぁー……まぁいいや、始めるか? やめとく?」

「や……やり……やりま……やります。……やるぞ……僕はやるんだ……臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……《形質顕現》!!」

「うおっ」


ゾンマーとブレンネンの間の空気は、ほか3つの間の空気とは比べ物にならない熱気だった。

「何年ぶりだ? ゾンマー。情熱的な再開だな!」

「どこが情熱的だよ。最悪の気分だぜ。ラトの魔法がなけりゃ、お前らのせいでおじゃんだったんだぜ?」

「それは悪かった! 部下の指導がなっていなかった!」

「がァ、素直に謝るんじゃねぇ!」

ブレンネンが首を傾げる。それに悪意は感じない。単なる疑問の、純粋なものだった。だが、それはゾンマーを怒らせるに十分だった。

「そうだよなァ、てめぇは最初っから言葉が通じなかったよ!《ヘリオス──」

「そう来たかッ! やはりゾンマー、お前は情熱的だな!《ブレイズ──」

2人が同じ構え。対称となる。お互いの、爆発魔法。火球を射出する。

「「──バースト》!!」」

天地を揺るがす()()()()が始まった。



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