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邂逅

舞う粉塵。ゼレのヘリアンサスは、周囲のエネルギーを収束させて極細のビームとして照射する機械。着弾点が白く染まり、瞬時に赤く焦げる。粉塵をも赤く焦がしていくことで、その軌跡がよく見える。

「《殲敵》ッ!」

フラゴルの根を伝った斬撃が、剣の射程範囲外のムクロまでも粉にしていく。ムクロのように位が低い者に対しては、殲滅剣の効果でひとつの傷から勝手に伝っていき、粉にまで分解できる。

「やぁぁぁーーっ!!」

ムボガは、骸骨をパーツごとに分解していく。狙っている訳では無い、その未熟な巨体ゆえの、粉砕では無く分解だ。だが、そのパーツがブレイズ・バーストによって加速し、他のムクロを撃ち抜く。

「あと何体いんだよ!?」

「わからん! だが着実に進めているぞぉーっ!!」

4人はこのムクロの川を上ることができていた。

やがて、指揮官の元にたどり着く。



「《ボースハイト》」

「《幻日環》!」

「《もう一回(ボースハイト)》……(のろ)い」

パルガンを相手に、プレェトは遊ぶ。幻日環が通り過ぎた隙にボースハイトで移動する。常に背後を取り続け、不快なプレッシャーを放つ。

「私たちの魔力は全て怨嗟(モヤ)によって賄われる……えぇ、無尽蔵です……貴方のおかげですよ」

一周斬り払ったその刀、その刃先をプレェトに向ける。

「《ドロップ》!」

「おやおや」

もはや、反射的に無詠唱での発動にまで成功した。火球が飛び、爆ぜる。

「なんで! 避けやがって!」

「誰のせいだと思いますか?」

プレェトの手のひらが纏められる。手刀の構え。

「《聖比礼アネモス》!」

地面が波打ち、パルガンが跳び上がる。地面が跳ねた訳では無い。アネモスがパルガンを押し上げたのだ。

「《灼陽炎》」

プレェトの足元から巻き上がる火柱。その炎を貫くモヤ。

オロチエルが反応したおかげで、エンドレによって、モヤのビームが防がれる。

「運のいい……」

「ありがとうオロチ──ん?」

パルガンの耳元に一瞬の違和感が生じる。その正体は、声によって明かされた。

「──パルガン、聞こえるか!」

「アルター?!」

粉砕されたアルターエゴは、小さなマイクとイヤホンになる。ナノマシンの集結、組成の変化。

「いいか、ブレンネン達はもう既に牢獄を脱出した。位置情報的に、今はそっちに向かっている!」

「……殲滅剣! フラゴルもプレェトにたどり着い──」

「そうやって私の名前を気軽に呼ばれると虫酸が走りますね」

空を飛ぶパルガンに、プレェトの急速な接近。ボースハイト。モヤが雲のように浮かび、その上にプレェトが乗っている。手刀を構えパルガンの肩を掴むプレェト。

「終わり──なっ!」

だがパルガンは、逆にプレェトの肩を掴み返した。手刀が止まる。

──(見よう見まねだけど、できるはずだ!)「一粒万倍撃!」

補助魔法ラピッドによる高速化。それは、センジュにも匹敵する高速の刺突を可能にした。幾万もの刺突を繰り返す。形質顕現でドラゴンの如き堅牢さを得た皮膚であれど、割れるはずだ。

「くどい……」

「やぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!!」

感じる……仲間の存在。近くに!

「なに……割れる!?」

プレェトの皮膚に、ピシという音を立てヒビが入る。

「《龍炎刺突》ッ!!」

ついに、刃先はプレェトの鱗を貫き、体内に入る。

「《ドロップ》!」

プレェトの、骨で構成された体内に、一雫の炎が入れられる。

「《聖比礼アネモス》」

即座に、アネモスで飛んで退避。プレェトは、膝を崩す。


「この私が…………再び貴様に敗れるなどォォ……!」


ドロップが爆ぜる。爆風の中には、確かにその骨と帽子があった。


「パルガン!」

「……ブレンネン! みんな!」

ちょうど、仲間が到着する。セスランスも飛んできた。

「そっか……みんな無事だったんだ…………マルト君は?」

疑問に答えるまもなく……


──フラゴルが駆け抜ける。


「フラゴル?!」


パルガンに突進、押しのける。


そしてフラゴルを掠めた、モヤの一閃。流れる無限の刹那。


「ぐあっ」


フラゴルの小さな声、歪む顔。パルガンと一緒に地面に転がる。


「フラゴルくん!!」


最初に走り出したのはゼレ。


「なんだ! 何があった!」「くそぉっ!」


次に、アルターとブレンネンの声が続く。


「……問題ない!」


そしてフラゴルの声。パルガンが立ち上がり、消えた火柱の方、鱗のなくなった、モヤ色の炎をまとった骸骨、プレェトの方へ。

「これだから人間は面白い! アナタたちパッション・ワンダラーのように短略的な莫迦は特にですねえ!!」

「──プレェェトォォォォォ!!!!」

思いっきり振り下ろされた刀は、やはり骨に当たった時点で止まる。パルガンの腕が痺れる。プレェトは、刀のことなど気にもとめない。

「パルガン、貴方みたいにお仲間が大好きでやまない莫迦は! それだから彼は死ぬのです! 敵を倒すことより、仲間を優先したから! 油断するからァ!! 貴方はこの私の鱗を破っただけで、それで満足ですか!?」

「喋るなァァ!!」

怒りに身を任せ、火花も気にせずに刀を振り下ろす。一心不乱に刀を振る。割れれば納刀して回復。

「パルガン! 落ちつけぇっ! フラゴルは大丈夫だ!!」

ブレイズ・バーストの火炎弾が、プレェトの横を通過する。その熱が、パルガンを冷ます。仲間の存在を、今一度思い起こさせる。空で、弾ける火炎弾。

「はぁ、はぁ……『魂を送る刀よ、真の力を以て彼の者に安楽を与え給へ』──《日食》!!」

白く輝く刃が振り上げられ、プレェトを討たんとする。

「結局のところ……全て無駄でしたね」

ガキン! という音。日食でさえ、プレェトに片手で受け止められる。

「日食が効かない!?」

「残念ながら鱗のようには行きません。メタゴストの体の強度、それもまた怨嗟によってより堅牢になる。……もう終わりにしませんか? 勝ち目なんてないのです。」

日食の刀を握り潰し粉砕したプレェト。だが、パルガンの眼は未だ燃える。解決策を考えている。

「無敵だなんて……!」

諦めなど、微塵も存在しないその眼が、プレェトには嘲笑っているように映った。

「はぁ……まあいいでしょう。面白いものは見られたのです……私はもう満足しました。」

空気が凍る。なにかの予感。


「《宝玉アルケミ》」


「なに──」

プレェトの肋骨内部に、赤く輝く宝玉が現れる。アーティファクトの存在を驚く間も無く、プレェトを中心に、モヤに似たエネルギーが放出される。それは怨毒のように働き、パルガンの動きを止めた。

「パルガン!! 《ブレイズ・バースト》!!」

プレェトに向かって放たれたはずのブレイズ・バーストの爆炎の中。プレェトは既に居なかった。

「いつも通り……上ですよ 《影撃ち》」

プレェトの手にモヤが纏われる。

(捉えた……パルガンとの距離、あの魔法使いの爆発の威力……確実にこの影撃ちは──)

「ふふ、撃っちゃうんだなァ、これが!!」

その予想に反して放たれた、ブレイズ・バースト。動くプレェトではなく、パルガンを着弾点として!

「なに!」という間抜けた声が、プレェトから発せられる。

ブレイズ・バーストは、プレェトを巻き添えにする。

プレェトは、確かに叫び声を上げた。爆音でほとんど聞こえない。しかし、確かにわかる()()()

「うん……? ハハ、もしかして君……


──僕以外の攻撃は効く?」


「何を……!」

煤まみれで煙を放つパルガンのその身体。対するプレェトは無傷……のはずだった。想像に反してプレェトは焼け焦げたその骨を震わせて、単なる強がった言葉を吐くのみ。

「なるほどなぁ!《ブレイズ・バースト》ォォ!!」

ボースハイトでその火球を避ける。至る所で爆発が起こる。プレェトを巻き込んだものは無い。

「ちょっとちょっと! なんで避けるのさ! 避けたら分からないでしょ……?」

パルガンは、狂気的な笑みを浮かべた。そして、嘲笑の言葉を続ける。

「嘘が下手だね……バカはどっちなのかな?」

「パルガン……貴様ァァーーッ!」

「ブレン! 船長が主役だ!」

パルガンは、ブレンネンと共にプレェトを挟み込む立ち位置を取り続ける。パルガンを攻撃しようものなら、ブレンネンに隙を晒す。ブレンネンに攻撃したとしても、ブレイズ・バーストでほとんど魔力を消費しない上に自爆特攻も可能なブレンネンは、プレェトには突破できない。

「君が本当に僕しか見えていないのなら……詰みだよ……『もう終わりにしませんか?』……タハッ」

堪えようとしたことが、逆にその嗤いを強調した。

「……オロチエル、エンドレをブレンに渡して。」「承りましたわ」

パルガンが伝えると、優美に羽ばたくオロチエルが小さく縮めたエンドレを運ぶ。

「羽虫風情が……!」

プレェトが杖を構える。オロチエルへ向け、モヤを射出せんとする。

「《ブレイズ・バースト》ッッ!」

だが杖にブレイズ・バーストの火球が命中し、爆ぜる。杖は単なる木片となり、モヤの射出はもうできない。

ブレンネンが幼いころから使っているブレイズ・バーストは、魔力の形がブレンネンに完全に適合しているために、魔力切れがよっぽど起きない。それこそ、飛行とラッシュの連続など、一息に多用すれば魔力切れは起きるが、通常の使用ではなんら問題はない。

つまり、エンドレがブレンネンに渡った今、プレェトに勝ち目など微塵もないのだ。

そんな中、追い討ちをかけるように差す光。

「《因果応報シエルス・エト・ポエナ》」

「ローアルさま!?」

眩い光が、プレェトを取り込んで注ぐ。因果応報、善人には治癒を、悪人にはダメージを与える神の魔法。プレェトには効果てきめん。悲痛にも感じる叫び声が上がる。パルガンが振り返ると、目が手のひらで隠されたローアルが居た。

「異常の確認。戦闘準備。」

「ぐ……ァ……神文明……!」

口のみが見えるながらに、嫌がるような顔をしたローアル。ため息。プレェトの目に、絶望がよぎった。

「ミタマ型メタゴスト プレェト……貴様に降伏を提言する……まぁ、従うことは無いだろうが……形式上のものだ。」

「なら訊く意味など……!!」

「はぁ……了解。……殲滅する。」

再びのため息。その宣言。プレェトは、思いが体よりも先に動いて、引っ張られるように逃げ出す。プレェトが走って行く。ローアルは追わない。

「逃げる気か──」「待ちたまえ。追う必要は無い。」

ブレンネンが追わんとする中、ローアルが槍を振る。奇跡は起こった。プレェトは、ローアルの眼下に瞬間移動していたのだ。

「対象の逃走、我々を悩ませる課題のひとつだった……だがもうそれに悩む必要は無い……罪は必ず償わせる」

「…………くだらないことォォ……!!」

「はは、ここはあの神様に任せるべきだな! 船に乗るぞ、パルガンッ!」

既に、2人以外は船の中に居る。フラゴルを診ているのだ。

「逃がすかァァァーー!!!」

「余所見をするな……我の目を見よ」

ローアルの目を覆っていた掌は消える。すると、琥珀色の、宇宙を秘めたような、吸い込まれるその瞳が露わになる。ローアルは、プレェトの目の前に居た。プレェトの頬が掴まれ、眼孔のみの頭蓋骨でも、プレェトとローアルは、目が合った。

「!!!」

体の硬直。脳の命令は、神経に伝わる前に霧散した。

「《光芒スカラ・アド・カエウム》」

再び、プレェトの叫び声が戦場に響く。パルガンの攻撃を全く受け付けなかったプレェトとは思えない。

「パルガン……あなただけは…………貴様だけは確実に呪い殺してやる…………!!……私は貴様を許しはしないィィ……!」

「奇遇だね。僕を君を許す気は無いよ。……《跡》《日食》」

因果を断ち切る……それが、実際にできたかどうかは分からない。日食の発動した、白月色の刃が空に振られた。

だがプレェトが倒せたかどうかに関しては、心配する必要も無いだろう。



「これは……」

フラゴルが、診察台に寝かされている。腕だけが、別の台のクッションの上に置かれていた。

「はは……当たっちまった」

フラゴルがゆっくりと目を閉じて、そして開く。

諦観。心配も絶望も無意味。分からないものは分からない。

フラゴルの右手の指先が、紫色の星空のような色で、透けていた。

「呪い……?」

煌めくその指先は、輪郭こそ保っているものの、いつ崩れていくか分からない。それ以上に、その性質は未知だ。メタゴストの身体を形作るモヤは、現世の人間の怨念が主な成分──いや、成分という表現は少し間違っている。魔法的なものであり、物質空間由来の物では無いからだ。

沈黙の船に、マルトの眷属、バーンの鳴き声が響く。窓の外に、バーンの顔。

「ガルッ!」

「うん? バーンが……呼んでるみたい……。行ってきます……」

ムボガが、少し気まずそうに船を出て、バーンに乗っていく。

「…………さて、どうしようか……」

「治したいなら……月食で斬るのが一番最初に浮かんだんだけど」

パルガンは、携えた葬送刀の柄に手を置く。

イエスともノーとも言わないため息だけが、フラゴルからは返ってきた。

「アルター……あんたの好きな研究材料だぜ…………今あんた、何処にいるんだ……あんたなら、何かは分かんだろ……?」

アルターは、何も答えない。

「……席を外しているのかもしれないね。何にせよ、試してみるだけなら私たちにもできるさ……気分に影響はあるかい?」

ゼレの声が、かすかに震える。

「さぁな……俺は俺が元気だと思ってるが……実際にはどうだか。」

「アドレナリンでも……打ってるの……かい」

なるべく平然を装うゼレ。だが、喋り始めた事で、堪えることも難しくなってしまったゼレの心に雨が降る。

「泣くなよ……死んだわけでもないんだ」

パルガンとブレンネンは、医務室を出た。



「各員脱出完了……ふう、一段落か?」

コンクリートでできた床と壁。地下の冷え込み。窓のない部屋をテラス、蛍光灯の無機質な光。類は違えど、その部屋は牢獄の様相を呈し始めていた。

それもそのはず。アルターは身を隠すために、地下室に住んでいた。ネットワークを検知できる機械すら反機械組織は捨て去ってしまったために、アルターがここで何をしようが、物理的接触がなければバレることは無い。

栄養補給など、完全食があればなんとでもなる。幸い、土壌の栄養素から完全食を作り出すことが出来たため、一生をこの無機質な部屋で過ごすことは理論上可能だ。反物質はエンジンから溢れ出す。そのために電力に問題はない。自己増殖するナノマシンがあれば、素材にも困らなかった。まるで永久機関だ。

「……信号が途絶えた? マルト! マルト! 聞こえるか!」

突如として、マルトの信号が途絶える。敵にやられたか。

「そっちにアルターエゴを送る。すぐに解決す──」


アルターの言葉は止まる。マイクの電源が切られる。


それと同時に、アルターの思考が停止する。ジーニストの並列思考、その全てが停止。一切の情報を受け付けなくなる。


アルターは、誰かに後ろから、ハグされた。


「────???」


その腕。その香り。その雰囲気。全て覚えがない。少なくとも、ハグされるような関係性の者では決してない。


背中に頬ずりするそれが、声を出すその時までアルターの思考は止まったままだった。


「やっと会えた…………アルター」


人違いの線は消える──いや、最初からそんな線はなかった。この場所がバレるはずもないし、バレたとして侵入できるはずもない。セキュリティのインジケータに目を配る。全て動作中。履歴は、テストの1回のみ。


随分と、処理に時間がかかった。その声は。


「サ……ル……ファ……??」

「分かってくれるんだね……嬉しい」


その語り口は、まるで恋人を相手にする時のようだった。だが、サルファはシアノの味方で、我々の敵であり、パルガンが憎んでいる相手その人だ。


「誰だ……お前は…………?」

「そっか……本当にわかったわけじゃ、なかったんだね。」


同時に、パルガンが恐れている相手でもあるということを思い出す。この瞬間に、背筋を伝って行ったのは、恐怖。理解できない物への恐怖。死への恐怖。


「《ゼニス》」


手のひらから放たれる光。アルターの腹を中心に、ヒビが伝っていく。


「な……な……」


グレベーシで一度死んだあの時でさえ、恐怖はなかった。冷静沈着、好奇心。逆境も諦めず、恐怖せずにへこたれない。そのアルターが今、抱いた人生最大の恐怖。


「おかえり」


割れる。そして、再構築される。


アルター(コクマー)は、サルファと共に、アツィルトに消えた。

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