死文明掃討作戦
あけましておめでとうございます。今年も『放浪者は無限を目指した』をどうぞ宜しくお願い申し上げます。
視界が霞む。まだ、少し身体にダメージが残っているようだ。思っていたよりも回復が遅い。いや、望みが高かっただけだ。実際、常軌を逸したダメージだったと思う。生きていたことが奇跡とも言える。戦っている時点で自傷に回復は全く追いついていなかった。
二本あってこその、超回復だったのだ。葬送刀とは訳が違う。迂闊だった。まぁ、生きてはいるし、センジュは倒したんだ。結果オーライだろう。とりあえず、あのツラい怨毒はもう残っていない。それだけでもありがたい。
ただ気になるのは、みんなはどこへ行ったのか。別に結界のすぐそこで待っていてくれなくってもいいけど、終わったことが分からないのか、相打ちになったと思ってるのか。何となく分かったりして、迎えに来てくれたりしないのかな。フィクションの中だけ?
怒りと疑念を抱いたら、足が少し動いた。
「…………はぁ……行こう……みんなの所へ……」
立ち上がろうとすると、ふと足に何か物がふれる。楕円形の、飾られた鏡。
「これ……神鏡……リュールだっけ」
それは、センジュが持っていたアーティファクトだった。そして、その大精霊が、パルガンに語りかける。
「あ……あのう……おじいちゃん…どこに居るか……知りませんか?」
「おじいちゃん……って?」
「オキッさんのこと?」
オキッさん……オキツエルだ。神鏡エクラの……ブレンネンが持っていた。
ゆっくり立ち上がり、葬送刀を取り出し、『殲敵』で天井に刀を刺す。そこから縮めていけば、通路の方へ上がっていけた。
「なら多分……もうそろ会えるんじゃないかな……」
洞窟から出ればみんなが待ってるはずだ。オキツエルもそこに居る。
痛む脚。ボロボロの壁を伝いながら、1歩1歩歩いていく。
「ヤツエル……これ、治療進んでるの……?」
「恐らく……力を使いすぎて刀が眠りについたのだろう………治癒の力は暫くは使えぬ……」
(そんなこともあるのか……しょうがないか。)
治癒があるとはいえ、さすがに自爆を何度も何度も繰り返すのは人間の戦い方じゃない。パルガンは少しの後悔を胸に、歩いていく。
だが、予想を裏切ってそこにあったのは……そこには、何も無かった。誰も居なかった。セスランスすらも。
「え……置いていったの……?」
「それは違うよ!!」
チカエルが不意に前に出てくる。続いてリュールの大精霊、ヘツエルもゆっくりとついてくる。
「ここにはおじいちゃんがいた……でも、ここから移動してないんだ……洞窟から出てきた後に……消えてる。」
「消え……え?」
安心しようと思ったら、混乱するパルガン。ヤツエルが落ち着いて出てくる。
「消えた……否、大精霊オキツエルが完全に消滅した気配は無い……チカエル……お主が1度消えた際に感じたあの…………『欠けた』感覚は無かった……オキツエル殿は生きている……消えたのではなく………」
パルガンの脳裏に、過去不意打ちされたあの時の記憶が思い起こされる。影に落ちていくあの逃れようのない不意打ち……
「ワンダリング・ゲートかも……?」
--パルガンの背後。現れた、只者では無い気配。
「ああ……そうだ。君の友達はワンダリング・ゲートによって連れ去られた…………」
戦神ローアル。洞窟の入口の岩場に座っていた……正確には、岩場の辺りに浮かんでいた。
「あ……確か、死文明で助けてくれた……その節はどうもありがとう。」
「礼には及ばない。我々の仕事のうちだ。」
吸い込まれるような琥珀色の輪のある虹彩。パルガンも例に漏れず、その瞳に目を惹かれていた。
「……ほう? 我の眼を見て死ななかったのは……何年ぶりだろうな……」
「ぇ」
え にならない言葉……音が反射的に出る。
「し……死?!」
「あぁ、我の瞳は少し厄介でな……戦神だからなのか知らぬが、眼の合った者が死んでしまうのだ……」
「はぁっ?!」
「……やはり不便か。」
(いやいやいや、不便なんてものじゃないぞ。人を殺す眼をなんでそのまんまにしてここにきた?! 僕が死んでいたらどうするつもりだったんだ!! )
パルガンは脳内で怒りをあらわにする。
「コンタクトとかないんですか?!」
「無い訳では無いが……《形質顕現 - 信仰の掌》」
ローアルがそう唱えると、ローアルの顔、目を覆うようにふたつの手のひらが現れる。
「それ、見えてるんです? はい、指は何本立ってますか?」
「……貴様、馬鹿にしているだろう? 3本だ。」
「すごい……」
「ちょっと、パルガン! 相手神様だってのに!! って、本題聞かなくっていいわけ?」
見かねたチカエルが飛び出してくる。実際、現世にローアルのような神が現れていいわけがない。ただ一つの出来事を伝えるだけのわけがない。他に何か用事があるはずなのだ。
「……本題って?」
「………本当に……戦神であるこの私が……こんなお願いをすることになるとはな……」
ローアルは、神でありながらも、パルガンに頭を下げた。
「死文明討伐を手伝ってくれ」
*
目が覚めると、牢屋の中にいた。
「……え?」
狭い牢屋。フラゴルが目覚める。地面に直接横たわっていた。ひんやりとした石の床。だが、心地よくはなかった。
「おぉい?!」
「……その声、フラゴル君かい……?…良かった、そこに居るんだね……」
「ゼレ!? ゼレ! ここはどこだ!? 何が起こってやがる!」
フラゴルは鉄格子をがガシャガシャと揺さぶろうとする。しかし、鉄格子はビクともせず、腕が疲れるだけだ。
「落ち着きたまえよ、フラゴル君……騒いでも出られるわけじゃないんだ。」
「……他の奴らは?」
「眷属使いのマルト君と剛腕のムボガ君はもっとドギツイ独房行き……船長は尋問にかけられてる……クチワ君はセスランスのメンテナンスさ。なにに利用する気だろうね……セスランスを……」
「じゃ、じゃあアルターエゴは?」
「……スクラップさ。」
「………ここは? なぜ監獄なんだ?」
疑問を一つ一つ解消していく。
「ここはどうやら死文明……我々は捕虜にされたようだね。目的はおそらく葬送刀……」
(なら、船長がかけられてる尋問もパルガンの居場所を聞き出すためってことか……)
「……で…いつ出られるんだ?」
「……」
沈黙。
「パルガン君が捕まらなかったのは幸運としか言いようが無いね……パルガン君なら……決闘に負けていたとしても勝っていたとしても……必ずここに助けに来てくれる。」
「パルガンが地獄に落ちるってのかよ?」
「そう言いたい訳ではないが……ふふ、逆に落ちないとでも思うかい? 私も死んだらここに来るだろうさ。君も、船長も。戦いってのは悪なのさ……手を染めれば誰でも地獄に落ちる。そして……ハッピーエンドまで終わらない。いつか転生して……再び現世に帰り……天国に行けるまでね。神文明は死後に行く場所ではないと考えられているんだ。地獄はここ死文明だが……天国はおしまい。」
長々と、落ち着いて語る。語っている時は冷静になれるタイプのようで、二人共に恐怖心が薄れていく。
「なぁ、ゼレ……俺は未来予知を身につけた……」
「ほう?」
「今俺が……『水文明なのに天国とか地獄とか信じてるのか』って言ったら……お前は『それはステレオタイプだ』って返す……だろ?」
「ふふっ そうだね……」
獄中。お互いの顔も見えない。看守にバレないよう、静かに……
*
「手伝うって? 全滅させるって言うなら、そんなヒマないんだけど。」
「……君の友人……正確にはブレンネン、フラゴル、クチワ、ゼレ、ムボガ、マルト……あと、未確認のロボットが一機。」
「アルターエゴだね。」
「彼らは死文明に捕らえられている。」
「はぁ……!?」
武力行使ではなく、捕縛……
「君には我々死文明掃討部隊に参加し……君の目的はあくまで仲間の救出でも構わない。是非ともそれを第一目的にしてくれたまえ。ついでに、なるべく多くのメタゴストを祓って欲しい。そのために、その葬送刀が必要なのだ。」
葬送刀のスキル月食。殲滅剣の殲敵も併せればとてつもない効率で死文明を倒せるだろう。第一目的は仲間の救出。手伝いはついで……ならば、行かない理由は微塵もない。実際、パルガンだけでは神の世界に行く方法もないのだ。
「……感謝する。《ワンダリング・ゲート》」
パルガンは無言で頷いた……いや、頷いてもいなかった。しかし、その立ち姿は、死文明への怒りに燃えていた。ローアルはそれを肯定と判断した。
「諸君、戻ったぞ。例の者……一刀両断のパルガンを連れ帰った。」
ローアルの配下だろうか。絵画で見たような……いや、多少の差異はあるが。まぁ天使が、パルガンを迎える。
「……一刀両断? それって、パルティータの時の……」
「あのパルティータは君が思っているよりも神聖なものなのだよ。」
一刀両断のパルガン、それは決闘大会パルティータの時のキャッチコピー。神文明でパルガンがそれで知られているということは、戦神だからだろうか、ローアルやその配下があの決闘大会を見ていたということになる。
「な、ならセンジュも?」
「……いつか話そう。」
ローアルは、目の前で跪いている天使へ、演説のように話し出す。
「いいか! 彼らに降伏という概念は無い……殲滅あるのみだ。実のところ頭領のオステオンは既に下されている……新たな頭領が擁立されたという話も聞かない。」
殲滅。つまり死文明の壊滅を意味する。……なぜ?
「どうしてそこまで?」
「……君も現世で戦ったことがあるはずだ。死文明の者とな。」
「プレェト……」
ネクロ・ワンダラーだとか息巻いていた気がするプレェト。確かに現世に居た……グレベーシを乗っ取っていた。その後は自然文明の星にも。
「ついでだ……しっかり説明して擦り合わせておこう。」
ローアルがまた演説に入る。身振り手振りを織り交ぜながら、ハッキリとした強い語気。
「人間の時間で数ヶ月前のグレベーシ占領! さらにはパッション・ワンダラーならびに水文明数人の誘拐! それらはれっきとした協定違反! 言語道断の侵略行為である! 奴らはそれを繰り返し……王オステオンの没後もなんら変わらない! 故に1度リセットして、規則というものを叩き込んでやろうというのだ! 皆の者、良いな!」
天使は一斉に立ち上がる。揃ってビシッと止まる。そして、神文明式の敬礼だろうか? 何かのポーズをとる。
程なくして、天使たちの足元にワンダリング・ゲートが開く。1部はそのまま落ちていき、残りの者は翼を広げて飛んでいく。
「君は君のタイミングでいい。覚悟を決めてから飛び込みたまえ。《形質顕現 - "何処までも遠くへ"》」
天使とローアルのいなくなった雲の上。
「報酬……はあるよね……再会した仲間の笑顔が報酬だとか、そんなオチじゃないよね……? 自分がガメついようにも思うけど、こんな無理やり準備もなく連れてこられちゃ……」
報酬……アーティファクトか……?
そんなことを考えていると、ヤツエルが出てくる。
「マスター」
「わぁ どうしたの?」
「ゼニス・ゲートは五色魔法……神文明と死文明の者も仲間に入れる必要がある。」
それを聞いたパルガン。一瞬動きが止まり、ヤツエルの方を向く。
「えっ……あの人仲間になってくれるかな……?」
「無理だろ。」
イクエルがスッと出てきて一言。
「……とりあえず、行こう。みんなを助けないと。」
ワンダリング・ゲートはロイヤルゴールドの微かな光を放ち、死文明に続く穴をこじ開けている。
パルガンは深く呼吸し、覚悟を決める。葬送刀を握る。
「恐らく下には多くの幽霊種が居るだろう……マスター、今回ばかりは先に。殲滅剣にも詠唱が存在する。詩は『当千の剣よ、真の力を以て繋がりを絶ち給へ』……発動する魔法『跡』……きっと仲間の捜索に役立つはず………」
パルガンは頷き、小さく跳んで穴に入る。穴は塞がっていき、神文明からの光がなくなると、死文明の暗さが分かる。
「《聖比礼エンドレ》《灼陽炎》!」
葬送刀を下に向けると、地面から火柱が吹き上がる。宇宙船のジェットを逆噴したときのような効果を生み、パルガンの着地の勢いを殺す。
遠くに天使が見える。鱗粉のようなものを撒き散らしているようだ。アルターの月光蝶みたいなことか。にしても、天使はどうやら大雑把に片付けているらしく、結構な数残っていた。
「これでも減った方ってわけ?!《殲敵》《鳳蝶》!」
向かってきたそのメタゴストの軍勢を一掃しようと刀を振るう。
「……あれ?」
メタゴストの軍勢……という『根』を伝うはずのその斬撃は、存外根を伝わなかった。メタゴストが結構な数残っている。全てのメタゴストが一撃で倒せるとも思っていたパルガンだが。
「……1本だからか!」
「マスター、まずはもう片方の殲滅剣を持っている彼を探す方が先決であろう……」
「フラゴルね!……えぇと…『当千の剣よ、真の力を以て繋がりを絶ち給へ』」
詠唱を終えると、殲敵の時のエネルギー体と同じような色に刀が染まる。
「その状態では跡が解禁される…………」
ちょうど、メタゴストは大量に居る。試してみる。
「《跡》」
すると、切り口から、淡い翠色の光の根がでて、地面を伝っていく。
「これを辿れば……」
「いや、待つのだマスター……狙った道が示される訳では無い……この根はどうやら子奴らの住処に通じている……刑務官の役職を持つ上級のメタゴストを探すのだ……」
「……強そうなやつで試せばいいんだね!」
現世での社会に階級があるように、超世界でもそれはある。オステオンが多くの怨嗟を纏って巨体を形成し王に君臨していたように、人の呪いを身に纏うことでメタゴストは強くなる。
メタゴストは、死の衝撃で自我を手放した『骸』、意識は保つが希薄な『朧』、明確な意識を持ち自律行動が可能な『霊』の3種類に分けられる。襲ってきているのは少しの霊が混ざった骸・朧の集団だ。支配・指揮系の魔法か何かで動かされているのだろう。つまり、そのキャスターを探せばいい。
「術者って跡で辿れないの?」
「やってみる他ない……」
「《跡》」
「ハズレだな……跡の効果はそしゃげのガチャに同じ……」
根が再び伸びるも、ヤツエルが言うにはハズレ。
「試行回数ね……《殲敵》《跡》!」
「さすがはマスター……」
殲敵によって一気に大量のメタゴストを斬り払えば、一度に大量の跡、根が伸びていく。
「ム……あたりが出たようだな……」
進んでいくヤツエルを追うように、パルガンは邪魔なメタゴストを斬り捨てながら駆け抜けて行った。




