グレベーシ事変
サンライズさんとガンダムファンの方々に怒られませんように……
「どうやらこっちの方が1枚上手だったようだな」
クリフォトは思わず呟いた。この戦争はサルファが仕組んだ物。サルファが文明間の対立を目的として開戦した。
だが、ビナーを送り込んだのはサルファではない。クリフォトだ。
クリフォトはノエをアインでゼニス・W化し、殲双剣を持たせてパルガンの方へ向かわせた。実の所、クリフォトはノエに『アイン・ディビリット』、弱体化の魔法をかけていた。ところがいざゼニス化してみると分裂してモーリェが出てきてしまった。モーリェに弱体化は間に合わず、殲双剣を持って行ってしまったのだ。
と、ここまでなら負け濃厚だったのだが、問題なのはパルガンの存在だ。パルガンは八握剣を持つ特異体……期待通りではあるものの、まさか本当にビナーに勝ってしまうとは。やはりあの『日食』とかいうの、BAN効果が…?
考え事をしていたクリフォトの傍らを、凄まじいスピードで何かが通り抜ける。
パルガンが見逃さなかったように、クリフォトもまた見逃さなかった。
「…うん?今通ったやつ……パルガンと…………アルター?」
アルター…アルター。サルファと共に最強であるアルター…パルガンと行動を共にしているだと? なら、もう既にサルファはアルターの所在を掴んでいるはず……そうか、向こうはやはりパルガンを恐れている……!
*
数人がビナー・アッシアーのモヤにやられ、人では無いものに変わり果てた。距離を取ったアルター、その意図は解明と決断のための時間稼ぎ。
「さっき思いついた攻撃方法がある……だいぶ前にアニメで見たやつのパクリだが……」
アルターが息切れしながら言う。反粒子は魔力でコーティングしているから、魔力も消耗するし、まず亜光速の中で着地地点を探す事の大変さは言うまでもない。
「端的に言う。このまま水文明の軍隊を全滅させつつ俺はあの化け物の気を引く。」
「わかった、その隙に日食を叩き込めば……もしかするかもってことだね」
何も分からない、誰も知らないこの状況。その中でアルターは冷静に皆をまとめ指揮する。
「よし……じゃあ行くぞ……」
(カラマリ……すまない……)
アルターはそんなことを思いながら、地を駆ける。そしてどんどん加速していき、やがて飛翔プログラムで飛び上がる。アルターは、生まれ育ち、発展させてきたこのグレベーシの、その民から集められた兵士を全滅させる。その重みを背負いながら、アルターは力いっぱい叫んだ。
「《月光蝶》である!」
アルターのパックパックから、反粒子が放出され、魔力によるコーティングが光を反射し、煌めく。その煌めきは、アルターに極彩色の蝶の翅を与えた。あの時アニメで見た武装、最強のナノマシン兵器……ナノマシンの代わりに反粒子を使用。完全再現では無いが、似たようなことはできている。
「はっ? え?」
「えげつな……」
つい、唖然としてしまう。アルターが散布した反粒子が兵士たちに当たると、その部分がえぐれる。大量に散布しているのだから、頭からどんどん消えて行き、足も残さず、その兵士が立っていた地面さえも削り取る。
だが、ボーッとはしていられない。アルターが作っている隙は、一度きりの、覚悟の乗った大切な隙だ。
フラゴルは、落ちているモーリェの殲滅剣を見つけ、それに向かって走り出す。ブレンネンはパルガンとゼレを連れて無詠唱のブレイズ・バーストによる飛行でビナー・アッシアーに再接近。
*
反粒子はアルター・クアンタムのエンジンで絶え間なく生成され続けている。正直言って本人も原理がよくわかっていない。だが、まぁ、大丈夫だろう。
何はともあれ、眷属にもこの反粒子散布が効いている。魔力的な何かではなく、ちゃんと物質でできているということだ。物質全てを消滅させる粒子……
「絶対兵器か……でも平和賞は貰えないだろうな……」
そのうち、ビナー・アッシアーが射程内に収まる。今のところ、特に動きはない。同じように、モヤを生み出し続けている。
「《COMPILING NEW PROGRAM - "AVENIR QUANTUM"》」
アルターの装甲がパージされ、アルターの周りにアヴニールとして再構築される。もちろん、アヴニールにも反粒子ジェネレータができている。
「ロックオン!《光線プログラム》」
反粒子を加速し、熱線に混ぜて照射する。
「アア……?」
「効いてないな……常識外れの存在という訳だ」
「《דְחִיָה》」
モヤを作ったものと別の呪文のようなものをビナー・アッシアーが唱える。すると、ビナー・アッシアーを中心に黒色で半透明のバリアが広がる。半径20m程に広がり、広がるバリアに押されてアルターがバランスを崩す。
「ううっ?! アヴニール、動け! なぜ動かん!」
そのバリアの効果か、アヴニールの電源が落ちる。再起動しようと電源ボタンを押してもつかない。
「くそっ!」
アルターは、アヴニールのコクピットをこじ開け、乗り捨てる。
「キャーウ」
マルトの眷属、コピルが飛来して、アルターの手に足を押し当て微弱な電気を流し握らせる。
「アヴニィィール!!!」
「インパルス・ドライブォォーー!!」
クチワの叫びが聞こえると、セスランスがアヴニールをハッチに無理やり入れる。セスランスはその衝撃で一回転し、逆噴射でなんとか勢いを殺しながら荒々しく着地した。直後に再び離陸する。
「セスランス! 聞こえるか!」
「……スリル満点!」
セスランスから無線が入る。通信障害は起きていない……いや、その前にセスランスとアヴニールの無事を喜ぶべきだ。
「キャーウ」
コピルが放電し、バリアに攻撃を与える。
「ア……」
バリアはその電気を吸収し、1本の黒い雷に変えてコピルとアルターを撃つ。叫び声を上げるアルターにリヒテンベルク図形が刻まれる。
そして、許容量を超えるダメージを受けたコピルがマルトの元に魔力となって還る。気絶したアルターは、地面に向かって落ちていく。
「《בינה》」
「……《TURN ON AVENIR - MODE: WISDOM》……HELLO WORLD.」
セスランスのハッチが開き、アヴニールが飛び出す。搭載されているAI、WISDOMによる自動操縦モード。アヴニールがアルターの元に着いた頃、黒いモヤはすぐそこまで迫っていた。
「COMPILING NEW PROGRAM - 《消滅プログラム》」
アヴニールから緑色の粒子が放出され、アルターとアヴニールを包む。すると、それらは消滅し、モヤは地面に当たって消える。
「《帰還》」
アルターの乗ったアヴニールが、着地した状態で再出現する。
「アルター!」
パルガンとブレンネンが到着する。
「バリアに攻撃するな! 返ってくるぞ!」
「魂を送る刀よ、真の力を以って彼の者に安楽を与え給へ! ……ダメ?!」
日食が発動しない。これでは斬り掛かることもできない。
「ヤツエル?」
「……知らぬ……」
ヤツエルも日食の発動条件は分からない模様。
「なんで知らないの!!」
「パルガン、上ェ!」
「……《月食》ッ!!」
上から降ってきていたモヤを月食で斬る。スレスレでモヤが消える。
「《TURN ON AVENIR - MODE: MANNED》」
アヴニール頭部の、穏やかに点滅していたライトが点灯に切り替わる。有人操縦モードだ。アルターの目覚めを意味する。
「アルター! …《月食》!」
葬送刀でバリアを裂く。だがすぐに逆再生されたようにバリアが修復されてしまう。
「アア…」
「んもぅ! どうしろって!」
再びモヤが降ってきたので斬る。
(こっちの攻撃は届かない……向こうの攻撃は即死……)
「とんだクソゲーだよ!」
パルガンが毒を吐く。その背後に、クリフォト。
「ああ 本当にな」
パルガンは寒気を覚える。
怒っている……クリフォト。
「《コピー》」
パルガンの持っている葬送刀が、黒く縁取られたように光る。黒色の光。
「《ペースト》」
その光が、クリフォトの手元に集まり、葬送刀と同じ形を為す。 クリフォトは葬送刀のコピーを逆手持ちで構え、少し後退する。
「3…2…1…《月蝕》」
助走をつけ、葬送刀のコピーを勢いよくバリアへ向かって投げる。
(本体には攻撃できないが……バリアなら大丈夫なのか。)
制約の抜け道を見つけたクリフォトが放った葬送刀は、バリアに突き刺さり、バリアと一緒に砕け消える。
「もう一度貼られる前に倒せ。」
「《月食》……」
パルガンが刀を構えて走っていこうとする。だが、それをブレンネンは呼び止め、肩に手を置く。
「な、なに?」
ブレンネンは、刀を握るパルガンの拳に、自分の拳を合わせる。グータッチ。
「しばらくぶりに……全員揃って戦える!…全員で、みんなで、やるぞッ! パルガンッ!」
ビナー・アッシアー。異形の姿をした巨大な怪物。確かにひとりの人間にとっては大きすぎる敵だ。だが、人には仲間がいる。仲間と協力すれば、人はどこまででも強くなれる。肩車すれば、身長は倍になるのだ。
「……うん!」
ブレンネンがパルガンの背中に手を置く。続いて、アルター。 ブレンネンの後ろにフラゴル。アルターの後ろにゼレ。
突如、セスランスが光り始める。パルガンを応援する光を放ち始める。
セスランスの光、ゼレ、フラゴル、アルター、ブレンネン……葬送刀には、白い炎のように光が揺らめいていた。
「《金環日食》……」
そして、セスランス・クルー共々、全員で叫んだ。
「「「「「「「《断炎斬り》」」」」」」」
巨大化した刃が、振り下ろされる。ビナー・アッシアーは真っ二つに。その断面から、メキメキと伸びる植物。木が、伸びる。
「木が……なんだ?」
「あとはこっちでやれる」
クリフォトが前に出る。ビナー・アッシアーの方へ歩きながら、多色魔法の詠唱を始めた。
「ケテル コクマー ビナー ケセド ゲブラー ティファレト ネツァク ホド イェソド マルクト……《多無色魔法 - アイン・ソフ》」
クリフォトの顔から、笑みがこぼれる。
*
この日から、世界は大きく動き始めた。
人間では無い巨大な怪物の出現。その討伐のためにグレベーシの民約70%が消滅・死亡した。それによってできた空き家、大量の移民が呼び込まれる。
反物質の発見。絶対的な力を求めて、アルターはその身柄、その装備を狙われるようになる。各地で機械を使う人間・集団が悪党の襲撃を受ける。結果、現在グレベーシは無政府状態となっている。アルターが身を隠しているのは、数少ないグレベーシ星民の生き残りからの報復を恐れてでもあった。
クノップの死。彼の使う機巧兵装、アルターと会ったことがある事実。悪党の反感を買うには十分過ぎた。クノップの一族は絶え、自然文明から機巧兵装という技術は失われた。
「"ビナー"のセフィラが還った……クリフォトが、先にビナーのゼニス・ワンダラーを発見したんだ……それをパッション・ワンダラーが倒した……」
実感の湧かない話だった。会ったことの無い仲間が死んだと言われても泣くことは……いや、サルファが求めているのは哀悼ではなかった。全てのゼニス・ワンダラーを集める、その計画に全力で取り掛かる時ということだ。
一連の事件……それらは、後に歴史に残ることになる。『グレベーシ事変』として。




