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グレベーシ戦線 - 永久凍土を融かす者

「アルターさん、起きました。」

カラマリ隊の兵士がそうアルターに告げる。アルターはカラマリ隊の隔離テントに入った。

「遅かったな…まずは優しく質問しよう。名前は?」

「ノエ…ノエと言います…」

布袋越しに、ノエの弱々しい声が聞こえる。

「ノエか…なんであの場所(研究所)に居たんだ?」

アルターが次々に質問する。

「量子マイクロコンピューター…を…手に入れなきゃ…だから…」

「なんでお前が量子マイコンを?」

「それは…」

場が静まりかえる。ノエは答えない。

「声が小さくて聞こえないな。」

アルターがそう言うと、ノエが驚いたのかビクッとする。

アルターは、ノエの頭に被せた布を取り、ノエのその顔が再びあらわになる。ノエは椅子に座り、縛り付けられている。

「もう一回だけ質問する。なぜ、お前が、量子マイコンを求める?」

ゆっくり、少し高圧的に。アルターが問い詰める。

「届けなきゃ…いけないから…」

「届ける?誰に?」

「………アルター」

ノエは、思いもよらない名前を口にした。

「アルターってのは…俺のことだが」

アルターはもちろんノエのことを知らない。

「なぜお前が俺に?」

「私も実はよく分かってなくて…ただ…見た目は知らないけど…アルターという名前の人に…これを…あなたがアルターだとは…」

見た目も知らない人に…結局意味がわからないじゃないか。

「あ…じゅ…重要なこと…言い忘れて…」

「なんだ?言ってみろ。」

重要なこと?

「私は…ちょっと先の未来を…『あるべき未来』を…時々見てしまうんです…そういう…生まれつきの…魔法で…」

「ほう?その『あるべき未来が見える魔法』で俺が量子マイコンを手に入れている未来が見えたと?おかしいな、お前は俺の見た目を知らないんじゃなかったか。」

「それは…説明が…難しくって…!」

後付けの苦しい言い訳か?こいつ、どうも妙だ。逃れようとしている訳では無い。自分自身は本当のことを言っていると思っている…

アルターが、次のアプローチを考えているところだった。

けたたましい音を立てて、サイレンが鳴る。敵襲…火炎文明の船が来航する…無論セスランスではない。どこの惑星かも知らない、ただ火炎文明というだけの者が攻めてきている。理由すら分からない。だが、戦うからには勝つしかない。

「お前の処遇は後だ、ノエ!」

アルターが慌ただしく駆け出していく。残されたノエは呟いた。

「あれがアルターさんだなんて…名前…モーリェって言えばよかったな…本名の方…教えちゃった…」


「場所はどこだ!」

アルターが通信司令部のテントに入る。

「永久凍土です…資源狙いか…!」

「いや、火炎文明がメタンハイドレートを必要とするとは思えない……」

となれば、温暖化や海面上昇による機械文明の壊滅が目的か…どちらにせよ急いだ方がいい。

「《変身プログラム》!」

走り出したアルターにアンダースーツが装着され、ドローンが液体酸素や過冷却グラキウムなどを噴射しながら冷却レーザーを照射する。そうして、アルターにアーマーが装着される。

「《CHANGE - ALTER》」

合成音声が鳴り、変身プロセスの終了を告げる。さらにアルターは…

「カモン、アヴニール!《装着プログラム》!」

「《ALTERING(オルタリング) - "AVENIR(アヴニール) ALTER(アルター)"》」

直後、アヴニールが飛来。アヴニールは総数21ヶのパーツに分離し、アーマーを蒸発させアンダースーツ状態となったアルターに装甲として装着される。そして再びアーマーが吹き付けられ、最初とは違った様相の、アヴニール・アルターの姿が完成する。

「《"AVENIR ALTER" - 変身完了(ALTERED)》」

背部に取り付けられたアヴニールのターボジェットが起動、少し地面をえぐりながらアルターは超音速で移動する。

アルターは戦地に到着。現地の駐留部隊が既に交戦を開始している。けたたましい羽音。おびただしい量の蟲だ。

解析プログラムによると…魔獣チャムシン。野生に生息する魔獣の一種で、体温が平均65℃…繁殖期のメスは頻繁に産卵する…卵も発熱していて約90℃…可燃性の体液は着火点が低く卵の表面は炎に包まれている…森林火災の原因となるため徹底的に駆除され研究用途のものを残して絶滅した………

冗談じゃないぞ…永久凍土がたちまち火の海になっちまう!

「《殲滅プログラム》!」

標的を自動判別し、数多の小型ドローンによる熱線の照射で複数対象を片っ端から殲滅するその兵器を起動。制御は全てアルターの頭脳によって行う。ジーニストのみが可能な並列思考をフル活用した兵器だ。

シンギュラリティの懸念から軍事用途でのAI使用は許可されていないため、必然的にジーニスト専用の兵器となる。

ドローンが味方の銃撃を躱しながら熱線をチャムシンに照射し、殲滅していく。落ちたチャムシンが凍土を溶かしそうになるのを、変身用の子機が液体窒素を噴射して冷却する。

「キリがないな…」

殲滅があまり追いついていない。消火を優先する必要がある…手が足りない…どうすればいい?

そんな中、突然、爆発が起きる。爆発。チャムシンを蹴散らして爆発が、起きた。火炎文明の魔法…

「アルター…ダァメじゃないか!1人じゃできないことを背負い込んじゃ!分担しなきゃあ!!」

ブレンネンだった。

「はぁっ?!」

アルターが振り向けば、セスランスが止まっていて、パルガン、フラゴル、ゼレ、ムボガ、マルトが居た。

「寒い…」

「コピル、GO!」

コピルはチャムシンを捕食している。なんというか、ワイルドな感じだ。

ムボガは巨大化し暴れている。チャムシンだった欠片が飛び散る。熱くないのか?

「コピルは召喚魔獣だからな、そんじょそこらの鳥じゃないぜ!」

「で、でもムボガは?!」

「んー、根性じゃね?」

根性…???

ともあれ、チャムシンの殲滅は好転している。数が減っている…!

すると、チャムシンが押し負けているのを見て、襲撃者の船から1人降りてきた。ホバリングしている船から地面に思いっきり着地し、永久凍土にヒビが入る。

着地の衝撃のせいか、チャムシンが消え去り、銃声が一旦止む。

「チッ…なんだよ…居るんじゃねぇか…アルター…」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

過冷却グラキウム

(旧サーフュージョニウム)「サーフュージョニウム」の名前は長いので「グラキウム」と縮めました。

特定の電圧をかけるまで凍結しない性質を持つ液体金属のグラキウムを冷却したもの。ちなみに過冷却とは「物質の相転移において、変化するべき温度以下でもその状態が変化しないでいる状態(引用:Wikipedia)」の事のため、融点の存在しないグラキウムに使うのは本来間違っている。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「居るなら居るで…殺してやるよ…冥土の土産に俺の名を持っていけ…俺はイリフィ!イリフィだ!よく覚えろ!」

イリフィは、手を上にかざすと、船から投下された物体を手に取る。

「なに…馬鹿な!あれは!」

「そう、『変身ベルト』。」

変身ベルト。『変身プログラム』が仕込まれたベルト。アルターの研究成果。それをなぜ火炎文明が…

「パゴメノス…だったっけな?アルター、お前仲間は選んだ方がいいぜ?…変身!」

「《CHANGE - MELT》」

ナノマシン式の、パゴメノスと同じタイプのアーマーが装着される。だが、エアーコンプレッサーのようなものは見あたらず、デザインも全く違う。独自に改造しているのだ。火炎文明が…

「…まさか、カタフニア?!」

カタフニアという惑星がある。火炎文明の惑星だったが、グラキウムやメタモルゲンの埋蔵量が多いために水文明が戦争によって支配し、今も支配下に置いているはず…つまりカタフニアに居るグレベーシ軍は彼らに倒されたということになる。カタフニアのレジスタンス組織…復讐が目的でグレベーシに!要するにルバタ、しくじったのか!

「《氷点下ブレード》」

「アルター、他の奴らは任せて!アルターはそいつを!」

パルガンがそう叫ぶ。アルターは返事をせず、イリフィの方へ突っ込んでいく。

(聞こえた…よね。)

「マスター!」

不意に呼ばれて驚き振り返ると、構えていた刀に銃弾が当たり切れて散る。

「ひょっ…」

「集中しなされ、パルガン!」

オロチエルから叱責が飛んでくる。パルガンはアルターのことを心配するのはやめて、チャムシンがいなくなったことで降りてきた敵兵士を倒すことに、アルターの邪魔をさせないことに全集中する。


「はっ!」

氷点下ブレード。フェクギア用のサイズの物から1/3程にはなっているものの、一見すると見合わない大剣であることに変わりはない。だが、アヴニール・アルターのパワードスーツ機能によって普通は構えることすらままならないような大剣をアルターは自在に振るう。

「復讐だなんて、非合理的な!」

「いやぁ?悪かねぇぞ。」

イリフィはメルトに変身したものの全く能力を使わずに攻撃を避け続ける。巨大な剣の攻撃を怖気づかずに。

(大振りのブレードじゃ分が悪いか…)

アルターは判断し、リリースボタンを押してブレードを液体に戻す。そして、再びコマンドを唱える。

「《氷点下リボン》」

シモス専用機が使用していた、氷点下リボン。グラキウムを無数のスリットが入った帯状に凍らせて、リボン、鞭のように扱う。

「知ってるか!鞭の先端は-

「音速を超える…科学も!機械も!お前らだけのもんじゃねーんだよォッ!!」

「-!」

アルターはリボンを振るった。先端は音速を超えソニックブームを放ち…イリフィに当たる…それは、正確に当たった。

「は…?」

イリフィはリボンを手で掴み…融かした。

40K(-233.15℃)のグラキウムだぞ…?」

アルターは気圧される。イリフィ(メルト)の能力…

「融点ってもんがあってな…鉄やら岩やら…普段は塊のもんでも…熱いと融けるんだ………知らないわけが無いよなァ〜…《フレ()ミングの左手》って言うんだぜ…これ!両手だけどな…」

「は?フレミングじゃなくて?」

「洒落って知らねぇのかよ!カスがァッ!」

イリフィが突進してくる。

「《アヴニール・ザ・ヴァーラー》」

ダイヤルは既に『砲』に合わせられている。

発射された銃弾は、砲弾のように大爆発する。

「だがしかァし!!」

「何っ」

イリフィは砲弾を根性(情熱)で受け、焦げながらもアルターの身体を掴む。

「ガッチャ!」

「ライデンフロスト現象-」

「筋肉で押し通ォる!」

ものすごいモスキート音を立てながら、プレイミングの()手がアルターのアーマーを融かす。両肩のアーマーが融け、アルターの肉体を焼いていく。

「《殲滅プログラム》…」

自爆を前提とした熱線の照射。イリフィのアーマーが赤熱していく。

「ここで…刺し違える…!」

「おいおいおい、あんまり楽しくさせんなよッッ!」

イリフィは狂気的な笑みを浮かべ、アルターを掴みながら地面を蹴る。思いっきり飛び上がり、アルターを軸に一回転してアルターの背中側へ。そのまま、アルターを持ち上げて…回して…ドローンの方へ投げた。

「ぐわぁっ」

アルターは横に回りながら飛ばされたせいでドローンを操作する余裕もなくドローンに突っ込む。ドローンは破壊され、地面に落ちた。イリフィのアーマーからは湯気が上がっている。

「根性ナメんな…ド低脳がァッ!死ねェッ!」

「…バケモンが……」

イリフィが近づいてきて、アルターの首に手をかける。

「《メルティング・フィスト》」

左手でアルターの首をつかみ、気を失いつつあるアルターを持ち上げる。そして、イリフィは右拳を強く握りこみ、アルターに怒涛の連撃を繰り出す。

「ああ、つまらんなァ、つまらんなァ!」

アルターはうなだれて、指先すら動かせない。

「………」

「終わりだ」

アルターの胸にイリフィは手を当て、加熱していく。数千度にもなるその掌が、アヴニール・アルターを融かしていく。

「《フレイミング・フィンガー》ァァァァァ!!!!!」

出力が上昇し、アルターは火だるまになる。

「フンッ」

イリフィはアルターを投げ捨て、翻り歩いていく。



アルターが目を覚ましたのは、深海だった。深海のような、薄明かりの差す水のなか。だが、なにか違和感がある。そうだ。水温を感じない。それに、息をしていないのに苦しくない。機械頼りだったのであまり長く息を止められないはずなのに。

(…死後の世界か……存在しないって方に賭けてたんだけどな………)

そう受け入れる。寂しい。もう、終わりなのか。

(いや…なぜ?なぜ流れている…死後の世界があるなら…なにかやるべきことがあるはず…天国を満喫したり…地獄を苦しんだり……何が目的で、海なんだ?)

苦しくもない。拷問ではない。海が好きな訳じゃない。極楽ではない。

ならば、ここは?

そんな中、アルターの前にひとつの違和が現れる。

(…木?)

海底から伸びる、大木。明らかにおかしい。なぜ木が生えている?

だが、アルターはなにか使命感に追われる。

視線が向いた先は、その果実。灰色の林檎。

アルターは、その果実をひとつ捥り取る。

なにか、本能のような。逆らえない、「流れ」を感じ取って。

アルターは、その果実を齧った。その時、地面から徐々に(オウル)が沸き起こり…


そして、アルターは目を覚ます。



「待てよ…イリフィ……」


演算脳をフル稼働させて、プログラムを更新していく。林檎…いや、あれは「知恵(コクマー)」の力を持つ生命の果実。知恵を得る。存在しえない物、あの場所の知恵を。

「は…?…なんでお前が…」

イリフィは目を見開く。胸に風穴が開いて死んだアルターが…生きているのだ。穴も無くなっている。最初からなかったかのように。

「反粒子って知ってるか……?」

「質問に質問で返すんじゃねぇ…なんでてめえ、生き返ってんだよ!」

「お前の質問より俺の質問の方が価値があんだよ…《反粒子プログラム》!」

たった今完成したプログラムにより、アルターの破損した装甲が新しく生成されていく。

「《COMPILING NEW PROGRAM - "ALTER QUANTUM"》」

アルター・クアンタム。あの場所は冥界。『あっち側』の世界は『こっち側』の反対…つまりあっち側の物質は全て反物質であったのだ。

「反粒子…この光線に触れるとどうなると思う?」

アルターとの衝突により破壊されたはずのドローンが再稼働している。そして、そのドローンはアルターへ反粒子を射出し、アルターの魔力と合わせることで通常あり得ない反物質装甲を形成する。魔力によってコーティングしなければ反粒子は空気と反応して対消滅してしまう。パルガンと多色魔法を撃ったことで掴んだ魔力の扱い方。それを今活かす。

「《反物質ブレード》」

グラキウムへ魔力と共に反粒子を混ぜ込むことで形成される反物質の剣が、異彩を放つ。

アルターはゆっくり歩いて行き、その剣を振りかぶる。

ポコッという不気味な音が鳴る。アルターが振り下ろした剣は持ち手だけになっていた。

対消滅。

イリフィの肉体もまた、剣身と共に消えた。

戦場にイリフィの残骸が転がった。

叫び声が上がる間もなく、イリフィは死んだ。

もう余裕で空想科学の域ですね。変な魔法とかゼニスワンダラーとか絡まなければ今のアルターは間違いなく最強でしょうね。

ご閲覧いただきありがとうございました。

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