決闘大会 - パルガンとブレンネン
「あ、やっと帰ってきたぁ…」
「予定が立て込んでてな…あれだけ派手にやったのに、ゼニス・ワンダラーは一人だった。」
サルファの帰りは遅かった。ピサンリ以外のゼニス・ワンダラーが集められている。
センジュによる大会襲撃。青サイドしか襲撃できなかったからという都合もあるが、ゼニス・ワンダラーは一人だった。その一人、エーデルがサルファの後ろから姿を現す。天女のような姿と装いをした凛々しい美女。
「身共はエーデルと申す。魔剣士である。」
エーデルは魔纏刀を頭を下げつつ両手で差し出すように掲げ、見せる。その後ろで、サルファがエグゼクティブチェアに深々と腰掛け、リクライニングを倒した。
「此方は魔纏刀センブリ。魔力を流すことでほぼ全てのものを斬ることができる。」
「そのくらいで良い。本題だ。」
エーデルは軽く返事をして刀を腰に携え直し整体する。
「今回のセンジュの失敗については追わない。あの時パルガンはすでに覚醒状態になりかけていた。もう手遅れだ。これからは極力外には出ないこととする。以上。」
無意識的に、サルファが大きなため息をつく。
「…本当なら今日は休日出勤についての追及をしたかったのですが…気の毒なので備品発注書のみ提出して帰ります。」
メンシュとサナートが、出入口の方へ行き、扉を開ける。
「失礼します。」「じゃあーねー」
ドアが閉まる。サナートがエーデルの方を訝しげに見ていた。
「エーデルも今日はあがれ。」
「…では、そうさせていただく。」
続いてエーデルも、部屋から出ていく。
ひと呼吸置いた後に、本当の本題に入る。
「失敗については追わないと言ったな…それは追うまでもないからだ。原因を探り、二度と起こらないように務めさせる…それが追うということ。だが今回ははっきりしている…パルガンと接触したことだ。さっさと斬るやつ斬って帰るべきだそう指示した。ここに残っているお前らはことごとく俺の指示を無視する…指示以上も指示以下も迷惑だとなぜ分からない?」
「面目ない…」
「そうだな…」
サルファは立ち上がる。
「…俺は次の現場があるからもう行く…考えとけ……」
そう残して、サルファはテレポートした。
その部屋には壁が無かった。壁がなく、ただ白い無機的な景色。面接のような、背もたれのない椅子と、長机、事務椅子が置かれて居る。
サルファは事務椅子に座る。
「待たせたな。手短に言うぞ、お前は死んだ。」
スーツを着たアラサーの男性が、背もたれのない椅子に座っていた。面接を受ける側だ。
「し、死んだ…??」
「トラックに轢かれて生きてたらそれこそ怖いだろ。」
男性の顔色が悪くなる。
手元には、その男性の情報が書かれた資料があった。
「名前は**、年齢は28……よし、お前の新しい名前はバリンだ。向こうではバリンと名乗れ。世界とかについての詳細はいずれ俺の上司が説明するだろう。あと…お前のスキルは《カラーコーン》…カラーコーン?…まぁいい。俺は手続きを任されただけのアルバイトだからな。もう送るぞ。《ゼニス》」
男性は、異世界で新たな人生を送ることになる。
*
決勝戦は、一回戦、準決勝の次の日に行われる。元々そういうプログラムだ。
なぜなら授賞式、閉会式もあるからだ。
決勝戦を見に来る人は少なかった。一日目の半分なんてもんじゃない。理由ははっきりしてる。あの時青サイドに居た人間全てが殺された。ドゥエートもだ。そのせいでパルガンは不戦勝扱いになった。その上、パルガンとブレンネンが身内であるは知られている。この決勝は見る価値のない戦いなのだ。
「シケてんなぁ…」
「しょうがないよ…」
リングから客席を見上げて、声が漏れる。数名民間人はいるものの、同じワンダラーが目につく。そのワンダラーでも、ポルボラは船内に篭ってしまっている…
あの時は待機室で事が起こった。そのせいで、登場のシーンは無くなって居る。最初からリング上だ。
「パルティータ、決勝…」
あのテンションの高い実況は居なくなっていた。決勝戦の開催を決定したのはあくまで国王。スタッフまで一緒にいるとは限らない。
「一刀両断のパルガン」
「爆発の貴公子・ブレンネン」
名乗りを上げた2人は息を吸い、吐く。リラックス。
「開始」
少しの拍手が響く。あの歓声が嘘のようだ。
だが、歓声のために戦うわけじゃないから…
「《ブレイズ・バースト》ォ!」
火炎球が放たれる。炎を纏った刀もそうだったが、炎の塊が動くと必ず風切り音が鳴る。その風切り音から、飛んでくる方向を予測する。
「《断炎斬り》!」
その名の通り、炎を断ち斬る一刀。ブレイズ・バーストはふたつに割れてパルガンの後方で小さく爆発する。
「僕の持てる全部で行かせてもらうよ!そうでもしないとブレンには勝てない、でしょ?!」
パルガンは息を吸い、走り出す。
「オロチエル!」
「そなた、もしや!一朝一夕でできるものではなくってよ!?」
パルガンは走りながら、魔法陣を形成する。鋒の軌道が光の線になって残っていく。
「もう1発!《ブレイズ・バースト》!」
「出来た!《気刃召致》!……かなり持ってかれるな……!……」
パルガンは魔力の消費感に膝を着くが、不可視の速さで飛んでいるブレンネンに、広範囲の斬波を飛ばす気刃召致を直感を元に偏差撃ちして、命中したらしい。ブレンネンは落ちてきて、パルガンの目の前に着地する。
「避けれるほどの…ちっ…飛行精度は無いな!だがパルガン、お前の今のやつ…あれじゃあくすぐりの方がマシってレベルの攻撃だぞっ!」
パルガンは魔剣士ではない。刃に魔力を込めて斬波を飛ばす、その感覚がまだ完成していないのだ。確かに威力はない。
同時にブレンネンは飛行魔法を使う訳では無い。飛行というよりは、単なる加速でしかないのだ。
「はぁっ!」
「来い!」
パルガンは刀の刃を丸めている。わざと、人を斬れない不殺の刀にしている。それはなめているのでは無い。ブレンネン相手に本気を出すための、パルガンの思考の果てなのだ。
「《肆転連撃》!」
パルガンは振りかぶる。
「《ブレイズ・バースト》、更なる応用を見せてやろう!」
ブレイズ・バーストは時限または物体との接触によって爆発する火炎の球を飛ばす魔法。シンプルなだけに応用は効く。足から即爆発する火炎球を出して加速するのも応用のうちだ。
ブレンネンは、一太刀目を構えるパルガンの懐に入り、拳を繰り出す。
「ぐはあぁっ?!!!」
世界がスローになったような感覚。ゆっくり、地面に叩きつけられる。どうして?なぜ魔法使いであるブレンネンのパンチでこれ程までに吹き飛ばされて……そうか…ブレイズバースト!
「どうだ、驚いたろう!拳からブレイズ・バーストを出したんだ!つまりお前は至近距離で俺の爆発を受けたぁ!ずっと使ってるからなのか知らんが、俺にブレイズ・バーストのダメージは一切入らんッ!ゼロ距離での爆発系魔法なんて気が触れた自爆覚悟の魔法使いしかやらないと思ったのだろう??!」
嘘だろ、ぶっ飛んでる!そんな体質になることあるのか?!確かにブレンネンは爆発魔法以外で攻撃しているところを見た事がない。『ミスティカル・パレード』とかいうのも、花火みたいに爆発していたし。
「こうなったら…アルター、発想借りるよ!《聖比礼エンドレ》、変身!」
「全く、大妖精使いの荒い主ですわね!!」
エンドレは普段は単なる布だが、使用者の魔力によって姿形を変えることができる。布が輝き、複数に分かれ、形を変えながらパルガンを包んでいく。そして、足から順番に光が弾けて明らかになっていく。
「あの姿は…?」
アルターは息を呑んだ。エンドレはエーデルが身につけていた物だったが、その時の袴とは違う姿だ。主に布面積が違いすぎる。
「はっはっは、 パルガン、いい姿だな!まるでアイドルじゃないかっ!」
白と淡いピンク主体、フリルを各所にあしらい、要所に炎のようなマークがあしらわれている。
「みんな…知らないでしょ?…みんなが見てる朝のスーパーヒーロー番組の前の時間に…別のヒーロー番組があるんだ…」
「そうか!それは今度見てみよう!!…それはそうと、その服はエーデル選手が着ていた物と同じ類い、無敵の服だな?!魔力を流している間は全ての攻撃を受け止められるそうじゃないか!」
ブレンネンが向かってくる。爆発するパンチで、エンドレの性能を試そうというのだ。
「《ブレイズ・バースト》!」
「エンドレ!」
爆音こそ鳴るも、今度は吹き飛びはしなかった。
「さすが、すごいな!だが俺は知っているぞパルガンッ!お前は魔法使いではないッ!そして無敵とはいえ何回もダメージを与えれば魔力はズンズン消費していくッ!」
「僕だって知ってるよ、爆発魔法、燃費悪いんでしょ…!」
目が合う。意地の張り合い…魔力勝負に突入する!
「ブレイズ・バースト・ラァァーーーーッシュ!!!!」
爆発の連続パンチ!とてつもない火力、並の防御魔法ならとっくに魔力切れで割れてモロに食らって死んでいる!
「うおぉぉぉぉーーーーーーっ!!!」
ブレンネンは、パルガンの胸部、エンドレでできた衣装に幾千発の拳を叩き込む。
「う…」
パルガンが膝を着く。それを察知し、ブレンネンは一旦ラッシュを止める。
「ヘトヘトだな、パルガン!だが俺に容赦はない!このまま気絶しろっ!パルガン!トドメのォッ…《ブレイズ・バァァーーーストォォッ》!!!!」
思いっきり振りかぶり、踏み込みを入れ、がら空きの胸部に全力と全魔力を込めたブレイズ・バースト・パンチを繰り出す。
その拳が命中し、衝撃波であたりの砂が巻き上がる。
砂埃で、辺りが見えなくなる。
「どうなった?!」
アルターが、目を凝らす。
「砂埃が動いてない…魔力が切れていたらパルガン君は吹き飛ぶだろうが…吹き飛んでいない…」
「つまり…?…そんなことあるのか…??」
砂埃が晴れた時、立っていたのはパルガンだった。その足元に、ブレンネンが精根尽き果てた状態で倒れている。
その姿を見て、パルガンへ拍手が送られる。
「ありがとうブレン…ブレンならきっと僕の頭を狙うなんて野暮な攻略はしないと思ったんだ。この衣装、腕もほとんど出てるし、急所のお腹も出ている。お腹を殴ったらきっと僕は一撃で倒れていた…でもブレンは魔力の押し合い、アツい戦いのためにわざと布のある部分を狙った。そうでしょ?」
ブレンネンは気を失ってはいない。魔力切れによる極限の疲労で倒れている。答えが返ってくる。
「剣士のパルガンに……魔力の押し合いに勝てる自信が…あったということか…情熱的だな……」
「全部教えるよ…」
エンドレの能力の本質は、無敵化ではない。エンドレを身にまとっている間、使用者は無敵化の魔法を無意識下でエンドレに付与する。無敵化はエンドレではなく、使用者の力なのだ。
そして自在に姿を変える性質は、エンドレの力のほんの一部だ。エンドレの最大の能力。それは、「血液を消費して魔力を補給する」という能力だ。エンドレ装備中は常に魔力を消費し続ける。魔力が切れそうになると、自動的に血液を消費して魔力に変換する。使いすぎると危険だし、怪我していると尚更使えない。
だが、今回はブレンネンが相手。パルガンには分かっていた。ブレンネンの全魔力をぶつけられたとしても、パルガンは魔力切れにも失血にもならないと。
「でも、あのパンチは実は想定外だったんだ。本当なら、エンドレを布のまま使って、逐一バリアしながら戦っていく予定だったんだけどね…」
そこまで語り終えた後、パルガンは意識を失い倒れた。
*
目覚めると、船内だった。医務室のベッドに横たわっている。腕に違和感を感じふと見ると、なにか管が刺さっている。
(…これなんだろう…別に痛くは無いけど変な感じだな…)
「パルガン君、起きたかい」
ゼレが白衣を着ている。珍しい感じがするが、一応医者だから不思議ではない。
「腕のは…なに…?」
「点滴だよ。君は魔力を使いすぎたからね、回復に役立つ。」
「てんてき……ブレンは…?」
「ブレンネン船長はもう元通りさ。流石は船長、回復速度が尋常じゃない。」
安心する。ブレンネンもだいぶ魔力を消費したはずだが…
「あ、優勝は…どうなったの?」
「君は授賞式に出られなかったからね。同じパッションワンダラーだから、ブレンネン船長が代役をしたよ。書類上はパルガン君の勝ちだけど、実質ブレンネン船長の勝ちみたいな扱いだったね。」
実際、ブレンネンが勝っていた未来もあった。なぜエンドレを袴ではなく衣装にしたのか。それは、エンドレで身体を覆う面積によって消費魔力量が変わるからだ。しかも明確なイメージがないと変形してくれない。だから、明確なイメージがあって覆う面積が狭くて済むその衣装を選んだ。無敵化は強いけど、ブレンネン以外、それも今回のような不意打ちでしか通用しないだろう。布状態で無敵だけ使うにしても、相手の攻撃に対応して咄嗟に取り出せるとは限らない。実際センジュが消える直前に刺さったあの投げナイフも全く見えなかった。戦いに集中していたとはいえだ。真正面と背後っから武器を投げられて避けられなかったのに、防御できるはずもない。ブラフも張って確実に魔力切れを誘ってはいたけれど、ブレンネンの性格に賭ける戦略を取らせた時点で、ほとんどブレンネンの勝ちみたいなものだ…
「いや、勝ちだよ…ブレンの…」
「そうかい」
ゼレとパルガンの会話を聞いてか、ブレンネンが歩いてきた。
「おー、パルガン、目覚めたかっ!」
「なぁ、1個聞きたいことあったんだけどよ!」
「なに?」
ブレンネンが、手に持っていたものを持ち上げパルガンに見せる。
ベッドに寝た状態だから見えなかったが、どうやら神鏡エクラのようだ。
パルガンは起き上がり、椅子に座って話を聞いた。
「大精霊が居ない?」
ブレンネンのその言葉をパルガンが復唱すると、パルガンの大精霊が一斉に出てくる。
「神鏡エクラ…オキツエル殿か…ならば寝ているのであろう…キャラが変わったりしていなければ老体の身…」
「お待ちなさいヤツエル、大精霊に睡眠は必要なくってよ?」
「それがねぇーオロちゃん、オキッさんは寝るんだよ〜。」
オロチエルが困惑顔でフリーズする。
「あーつまり、大精霊が居ないのではなく、そのオキツエル…さんが寝てるせいで出てこない…って訳か…」
大精霊がどうかは置いておいて、精霊はかなり概念的で非生物的な存在。寝ている精霊を見たなんて話存在しない。そもそも精霊が姿を現すのが天啓の時だけだからというのもあるが…
気になったことは放置しないのがワンダラーだ。
「大精霊に睡眠は必要ないって言ったよな、大精霊じゃない精霊は寝るのか?」
ブレンネンが聞く。
「私は精霊ちゃん達のことは全然知らないや…ヤッさんは?」
「彼奴らはほとんど姿を見せぬ…火炎文明に封印されていた我には分からない…」
「埃被った倉庫でボロボロの玉座に置かれてたんだからさ、分かるわけないだろ。」
「私、人間と共に長らく過ごしておりましたが…天啓は3回ほどしか遭遇しておりませんわ…精霊って普段はどこにいるんでございましょう?」
基本的にアーティファクトと共に動くために、大精霊はほとんど移動できない。精霊の生態…誰も知らない場所に封じられていた葬送刀ジギタリス/ヤツエルや、無人の星でトラップだらけの洞窟でオートマトン・ゴーレムに護られていた宝玉ミャーロー/チカエル。あまり管理が行き届いていない書庫に置かれていた宝玉サミア/イクエル。この3人はわかる。だが人の装備として服として、作られてからずっと人と一緒にあった聖比礼エンドレ/オロチエルさえも知らないとは…
「精霊…なかなか興味深いね…」
そんな他愛のない話をしていると、船がどこかに着陸したようだ。
「あれ、そういえばどこ向かってたの?」
「エスパーダだ」
ハッチが開くと、船の奥から暗い顔のポルボラが出てくる。
「ポ、ポルボラ?」
ポルボラが船を降りる。エスパーダの地に、ポルボラだけが降りた。みんなは降りない。
「ポルボラは両親の元に帰す。」
「えっ?」
パルガンは全く知らなかったのだが、聞けばセンジュがドゥエートを殺したせいで、ポルボラは戦える状態にないらしい。
「ポルボラ君…元気でね……」
ムボガが手を振る。ポルボラは、ムボガと目を合わせて頷いて返事した。
ハッチが閉まる。
船は出航する。
普通の精霊について掘り下げるつもりは今のところないです。ピサンリは妖精であって精霊ではありません。じゃあ何が違うのかって言うと精霊は神文明、妖精は自然文明の種族ってところです。




