情炎の決闘大会
「俺のレーダーがピサンリの反応を一瞬だけ捉えた。」
アルターがぽつりと言う。
「…いつ?!マジなのか…?!…いつだよ…?…いつだよぉ?!!」
マルトがアルターにしがみついて聞く。泣きそうだ。
「さっきの戦闘中、ほんの、ほんのコンマ数秒だけなんだがな?レーダーに多重の魔力反応…つまり単独で多色魔法を使う生命体の反応があったんだ。」
単独で多色魔法…そんなの、ピサンリくらいしか居ない。
*
クリフォトと別れ、アルターと合流しに来たパルガンとクノップだったが、何やら重要そうな話をしているので混ざれずに暇していた。ちょうど座るのにいいサイズの岩があったのでそこに座ってぼんやりと空を見ていた。すると、何か気になるものを見つける。
「あ、風の便りの鳩だー……」
便利系の魔法、『風の便り』の効果で呼び出される伝書鳩。帽子のようなアクセサリーがあるのが特徴。
「おっ?こっちに飛んでくるぞぉ」
「ってことは…僕宛て?…なんだろう」
その鳩が、パルガンの方に手紙を届けに来た。3枚ある。
「招待状…僕とブレンとフラゴルの分がある…」
封筒を受け取り、腕に乗っている鳩を放つ。飛び去ろうとする鳩が光の粉となり消える。魔法で作られた鳩に過ぎないのだ。
パルガンは自分の名前が書かれた封筒を開け、中身を取り出す。中身はポストカードのような紙1枚だった。
「情炎決闘大会…?」
暑苦しい筆文字で書かれたその文字。裏面には細かい説明もあった。
「優勝賞品は…神鏡エクラ…?…なんだろう…」
裏面には優勝者へ贈られる賞品などが記されていた。その名と、イラストを見てか、チカエルが出てくる。
「あー!これ、オキッさんじゃない?!ねね、ヤッさんヤッさん、これオキッさんだよね?!!」
オキッさん…法則から行けば、多分オキツエルという本名だろう。ヤッさんというのも、ヤツエルのことのようだ。ヤッさんと呼ばれ、ヤツエルが出てくる。前にヤッちゃんと呼んで怒られていたのを思い出す。
「確かにこれは神鏡エクラの彫刻…」
鏡の特徴的な形の銅フレーム。その形にどうやら見覚えがあるようだ。
「パルガン、もちろん参加するでしょ?でしょ??!」
「うーん、次の行き先によるかな…アーティファクトを集めたら無限の力が手に入るって感じじゃなさそうだし…」
もしそうなら、サルファはアーティファクトを破壊もしくは回収しに動くだろう。サルファが動いているとすれば、大会の景品になる訳が無い。
パルガンはひとつ疑問を抱く。アーティファクトを集めた先に何があるのか?
呟いたところで、ヤツエルは答えた。
「『ゼニス・ゲート』…10のアーティファクトと対応する10の大精霊で使える魔法。それが使えるようになる…」
「…名前的に、ゼニス・ワンダラーに関連するゲート魔法かな……にしてもヤツエル、よく知ってたね」
「マスターのくせに、聞いてないのか。」
イクエルが口を挟む。イクエル…宝玉サミアの大精霊。宝玉サミアは自然文明の図書館の奥に保管されていた。一瞬ヤツエルが顔を顰め、続ける。
「我はアーティファクトの中で唯一の神剣…アーティファクトには宝玉4つ、ローブ3着、神鏡2枚、神剣1振がある…神剣の我は最初にできたアーティファクトゆえ、世界の事…特にゼニス・ワンダラーについては詳しいのだ…だからマスターからは1日ひとつの質問を受け付けている…」
「あっ……忘れてた…………」
そういえばそんなことを言っていた気がする…その時は別の話題に上書きされて有耶無耶になってしまったし、ドタバタ続きで完全に忘れていた。
…その時の会話内容が鮮明に思い起こされる。
「………特異体ってなに?!!」
「今日の質問はもう終わっている…」
ヤツエルは目を閉じる。あまり語りすぎるとサルファのセンサー的なものに引っかかってしまうらしい、しょうがない事なのだろう。
…そういえば、チカエルが復活した理由も謎のまま。チカエルが復活できるなら、ヤツエルも復活できるのではないか?…それに大精霊はサルファのことを知っていたし…イクエルに至っては手放しに味方と言えないという始末。大精霊は謎だらけだ…大精霊はゼニス・ワンダラーとどんな関係にあるのだろう。
「わりぃわりぃ、長話がすぎたな。」
そんなことを考えていたら、アルターが手を振って歩いてくる。
「それは!決闘大会のチケットじゃないか!!?星を離れていても送ってくれるとは、情熱的だな…!」
「ブレンとフラゴルの分もあるよ。」
同じような、筆文字の書かれたチケットを2人に渡す。
「決闘大会なんてあるのか、火炎文明らしいな」
アルターがチケットを見る。サブアームから光が発せられて、手紙に描かれたイラストを解析したようだ。
「…この優勝賞品、アーティファクトだな」
「うん、チカエルもアーティファクトだって言ってる」
作戦:クルセイドで回収したアルターのソースコードに含まれていた『解析プログラム』は、少ないデータからも規則性や法則性を見つけ出すことを可能とするプログラム。暗号解読はもちろん、物品の価値や、贋作の判別にも使えるアルターの代表作のひとつだ。
「開催場所は惑星ピュレトス、開催日は来週か!よしッ!!ピュレトスに行くぞッ!…ムボガ、マルト、クノップ、来るか?!!」
何でも屋どんぐりの3人。…4人だった3人。
マルトが口を開く。
「俺はもう泣かない。みんなについて行けば、旅をしていけば、その先にきっとピサンリは居る…」
マルトは、 パルガンの方へ来る。見た目のせいであどけなくも見えるが、凛々しい歩き姿だ。
「僕は…もう守られてばかりは嫌だ…だから僕は…強くなりたい!」
ムボガも、マルトに続いて、パッション・ワンダラーの方へ来る。巨大化していなくても、巨大化しているかのようだ。
クノップの方へ視線が集まる。
「ついて行きたい気持ちはやまやまだが…親父の手伝いもしないといけないし、それにあの蜘蛛とかのせいで街は瓦礫の山だからな…2人が離れている間、僕が何でも屋どんぐりとしてこの国を守るから、任せて!」
クノップはそう言い切る。そして3人は円陣を組む。
「マルト。ムボガ。いつか必ず、強くなって帰ってきて。」
「うん。クノップを越しちゃう位、強くなるよ!」
「バーン、ラプシ、ムトト、コピル、ディーチェ…"友達"も仲間も居る…ぜってぇ帰ってくるぜ、なんせ俺はどんぐりのリーダーだからな!」
マルトとムボガが足を1歩出し、気合いを込める。
「「「"1000%解決!お困りごとなら何でも屋ドングリ!!" 」」」
結成時、4人で決めたスローガン。
帰ってきた時は、4人で言いたい。稚拙なスローガンでも、少年少女の青い思い出のひとつなのだ。
「よし、じゃあ、行ってこい。元気でなっ。」
ゆっくり円陣を解き、クノップは2人の背中を叩きエールを送る。2人もそのエールに負けぬ返事をする。
「クノップさんが居るなら、この国は、この街は平気…だね」
「ああ、もちろん。なんせクノップは、クノップだからな!」
3人は笑う。屈託のない純粋な笑顔。
信頼出来る仲間に故郷を任せ、ムボガとマルトは今、ワンダラーとなった。
*
「新入りだ。」
山小屋的なログハウス。センジュ以外のゼニス・ワンダラーがそこに集められ、ピサンリに視線を向けていた。
「簡単に自己紹介を。」
サルファが、ピサンリに指示する。
「拒否します。面倒なので。」
…アンドロイドのような風貌からは考えられないような、反抗的な答えだった。AIアシスタントに明日の天気を聞き、『面倒』と言われたら…ログハウス内にそんなようななんとも言えない空気が流れる。
「…こいつはピサンリ。自然文明の人間としてパッション・ワンダラーと共に居た。多色魔法を使うのが得意…らしい」
サルファが呆れたような顔と声で説明する。ピサンリは、肩を引き手を前でクロスしさながら女王のように立っている。内面とのギャップは明らかだが。
「なぁ、パッション・Wにまだゼニス・Wが居る可能性はあるのか?」
ピサンリの雰囲気と内面のギャップよりも、まずは人間からの初めてのゼニス・ワンダラーであることに触れるシアノ。
「大いにある。もしかしたら、全ての転生者はパッション・Wにいるのかも知れん。」
「なら、全員に『ゼニス』を撃ってしまえばよろしいのでは?」
「お姉ちゃんの言うとーりぃ!」
メンシュが挙手しつつ発言する。あげていない方の腕にしがみついているサナートも、ニカッと笑った。
「そうできれば早いんだが…問題はパルガンだ。あいつは下手すればクリフォト以上の脅威になる。パルガンが居る限りは実行できない。」
「じゃあじゃあ、そのパルガンとか言うやつをあたしとお姉ちゃんでぶっ殺せばいいんでしょ?」
「そこはセフィロトの判断待ちだ。殺して問題ないかどうか微妙らしい。」(あのクソ女神、判断が遅いんだよ…)
脳裏に、サルファが転生時に会った女神であるセフィロトの顔と態度が浮かぶ。とにかく腹立たしい、サルファがいちばん嫌いなタイプの性格だった。
「それ以前にパルガンらと直接交戦するのはあまり得策ではない。シアノ、何故かわかるか?」
「あー…あぁ…あいつは俺たちの襲撃を望んでいる…俺たちと戦う中で俺たちから得られる情報を求めてる…俺はもうパルガンとは戦いたくない。次は何こぼすか分かんねぇから…」
ゼニス・ワンダラーや、創造神の世界の話をしてしまったシアノは責任を感じていた。情報とは無いほどいい。少しでも与えられると、もっと欲しくなって、欲望のためならなんでもできるのがワンダラーなのだ。
「そういうことだ。直接の交戦はなるべく避け、監視してゼニス・Wを正確に見抜き、交戦せずにゼニス・Wにする。ワンダリング・ゲートをうまく活用するんだ。」
ワンダリング・ゲートは、今のパルガンらには使えない魔法だ。超世界と現世を出入りさせることで、ピサンリのようにターゲットのみを孤立させるのが主な作戦となる。
「戦闘力の高いゼニス・Wを集めればクリフォトも手出しは難しいだろう。ゼニス・Wを集めるのが、俺たちの当面の目標になるだろうな。」
ゼニスを使えるサルファだけでは無い。センジュ(ゲブラー)もかなりの戦闘力を持つし、人間相手ならシアノだって負けることは無いだろう。メンシュとサナートは単体の戦闘力は低いが、組ませればセンジュを越えるほどの戦闘力になる。
三人寄れば文殊の知恵とも言う。ゼニス・Wがまとまっていれば、そう簡単にはセフィラ顕現状態にされることも無いだろう。
「そういえばぁ…」
サナートが口を開く。なんだか嫌な予感が走る。直感的なヨカン。サルファとシアノは寒気を覚える。
「あんた、さっき面倒つった?何様のつもりぃ?!」
逆鱗だ…それは絶対逆鱗だ。触れてはいけない部分だろ。なぜ、なぜ言ってしまうんだ…
ブチ切れるんじゃないかと思ったが、意外にもピサンリは普通そうだ。ゆっくりと、組んでいた手を胸の前に持っていき、前に突きだす。腕をのばし、手を広げ、人差し指同士と親指同士をくっつけ、隙間に二等辺三角形ができる。その三角形の中に、サナートが収められる。
その瞬間、サルファは理解する。
「よせ!ピサンリ!」
発せられた音が届く前に、その攻撃は行われた。ログハウスの壁に大穴が開き、屋根が丸ごと吹き飛んでしまった。雪山の風が寒い。
「多赤色魔法-光星波動×100」
ピュールも使っていたビームの魔法、光星波動。それを多無色魔法の応用で増幅させ、100倍の威力にして放つ荒業。
「なに…すんのよ…!」
煙が晴れると、そこではメンシュがバリアを貼りサナートと自分を守っていた。
「あたしのお姉ちゃんにぃ…無駄な魔力使わせて……」
「サナート、私の為に怒ってくれてありがとう。でも落ち着いて…まだ打ち解けては居ないけれど、味方よ…」
サナートの髪が逆立ち、ピンク色の瘴気的なものが漏れ始めていたが、メンシュのその声で正気を取り戻したのか、元に戻る。サルファが咳払いをする。
「連絡は終わりだ。業務に戻れ。」
メンシュとサナートが、ワンダリング・ゲートで戻る。
山小屋があった場所には、サルファ、シアノ、ピサンリだけが残された。
「な、なぁ…サルファ…?…さ…さみー…」
シアノが、両手と片翼で身体を暖めながらサルファのところに駆け寄ってくる。
そして、耳元で小声で言う。
「また女の子なのかよ…?」
…ピサンリのことだろう。メンシュとサナートが来た時も、やりづらそうな反応だった。どうやら大分拗らせているようだ。
「ピサンリ、こいつはシアノ。仲良くしてやってくれ。」
「お、おい?!!」
そんなシアノの頭をつかみ、ピサンリの方に無理やり向かせる。
「…面倒事は嫌いなので拒否します。」
「面倒って…面倒って言った……サルファ、面倒って言われた……………!」
シアノはその単眼を潤ませながらしがみついてくる。つくづく思うのだが、キャラと見た目がちっとも合っていない。
いや、そんなことよりも問題はピサンリの方だ。短気すぎるし面倒くさがり。こんなのすぐに死んでしまうのではないか…?…しばらくは、星でじっとしていてもらおう。この星は地球に似た環境だから、きっと気に入ってもらえるはずだろう。
*
「フラゴル君は本番直前は練習する派かい?」
ピュレトスに向かう船内で、ゼレがフラゴルに聞く。
「練習か…したことねぇな…」
「ほう、天才型じゃないか。」
ゼレはフラゴルの横に座っている。
「そういうゼレはどうなんだ?水文明の奴らは全員天才型に見えるけどな。」
フリでもあった。フラゴルは質問しながら、回答がほとんど予測できていた。大抵フラゴルの水文明への見方は間違っている。フラゴルはゼレの回答を、心の中で同時に言う。
「それはステレオタイプだ、フラゴル君。」
やっぱり。
「本当の天才というのは、研究長のことさ。」
研究長…アルターの方を見る。ブレンネンやパルガンと、何か話しているようだ。多分、大蜘蛛と戦う時に助けてくれたロボットの2人の話だろう。2人はいつのまにか水文明に帰ったそうだから、かわりにお礼を言っている…と予想できる。
「研究長がいつから研究長なのか知っているかい?」
「知るわけないだろ」
「10歳だ。まだ小学生のちびっ子に、見方によれば政府よりも強い権力を持つとも言われる研究長をやらせる。前任者は結果としては英断をしたと言えるが、あの時は酷いことになったね…」
ゼレが目を閉じ、回想する。確かその時は、アルターが実力で黙らせた。
「容易に想像がつくな……なんで急に、俺が天才かどうかなんて気になったんだ?」
「ああ、例の決闘大会さ。フラゴル君も出るんだろ?」
「出ねーよ」
フラゴルが冷たく言い放つ。ゼレが、驚いたような、怒ったような表情で続けた。
「フラゴル君、剣の腕ならパルガン君よりも上じゃないか、なのになぜ?!」
「なぜなんて言われてもな…見る方が好きなやつもいるってことだ 別に不思議じゃないだろ?」
フラゴルは困惑顔で返す。
「私は…てっきり火炎文明なら勝負事が好きなもんかと…?」
「それこそ『ステレオタイプ』ってやつだ--あ、いや、そうでも無いかもしれん」
「と言うと?」
フラゴルは、自慢げに言い放つ。
「賭けだ賭け、決闘の醍醐味のひとつだぜ」
「…度し難いね」
火炎文明の惑星ピュレトスでは、定期的に主催が選んだメンバーによる決闘大会が開催される。選考基準は基本的には実力だ。
ただし、「情熱的」という理由で、ルール違反が無視される場合もある…例えば、招待されていない選手の乱入など…
「ゲブラー、仕事だ。」
アーティファクトが賞品の大会が…始まる。
ゼニス化ピサンリは「多彩な多色魔法で器用に戦う対応力に富んだキャラ」を書こうとして、作者の脳が足りなかった結果脳筋に成り下がったキャラです。




