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死霊のプライド

「《月食》!」

「右!」

唯一スライムを倒せるパルガンを全力支援しつつ自衛は確実にすると言う作戦で、スライム軍団との戦いが始まっていた。

「《月食》…っ!多すぎ!」

「はぁぁっ!うぉぁーっ!!」

巨人の姿に変貌したムボガが愛らしさの残る叫び声を上げながらスライムを辺りに投げている。壁に当たったり、床に叩きつけたり、色々投げているものの、相手が悪いようだ。スライムは全く様子が変わらないまま、「みつけた」と声を発し、敵と判断したムボガへと向かっていく。

「負けてられねぇ!頼む‥みんな…!」

マルトがそう言い、指笛を吹く。

「マルト君、今のは?!」

「俺の()()を呼んだ…バーン、ラプシ、ムトト、コピル、ディーチェだ…」

マルトは静かに答え、固唾を飲んだ。町民があらかた消えている。マルトの「友達」は来るのか?

「もう!多すぎる!キリがない!疲れた!アルター、何か策はないの?!」

パルガンの息が切れている。パルガンに斬らせるしかスライムを倒せないが、一体ずつ倒していてはキリがなく、パルガンの体力も持たない。

そんな中だった。

「みつけ…」

パルガンの目の前に迫ってきていたスライムが、斬ろうとした瞬間に吹き飛ぶ。

「…今の、アルター?」

アルターは無言で首を振る。

スライムがひしゃげて、丸みを失いついには行動不能になった。透明な何かに、スライムが蹂躙されている。

「…みんな……!!」

それをみたマルトの目に光が宿る。

「みんな?それってつまり、マルト君の友達?!」

「ああ!、でも、どうして見えないんだ…?気配は確かにあるのに…」

アルターがそれを聞き、考え始める。

「《解析プログラム》」

アルターの外骨格のHUDが発光する。頭についているライトが緑色に発光する。

「な、なに…!…マジかよ…?!」

アルターがつぶやく。

「アルター、何か見つけたの?!」

「あぁ、マルトの友達は確かにここに来ている…透明化も検出されていない!」

「突然人気が無くなったのと同じ原理というわけだね?」

ゼレが言う。

「透明化魔法以外での透明化…結界以外でそんなことできるわけがない………」

「そうか!《月食》!」

パルガンはそれを聞き、月食発動下で空を斬る。

「おぉ、結界が………!」

すると、そこから結界が裂け…



「…ふむ…パッション・ワンダラー、我の結界を破ったか……」

「はっ……?…結界が…そんなはずは……」

「我は現世の死霊の残穢を辿って現世での出来事を把握することができる…パルガン、あの者は我らの顔に泥を塗ったセンジュという剣畜生から奇妙な剣を授かっていた…それが答えだ…」

オステオンがゆっくりと語る。その言葉の1つ1つ、1文字1文字にプレッシャーを感じる。プレェトは恐怖した。

「プレェト、初めから貴様が行けば良かったろう………その目で確かめるとともについでに名声を取り戻してこい………」

ラストチャンス。ということだろう。

瞬きする間に、自分は自然文明にいた。



結界が消えたことでついに聞こえた人々の声に、安心する。いや、叫び声なので、安心している場合ではないのだが。

そして、叫び声以外の言葉も聞こえてきた。

「つかまえた」

「ころす」

同じスライム。だが、喋っている言葉がまるで違う。

「なんだと…?!…この分裂する大量のスライムだけで手一杯だってのに、あと2種類もいやがるのかよ?!」

アルターは恐怖した。だが、それに対しピサンリが冷静な言葉を口にする。

「いえ…さっきまでの結界を作っていたものもそのスライムの中に…つまり1種類よ………『みつけた』が分身なのは確定……魔力の動きから見て『つかまえた』が結界………」

「じゃあ、『ころす』は?」

ゼレの質問に、ピサンリがムッとする。

「まだ見てないのに、わかるわけないじゃない……でも、きっと搦手では無い攻撃でしょうね…」

ピサンリが考察を上げているなかで、1つ様子の異なる足音が聞こえてきた。

「…お前は…!」

その足音を方向を見たパルガンが即座に刀を構え切先を向ける。

「死文明…ネクロ・ワンダラー隊長……」

「プレェト…ッ!」

アルターはアームの兵器を換装する。プレェトに効果のある装備、サウンド・ヴァーラー。

「マスター、あの者は…?」

「あいつはプレェト……今はもうセンジュさんのおかげで治ったけど、あいつに僕は!…それに、多分このスライムの親玉でもある…」

「あれが……親玉ぁぁ………!!」

パルガンがそう言った途端、ムボガが地面を揺らして向かっていく。

「まて、ムボガ!」

「うらぁぁぁ!」

「《影撃ち》」

ムボガの振り上げられた拳が、振り下ろされることなく切り落とされ、転がる。

「ぎゃぁぁぁ?!!!」

「ち、治療を!」

ゼレが声を上げる。

「プレェトォォ!!《月食》!!」

パルガンが走っていき、プレェトに斬りかかる。

プレェトはひらりと身をかわし、パルガンの単調な斬撃を避ける。

「それは…センジュとかいうヤツの武器ですね…?……なるほど…もうヤツは居ない!残念ですねぇ〜ヤツも所詮は人間だったという訳だ…!…私にトドメも刺させずに先に居なくなるなんて!飛んだ無駄死にだ!」

「センジュさんが与えた試練はしっかり僕の力になった!それを無駄死にとは言わせないぞ!」

パルガンは猛攻を仕掛けるも、プレェトには一太刀も届いていない。

「あの『闇の落胤(スライム)』を下す力を持った刀だろうと、当たらなければ意味がない!《影撃ち》!」

「《月食》!」

プレェトの手刀が、葬送刀で受け止められる。


「ムボガ!気を確かに…!」

「《自然の奇跡》…《エイルの祝福》…!」

「ダメだ、くっつかない!治らないぞ!」

ピサンリがムボガの治療にあたるも、難航していた。死のエネルギーが含まれた一撃は、普通の魔法では治らないようだ。切断面に黒いモヤがかかっている。

「みつけた」

そんなムボガ達の元に、またスライムがゆっくりと迫ってくる。

「ちくしょう、パルガンにしか倒せないのにこんな量…!」

「倒せなくってもいい!!とにかく邪魔をさせるな!」

単なる物理攻撃でも多少追い払うだけの攻撃になっていることが奇跡だった。

「《サウンド・ヴァーラー》!…ダメだ、もうスピーカーも長くはもたない!」

最も効果のあるアルターのサウンド・ヴァーラーも、そろそろ限界。

「行け!バーン!」

「ガルッ」

ムボガを励ましていたマルトも、防衛に加わる。マルトの眷属(友達)のうちの1匹、黒い犬のような見た目の、バーンがスライムにかみつく。結界が破れたおかげで、バーン達の姿も見えるようになっていた。

「今だコピル!」

「キァーウ」

鮮やかな色の羽毛に包まれた大鳥コピルが、バーンがかみついているスライムにとびかかり追撃を加える。

マルトの眷属が攻撃を与えたスライムが、結界内でスライムが蹂躙されていた時のように、丸い形を留めなくなり、不定形の状態でうごめいている。

「ナイスだ、バーン!コピル!」

マルトが、2匹におやつを投げ渡す。2匹とも口でキャッチし、満足げに鳴き声を漏らす。

「ヴァウ!」

そんな中、自分も褒めてもらおうとしてか、金色の犬のような見た目をした眷属、ディーチェが別のスライムに噛み付きながら引っ掻く。

「あ!ディーチェ、落ち着けって!」

「ヴァウゥゥ!」

ディーチェが一心不乱に攻撃している。マルトの声も聞こえていないのだろうか。

「もう…だったら、ムトト!」

「シャァーッ」

蛇のムトトが、ディーチェが引っ掻き中のスライムに飛びつき、毒牙を刺す。

その毒でスライムが弱まり、ディーチェの爪に引っ掻かれたスライムが()()()また不定形になる。

「すごい…私たちの攻撃はまるで効果がないというのに」

ゼレが関心の声を上げた。

「サウンド・ヴァーラーはもう使いたくない、死文明に効果のある攻撃は非常に興味深いが…今はムボガだ」

アルターが、マルトを見届け、ムボガのところに来て、しゃがみこむ。

「状況は?」

「当て木はした…切断面が魔法的な物で汚染されていて、自己治癒は不可能と見るべきだ。となると魔法での治療になるが…」

「死文明の襲撃なんて普通あり得ない…人間の魔法じゃ到底無理よ………」

ピサンリの言葉に焦りが感じられる。水文明の方でも、無限の力に関する噂が流れ始めて以降、死文明の攻撃は大小差はあれどあった。その度にサウンド・ヴァーラーなどの音響兵器で何とか退けてきたものだが、怪我したものはもう放置しか無かったのだ。

「やはりここでも手詰まりか…!」

アルターが悔しさに拳を硬く握る。


「どいて」


3人の頭に、声が響く。音で聞こえたものでは無い…テレパシーか。

「誰だ…今の…?」

「イッくん!」

ふとチカエルの声がした方を見ると、中性的な見た目の少年…大精霊イクエルが浮いていた。無表情のまま、飛んでいる。

「聞こえなかったかな…どいて。無力なんだから」

口は動いていない。頭に響く。テレパシーで会話してくる。

「なによ……気持ち悪い…………!」

ピサンリが悪態をつきながらも、3人がムボガの元を一旦離れる。

「《リチュアル》」

どこからともなく光が飛んできて、ムボガに光が取り込まれていく。ムボガが小さな声をあげる。だが苦しみの声では無いようだ。

「この魔法は………?…こんなの知らない………」

「…知らないんだ……『リチュアル』。コラテラル・ダメージを払って、なんでも出来る。」

「コラテラル・ダメージ…?…イクエル…だったか?…まさかお前…さっきの光は…!」

アルターの声にだんだん熱が籠ってくる。

「あれは生贄。貴き犠牲だよ。無力な人間が何人死んでも、この子のような戦闘能力が多少ある人間が生き延びた方が、何倍もマシだと思うけどな。」

「合理的と言えば合理的だが、倫理に反するね…!!」

ゼレが珍しく声を荒らげる。

「やだなぁ、合理的に判断しなよ。水文明なんだから。」

「…それはステレオタイプだ!」

ゼレの触手はイクエルを捕らえる。

「イ…イッくん………??」

チカエルが、イクエルの後ろからゆっくりと近づいてくる。

「う…うぅ……」

ムボガが声を出し、目が少し開いている。

「ムボガ………」

マルトもそれに気づき、ムボガの方を見た。

「ほら、現に仲間が治ったじゃないか。」

「何年も会ってないうちに…変わったね…イッくん…?」

チカエルの声が震えている。イクエルに対し、恐怖を抱いているようにも見える。イクエルは、無表情で、口を開かず、抑揚の少ない喋り方だった。合理的で、冷酷な魔法…。



「パッション・ワンダラー…私は貴様らに対して敗走したあの日からずっと怨みを貯めてきた…貴様らごとき下等な蛆虫の分際で!」

「いい?!あれはセンジュだ!センジュ!君、復讐の相手間違ってるよ!」

パルガンの葬送刀は皆既月食色に光っていた。実体がなく、向こうが攻撃する時のみ、ガードすらもすり抜けて命中する死文明の幽霊の攻撃。その攻撃を、葬送刀は受け流していた。

「ならばその刀はなんだ…!…貴様がそのセンジュという畜生に力を貰っている証拠では無いのか…!!ならば貴様もセンジュと同じではないか!何が間違っていようか!!」

「貰ってるからってなんだ!あの時君が僕を殺そうとしなければセンジュも来なかったと思うよ!?」

「本質はあのセンジュではないのです……!!我々に攻撃を加えるあの腹立たしい力のほうだ…つまりその力を得ている貴様も同じ!私は間違えてなどはいません…!!《影撃ち》!」

「《月食》!!」

火花が散る。…手刀を防御して火花が散るはずなどない。だが、実体化したプレェトの体は、まさに金属のような硬さであった。

「…こうなれば、マスター、刀を奴に刺すんだ…」

「ヤツエル?どうして?」

刀の中のヤツエルから、突拍子もないような指示が聞こえる。

「近くに一体…おそらくマルト少年が呼んだ『ラプシ』だろう…こちらの様子をうかがっている」

「結論から話してくれないかな?!!」

「よそ見とは!舐めた真似をォォ!!」

「うわぁっ!」

会話しながらも、プレェトの攻撃は続いている。一応防御できたが、少し危なかった。

「刀を刺すなんて、意味がわからない!戦ってるんだ真面目にやってくれ!!」

「『月食』を発動した刀を刺せば対象は持続的に実体化する…つまりラプシの攻撃も通る……」

「え、えぇ!!?《月食》《竜炎刺突》!!」

やっと理解して、実行に移す。竜の吐く炎を思わせるその突きは、プレェトの咄嗟のガードをかいくぐってプレェトに鋭く突き刺さる。刺さった部分からプレェトが実体化していく。

「ぐぅ…小癪な…!」

「行けるんでしょ、ラプシ!」

「キャッ!!!」

突然空間から、立派な角を持った鹿のような生き物、ラプシが飛び出してきた。ラプシはプレェトに真っ直ぐ向かっていく。

「伏兵か!!《影撃ち》!」

プレェトが手刀を繰り出そうとする。だが、その手刀は空振る。ラプシが、さっきまでいた場所に居ない。

「グハッ?!!」

ラプシの突きは、プレェトの背中に当たった。

「キャッ キャッ」

ラプシは、してやったりといった様子で、ぴょんぴょんと跳ねている。

「眷属如きが…私のボースハイトの猿真似を!!」

「キャッ!」

再びかかろうとするプレェト。しかし、またもラプシが消える。

「ガァッ」

プレェトがみっともない声を上げて膝をつく。初めて感じる物理的な痛みに、耐性がほとんど無いのであろう。

「なぜ…なぜこんな畜生が私を!!!」

「キャッキャッ」

「ラプシがなにやってるのか、僕にもわからないけど!さぁ、 プレェト、トドメを刺させてもらうよ!《葬送刀ジギタリス》!」

プレェトの身体から、葬送刀が抜け、パルガンの手に握られる。

「《月食》《鳳蝶》!」

回転斬りをする技、鳳蝶でプレェトにトドメを仕掛ける。

「畜生共がァァ!!本物を見せてやりますよ!《ボースハイト》ォォ!!」

プレェトはそれに対し、相手の影にテレポートするボースハイトで対抗しようとする。

「鳳蝶は回転斬りの技、その技は覚えてたんだよ!」

影から出てきたプレェトに、回転して後ろに来たパルガンの斬撃が迫り、胴体を切断した。

「ぐぉぁぁぁ…っ このプレェトが…死文明の私がァァァ!」

切断されたプレェトの上半身だけが動いて、パルガンの足を掴む。

「うわぁぁぁ!!《月食》!《月食》!」

それに焦り、月食で一心不乱にプレェトを突くと、ものすごい叫び声を上げながら、プレェトが消えていく。

「なんか…情けないな…」

消えていくプレェトを見下ろして、パルガンがそんな言葉をふとこぼした。



パルガンがプレェトと戦っている頃。

「みつけた」「みつけた」

「空気くらい読め…!どんどん増えやがるぞ!!」

イクエルの行動で、重い空気が流れていたところに、みつけたのスライムが分裂を始める。

「ムボガ君、動けるかい?!」

「う…うぅ…」

「…無理そうだ、フラゴル、ムボガを安全なところまで運んでくれ!」

(安全なところってどこだよ…?!!!)「ああ!」

フラゴルが、ムボガを抱えて走っていく。

「バーン!ディーチェ!」

「ガルッッ!」「ヴァウ!」

2匹が、分裂したスライムに噛みつきを行う。

「みつけた みつけたみつけたみつけたみつけた」

だが、スライムはそれに対し一気に分裂を行うことで引き剥がす。スライムの量が、どんどん増えていく。

「つかまえた」

『つかまえた』のスライムが、不意に言葉を発する。また、人のいない世界に飛ばされるのか?と思ったのも束の間、みつけたスライムがどんどんつかまえたスライムの方へ近付いて行っているのがわかる。

「な、なんだ?!!」

「ええい、こうなれば!《サウンド・ヴァーラー》!!」

「《思考コンタミ》」

「はあっ!」

アルターが音波を射撃し、ピサンリは混乱効果の魔法を撃つ。ゼレからは刺胞が伸びていった。

「ころす」

攻撃的な能力を持つと考察されていたころすスライムがその力を発揮する。と、そのスライムの元に黒いモヤが集まるのが一瞬見えた。

「あぁっ!」

「ゼレ!」

スライムから、黒く細い光線がなぎ払うように発射され、音波や魔法をかき消し、ゼレの触手を切断する。

「も…問題ない…!」

ゼレの触手の切断面が黒いモヤに包まれている。ムボガがプレェトにやられた時と同じだ。

「つかまえた つかまえた」

「クソッ!まずい、ダメだ何か来るぞ!!」

3種類のスライムが、つかまえたスライムの元へ集まってしまった。そのスライムが、どんどんと塊になっていく……

オステオンとかセンジュみたいな、落ち着いていてプレッシャーのあるどっしりとしたキャラ好き。

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