作戦名:クルセイド - 絆の力を知らしめる
作戦名:クルセイド の終わりです。
アルターはジタバタした。アルターはいま空中に放り出されている、というのも自分で飛び降りたのだが。
ーー飛び降りたというのは間違っていた。アルターは「降りる」ために飛んだのではない。「登る」ために飛んだのだ。
だが、壁に打ち付けられた衝撃によるものか発生したジェットのこのエラーはアルターを死の淵から逃さないつもりらしい。
「ち…くそっ、動けよっ!…電池切れで…自己修復機能が」
パチパチ火花がバックパックから散っている。このままでは死んでしまう……アルターが、頭の中で思考を巡らせる。
アルターは種族:ジーニスト。ジーニストの特徴はなんと言ってもその処理能力だ。
「現在地点はーー」「重力加速度をgとしてーー」「落下耐性〔N〕はーー」「つまりーー」「したがってーー」
思考が加速していく。同時に、複数の方程式を立てて計算している。ジェットが少しでも起動するとした時、どこで奇跡を起こせばいいのかの計算。結局は奇跡頼りになってしまうが、アルターの脳を落ち着かせるためには、計算するのが一番早いのだ。
ーーだが、それはアルター1人しかいなかった場合の予測だった。
地面の方から、声がする。
「アルター!!」
「何っ………ブレンネン隊長?!」
下にいたのは、ブレンネン。両手を広げ、こちらの方を見ている。
「はっはっはー!《ブレイズ・バースト》ォッ!」
ブレンネンの足元で爆発が起き、ブレンネンが大きく跳ぶ。そしてブレンネンが落下するアルターを抱える。
「つッッーー」
「無茶な真似を!」
ブレンネンが体温差からか、背筋が凍ったような苦悶の表情を浮かべたのに、アルターが言葉を漏らす。
…だが、アルターはすぐにその言葉を訂正した。
「…ありがとう」
「このくらいいいってことよ!《ブレイズ・バースト》!」
地面に着地する時も、地面を爆破することで、爆風で勢いを弱めできる限り安全に落下する。
「っーーーてぇぇぇーーーッ?!!!」
だが、だいぶ慣性に押されて足が引きづられ、座り込んでしまう。アルターは無傷だったものの、ブレンネンはそうも行かない。
「…ブレンネン?!……俺のせいで」
「お前のライバル、パゴメノス…とか言ったよな!……決着、つけるんだろ!こんなに情熱的な戦いを見捨てちゃあパッション・ワンダラーの名が廃る!」
ブレンネンが弱音を遮り、満面の笑みでグッドサインをする。アルターは立ち上がり、ブレンネンに手を差し出す。
ブレンネンは、過剰に振りかぶって、アルターの手を取り立ち上がる。
すると、不意にアルターの体が光り輝きだした。
「こ、これは?!」
「ああ、ペルチェ素子って言ってな…俺とあんたらの体温差を利用して発電…というのもペルチェ効果というものがあって…」
「だぁーっ、そういう説明が聞きたいんじゃあねぇ!よし、行ってこい!帰ってきたらまた聞き流してやっから!」
アルターの背中をドンと押して激励する。アルターの少し真面目っぽくなった表情が一気に笑顔になる。
「ああ、また!《飛翔プログラム》!」
音を立てて、煙と火が上がる。そのジェットパックのハンドルを握り、ブレンネンにハンドサインをして離陸する。ブレンネンはそれを手を振って見送る。
「パルガン…いい友人ができたな」
*
「悪いな、パゴメノス!俺の大発明の一つ、《紅茶プログラム》でお茶してるような時間はねぇぜ!」
「バカな、あり得ない……?!」
「へへ、これが絆ってやつだ 計算では計り知れんだろう」
パゴメノスが、外でホバリングしているアルターの身体に飛びつく。
「うわっ!…振り落としてやらぁ!」
アルターが、足を振りながら上昇していき、ついには屋上に乗った。
「くぅー、冷えるな!」
「水文明の人間が何を!」
水文明は、低温に対する耐性が強く、また元々の体温も高くない。寒いというのは、感覚としておかしいことである。
「…心が冷てぇって言ってんだよ!冷血動物が!ここで死ね!」
「ならば私を殺して見せろ、アルター!」
2人の格闘が始まる。武装を使わない単純な格闘。パゴメノスまで情熱的になるような、格闘が始まった。
アルターのアーマーが削れるたび、子機が飛び出し新しいアーマーを形成する。パゴメノスのアーマーが削れるたび、ナノマシンが修復する。互いの顔を殴り合い、汗やら唾液やら血やらが飛び散る。やがて、アルターが大きく吹き飛び、ダメージを受け血を吐く。
「…ビームソード……」
アルターのサイドアームにビームソードが付けられ、屋上の床を切り捨てる。
「逃しはしません…!」
それに素早く反応し、床を空気圧で殴り砕いて最上階に降りたアルターを追う。だが、アルターはすでにパソコンを手にしていた。
「俺の勝ちだ…パゴメノス!」
「《グングニル》!」
パゴメノスの腕からアンカーが射出される。空気圧を利用したもので、ヒュンと空を切る音を立て、パソコンを破壊し貫通してアルターを刺し、引き戻されパゴメノスのもとに戻る。
「ーーかはっ」
アルターの口から血が垂れる。スーツも溶け、空気中に消える。
(アルターはこれで長くは持たない…それにパソコンは物理破壊し、もうデータは読み込めない!勝ったのは私だ、アルター!)
パゴメノスの口からは、笑みが溢れた。
アルターの方へ、ゆっくり近づいていき、死亡の確認をしようとする。
だが、そのパゴメノスの足を止めたのは、ある電子音だった。
"ピロリン"
「…?!」
「データダウンロード…ゴホッ……完………了」
パルガンが、穴の空いた腹から血が噴き出ているのを厭わずデスクに手を置きゆっくりと立ち上がる。
「バカな…パソコンは破壊したはず!あなたは確かに重症なのに、なぜ!」
「お前となぜ「格闘」で戦ったのか…バッテリーには余裕があったのに…だ…!」
「まさか…私のアーマーのナノマシンを!!」
アルターのスーツが再構築されていく。目につけられているゴーグルに光が宿る。戦闘補助UIと推測される、緑色。
空気が張り詰めていく。
「《解析プログラム》」
「《エアロブラスト》」
アルターの視界には、パゴメノスの動作を予測するマーカーが表示されている。放物線を描き、ほぼまっすぐにアルターの方へ飛んでくる。
「《幻影プログラム》」
パゴメノスが、飛び蹴りしたそのアルターが、光の粒になり消える。
「それはデコイだ!」
「なにィィッ」
パゴメノスの背後にアルターはすでに陣取り、ハイキックを繰り出すところだった。
「圧縮空気放出ッ!!」
「それもだ!」
「ガッ」
だが、本当はアルターは上にいて、天井から降りて頭を蹴り飛ばす。
「認めません…このようなデータはありえない!」
ゆらゆらと立ち上がる、今度はパゴメノスが壁に叩きつけられている。
「あり得なくなんてない…絆を代入した結果だ!」
「認めんぞぉぉーーーっ!!!」
チャージ音を鳴らしながら、獣のように向かってくる。もうヤケクソだ…
「プレェト!何をしている!出てくるのです!」
影はぴくりとも動かず、当然の、普通の状態のままだ。
「利用されていただけのようだな!今楽にしてやる!」
「うぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
キィィーーン…………
「《光線プログラム》」
*
息が切れる。過労なんてものではなかった。日々の鍛錬で鍛えられているとはいえ、銃撃に対応するのは楽なことではない。
「どうした?!止まらないんだろ?!」
「…ぐっ…水文明風情が!」
銃弾を何とか剣で切るも、限界がある。避けてしまえば思う壺と思い、切れなかったものは着弾してしまっている。そこからの流血も、体力を削っている。対して向こうはすぐに距離を取り、銃を撃つのみ。休憩できる、抜きの時間が多いのだ。
ゼレ、フラゴル。
「あんたみたいに覚悟決まった男は好きだよ…敵じゃなきゃな」
「ああそうか……だが敵だ!」
誰もが、パルガンとアルターのようにできるわけではない。火炎文明と水文明は太古の昔にも争った悪しき仲だった。
フラゴルが切り掛かる。再び火花が散る。
「剣では銃に勝てない!水で火を消せるが、火は水を消せない!」
「それはお前らの好きな科学の中の話だろ!」
言葉で争い、剣が火花を散らし、銃口から火が噴き出る。血が滴り落ちる。
不意に、ゼレが銃を落とした。
「…?」
ゼレが、魂が抜けたように膝から崩れる。
「なに…?…何が起こった…?」
そのまま、無言のまま、ゼレが立ち上がる。
「う…うぅ………」
体のいろんなところがポキポキとなり、なにか、封印されていたのが目覚めたみたいな。
「これは…火炎文明?!……戦争が起きたのか?!」
「あ…ああ……そうだが…さっきまで戦っていたが、貴様が突然意味不明な行動をとるものだからな…」
「そういうことなら……戦いは終わった」
「は?」
城の方から花火が上がったのが見える。
…花火?
「アルターが研究長に復帰したぞォォォーーーーーー!!」
そんな言葉が耳に入る。遠くで叫ばれたようだ。
アルターが?研究長に?じゃあ、パゴメノスは倒されたのか?
「やっと…やっとだ………」
ゼレが涙を流したのが見えた。ちらちらと光っている。
「…」
「パゴメノス研究長の束縛から解放される…自由が帰ってきたんだ………!!」
肩に巻いていた、マガジンホルダーのジョイントを外し、地面にドサっと落ちる。そのまま、重心がゆっくりと研究所の方へ向いていくのが手に取るようにわかった。
「やったぁぁぁぁーーー!!!!」
バンザイしながら、いろんなところで水文明の奴らが撤退していくのを見て、パッション・ワンダラー一同は戦慄した。
*
剣の火花が散る音、銃の爆音、魔法のさまざまな音が、機械の動作音が、忙しく鳴り響く。そんな中、パルガンは朦朧としながらにして倒れていた。ぼんやりと意識があるのだが、意識があることを自身は認識していない。
だが、なにか、足音がしているのに気づいた。いや、確かに辺りは戦場なのだから足音はする。そうではないのだ。自分が、動いている。自分が抱えられ運ばれているのだ。それに気づいた時、同時にパルガンもまだ自分が生きていることを自覚する。
「ーー!」
「動くなよ 何も治ってない」
掠れた声だが、確かに喋っている、闘志を感じる声だ。船員ではない。だが………火炎文明の出身者だ。
「落ち着いて聞け お前ではプレェトに敵わない…だから某が滅しておいた」
滅した…プレェトを倒したというのか?手練れの雰囲気はあったが、まさか?
「だが奴は死文明ゆえ復活する 完全に滅せうるのは神のみ」
辺りが暗くなっている。それどころか、霧に囲まれている気がする。思わず口を覆う。
一体どこに連れて行かれるのだ?
「ついたぞ」
当人は急停止し、パルガンは投げ転がされる。
パルガンが、未だぼやけ気味の視界で見たその恩人の姿は、複数の腕を持ち、異形のオーラを漂わせつつも、絶対的な強さと、そして言い表せないような、「極めた者」の風格を漂わせていた。
「某の名はセンジュ。神剣に選ばれし者……。」
「神………剣……………?」
………………
………
…
ありがとうございました。