作戦名:クルセイド - アルターの力を取り戻す
メンシュとサナートの登場回を早く書きたいです。ですが、同じくらいアルターとパルガンのコンビでの活躍回も書きたいんですよね。
「作戦名、クルセイド。チームリーダーは当然アルターだ!」
拍手が起きる。
今、この船内では珍しく、作戦会議が行われていた。アルターの故郷にある、アルターのパソコンを回収し、アーティファクト収集効率を上げる。そのためには、現在パゴメノスと死文明に支配されているその星に突入する必要がある…危険な任務になる。
そのため、アルターの提案でちゃんと作戦会議することになった。
「まずはこの船の武装を稼働させながら、強引に着陸する。着陸といっても、船は止めずに操縦士のクチワと補佐のゾルヒウンを残して他の星に移動しておいてもらう。作戦時間は3時間。長丁場になるが、恐れずその情熱を水文明と死文明にぶつけてきてほしい。みんなのアツいパワーがこの作戦要だ。」
アルターが前に立って話す。その場の雰囲気は、アルターがもはやよそ者ではないということを指し示している。
「この船はノンストップでアルターの故郷、グレベーシに向かっていく。心の準備は今のうちにしておいたほうがいいぞ!以上!」
ブレンネンの激励ののち、広場から解散になった。
作戦会議……といったのは間違いだったかもしれない。単にやることを伝えただけだ。
「最悪の場合、俺のノートパソコンだけでも持ち出せれば勝利だ…死文明を倒せる唯一の手段の多色魔法も多くは使えないだろ?」
アルターが、パルガンに小声で話しかける。
「じゃあ、ブレンネンに周りの人たちの対応は任せて、僕たち2人でパソコンの元に?」
「ああ、そうなる……そしてそこに多分いるのが、パゴメノスだ。」
「パゴメノス?」
パゴメノス。彼はロジックに取り憑かれた研究者であり、アルターを追放した張本人だ。
「パゴメノスはきっと倒さなければならない…でもあいつは強い。パゴメノスに対して俺の強化スーツは意味をなさないし…頼りになるのはパルガン、お前の魔法と熱剣だ。いいな?」
「うん…」
アルターがパルガンの肩に手を置き、部屋に帰ろうとする。だが、パルガンが浮かない顔をしているのを見て、立ち止まった。
「…浮かない顔だな?」
「あ…いや……その………」
「………エンジンルームで話そう」
*
ガシャンガシャンと、ピストンと蒸気の音が、パルガンの心を癒す。アルターはパルガンの様子を見て、心を読んだかのように聞く。
「お前が言ってた、宝玉泥棒の話、気にしてんのか?」
「うん……どうして僕にしかわからないのかな?」
「さぁな…それについてはなんとも言えねぇ 」
やっぱり知らないが、なんとなーく…なんとなく、アルターの記憶にある気がする。
「…あ」
「何かわかったの?」
「それってもしかして…あいつか…?ほら、洞窟の入り口で襲ってきたシアノとかいうやつを…連れ帰ったほう」
頭にあの時の情景が浮かぶ。空に浮かんだ少年が、悪魔と一緒に霧散したあの時の光景。信じがたい光景。
「シアノを?まさか、シアノとサルファには関係が?!」
「サルファ、それがあいつの名前なら…そういうことになる!」
2人の知っていること。覚えていたこと。点と点が、文明を超えて線になる。
「シアノと戦って行った先に……サルファが!」
作戦クルセイド。もしかしたら、シアノも来るかもしれない……そう思うと、怖い。でも、次は負けたくない…そう決意した。。
*
「長官、敵性存在と思わしき船が近づいています。」
「ー!……この感じ………アルターですか…?!……死んだはずでは…」
パゴメノスが、直感で何かを感じとる。アルターの気配だ。
「攻撃いたしますか。」
「いや、船は攻撃するな。アルター以外を攻撃しろ。」
「承知。全員に告ぐー」
ギリギリと、歯軋り。アルターの忌々しい顔が、声が、頭に流れてくる。
「この地位は返さない…この星を思うがままに動かせること権力は!プレェト!」
「いいですね………いいですよぉ……?……その貴方の心の闇………!」
パゴメノスの影が伸びて、中からプレェトが出てくる。
「今度は逃さない……アルターはこの手で確実に葬る!」
「クッハッハ………フフ…………素晴らしい…素晴らしい…!」
外から爆発音が鳴っている。襲撃が始まったのだろう。
「セスランス、離脱!」
「フラゴル部隊、少し下がれ!」
「わかった!!………ぐっ…」
基本的に剣を使って戦うパッション・ワンダラーと水文明の相性は悪い。
「理論上剣では銃に勝てない!」
「さぁ、どうかな?その理論を覆してやるのが俺たちの情熱だ!」
フラゴルが剣を構える。
「ハァーッ!」
「射撃!」
それに対し、水文明側の、分隊長ゼレが対応する。ピストルを乱射し、フラゴルの突進を止めようとする。
「俺は止まらないっ!」
「!」
ピストルに撃たれているのを気にも止めずフラゴルがゼレに切り掛かる。それに対してピストルでガードするゼレ。火花が散る。
至る所で戦いが起きている。多くの血が流れる。その中、治療術師のいないパッション・ワンダラーはいずれ苦戦を強いられることとなるのは、目で見て明らかだった。
「…早いとこ回収するよ!アルター!」
「ああ!」
戦場の状況を見て、焦りもありつつパルガンとアルターが走っていく。
「《変身プログラム 起動》!」
アルターの走る軌跡が、凍ってキラキラと光っている。
「《太陽のかけら》《猫の目》」
パルガンも、自己強化魔法で漏れた魔力が軌跡になって光っている。
彗星のように戦場を駆けていく2人。
「変身!」「《武器召喚》!」
一番大きなビル、研究所。その中に、入って行った。
*
「この量は?!」
中に入り2人は絶句する。大量に、人がごった返している。それも、ただの人ではない。なにか、ゆらゆらとした動きで、………何か憑いている!
「それは幽零です」
上から聞こえた声は…間違いない、パゴメノスだ。
「パゴメノス!」
アルターの声に、恨みがこもっているのを感じる。初めてだ。アルターの拳が強く握られている。
「言っておきますが、それらはもう死んでますので、遠慮なく斬ってどうぞ。」
「…ッ!仲間をよくも…!…パルガン、飛ぶぞ!」
アルターが手を差し出したので、パルガンはその手を掴む。アルターの背中についている機構が作動し、何か風が起きる。
「……飛ぶ?!」
驚いたのはそれからだった。
「《飛翔プログラム-V2》!」
「そうは行きませーん」
声は、パルガンの下からした。……パルガンはまだ地面に足をついているのに!
パシッ
何かに足を掴み引っ張られるパルガン。
「な、なんだ?」
「!…《発進》!」
アルターはそれを見て発進を強行する。だが、その判断は間違っていたという他ないだろう。それに引きづられて飛び出したものは、パルガンの影の中にいた。
「あなたがパルガンですね?」
「…!?」
燃えたような、ぼろっとした外套に、輪郭の不鮮明な肉体は、紫色の、暗い炎だった。
「フンッ!」
その男に掴まれた足を起点に、アルターから振り落とされる。
「パルガン!」
「大丈夫…なんとかする!」
パゴメノスの方へ飛んでいくアルターを見送り、目の前のその男に視線を戻す。男は笑っていた。
「別れの挨拶は済みましたか?」
「いや、まださ…なぜなら今のは別れじゃないっ!」
そう啖呵を切り、その男……プレェトにタックルし、建物の外に押し出す。
プレェトは意表を突かれ倒れ込む。
「く…勇気のある人だ…」
そのプレェトに、パルガンは剣を向ける。パルガンは冷たい瞳でプレェトを見下す。
「《ボースハイト》」
すると、聞いた事のない、不気味な音がなり、プレェトが消える。
「?!」
「後ろですよ、パルガン!《影討ち》!」
プレェトの手刀が繰り出される。だが、パルガンはそれに対応し、身体を捻り避けつつ攻撃する。
「《陽炎斬り》!」
下から上に斬り払うその斬撃は、確かにプレェトに当たったように見えた。手刀も中断される。たしかに当たったはずだった。
「常識を疑え!」
だがプレェトはなんのダメージも見受けられず、実際には当たっていなかったのかもしれない。…いや違う。攻撃が当たればダメージが入るなんていうのは、思い上がりだったのだ。
「貴方のような人間が上位存在である超世界人に一矢報いるなどと、思い上がるな痴れ者!」
プレェトの拳が握られ、パルガンの腹にストレートが叩き込まれる。想像の何十倍ものダメージに、声を出すこともできずうずくまる。口からは、何か出てはいけないものが出てきたような感覚がする。意識が遠い。視界がぼやける。
ー意識が途絶える。
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プレェト 種族:メタゴスト>カルトグリフ
死文明の艦隊ヤルダバオトの隊長。全身は炎のように揺れ動いており、輪郭が存在しない。実体が存在するのかどうかは定かでないが、こちらの攻撃は当たらず、向こうからの攻撃は当たる。
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「《ザ・ヴァーラー》!」
サイドアームからレーザーが射出される。
「そんなエネルギー効率の悪いものを!」
「実弾の補給はできないからな!」
レーザーを射出しつつ着地したアルターは、パゴメノスに隙を見せず格闘に入る。蹴りを主体とした攻撃をするアルターに、パゴメノスは的確に受け流し最小限の動きで後ろへ下がっていく。
「パゴメノス、どうした?防戦一方だな、俺を殺すんだろ?!?!」
「アルター、貴方は過ちを犯した!よりによって火炎文明と手を組むなどとは!」
「過ちじゃねぇ!論理だけではなんともできない!人間は感情を持っている!」
蹴りが、やっと命中する。その蹴りは重く、重いもの。仲間を想う気持ちが乗った、確かな蹴りだ。
すこしよろけたパゴメノスは手を払い立ち直す。
ただならぬ気迫を感じて、アルターが立ち止まる。
「…………《変身》」
なっ と声が出る。パゴメノスの口から「変身」と。確かに聞こえた。
「《コード:SODA》」
電子音が鳴り、風が吹き出す。ものすごい風圧。パゴメノスを中心として、追い風が出て、腕では受け止めきれず壁に押し付けられる。
「ソースコードはすべてクラウドに上がっていた……私はそれを落とし込んだだけですよ アルター あなたの研究があなたを殺すんです これって情熱的ですよね?」
パゴメノスが嘲笑をあげる。
「パゴメノス、お前!」
風が止んだ時立っていたパゴメノスの姿は変わり果てていた。厚い装甲に、エア・コンプレッサーが付いているのがわかる。パゴメノスの普段の装備を、強めたような感じだった。それにそれはアルターのような、相転移で形成するアーマーでは無く、たった今作られたアーマーだ。………ナノマシンだろう。
「どうです?想いなんて言う不確定要素で確定的に明らかなこのバージョンの差を埋めてみてください、アルター。」
アルターがビームを放つ。だがそのビームがパゴメノスにダメージを与えていないことは明確だった。
「クソッ!」
パゴメノスは、わざとゆっくり歩いてアルターを挑発しつつ距離を詰める。外にはメタゴストの群れ…外には出られない。
「さあ、アルター!」
「《防音プログラム》…《騒音プログラム》!」
アルターのサイドアームにスピーカーが装備され、轟音を発する。
「ーーーー!!」
パゴメノスが叫んでいるが、聞こえない。後ろで窓ガラスが大きな音を立てて割れた。
「《飛翔プログラム》!《換装プログラム - ビームソード》!」
「ぐ……ですが逃しはしませんよアルター」
パゴメノスが、耳を押さえていたのをやめ、自身の頭をガンガンと叩く。そしてそのまま、空気の音を鳴らして、圧縮空気をチャージし、脚部から放出して跳躍してアルターの後を追う。最上階にはアルターのPCが置いてある…それだけは渡させない。
ごうごうと音を立てジェットが動作し、頭上でビームソードのついたサイドアームが丸く切った天井を、手で押して通り抜けていく。下からはバシュバシュとパゴメノスが跳ぶ音がしていた。
「畜生、執念深いやつ!」
パゴメノスの跳躍速度はかなり速い。天井を手で押す作業がないからだ。
「これでも喰らえっ!」
それを見て天井を投げて妨害する。
「小癪な!」大きな音を立て、その拳が天井を粉々に砕く。粉塵を吸い込んだようで咳き込んでいる。
「《チャージ》」
パゴメノスが小声でそう言ったのがかろうじて聞こえる。なんだ?空気の音がする。改めて大ジャンプする気なのだろうか。
「《コックオープン》」
「うぇっ?!」
すると、パゴメノスのスーツの脚部についているそのコンプレッサーからは、圧縮空気が持続的に噴き出て、さながらアルターのジェットだ。そのままパゴメノスはアルターに追いつき、足を掴み、もうだいぶ上の方まで来たこの階の床に叩きつける。
衝撃と驚きで、アルターはしばらくうずくまる。
「鬼ごっこはやめにしましょう、アルター」
「ぐ……あとちょっとだったってのに」
アルターが立ち直し、口をとんがらせる。
「《チャージ》」
パゴメノスは姿勢を少し低くし、構える。空気がチャージされ、圧縮されていく。
アルターも構えをとる。サイドアームがパチパチと音を立て、開いたり閉じたり。
そのサイドアームのパチパチが止まると、2人は示し合わせてもいないのに同時に飛び出し、ぶつかる。
「《ジャンプ》」「《迎撃プログラム》」
アルターは、飛びかかってくるそのパゴメノスの、足元をすり抜けるように身体を低く低くし、サイドアームをビーム照射に換装していた。近距離で、先ほどまでとはまた違う太いビームを撃ち、仕留めるつもりだ。
「ですがその答えは読めていました」
「ー?!」
パゴメノスの蹴りは、空気の射出タイミングを少し早めたものに切り替わっている。空気を推進力として利用する、コックオープンと同じ手法だった。その蹴りが命中したとき、アルターの攻撃はまだチャージ段階だったー。
「ーゲブッ」情けない声をあげ、アルターの身体がオフィスを縦断する。その身体はやがて、壁に勢いよく打ち付けられ、バックパックからは火花が出た。
「フフ…終わりですね」
壁が崩れ、風が吹き込んできている。
「……必要なのは」
「?」
アルターが、うわごとのように呟く。パゴメノスは、いま突き落とそうという考えだったのだがすこし立ち止まってしまう。
「ー"必要なのは、一歩踏み出す勇気だ"」
アルターは、パゴメノスに落とされるまでもなく、自ら身体を空へ投じた。
ご閲覧ありがとうございました。次回投稿は割と早いと思います。