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迷惑なお客さん

作者: 光宮 桜

「そうなのよ、それであいつったら~」


私は只今バイトの真っ最中だ。私のレジに並んだこの女性客は、電話をしながら私がスキャンし終わるのを待つ。接客業なんかやりたくないが、生活がかかっているので渋々商品のバーコードをスキャンする。


とあるスーパーでアルバイトをしている専門学生の私は、女の子と言うだけでレジに立たされる。高校時代にレジの経験があるため早々に独り立ちさせられたが、こんな迷惑客の対処法なんて知らない。


「1,928円になります。」


商品をスキャンし終わり合計金額を伝えると、スマホのマイク位置から少し口を遠ざけ機嫌の悪そうな声で「カードで。」と言われた。

クレジットカードの読み取りボタンを押し、レシートとクレジットの明細書を渡し、一応「ありがとうございました。」と言う。


そして次のお客さんの商品をスキャンしている途中に事件は起きた。


「ちょっと、レジ袋が入ってないんだけど。」


再び機嫌の悪そうな声で話しかけてきたのは、言うまでもなくさっき電話をしながらレジに来た女性客だ。


「え?申し訳ありません……。」

「いいから早く袋頂戴。」

「えっと、袋代で5円いただくのですが、今こちらのお客様の対応をしていますのでもう1度列に並んでいただけますか?」

「は?あんたが入れてなかったのになんでもう1度並ばなきゃいけないの?急いでんだけど。」


いやそもそも袋くれなんて聞いてねーし。引き攣った笑顔の下はイライラでどうにかなりそうだった。

他のお客さんも面倒くさそうな空気出してるし、どうすりゃいいのよ。


「お客様、私が対応いたしますのでこちらのレジへどうぞ。」


そう言って助け舟を出してくれたのはベテランの相沢さんだ。

あの女性客はフンっとそっぽを向いて相沢さんのレジへ行った。

迷惑事から解放されて再びスキャンしていると、お客様から「大変ね……。」と同情されたが、なんと返したらいいのかわからずに苦笑いしか返せなかった。


それからも電話をしながらレジに来るその女性客は毎回いちゃもんをつけてきて、私は本気でレジを外してもらおうか真剣に悩んでいた。


そんな時だった。


「えー明日相沢さん休みなんですか?しかも一緒なのがまさかの夢子ちゃん……。」


シフト表を眺めながら愕然とする。夢子ちゃんも学生アルバイトなのだが、天然なのかわざとなのかたまに盛大にやらかす。明日は相沢さんがいないので助け舟は期待できそうもない。


「明日は店長が遅番だからもし何かトラブルが起きたらすぐ呼んだ方がいいわね。一応あのお客さんのことは報告済みだけど、店長も現場を見ないとちゃんと分らないだろうから。」

「分りました……。」


何かあれば店長を呼ぶ、それだけでも多少の救いになる。

そう自分に暗示をかけ、翌日、シフトに入った。


「なんかぁ最近お客さんとのトラブルがあるんですってね。夢子テスト期間で休んでたからよく知らないけどぉどんな人なんですかぁ?」

「ああ、電話しながらレジに来るからすぐ分かるよ。精算が終わってから何かと文句つけてくるから気を付けてね。」

「はぁ~い!」


いつ見てもお気楽と言うか…こっちは今からあの客の相手をするのかと思うとゲッソリするが、こんなときでも夢子ちゃんの能天気さには尊敬する。


その日は何故か私のレジにお客さんが良く入り、気づいたときは夢子ちゃんのレジに例の女性客が並んでいた。

今日に限ってそっち!?絶対地雷踏むだろ、夢子ちゃん大丈夫かな……。あの女性客は今日も電話で誰かと話している。レジの間ですら電話切れないとか一体誰と話してるんだろう。文句言ってる時も通話したままだから相手にも丸聞こえのはずなんだけど……。


気が気じゃなかったが、なんとか会計まではスムーズに終わったらしい。サッカー台にカゴを置き、このまま何事も起こらないように祈ったが、そうは問屋が卸さなかった。

あの女性客はくるりと向きを変え夢子ちゃんに詰め寄る。


「ちょっと、袋が入ってないんだけど。」

キターーーーーー(;・∀・)

「え?申し訳ありません。」


ぺこりと頭を下げる夢子ちゃん。


「ちゃんとしてくれないと困るんだけど。あのさ、私急いでるんだからこんなところで時間取られるの嫌なんだけど。」


まずいと思って呼び出しのベルを鳴らそうとしたとき、夢子ちゃんが泣き出した。


「だ、だってぇ、お客様レジ袋いるなんて言わなかったじゃないですかぁ。」

「うわぁ泣けば済むと思ってんの?いいから早く袋頂戴よ。」


その時だ。


「おい姉ちゃん。」

「なに!……よ……。」


ドスの効いた声の方を向いた女性客は、その人物の顔を見て言葉を失った。そこには大柄でイカツイ顔をした中年の男性が、メンチを切って女性客を睨みつけていた。


「わしゃあアンタの後ろでずっと聞いとったけど、袋くださいって言っとらんかったよなぁ?それなのにこの嬢ちゃんに文句言うのは違うとるんじゃないんか?袋が欲しかったら電話しとらんとこの嬢ちゃんに聞こえるように大きな声で袋くださいって言うんが筋やないんか?」


だんだん語尾を強めてそう詰め寄る男性客に、あの女性客は顔を引き攣らせながら通話の終了ボタンを押し、そそくさとその男性の後ろへ並んだ。


そして人が変わったかのように丁寧に「袋ください。」と言い、静かに5円支払って、颯爽と袋に商品を詰めその場を後にした。


ちなみにこの男性、うちのスーパーの店長です。


周りのお客さんもあっけに取られる中、常連のおばさんが

「もう!アンタ顔が怖いんだからそんな言い方したらビビっちゃうのも当然でしょうにあははは!」


と、笑いをこらえられず店長に話しかける。


「いやあねぇもう!でもアタシの演技、なかなかうまかったでしょう?」


先程のドスの効いた声とは打って変わって裏声交じりの声で喋る店長。そう、こっちが素。そのギャップと喋り方で周りにいたお客さんも笑い始め和やかな雰囲気になった。


ちなみにあの女性客は他のお店でも似たようなトラブルを起こしていたらしく、出禁を喰らったりしてうちのスーパーにたどり着いたらしい。話を聞いた夢子ちゃんは店長と共謀してあの計画を思いついたみたい。

今回は夢子ちゃんに助けられたな。期待できないとか思ってごめん。解決してくれて本当に助かりました。

そんなことを思っていたら、店長が私に近づいてきた。


「ごめんねぇ今日まで放っておいて。お詫びにレジ外して違う作業をしてもらおうと思うけど、どうする?」

「いえ、店長の声色のギャップが見れたのでもう少し頑張ります。ただ、また今回みたいな迷惑客に絡まれたら外してくださいね。」

「りょーかい!」


店長といい夢子ちゃんといい、なかなか素敵な仕事仲間でなんだかんだで楽しい職場です。

あれからあの女性客は来ていない。電話をしながらのレジ待ちは、常識と言うかモラルの問題ですね。みんなが気持ちよく買い物や仕事が出来るように、一人一人の思いやりが大事だなぁと心から思う出来事でした。

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