第9話 罰を与えに
特殊詐欺に携わった、西の妖狸に罰を与える許可を頂きに、団三郎邸へ行ったのは昨晩。
早朝からスーツに眼鏡姿のアオと、犬神さまを訪問。その後、ご一緒いただき、不甲斐なく後回しになった、祭神さまから頂いた情報の調査で、妖狸が後悔に懺悔がをおこなった九州の仏閣へ。
参道の狛犬さんに、犬神さまが妖狸が最近来なかったかと尋ねると。
「若いのが2匹来て泣き言を言って帰りました」
居所は、わかるかと重ねて尋ね。
「奴らは臭いからわかります」
「必要なら、案内しても」
犬神さまから、どうします視線が送られて来たので。
「暗くなったら、お願い出来ますか」
頷かれたので、一端、引き上げようと・・・
「待って頂けますか」
アオが狛犬さんの背中を摩り。
「これは風格?汚れ?」
最近は洗ってくれる参拝者がいなくて、汚れですと聞き、1人残ると言い出し、巫女さんから掃除の許可を頂くと。
上着を近くの枝に掛け、白いシャツの袖をまくり黒いブラが透けた姿で、狛犬さんを洗うアオは、参拝者から大注目。
額の汗を袖で拭うことが出来る、化粧をしていない肌と自眉に長い睫毛。
存在主張に合わせ絶妙なバランスで配置された各パーツ、知的な綺麗系。
ズレた眼鏡を右手で直す仕草を離れたところから、犬神さまを撫でながら見惚れていると。
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「どこか、痒いとこは」
神の使いとは言え、熊童子の怖ろしさを知る狛犬さん。
「熊童子さまに、このような」
恐縮する狛犬さんへ、今夜は案内をお願いねと言って、お腹をゴシゴシ。
「ありがとう御座います、今夜は、ご期待を裏切らないよう案内します」
「そこ、気持ち良いです」
洗い終り、乾いたタオルで狛犬さんの顔を拭いていると、枝に掛けて置いた上着が。
「ブルブル、ブルブル」
取り出し携帯の液晶を見て。
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「社長、団三郎さまから電話です」
走り寄って来たアオから受け取った携帯。
電話の内容は、芝右衛門殿と太三郎殿は、必死に与十郎狸と青井狸の居所を探すも、見つけられずに冷や汗を流している。
「役立たずは不要ですと、伝えて下さい」
電話の向こうのから「芝右衛門、太三郎、役立たずは不要だと言われたは」「団三郎、執り成してくれ、頼む」と聞こえたので。
「こちらで見つけられそうなので、次は活躍して下さいと、伝えて下さい」
今度は、「酒呑童子殿が見つけたそうだ、次は、働かんとポイするってゆうとるよ」「ポイってなんですか」と芝右衛門殿の悲鳴が聞こえたので。
団三郎殿へ「好きに虐めて下さい」と言って電話を切った。
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団三郎電話を切り。
「一族の長が、配下を総動員して見つけられ無い同族を、先に見つける情報網を持つ連中に対し、筋肉馬鹿呼びして死なずに済んだ事を感謝しろ」
訛りの無い怒りがこもった喋りに、芝右衛門と太三郎は、昨晩を思い出し、恐怖から冷や汗と共に毛が抜け落ち、1日にして老け込んだ姿へ。
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団三郎と電話で会話中、犬神さまがアオへ。
「熊童子殿が狛犬を洗っている姿を見ていた酒呑童子殿」
「盛が付いたようだった」
「サカリ? あ!発情のことですね!」
右手に掃除道具を持っているので、左手でガッツポーズ。
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暗くなりだしたので狛犬さんへ案内を頼むと、泣き言を言いに来た妖狸の2匹は、別の所にいると言われたので、妖狸が集団で居る方にと頼み、たどり着いたのは街郊外の集落。
集落内を照らす明かりは狸火。
人族の気配は無く、全てが妖狸。
思った以上の広範囲に散らばった気配が40以上、逃げ出されると面倒だと思っていると、案内してくれた狛犬さんは思いを察してくれて。
「仲間を集めて、逃げ出した妖狸が追えるようにしましょうか」
ありがたい申し出に感謝、是非にとお願い!
30分程待ってくれと言われたので、待つ間、犬神さまに悩み相談、アオは社員を召集へ。
犬神さまへ、妖狸の再犯対策、妖怪基金からの借入は自動で増えても、被害者への返還作業を監視するのは困難。
汎用性を持たせ、相応の罰を受ける契約としていますが、与え方に悩んでいます。
「新たに人族に実害を与え場合、激痛に見舞われる呪いを掛けて、解除の条件は妖怪基金からの借金完済、如何ですか」
「一生解けないようにすると、人族が起因した争いが発生した時、役立たずでは」
犬神さまから聞かされた時には驚きを隠せず。
「酒呑童子殿、人族との関係が深い我ゆえ、マイナンバーの目的を知っています」
「妖怪族、この先、更に住みづらくなりますね」
大きく頷いてしまった。
続いて、人族の特殊詐欺組織、処罰を同じ人族に任せるか悩んでいます。
理由は、人族の罰は甘く感じ、特に特殊詐欺に関しては、重くても20年で束縛から解放されるのは軽すぎる。
「人族の寿命は短いのです」
「20年だと人生の1/4、犯罪者は、既に20年以上は歳を重ねた連中でしょうから、残りの人生1/3以上を束縛されるのですよ」
「その者達へも、犯した罪を偽り無く話すよう、呪いを掛けましょう」
犬神さまの言葉に納得と提案に感謝して、人族の特殊詐欺組織の代表者情報を、桜の代紋を掲げる組織へ提供することに。
「お待たせしました」
鬼族の社員は、1人を除いて戦闘服だと言い張る、裾が異常に短い和服を着崩した姿で現れ、アカだけはゴスロリ姿。
毎回、どこが戦闘服ですか?と思うも言い張るので、最近は考えるのを放棄。
「社長、狸退治なら装備は必要無いと思い、手ぶらで来ました」
アヤネの横には、見知らぬ女性。
「初めましてですわ」
気狐のヨウコと名乗った、清楚感漂わせた目付きの鋭いピシっとした和服姿の美女、見届け役だと。
見届け役って何と思うも、アヤネからウインクされたので、此方も考えるのを放棄。
ただ、和服より洋服が似合うだろう容貌、是非眼鏡を掛けて頂きたい!
社員の後ろには、分身とも思われる狛犬さん達。
集落の四隅にアオ、シロ(胸元に珠代)、ハダ、アカ(胸元に猫波)に、狛犬さんの増援、逃げ出した妖狸を追える配置。
犬神さま、案内をしてくれた狛犬さん、最後尾には並んで会話をしているアヤネに気狐のヨウコさんを伴い集落の中へ。
異様な気配に気付いたのか、妖狸がゾロゾロと現れ。
「何者だ貴様ら!」
目の前にした者の力量もわからず凄む愚な狸。
妖気を解放すると「ズバ~~~ン」衝撃波が集落を襲い、狸火が全て消えて一瞬真っ暗に成るも、アオ、シロ、ハダ、アカが放つ鬼火で照らされ、昼間と見紛う明るさになり、凄んだ妖狸達は尻餅を付き、狸の姿に戻る者に粗相をする者まで。
建物内に居た者は何事かと飛び出て、我らの姿に驚き逃げ出す者が多数。
「逃げ出した狸は、容赦無く退治するぞ!」
「ズバ~~~ン」
再度、衝撃波を放った。
集落全体に響く声を無視して逃げだしたのは数匹だけで、少なさに驚き。
「広場に集まれ」
動かない狸を蹴り飛ばすアヤネ、手加減では無く足加減をしているのに驚き尋ねると。
「アカから、報酬がもらえなくなるから絶対に退治しては駄目だと言われた」
アヤネに手加減要求をして実現させるとは、アカ、方法を教えて下さい!
広場で、与十郎狸と青井狸を呼び出すと、最初に狛犬さんが2匹は別の所にいるとの言葉通りに、前に進み出たのは1匹だけで青井狸。
受け子は、此処には居ないとわかったところに、逃げ出した狸5匹を咥えた狛犬さんとアオ、シロ、ハダ、アカが広場に姿を。
アヤネが、狛犬さんが咥えた1匹の狸の頭を鷲づかみ「メリ・メリメリ」にして持ち上げ。
「キュイン・キュイン・キュイン・・・・」
苦しむ姿を見せつけて。
「街に出ている、特殊詐欺に関わった連中を連れて来い、猶予は1時間」
「逃げ出すチャンスだと思うな、お前達の匂いは狛犬が覚えた、戻らなかった場合は見つけ出し退治だ」
「早く行け、与える時間は1時間だぞ」
狸達の後を追って姿を消した狛犬さん達、役割は、1時間後に戻らない狸の連れ戻しと、連れ戻しに向かった狸の要求を拒み、逃げ出す狸の確保。
広場に残った狸は18匹、下っ端のかけ子で、受け子への連絡をしたことも無い連中、その中の1匹が青井狸。
幹部の名に個々の役割など、罰の度合いを決める情報を入手しながら待つと、次々と戻って来る狸。
あれだけ脅したにも関わらず、1時間後に戻らない狸が4匹、今度は多さに驚いた。
「最初に逃げろよ」
30分後、時間内に戻らなかった狸4匹と、連れ戻しに向かった狸から状況を聞いて、一緒に戻らずに逃げた6匹を狛犬さんが咥えて姿を見せたので、広場に集められた妖狸とは別に拘束。
かけ子は2倍、受け子は4倍、指示役は6倍、幹部・狛犬さんに連れ戻された連中は8倍、逃げ出した幹部は10倍を基本に、妖怪基金から借金契約をさせ、騙した人族へ2週間以内に返金する事も誓わせ、呪いの話もして解放。
実際の借金倍率、妖怪基金頭取の金霊さんと一緒に現れた覚さんが記憶を覗き見て、所行に応じて決定。
妖狸に割り振られた被害者への返却、他界など返却できなかった分は、振り込み詐欺の被害回復分担金と成るよう手配。
犬神さま
後日、事務所へ伺うとの言質をもらい、祭られる仏閣へお戻りになるのをお見送り。
狛犬さん達
アオが感謝を伝え、好物はと聞いたら。
「狐と勘違いされ油揚げだと思われているようですが、食べ物は口にしないのです」
皆から。
「熊童子さまから感謝の言葉を頂けたのが、何よりの褒美です」
姿を消した。
気狐のヨウコさん
アヤネとの会話が聞こえた。
「楽しかったわ」
「酒呑童子さま、ステキですわ」
「一目惚れてしまいましたわ」
聞こえてませんよ~。
「懲らしめる時に立ち会わせてくれるなら、悪い奴探し、今後も手伝いますわ」
アヤネが、何かの手伝いを頼み、その見返りが見届け役だったと判明。
アヤネ、ハダ、アカ、共々姿を消し。
シロはアカから猫波を受け取り、アオと共に姿を消した。
1人で帰りに寄り道。
団三郎殿、芝右衛門殿、太三郎殿へ報告。
今回、特殊詐欺に関わった妖狸の名と借金額を記した一覧表を渡すも、頷き以外出来ない芝右衛門殿、太三郎殿は、今後は一族が不始末を起こさないよう監視しをする。
ポイって何ですか、芝右衛門殿から聞かれたので、悪い顔をして笑顔、小刻みに振るえだしたので放置して、団三郎邸を後に。
芝右衛門殿、太三郎殿、毛が減って老けた気がする・・・
私のせいではない、アオのせいだと思いたい。
翌日、事務所の社長室
社員一同と、机の上に置かれた報酬5億。
ソファーに座る、妖怪基金頭取の金霊さん。
半分しか用意出来ず、申し訳ありませんと謝られたので、今後も、覚さんの力をお借り出来れば、残りはお預けして置くと交換条件を提示。
「覚へ、何時でも、呼び出しに応じるよう伝えて置きます」
アカが両手で頬を包み、うっとりした目で現金を見る姿に、一番安心な預け先だと感じ。
「アカ、預けておきますので管理をお願いします」
珠代と猫波が一箱づつ、アカが3箱抱えると、目線より高く正面が見えないので横歩きで自室へ。
与太狸の分を、アオへ預けたら目減りが凄まじく、二度と預けないと後悔をしたのが、今朝だったのです。
金霊さんベランダからお帰りになり、アカに猫波と珠代が部屋に戻ったので、今回の感想。
「人族は、妖狸が行った騙しを、同族の年老いた者へ行える怖ろしい種族」
犬神さまから提供された資料。
特殊詐欺に遭った被害者達が、親族から受けた仕打ちに対する嘆きを書き留めた冊子を、回し読みした社員。
代表してアヤネより
「人族とは違い、我らを含め、多くの妖怪族が数を減らす中」
「種族としての繁栄をするには、一部だとは思いますが」
「同族の高齢者を騙して財産を奪う」
「騙され傷ついた親族を労るのでは無く、更なる痛手に、残った財産を奪う・罵倒することが出来る」
「怖ろしい一族、見習いたくはありません」
皆して頷き。
今回の感想を聞けたので。
「明日から、後始末です」
「各自が持ち寄った情報、アオの知り合いへ情報提供です」
アオ以外
「「「「面倒です」」」」
首を傾げ。
「アヤネ、まとめて恐怖の世界へ叩き落としてやると言ってましたよね」
忘れていたと新たに怒りのオーラをメラメラと発しだしたので、残った、シロ、ハダ、アカへ。
「あれ、私が王さまですよね」
「王さまの命令はゼッタ~イですよね」
項垂れたシロ、最後まで面倒・面倒と駄々をこねた、アヤネの提案に参加する情報を得られなかったハダとアカ。
ハダへは、外出時の留守番をずっとしてもらって、アカへは、先程のダンボール箱を返してもらいますかと言ったら。
「お手伝いさせて頂きます」
「やります、やります~」
アオの独り言が聞こえた。
「社長に感謝です」
「わたくしが提案していたら、賛同を得られずに1人で対処しなければ成りませんでした」
「これで、サクラのオジさまに、ドデカイ貸しが作れます」
スーツ姿から、ズレた眼鏡を直す仕草を提供されています。