第3話 特殊詐欺調査(シロ・アオ・酒呑編)
スエット姿のまま、ハイスペックパソコンに繋がった、キーボードにモニターが置かれた机に向かい。
普段から、情報収集を担当しているので、面子に掛けて、そして、アヤネさまの提案、皆にお願いが出来る権利を手にするため、絶対に妖狸の特殊詐欺組織に繋がる情報を入手する!
副業でサイバーセキュリティー診断、自他共に認める妖怪族内ではトップクラスのハッカー。
企業情報が欲しいとの依頼もこなす部屋は、サーバーラックが鎮座、データセンターの一角と見紛う光景、熱対策で空調も完備。
「パチパチパチパチパチパチパチパチ・・・」
普段以上の速度と力がこもったタイピング、キーボードが痛い痛い痛い、CPUは使用率が80%以上で休ませて~、グラフィックスカードは表示命令量に、勘弁してと苦情が聞こえる。
調べているのは、居住者が高齢者だけの住所に電話番号が付加された情報を、漏洩した会社の存在と盗み出した者。
その中でも、盗み出した者が妖怪の情報!
理由は、妖狸の特殊詐欺組織が、ターゲットにする高齢者情報の入手、人族から購入するとは思えない。
妖怪族に依頼してのクラッキング!コンピュータへの不正侵入!
侵入者を特定して、依頼者を聞き出せば、きっと妖狸の特殊詐欺組織。
「6社発見」
キーボード入力を止めて、マウス操作。
必要情報を書いたファイルを保存して印刷。
情報漏洩を公にしていない会社、気付いていないのか?ひた隠しにしているのか?
親切心で教えて挙げるだけ、内部資料で漏洩を隠蔽しろと経営陣から担当者へ。
『公表などあり得ない、内部で知りうる立場に居る者への口止めをしろ、反発する者は人事評価Eだ。』
隠蔽を支持したメールの情報込みで提供すれば、お礼が沢山頂けるはず!
今、優先すべきは、お礼の金でも面子でも無く。
アヤネさまの提案「特殊詐欺をしてる妖狸連中に繋がる情報を掴んだら、皆へお願いが出来るってのはどうですか?」の権利を得て。
小さい手で覆えてしまうこの胸を。
「社長に揉んでもらって大きくする!」
プリンターから排出された紙を、キーボードを移動させて作ったスペースに置き、手に持ったオレンジ蛍光ペンのキャップを外し、線を引いた先は、6件の情報漏洩に共通する盗み出した者。
『猫又の珠代』
「商売難き、猫又の珠代!」
「全部、オマエか!人族にも提供しているの?」
「盗み出したファイルの提供先、依頼者を聞きに行きますよ」
なんでも相談聴きます屋
秘書として、以前から色々とご相談に乗ってあげている、桜の代紋を掲げる組織の知り合い。
特殊詐欺でと言ったら、もの凄い食いつき。
偶には会って話がと言われ、13時を過ぎ、客が少なくなった喫茶店。
ランチのハンバーク定食を食べている紳士の対面で、コーヒーを啜り、食べ終わるのを待ち入手した情報は、裏社会とは繋がりが無い、資金源が高齢者への特殊詐欺行為だと推測される半グレ、かけ子の拠点が分からない、受け子との連絡手段が分からない。
「その半グレのリーダーが出入りする、接待を伴うお店を教えてもらえますか?」
半グレと、うちの社員が接触するのに、不自然では無いと思った場所情報を入手。
リーダーと幹部2人の顔写真を見せてもらった。
桜の代紋を掲げる組織は優秀だと聞いていたのに、特殊詐欺に関しては、受け子は捕まえられても、その先に捜査が及ばないと嘆かれた。
この情報、妖狸では無く人族の可能性大?
口を滑らせてしまい、つい言ってしまったのが。
「この情報以外に、特殊詐欺組織の情報、欲しいですか」
コーヒーカップを持つ右手ではなく、左手を握られ。
「是非、お願いします」
手を握るな!と怒らず、この人ロリなので、どさくさに紛れてでは無く、切実な願いからの行為だと察しられたから。
組織の中で偉い人らしけど、更なる偉い人からのプレッシャーは凄いんだろうな。
副業を活用出来ず。
社長だから、副業はしていない!ってことでは無く。
事務所近くに有る、商店街の悪質クレーマー対応をボランティアでしている。
連絡を受けると客を装い、アオと2人で行ったり1人で行ったり。
念のため、実例。
先日はハンバーク店から「お願いします」の連絡があり、1人で対応。
「不味いんだよ、これで金を取るのかてっ聞いてんだ」
雰囲気の悪店内、顔見知りの常連さんが座る席、置かれた伝票を手に取り、クレーマの後ろに支払い待ちの客として立って。
「金が無いんですか」
「後がつかえてるので、持ってるなら早く払って下さい」
振り向いたところを睨み殺気を発して、クレーマの周囲だけ急激に温度を下げる。
「なんだと! 今・・・・・」
言葉に詰まったら。
「恫喝は駄目ですよ」
「嫌な思いをした、来店客全員分の支払、財布の中身全額を置いて帰って下さい」
動かないクレーマーに、最後まで優しく。
「早くしてくれますか、邪魔ですよ」
財布から、お札を全て出して帰って行きました。
偶に、殺気を感じとれない愚か者がいて、店から連れだし手を出させて暴力行為をネタに、慰謝料の請求、社会的地位をお持ちの場合は奪って差し上げ、逆恨みをして頂けた場合、苦痛を沢山差し上げるのです。
わたし、顔の皮が鋼級に硬いので、暴力行為、殴った方の拳が酷い事に!
副業でお助けしてる商店街の皆さまへ、特殊詐欺組織の情報を聞き回っても、期待する情報は得られるはずが無い。
本題、妖狸の特殊詐欺組織情報
日が暮れて街が寝静まった頃合いを見計らい、一升瓶と湯呑を2個携えて、とある仏閣へ。
屋根の上で、祭神さまへ持参の酒を振る舞い、深夜でも暗くならない街を眺めながら訪問理由を話すと。
お祈りに交じって
後悔に懺悔。
「お金を騙し取って、ごめんなさいお婆ちゃん。もう嫌だ、かけ子を辞めたい、逃げ出したい」
「特殊詐欺でお金を受け取る時に、孫をよろしくってお願いされた、ごめんなさい!騙したんです」
九州地方の同じ仏閣からだと聞かされたので、近隣に拠点があると推測、後悔に懺悔をした妖狸の名を入手。
与十郎狸に青井狸。
「全ての願いを聞いているんですね」
「殆どが、聞くだけしか出来ませんから」
笑顔で言われた。
祭神さまへの願い、全てを叶えられないし叶えたら大変な事に。
そもそも、お参りは感謝をするのであって、願う自体が間違いだと知らない者が多すぎる。
「全てを聞くだけでも凄いのに、殆どがって」
手にした湯呑に注がれた液体を見ながら。
「ごく希ですよ、かなえるのは」
目線を液体から此方へ変えて。
「その節は、お手伝い頂ければ幸いです」
可能な範囲でとの返答と、情報提供に感謝のお礼をすると。
犬神にも会いに行ってみてはと言われたので、夜空を飛んで山口県の仏閣へ。
紹介された犬神さまは、主の帰りを長年待った末に天命が尽きた後、祭られる神となったお犬さまで、人族の嘆きを聞く役割を担っている。
訪問理由を事前に知らされていたようで。
「特殊詐欺に遭った、高齢者の嘆きを書き留めた一部ですが、良ければお持ち帰り下さい」
犬神さまから受け取った冊子を、参道の階段に座り、朝日に照らされながら読む。
『息子にまで、金を隠し持っていたのかと問い詰められ、蓄えを全て持っていかれてしまいました。これからどうすれば・・・』
『子供達に、何のために連絡先を知らせているか分かってるのかと怒鳴られ、悲しいです。』
『息子の嫁から、お金が無くなったからって同居はしませんと言われ、嫌味も酷くて死んでしまいたいです。』
『年金口座以外の通帳にカードを全て取り上げられ、子供達が鬼に見えました。』
「子供達が鬼って、一緒にするな!失礼な!」
つい声に出してしまい、犬神さまに、「鬼に見えたって嘆きをお読みに」と聞かれたので、そうですとお答え。
続きを読むのをやめ、早急に対処が必要だと再認識。
人族へ親しみが深い犬神さまから、特殊詐欺犯を懲らしめるなら、種族に関係無く手伝いをさせて欲しいと言われ。
「その節は、宜しくお願いします」
住居兼事務所の社長室へ戻り、自ら入れたお茶を啜りながら、先程の続きを読み、親族からとは思えない仕打ちに驚き、餓鬼と成った人族の退治を近々することになるのかな・・・