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風のフルーティスト  作者: 蒼乃悠生
第四章 優しい音が手を引いてくれた
38/42

3-4

「マスターも演奏会に来てくれたんですよね?」

「ええ、行ったよ。店番をアルバイトさんに頼んでね」

 大きな花束を持った可愛いアルバイトさんがマスターに手渡す。

「ハイヨ、マスターチャン」

「ありがとう、ヒツさん」

「すぐ忘れるノ、良くないネ」

「最近、物忘れが激しくて」

 外国人か。片言ですぐにわかった。

「日本語、上手ですね」と話しかけると、「ありがとうございまーす」と微笑んでくれた。話し方も可愛いくて、ほんわかする。

「演奏会、お疲れ様でした」

 マスターはそう言って、私に花束を渡してくれた。

 丸い花のダリアという花。赤やピンク、オレンジ、白の様々な色に、緑の葉が添える大きな花束だった。

 私は立ち上がりそれを受け取った。抱えきれないような大きさに、じんわりと目に涙が溜まる。

「ありがとうございます。嬉しいです」

「喜んでいただけてなによりだよ」

「俺達からもマスターに渡したいものがあります」

 (そう)くんはもう一つの黒い紙袋を手渡した。

『俺達』という響きが、なんだか良いと思ってしまったことは、口に出すまい。

「このロゴは駅前にあるお店だね。ありがたく頂戴します。ありがとう」

 マスターは嬉しそうに受け取っていた。

 花束をじっと見ていると、本当に演奏会が終わったんだと実感し始める。

 心をくすぐる、寂しさ。まだ演奏がしたい。(そう)くんと一緒に演奏がしたい。あの感覚が忘れられない。心が震えるような、揺さぶられるような、全身に感じた感動を。

 でも、もう終わったんだ。

 もう(そう)くんと演奏はできない。

 そう思うと、一層暗い影が落ちる。

「しほりさんもチョコどうぞ」

「あーうん、ありがとう」

 自分で選んだナッツのチョコレート。心なしか、チョコレートの味がしなかった。こんなに美味しそうなのに。

 あまりチョコレートが進まなかった。その代わり、流し込むように飲むカフェオレの減りが早い。次のチョコレートを手に取り、口に付けた瞬間、

「あ」

 (そう)くんの声で、ハッと我に返った。

「ごめん…… (そう)くんのチョコ、食べちゃった」

「いやいや、いいんですよ」

 苦笑していた。

「……そろそろ帰りましょうか」

 彼の言葉を訊いて、心臓が握られたような痛みがした。

(そう)くん」

「はい」

「本当に助けてくれてありがとう。こうやって演奏会を無事に終わらせることができたのは、君がいてくれたからだよ」

 アンケートに書かれた『男の子の演奏も凄かったです。上手でした』の言葉。わかる。わかる、凄くわかる。

「この演奏会で最後なのが……凄く勿体無い気がする、けど……」

 散らばったアンケートをまとめて、端を揃える。そして、私はただ笑った。

「ありがとう。凄く楽しかった」

 カウンターに置いたフルートのハードケース。そのフルートともお別れをしなければならない。

「もし(そう)くんがよければ、なんだけど……」

 きょとんとする彼に上目遣いで、

「社会人のお疲れ様会には、二次会というものがございまして〜……」

 悪戯っぽく、彼の顔を伺う。

「show先生のお家で、二次会しない?」

「はあああ⁉︎ なんで年増が先生のこと、知ってんの?」

 身を乗り出して、梶瑛(かじあき)さんが叫ぶ。非常に不愉快だと言わんばかりに。

「昨日、先生ん家に泊まったから」

(そう)! なに勝手に泊めてんのよ⁉︎」

「いや、本人の承諾済みだし」

「ま、まさか、二人っきりでお泊まりしたわけ⁉︎」

「まあ」

「不純交際禁止!」

「〝あの先生〟の教え子がそんなことを言っていいのか……」

「それはそれ、これはこれ。もしかして、その年増、あたしの部屋で寝たんじゃないでしょーねえ⁉︎」

「いい加減、年増って言うなよ」(そう)くんは注意してくれたが、彼女はあまり聴く耳を持たない。

梶瑛(かじあき)の部屋を貸したんだけど、結局、俺の部屋で寝たんだよ」

「つか、お前の部屋じゃないよな」と言うが、はやり聴く耳持たず。彼女はヒートアップしていく。

「はあああああああ⁉︎ 一緒に寝たの⁉︎ 年増と⁉︎」

「俺は楽譜の書き換えをしていたから寝てない」

「だから年増って言うなって」そう言ってくれる(そう)くん。

 もう気持ちだけで十分だよ。だって、梶瑛(かじあき)さんは本当に聞いてくれないもんね。と思っていたら、不意に視界がぐらりと揺らぐ。彼女が胸ぐらを掴まれていた。

「アンタ、年上年増のくせに、(そう)に徹夜までやらせたわけ⁉︎ 信じられない……!」

 もう殴ってきそうな表情だった。でも、もし本当に殴ってきても、私は黙ってそれを受け止めようと思っていた。

 やっぱり、そう思うよね。いい歳した人間が、高校生にいろんなことをやらせてしまった。その人を大事に思っているほど、私のことは許せないだろう。

「不甲斐ない私の責任です」

「こんのクソッ——」

梶瑛(かじあき)

 彼女が振り上げた右手を掴む(そう)くん。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!

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