表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風のフルーティスト  作者: 蒼乃悠生
第四章 優しい音が手を引いてくれた
30/42

1-1

 本番当日。

 ホールには三百人程度が入る小さなホール。

 音の響きは悪くない。手を打つと、気持ち良い響きがある。響きやすいと反響して〝出した音〟がわかりにくいが、響きにくいと誤魔化しも効かず、〝音に酔う〟のが難しい。ここは比較的演奏しやすいホールだ。

 薄暗い中、舞台袖で待機する私と福岡(ふくおか)くん。

 私は左の横髪を編み込み、反対側に流す髪型と、スリットの入った紺のドレスを着ていた。

 彼は黒いカッターシャツにスーツ、ネクタイは私に揃えたのか紺色だった。昨日までのラフな服装と異なって、スーツ姿を見ると、幼い顔も大人びたように見える。

 変更の確認も含めて、前もってスタッフと打ち合わせもした。リハーサルもした。問題はない。それでも緊張する。

 座席に続々と座るお客様を見て、胸元を押さえた。

「しほりさん、緊張します?」

「う、うん。緊張しほ……『しほりさん』⁉︎」

 まさか下の名前で呼ばれるとは思ってもおらず、聞き返す。

「そっちの方が演奏しやすいかなって。苗字で呼び合うの、どこか他人行儀だし、壁があるでしょ?」

「あー、確かにそれはあるかも」

 私も呼んでみようか。ちょっぴり恥ずかしい。

(そう)、くん」

「はい」

 ぎこちない呼び方でも、彼は当然のように答えてくれた。それが嬉しくて、でもやっぱり恥ずかしくて。大人びて見えるから、余計にそう思ってしまう。

 なんだか緊張が増して、喉が乾いてきた。

 一曲目はフルート二重奏から始まる。だが、演奏前に挨拶をしなければならない。

 今回のピアノ伴奏からフルート二重奏に変更したことを改めて謝罪する。前もってインターネットでは知らせたが、まだ知らない人もいるだろう。

 演奏とは異なる緊張感が私を襲っていた。



   ■ ■ ■



 開演十五分前。

 会場内にアナウンスが響く。アナウンサーが開演中の注意事項をすらすらと読み上げていった。

 その間心臓がドクンドクンと打って、破裂してしまいそう。(そう)くんは私の頭をぽんぽんと撫でた。

「大丈夫。俺がいるから」

 そう言われると、私がなにか失敗したとしても、彼がフォローしてくれるだろうという安心感が湧いてくる。勿論、失敗をするつもりは毛頭ないけど、本当に頼り甲斐のある彼。

 深呼吸を繰り返し、「うん。ありがとう」とお礼を言った。

 ベルが鳴る。

 舞台袖にある時計を見ると開演時刻だ。スタッフからマイクを受け取り、譜面台が設置されているステージに上がる。

 白い光が照らすステージに立つと、会場を見渡した。ちらほら空席が目立つ。落胆しそうになるのを、ぐっと堪え、顔を引き締めた。

「本日は、『クラシック好きのためのコンサート』にご来場いただき、誠にありがとうございました」

 深く一礼する。

「今回、ホームページでも記載した通り、ピアノ伴奏者である日野和夏希(ひのわなつき)が都合により出演することができなくなりました。改めて、深く謝罪申し上げます」

 再び頭を下げた。

 静まり返る空間に、妙な恐怖心を感じる。

「ピアノ伴奏の代わりとしまして、フルート奏者を呼びました。フルート二重奏、デュオコンサートとさせていただきますことをご了承ください」

 (そう)くんが楽器を持って現れると、会場内が騒ついた。

「今回、共に演奏してくださる方をご紹介します。福岡湊(ふくおかそう)さんです」

「ご紹介に預かりました、福岡湊(ふくおかそう)と申します。まだ若輩者ではありますが、尽力させていただきますので宜しくお願いします」

 高校生とは思えないほど、しっかりした物言いに、心の中で少し驚く。

 (そう)くんと目が合うと、彼は譜面台の前に立った。私も続いて、楽譜を置いてある譜面台の前に立つと、アナウンサーが一曲目の紹介に入った。

「最初の曲は、福田洋介(ふくだようすけ)氏が作曲した『さくらのうた』です」

 簡単な説明が入る。

 その間に、冷えた管に温かい息を吹き込み温める。フルート二重奏なんて学生の頃でも演奏したことがない。演奏会で初体験だ。

 ちらりと(そう)くんを見遣ると、彼は私を安心させるように口の両端を吊り上げる。大丈夫、落ち着いていこう、と。

 今回選んだ曲『さくらのうた』は、いろんな音源を聴いた中で、一瞬で惚れ、演奏会で吹こうと即決したもの。

 さくらの華やかさもありながら、切なさを感じさせる、美しい曲。どれだけ歌い込めるかが勝負になる。

 アナウンスが終わった。会場内が静まる。

 照明に照らされた楽譜。

 横に並ぶ(そう)くん。

 できる。私はできる。いまの相棒は(そう)くんだから、きっとできる。私が私の可能性を信じなくてどうする。

 さあ、始めようじゃないか。

 足を肩幅に開き、右足を下げる。(そう)くんを見る。目は合った。彼もまた準備が完了し、いつ始めても問題ないようだ。

 私は一人フルートを構える。

 ゆったりとしたテンポで始まる曲。スタートは一緒でないが、合図を送る。そして会場内に響くブレスの音。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました!

もし少しでも気に入ってもらえたら、下にある評価(★★★★★)やコメントなどで応援してくださると、非常に嬉しいです!

是非是非宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ