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風のフルーティスト  作者: 蒼乃悠生
第三章 いろんな感情に振り回されたけど
28/42

5-1

 会話をするような雀の鳴き声が、朝の到来を感じさせる。

 一階は部屋をぶち抜いたように広いレッスン室。

 二階に居住スペースがある。そこには私達が寝た寝室、和室、そしてキッチンとリビング。

 冷蔵庫の中にあった、卵、ウインナー、きゅうりで簡単な朝食を作る。大根とじゃがいもを使った味噌汁も作ってみた。簡易過ぎて料理といっていいものか悩むが、なにも作らないよりマシだろう。それに年上の威厳というか、できるというところを示したい。

 しかし。

 冷蔵庫やトースター、電子レンジはあるのに、

「なんで炊飯器はないんだろう」

 謎である。

 棚の中に電子レンジで温めるご飯があったので困りはしなかったが、炊飯器だけ電化製品がないことにしっくりと来ない。

 なかなか起きてこない福岡(ふくおか)くんを心配して、戸をノックしてみる。三度叩いても中からの反応はない。

 ゆっくりと戸を引いてみると、私が寝る前に見た体勢と変わらない福岡(ふくおか)くんがいた。いや、厳密にいえば少し違う。座卓に伏せてはいなかった。

 私は今日の朝目を覚ますと、元の部屋に戻っていた。寝ぼけて戻ったのなら良いが、恐らく彼になんらかの方法で布団まで運んでもらったに違いない。

 忍び込むように、私はそっと近づいた。

 私と違って筋肉のついた腕。この両腕に抱えられたのかもしれないと思うと、急に恥ずかしくなって、邪念を消すように首を大きく横に振った。

 重かったらどうしよう。今更そんなこと考えたって仕方がない。

福岡(ふくおか)くん、福岡(ふくおか)くん」

 控え目に体を揺さぶってみるが、起きる気配はない。

「朝ご飯、できたよ。起きて〜」

 可愛い顔で眠る頬をつついても、ピクリともしない。だんだん湧き上がってくる悪戯心が、私を誘惑する。

福岡(ふくおか)く〜ん。ふっくおっかくーん」

 いまならなんでも言える。こんなに深い眠りについているのなら。

(そう)くん……なんちゃって!」

 まるで彼女みたい。

 自分で言っておいて恥ずかしくなる。照れ隠しのように自分から笑った。

「うん」

「うひゃあ!」

 まさかの返事に奇声が漏れる。

 心臓がバクバクする。暫く様子を伺っていると、彼は首を反対に動かした。腕に触れていた頬が赤くなっている。

「起きて、ない?」

 もう一度頬をつついてみる。柔らかい。ぷにっと感が気持ち良い。肌がさらさらしていて、テンションが上がる。

「朝ご飯にする? 朝シャンにする? それとも、わ、た、し? なんちゃって! ひゃああああッ」

 変にテンションが上がって、口に出した後から照れちゃった。顔を両手で覆う。掌に伝わる熱さ。

「シャワー」

「へいい⁉︎」

 まさか、また返事があるとは思わなくて、妙な言葉が口から漏れ出る。

 恐る恐る顔を覆う手の指を広げて、その隙間から見てみたら、彼は顔を上げて、私を見ていた。

 重たそうに開ける瞼。何度も瞬きをして、目を擦る。

「しゃ、シャワー? じゃあ、バスタオルを用意しておくね」

 もしかして、いままで言った言葉もちゃんと訊いていたのかもしれない。そう思うと居た堪れなくなって、逃げるように立ち上がろうとした時、

「パンツ」

「ん?」

 彼の口から訊くことになるとは思っていなかった単語が耳に入り、くるりと踵を返す。すると口は更に動いた。

「パンツ、いちまい」

「ぱ、パンツ?」

 首を傾げる。

「えっと、福岡(ふくおか)くんのパンツはどこに置いてあるの?」

 パンツも用意しろということか。辺りを見回してみるが、それっぽい棚がない。タンスの中かと思い、手を掛ける。

「ぱんつ? いちまい?」

 彼の迷うような声。そして——

眞野(まの)さんッ‼︎」

「は、はい!」

 突然の大声に私は背筋を伸ばし、手を止めた。

 振り返ってみると、顔を真っ赤にして、慌ててこっちに来る福岡(ふくおか)くん。そのままタンスの前に来て、開き掛けていたタンスをそっと閉じる。

「いまの忘れてください」

「いま、の?」

 どのことだろう。

「パンツ……の話」

 顔から火が出るような気持ちなのだろうか。視線をずらされている。

「もしかして、寝惚けてた?」

 そう訊くと、彼は素直に首を縦に振る。

 しっかりしている彼にも、こんな一面があるんだと知ると、ちょっぴり距離を近くに感じた。高校生らしいところを見られて安心したというか、可愛らしいと思う。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました!

もし少しでも気に入っていただけたら、下にある評価(★★★★★)やコメントなどの応援をしてくださると、大変嬉しいです!

是非是非宜しくお願いします!

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