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風のフルーティスト  作者: 蒼乃悠生
第三章 いろんな感情に振り回されたけど
18/42

1-1

 お互いに謝り、心を入れ替えてからは、夏希(なつき)と衝突することはなくなった。しこりが全くないわけではないが、音楽をするのに全く支障はない。

 本番まで一週間きった。

 福岡(ふくおか)くんを見かける時もある。でも、一度も話しかけることはなかった。

 そして、彼もまた全く知らない人のように私へ目を向けることもなかった。

 部活が終了し、校舎に生徒の影はない。音楽室には、私一人。

 夏希(なつき)は用事があると言って、職員室に篭っている。終わったら音楽室に来るそうだが、いつになることやら。

 九月になったとはいえ、残暑は続く。暑くて流れ落ちる汗をタオルで拭く。

 開けた窓から入ってくる風がとても気持ち良い。虫の鳴き声が聴こえる。鈴虫やコオロギ。他にも名前を知らない虫の声もする。

 数枚の紙を持ってパイプ椅子にどしんと座った。天井に掲げるように紙を持って目を通す。

『カルメン幻想曲』

 ビゼーの歌劇『カルメン』だ。

 スペイン南部が舞台。タバコ工場に働くカルメンが原因で、女達の喧嘩が起きてしまう。兵隊達に捕えられた彼女は、見張り役、竜騎兵隊の伍長ドン・ホセを誘惑して脱出した。

 カルメンを逃したことで牢に入っていたドン・ホセは、自由の身になって、酒場でカルメンと逢う。彼は酒場に戻ってきたスニガ隊長と揉めてしまい、密輸団が二人の間に入った。仕方なくドン・ホセは密輸団に入り、仲間になる。

 ドン・ホセの婚約者であるミカエラが彼を取り戻しに来た時には、カルメンは闘牛士のエスカミーリョに恋をしていた。

 よりを戻そうとするドン・ホセ。しかし、カルメンは指輪を返す。

 逆上した彼はカルメンを刺殺。「ああ、カルメン」倒れた彼女を抱え、ドン・ホセは泣いた。

 純情な男の悲劇。

 恋が叶わないなら殺すことを選んだ彼の気持ちが、あまり理解できない。最後が死で終わるなんて残酷だなぁと思うが、ただそう思うだけでは演奏には繋がらない。

 曲のイメージを作るべく、印刷した歌劇『カルメン』の物語を読むが、なんだかしっくりこない。なにが足りないのだろうかと頭を捻ってみるが、やはりピンと来ない。

 歌で男を魅了したカルメン。その中で一人だけ興味を持たなかったドン・ホセに、彼女は胸に付けたカッシアの花を投げつける。

 黄色い花、カッシアとはなんだろう。すかさずスマートフォンで調べる。なんとまあ便利な時代になったものだ。

「花言葉、輝かしい未来……ねぇ……」

 どうしてこの花を投げつけたのだろう。

 自分に興味を持たなかった男がいままでにいなかったとか?

 カルメンはドン・ホセになにを見て、どう感じたのだろう。そこに純真な愛が見えたのだろうか。

「愛……」

 私を純粋な愛してくれそうな人が、もし目の前にいたら求めてしまうのだろうか。カルメンのように花を投げつけなくても、もっと別の形で。

「……いないなぁ」

 そんな人。

 そう思ってるのに、頭の隅でチラチラと見える福岡(ふくおか)くんの顔。そして思い出す度申し訳ない気持ちでいっぱいになって、心が苦しかった。

 スマートフォンが鳴る。メールだ。メールと言うことは、きっと〝彼〟だ。

 嫌々ながら画面を見ると、その嫌な予感は的中する。困惑しながら読み進めていくと、思わず目を疑った。

「えっ⁉︎ 今日アパートに来るの⁉︎」

 美味しいケーキを買ったから一緒に食べよう。

 こちらの都合を聞かずに誘う言葉が並んでいた。

「ハア……」

 思わず、溜息が出た。頭を抱えるほどの案件に、顔を両手で覆い、呟く。

「こっちの都合はお構いなし……別に来てもいいけど、掃除してないよぉ……急すぎる……」


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


今回から第三章の始まりです。いかがでしたでしょうか?

もし少しでも気に入っていただけたら、下にある評価(★★★★★)やコメント等で応援してくださると、非常に嬉しいです!

少しでもいろんな方々に読んでいただきたいので、是非是非宜しくお願いします!

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