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風のフルーティスト  作者: 蒼乃悠生
第二章 傷付いたりもした
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   ■ ■ ■



 八月に入った。

 さすがにそろそろコンサートの練習をしなければ、取り返しがつかなくなる。

 残業を終えた後、一ヶ月ぶりの学校へ行くため、会社のデスクで楽譜の確認をしていた。音やリズム、フレーズの表現をどう演奏すべきか読んでいく。今更、演奏を間違えることは言語道断だ。

 そこに奈良栄(ならさか)先輩が缶コーヒーを飲みながらやって来た。

眞野(まの)さーん。いまからデートしよ?」

「すみません。今日は用事があるので……」

 断られると思っていなかったからか、面食らった顔をする。そして肩を竦めた。

「しょうがないな。じゃあ、明日は?」

「明日も。しばらくの間、無理だと思います。折角誘ってくれたのに、ごめんなさい」

「えー? 明日も? つまんないなァ」

 つまらない?

 先輩の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。

 確かに先輩からの誘いを断ってしまい、悪いと思っている。だけど、こちらはみんなが私の演奏を待ってくれている。その気持ちには応えたい。

 笑顔を作りながら、楽譜をカバンに片付けた。

「すみません。今度埋め合わせをしますから」

 ハードケースを肩に掛け、カバンを持つ。

 先輩に会釈して、歩き出した時、彼は急に歩み寄ってきた。

 私の目前で腕が伸びる。壁ドンという奴なのだが、なんだろう。息が詰まるような感覚が、じわじわと感じる。

「用事って」

 彼はそう言いながら、顔を近づけてきた。

 嫌な気分がする。周りに助けを求めようと見渡すが、こんな時に限って姿が見えない。みんな、もう帰ったの?

「そんなに大事?」

 彼の吐息が顔にかかる。

 それは彼に初めて抱いた不愉快な感情。しかし、それを表に出すことは、今後の会社での生活に支障をきたすような気がして憚られた。

「えっと、その、演奏会があって」

「演奏会?」

「私、フルートを吹いてるんです。そう、そうだ! 先輩も是非聴きに来てください」

 ニッコリと微笑んでみせた。だが、彼の反応は——

「ふるーと? なにそれ。知らないんだけど」

 溜息混じりに言う。

 なんだろう。心がチクチクと痛む。

「あ、そう、なんですか」

「ごめんねー。俺、そーゆうジャンル、興味ないからさ」

 そう言って、体が少し離れる。

 いましかない!

 そう思って、腕を潜り抜けた。

「演奏会が近いから、もう練習しなきゃ……ごめんなさい、先輩!」

 気を悪くしないように笑顔を作る。でも、彼の反応を見るのが怖くなって、腰から折って、深々とお辞儀をした。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

もし少しでも気に入っていただけたら、評価(★★★★★)やコメント等応援してもらえると非常に嬉しいです!

執筆活動にも影響が出てくるので、是非宜しくお願いします!

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