朱に染まった顔
「あー、やっと来ましたね」
「冷めちゃわないかって心配してたんです。ほら、おいしそうでしょ」
アユールの部屋から戻ってきた二人に、クルテルとサイラスが嬉しそうに皿を持ち上げて料理を見せる。
テーブルの上には、食事の用意がすっかり整えられていた。
ぽかぽかと湯気を立てる美味しそうな皿がこれでもかと並べられ、サーヤの頬がふにゃりと緩む。
「わあ、すごいご馳走。嬉しい、お腹ぺこぺこだったの」
「そうでしょう、そうでしょう。どうぞ好きなだけ召し上がってくださいね、サーヤさま」
嬉しそうにテーブルに着くサーヤの前に、ランドルフがカトラリーを並べていく。
サイラスがグラスに水を注ぎ、クルテルが料理を切り分けていく。
「ふふ、素敵な紳士たちに傅かれて、お姫さま気分ね」
甲斐甲斐しく世話をする男性陣を見守りながら、レーナはニコニコと笑う。
「ようやく我らがお姫さまが目を覚ましたんだ。そりゃあ張り切っちゃうだろ。なあ?」
同じく席につきながら、アユールも嬉しそうに口を開く。
「勿論ですよ。本当にもう会えないんじゃないかって、それはそれは心配してたんですからね。ねぇ、サイラスさん?」
「そうですね。とても不安でした」
明るく話そうとしながらも、二人の声は少し震えている。
「こいつらもお前のために何かしたいって言って、俺に魔力を分けてくれたんだよ」
「え?」
「こちらに戻るための術を発動させるには、お前にかなりの魔力を送らなきゃいけなかったからな。残念ながら、俺だけの魔力じゃ全然足らなくて、叔父貴やランドルフからも貰うことになってたんだ。結局、それでも駄目でこいつらの好意に甘えさせてもらったんだよ」
「そうだったの。・・・皆、ありがとう」
サーヤは改めて頭を下げて感謝を述べた。
「いいんですよ、そんな。水くさい。ねぇ、クルテルくん」
「そうですよ。僕たちは自分に出来ることをしただけなんですから」
そう言って困ったように笑うと、誤魔化すようにどんどん料理をサーヤの皿にのせてきた。
「さあ、解除の成功祝いです。じゃんじゃん食べてください」
「・・・うん。ありがとう」
「でも、これでやっと皆の顔が揃いましたね。叔父上さまの視力も戻りましたし、サーヤさんの声も取り戻せましたし、もう言う事なしです」
和気あいあいとした雰囲気の中、ふと気づけば、カーマインが穏やかな笑みを浮かべてサーヤを見つめていた。
「カーマインさんも、見えるようになったんですよね」
「ああ、やっと君の顔が見ることが出来た。・・・目からの情報も耳からの情報もなかったから、君の姿をなかなか想像出来ずにいたのだが」
ヴィ―ネの入ったグラスをテーブルにことりと置くと、満足げに微笑んだ。
「こうして見ると、やはりレーナの血を引くお子だけあるな。・・・実に美しい」
「・・・っ、あ、ありがとうございます・・・」
直球のほめ言葉に、ぽっと赤くなって俯いてしまう。
「もう二度と見ることが叶わないと思っていたレーナの美しい姿も、またこうして目にすることが出来た。本当に・・・今でも夢ではないかと時々疑ってしまうくらい幸せだ」
そう言って、隣に座るレーナの顔を覗き込む。
「貴女も、さぞ嬉しいことでしょう。やっと貴女のお子の声がこうして聴けたのですから」
そう言いながらレーナの手をそっと握る。
レーナもまた、嬉しそうに笑みを返した。
「ええ、本当に信じられないくらい嬉しいわ。夢でサーヤと話をしてるって聞いた時から、ずっとアユールさんが羨ましかったんだもの」
「ああ、分かります。師匠、いっつも自慢してましたもんね。サーヤの声は可愛いんだぞーって」
「確かに。あれは馬鹿丸出しだった。惚気てばかりで見苦しくて」
「・・・それあんたが言うのかよ」
カーマインに対するアユールのツッコミに、その場にいた全員がどっと笑う。
目下の憂いがすべて取り払われ、それぞれがひたすらに心から笑い、食べ、飲んでいた。
「あー、楽しかった。久しぶりですね、こんなに大笑いしたの」
「そうだな。凄い騒ぎだった」
どんちゃん騒ぎが終わり、それぞれの部屋へと戻っていく中、アユールはサイラスとクルテルを誘って庭に出ていた。
玄関のポーチに腰を下ろし、三人で並んで座る。
「お前たちにもたくさん助けてもらったよ。改めて、本当にありがとう」
それまでの浮かれた表情はどこへ消えたのか、とても真面目な顔で二人に礼を言った。
「いえ、そんな・・・。僕こそ、これまでずっとアユールさんに助けてもらってばっかりだったのに」
「そうですよ、師匠。それに、弟子が師匠の手助けをするのは当たり前のことでしょう」
そんな表情を不思議に思いながらも、慌てて言葉を返す二人に、アユールは困ったような笑みを浮かべた。
「こんな不甲斐ない鈍感男でも、お前たちはそう言ってくれるんだな」
「え?」
「・・・師匠?」
出された言葉の意味が分からず戸惑う二人に、アユールは頭を掻いて項垂れた。
「俺は・・・本当に鈍くてさ。お前たちに甘えてばっかりだった。・・・俺の方がずっと年上だってのに、一人で浮かれてて、周りが見えてなくって・・・お前たちに嫌な思いさせた」
「・・・」
「・・・」
もう日は沈みかけていて。
空は茜色に美しく染められていた。
アユールの顔も、クルテルの顔も、サイラスの顔も朱色に染まっていたけれど。
でもその色が、本当に夕焼けだけのせいなのかは、誰にも分からずにいた。




