目覚め
長い、長い、夢を見ていた気がする。
遠くから名前を呼ばれたように思って。
重い目蓋をゆっくりと開く。
真っ先に目に映ったのは、心配そうに覗き込むアユールさんの顔。
眉をきゅっと寄せて、何かに耐えているような顔をしてる。
そしてその隣には、カーマインさんと母さんがいて。
「ああ、サーヤ! 目が覚めたのね!」
母さんは、涙をぽろぽろ零しながら、私に抱きついてきた。
そんな母さんを愛おし気に見つめるカーマインさんの後ろにはランドルフさんがいて。
視線を左に向けたら、クルテルくんとサイラスくんが眼を赤くして立っていた。
夢じゃない・・・よね?
ちゃんと帰ってこれたんだよね?
「やっと・・・会えた・・・」
ほっとして、そう呟いた。
その途端、みんなが目を丸くして。
顔をくしゃくしゃにして。
「しゃべった~!!」
大騒ぎになった。
「わぁ、本当に喋れるんだー!」
「え? あ、あの」
「すごい、すごい、ホントに可愛い声ですね」
「だろ? 言った通りだろ?」
「サーヤさん、何かもっと言ってみてください」
「サーヤ、お母さんって呼んでみて?」
「か、母さん・・・」
「ああ、サーヤ・・・!」
「ようございましたねぇ。本当にようございました」
周りから一度に声が飛び交って、もうわやくちゃだ。
頭を撫でられたり、抱きつかれたり。
サイラスくんなんて。大声で泣き出して、クルテルくんに宥められてた。
そんな光景にようやく、帰ってこられたんだって実感する。
安心して、やっと落ち着いて周りを観察するだけの余裕ができて。
それで気がついたの。
よく見ると、皆、心なしかやつれてて。
眼を輝かせて喜んでくれてはいるけど、顔色もあまり良くない。
原因なんて。
考えるまでもない。
だから、皆にぺこりと頭を下げた。
しん、と静かになったから、慌てて言葉を加えて。
「心配、かけてごめんね。そして・・・ありがとう」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
あまりに沈黙が続くから、心配になって頭を上げた。
「あの・・・?」
なんて切り出したらいいか分からなくて、もじもじと口を開く。
「い・・・」
「い・・・?」
「いいんだよ、そんな謝らなくてー!」
今度は、ほぼ全員が泣き出して、結局、大騒ぎになった。
涙が止まらなくなった母さんの肩を、カーマインさんが優しく抱き寄せる。
相変わらず仲が良いなぁ、なんて呑気に思いながらじーっと見ていたら、カーマインさんと目が合った。
そしたら、にっこりと。
カーマインさんが私に笑いかけた。
基本、母さん以外の人にはクールなカーマインさんが、もの凄く無防備に、子どもみたいに笑うから。
ああ、どれだけ心配かけてたんだろうって。
きっと、アユールさんと二人、解除に動いた魔法使いとして、もの凄く責任を感じてたんだろうなって。
そう思ったら、私も泣きたくなった。
でも、その時、気づいたの。
アユールさんがいない。
さっきまで、確かにここにいた筈のアユールさんが、部屋のどこにもいない。
きょろきょろと見回しながら!そっとベッドから降りる。
「サーヤさん?」
「あの・・・アユールさんは?」
周囲を見回したクルテルくんは、ああ、と何かに気づいたように手を上げて、安心させるように笑いかけた。
「きっと泣き顔が見られたくなくて、部屋から出てっちゃったんでしょう。意地っ張りですみません。サーヤさん、追いかけてやってください」
「うん。ちょっと行ってくるね」
「お願いします。僕は、サイラスさんと台所で何か作ってきますね。サーヤさん、お腹空いてるでしょう?」
「うん、すごく。ありがとう、クルテルくん」
「お安い御用ですよ」
きっと部屋に行ったんでしょう、と言われたので、とりあえずアユールさんの部屋に行ってみた。
でも中には誰もいなくて。
奥のバルコニーの方まで覗きこんだら、アユールさんの背中が見えた。
そっと中に入る。
なんとなく、そろーっと忍び足で近づいた。
背中しか見えないけど、なんだか寂しそうに見えるのは気のせいかな。
アユールさんは、手すりに寄りかかって外を眺めながら、時々、顏を擦ってる。
泣き顔を見られたくなくて、ここにいるんなら、私が来たら邪魔だよね。
今更、そんなことに気づいたけど。
もうずっと、貴方の顔をちゃんと見ていないから。
夢の中で、ずっと貴方に逢いたくて、堪らなかったから。
もう、待てない。
「アユールさん」
後ろからかけた声に、ぴくっと反応して。
ゆっくりと、少し気恥ずかしそうに、こちらを向いた。
思った通り、目が赤くて。
慌てて拭ったのか、少し目の下の皮膚のところまで赤くなっていた。
「サーヤ、どうした。こんなことろまで来て」
笑みを浮かべ、何でもないフリをして、そう聞く貴方に、私はにっこりと笑いかけた。
「ご褒美、あげにきたよ」




