独り
カーマインが目覚め、皆が喜びに包まれたのもつかの間、サーヤは依然として目を覚まさなかった。
意識を失ってから、もう三日が経つ。
サーヤが眠るベッドの周りには、いつも誰かしらが付き添い、様子を見守っているが、未だ目覚める気配はない。
クルテルやサイラスは、もう何度様子を見に来ただろうか。
ランドルフも、心配で気もそぞろなあまり、仕事中に凡ミスを連発している。
特にレーナは、ほぼ付きっきりで。
余程の事がない限り、サーヤの眠るベッドの側から離れようとしない。
屋敷全体が、重苦しい空気に包まれていた。
「くそっ、どうしてだ。何故、目を覚まさない・・・?」
アユールは壁に拳を叩きつけ、声を絞り出す。
「落ち着け、アユール。他に何か出来ることはないか考えろ」
「・・・まさか、気付かないうちにどこかの段階でミスを犯していたか・・?」
「いや、それはないだろう」
カーマインは、きっぱりと言い切った。
「あの後、私も巨大月光石の残骸を調べてみたが、術式そのものには何の問題もなかった。解除は正常に出来ている筈だ」
「だが叔父貴、現にサーヤは眠り続けているだろう?」
「・・・そのことだがな、アユール。例の夢はどうなっているのだ? 以前、お前は夢の中でサーヤと会っていると言っていたろう? だとしたらお前ならば・・・」
「ああ、俺もそう思って夢の中で会おうとしたさ。だけど・・・」
そこで言葉を切り、唇を噛む。
「おい、まさか・・・」
「そのまさかなんだよ。夢の中であいつに会う事が出来ないんだ。眠ってもあの場所に行けない。あいつに逢えるあの場所に、俺はもう行くことが出来ないんだ」
「それは・・・」
カーマインは眉を顰めた。
「そうか。それは・・・まずいな。他に何か方法を考えねばならんな」
アユールは、ぐしゃりと乱暴に髪をかき上げ、呻くように呟いた。
「くそっ、どうしたらいいんだ・・・」
◇◇◇
目の前の水の流れを、サーヤはじっと眺めている。
いつもと同じ川のほとり。
いつもと同じガゼブの樹の下。
なぜかな、いつもと同じ景色で。
いつものように座って待ってるのに。
アユールさんだけが、ここにいない。
いくら待っても、アユールさんが来ない。
こてん、と抱えた膝の上に頭を落とす。
なんだろ、どうしていつもと違うんだろ。
アユールさんがいないのも。
こんなに長い時間、私だけがここにいるのも。
いつまで経っても、景色が消えなくて。
いつもみたいに暗くなって現実の世界に引き戻されないまま、私はずっとここにいる。
まるで閉じ込められているみたい。
それとも、迷子?
ふう、と溜息を吐く。
体も、どこか変だ。
熱くて、体の奥にある何かが蠢いているような。
全身を何かが駆け巡っているような。
こんなの可笑しい。
ここは夢の中。
いつもだったら、この場所で何かを感じるなんてある筈ない。
ある筈、ないのに。
なのに、体の奥がちりちりするの。
何かが動き回っているの。
怖い。
ここに独りでいるのは凄く、凄く、怖い。
お願い。
来て。今すぐ。
「アユールさん。逢いたいよ・・・」
怖くて、不思議で、心細くて、思わずぽろりと本音を零すけど。
でも、やっぱり何も変わらないままで。
川の流れも、空の色も、樹の葉の揺れも。
何一つ、変わらない。
まるで、時が止まってるみたいだ。
私はここにずっと独りで。
「母さん・・・。クルテルくん・・・、みんな・・・」
川のほとり、樹の下に座り込んで。
どうしたらいいのかと、途方に暮れている。
だって、アユールさんがここにいないから。
いつも太陽みたいな温かい笑顔で優しく包み込んでくれる貴方が。
困った時には、いつだって手を差し伸べてくれる貴方が、ここにはいないから。




