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現金な本気

「・・・現金ですね。いや、単純・・・?」


クルテルは半ば、呆れていた。


今、クルテルの目の前にいる、王国で一、二を争う魔法使いの二人は、かつてないほどのやる気と自信に満ち溢れていた。


いわずもがな、『補充』効果だ。


カーマインに対する効果は特に凄かった。

効きすぎて、補充後しばらくの間、使い物にならなかったくらいだ。


「なんて言うか、一気に馬鹿らしくなった気がするんですがね・・・」


クルテルの呟きに、サイラスが、はは、と乾いた笑いで答える。


「よーし、いくぞー!」


腕をぶんぶん振り回し、アユールは掛け声と共に魔力を放出する。


月光石が反応して光りだし、サーヤの腕につけた魔道具の数値も変化し始める。


「ここからだ」


アユールはそう呟くと、自身の身に着けた月光石を握りしめ、魔力を増強する。

それを一気にカーマインの魔力と合わせて軽減魔法の強化を図る。


「ランドルフ、クルテル、サルマンの魔力が暴走しないよう魔力を注ぎ込んで抑えつけてくれ」

「「はい!」」

「叔父貴、どうだ?」

「・・・なかなかいいぞ」


カーマインが更に軽減魔法を重ねがけしていく。


「サイラス、数値はどうなってる?」

「今のところは安定してます」

「よし、じゃあもう少し増やすぞ」


アユールがそう言うのと同時に、その掌から出る光がさらに増した。

発光していた巨大月光石の色が、乳白色から灰褐色へと変わっていく。


「ランドルフ、クルテル、まだいけるか?」

「「大丈夫です」」

「叔父貴・・・」

「ああ、大丈夫だ。私はこのまま軽減を続行する。お前は解除に取りかかれ」


アユールは、後ろを振り返り、にこっとサーヤに笑いかけた。


「サーヤ」


優しく呼びかけて手を伸ばす。


サーヤはそれに応えて手を伸ばし、アユールの手を取る。


「今から、お前の声、取り戻すから。あとちょっとだけ待っててくれよな」


その穏やかな声音に、サーヤはこくりと頷いた。


アユールは目を瞑ると、小声で詠唱を開始した。

その横でカーマインは最大限の軽減魔法をかけ続け、反対側にいるランドルフたちが全力でサルマンの残存魔力を抑え込んでいく。


その時、目の前の巨大月光石に、ぴしり、と亀裂が走った。


それに呼応するかのように体内の熱が更に上昇するのを感じたサーヤは、思わずぎゅっとアユールの手を握る。

そして、サーヤのもう片方の手をしっかりと握っているのはレーナだ。


今や全体が灰褐色に変色した巨大月光石に、更に細かく亀裂が入っていく。


「急げ、アユール。砕けるぞ!」


カーマインの指示を受け、アユールの詠唱する口の動きが更に早くなる。


「サイラス、数値は?」


気遣わしげに聞くカーマインに、「緩やかに下がってきています」との答えが返ってくる。

軽減魔法をかけ続けるカーマイン自身の体には、その反動が少なからず返ってきており、その額や首筋からは汗が滴り落ちていた。


「あと少しだ。耐えろ、ランドルフ、クルテル」

「「はい」」


そう答える二人だったが、表情は如何にも苦しそうだ。


瞬間、サーヤの内奥の何かが、どくん、と疼いた。

そしてそれは、恐らくカーマインも。


二人は、ほぼ同時に胸を押さえた。


アユールの詠唱が終わり、その声が途切れる。

まるでその瞬間を待っていたかのように、それまで細かい亀裂を走らせていた巨大月光石が下から上へと真っ二つに割れた。


サーヤが。

カーマインが。


胸を押さえて地面に倒れこむ。


アユールは腕を回して咄嗟にサーヤを抱きかかえる。


「サーヤ? おい、サーヤ?」


背後では、やはりカーマインが地面に倒れこんでおり、そこに駆け寄って主の名を呼びかけるランドルフの姿が見える。


目の前では、巨大な月光石が大きく真っ二つに割れていた。

だが、割れる瞬間まで灰褐色に染まっていた石は、何故か今は元の乳白色に戻っている。


今や二本の柱のようにも見える分かたれた巨大月光石は、その細かく入った亀裂から、雪のように小さな破片がぱらぱらと零れていた。


「ねえ、アユールさん。二人は大丈夫? 目を覚まさないの」


横たわったサーヤとカーマインの二人を心配そうに見つめるレーナの声は、微かに震えていた。


「大丈夫だ、レーナ。眠っているだけだ」


そう話すアユールも、魔力を消費しすぎて立っているのがやっとだった。

そしてそれは、恐らくランドルフもクルテルもだ。


「たぶん、成功した」


アユールは、ぽつりと呟いた。


「・・・本当?」

「ああ」


レーナは、もう泣きそうだ。

目が少し、赤くなっている。


「起きたら、こいつの可愛い声、聞いてやってくれ」

「ええ」

「あと、叔父貴にも・・・目を開けたら一番に、あんたの顔、見せてやってくれよな」

「・・・分かったわ」


レーナが二人の顔を覗き込む。


「楽しみにしてる。・・・だから、お願い。二人とも早く目を覚ましてね」


そっと手を伸ばして、二人の頬を指でなぞりながら、レーナは静かにそう呟いた。

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