結果オーライ
「サルマン・・だと・・?」
アユールの顔にさっと緊張が走る。
「なぜ、その名を・・・。お前、・・・何者だ?」
レーナの表情を全く変えることなく、ただ静かに口を開いた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。・・・私は、その男に攻撃された事があるだけですから」
「・・・攻撃、だと? サルマンにか? 一体・・・」
「アユールさんがどのような方か、まだはっきりわからない以上、あまりお話できる事はありませんが」
がらりと変わった、威厳すら感じるその空気に、アユールは戸惑いを隠せない。
サーヤも、初めて見る母の凛とした佇まいに、びっくりして目を丸くしている。
しばしの逡巡の後、レーナの言うことももっともだと納得したアユールは頷きながらこう言った。
「・・・確かに、その通りだな。では、まずは俺の事情から話そう」」
そう言って、アユールは、さて、どこから始めよう、と一度思考を巡らせてから、その口を開いた。
「・・・俺は、黒の森の向こう、トールギランに住む魔法使い、アユール・サリタスだ。弟子と俺の2人だけで暮らしている」
「アユール・・・・サリタス・・」
アユールは、そこで一旦、言葉を切った。
どうやら話をするために口を開くにも、相当、力を奪われるらしい。
「・・・すまんが、今はあまり詳しく説明するのは難しいようだ。かいつまんで話させてもらう」
「・・・あまり疲れているなら、また別のときにでもいいですよ」
レーナが気遣わし気にそう言うと、アユールは首を左右に軽く振ってから、再び口を開いた。
「・・・いや、まだ、話せそうだ」
そう言うと、アユールは一度、深く息を吸った。
「・・・数週間前のことだ。王宮から使者があってな。王宮魔法使いのサルマンからだ。いつもならば無視するところなんだが、今回は使者が直接、家に来てしまってな。・・・仕方なく用件だけ聞きに行くことにしたわけだが、この判断が間違いだった」
アユールは、軽く目を瞑った。
その時の事を思い出したのか、眉間には深い皺が寄せられる。
「サルマンは、後継を探しているから、俺に宮廷魔法使いになれと言ってきて・・・」
レーナは黙って聞いていた。
サーヤには話の内容がさっぱり分からないのだが、ふたりの深刻な様子に、どうやら大事な話らしいと、同じく真面目な顔で耳を傾けていた。
「俺は、王家が大嫌いだからな。あんな馬鹿どもに仕える気など更々ない。特に、あの頭がイカれた王妃にはな。そう思ったから・・・」
「・・・まさか、それをそのまま言ったんじゃないでしょうね?」
呆れまじりのレーナの言葉に、アユールはにやりと笑う。
「もちろん、言うに決まってるだろう。あんな奴らに気など使っては時間の無駄だ。・・・まぁ、ヒステリーを起こされて、危うく殺されそうにはなったが。まぁ、お前たち親子のお陰で、なんとか助かったからな。結果オーライだろう」
満足気なアユールの頭を、レーナがぺしっと叩く。
「痛っ」
「なに言ってるんですか。結果オーライな訳ないでしょう。こんな体になっちゃって、腕一本動かせないくせに」
そう言って怒るレーナの顔は、最初にアユールに話しかけたときと同じ、明るく、親しみやすい笑顔に戻っていた。
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