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手がかり

「サーヤの声も、カーマインの眼も、取り返せるかもしれないの?」


レーナが思わず大きな声で問い返す。


シェマンは落ち着いた声で答えた。


「あくまでも可能性です。それに、この事に関しては、オレよりもアユールたちの方が、きっと答えを早く見つけられる。そう思ったから、今日ここに来たのです」

「シェマン。すまんが、じっくり見させてもらってもいいか?」

「それは写しだ。そのまま持っていてくれて構わないぞ」

「本当か? ありがたい」


重ねられた紙の厚さからいってかなりの量だ。

手元に置いておけるというのは、かなり有り難かった。


気がつけば、皆が席について資料を読むアユールを覗きこんでいた。


「アユール。読んだ資料を通心(つうしん)で私にも送ってくれ」

「わかった」


アユールは、資料に熱心に目を落とし、情報を頭の中で整理していく。


その様子を眺めながら、シェマンが口を開いた。


「もし何か気づいたこと、必要な物などがあったら言ってくれ。こちらでも幾つか関係のありそうな物は既に抑えているが、もし、サルマンの屋敷から押収した物を見たいようであれば、どうにかして手配するから」

「わかった」

「オレもこの尋問に当たる前は、流石にここまでの事をあの二人がしでかしているとは思ってもいなかった。まさか第二王妃とその子どもの殺害まで目論むとはな」


そして、シェマンは最後にレーナとサーヤに一礼して。

アユールからは軽く頭を小突かれて。


「またな」


そう言って去って行った。



「この資料、助かりましたね。ねぇ、師匠」

「ああ、シェマンの奴、随分と細かい所まで聞き出してくれたようだな。・・・どうだ、叔父貴。届いたか?」

「ああ、そのようだ。・・・資料はこれで全部か?」

「待ってくれ。あともう一枚・・・」


最後の資料を通心(つうしん)で送った後、ふう、と大きく息を吐く。


「あとはじっくりと調べていくだけ、か」

「そうだな。ランドルフ、クルテル。お前たちも目を通しておけ」

「は、はい」

「畏まりました」


その時、サイラスとサーヤが入って来て、疲れたでしょう、と、皆にお茶を出してくれた。


これまで手探りでしか進めなかった『亡失』の解除方法に、ようやく手が届きそうで。


これでサーヤの声を取り戻せるかもしれない。

カーマインの視力を取り返せるかもしれない。


そんな希望に突き動かされて。


皆で必死になって資料を読み込んで。

話し合って、意見を出し合って。


眠気でフラフラになりながらも、時間が惜しくてやめられなくて。


そうして何日かが経過した後、アユールたちは一つの結論に達した。


それは、禁呪をかけるにあたって、サルマンがあるものを用意したこと。

その『あるもの』とは、奪われた代価を封じ込めるためのものであること。


それはつまりーーー


その『あるもの』を探し出し、何らかの働きかけをすれば、奪われた代価を取り戻せる可能性があることを意味していた。


「サルマンの奴、それが何かについては喋ろうとしないみたいだな・・・」


頭をがしがしと掻きながら、アユールは眉を顰める。


「それだけその『あるもの』とやらが術の鍵となっているのだろう」


話し合っている横で、サーヤがごしごしと目をこすっているのが目に入った。

連日の調査と話し合いで、皆、ここのところ寝不足に陥っている。


そっとサーヤの頭に手を置いて。


「疲れてんだろ。無理しないで寝ろよ」


そう勧めたけれど。


まだ話し合いが続きそうな雰囲気に遠慮してか、サーヤはぶんぶんと首を横に振った。


「だがな、サーヤ・・・」


重ねて声をかけようとしたら、横からクルテルが口を挟んだ。


「もしかしたら、これで受けた呪いが解けるかもしれないって時ですからね。眠くて床に入っても、いざ眠ろうとするとなかなかゆっくり休めないんじゃないですか」


そう説明されて、そんなもんかな、とは思いつつも、それでもやっぱり心配で。


「あ、じゃあ、落ち着かないんだったら、眠れるまでベッドで手でも握っててやろうか?」


いい案を思いついたとばかりに口にしてみれば、何故かサーヤは顔を真っ赤にして。

ぽかぽかとアユールの頭を叩き始めた。


「痛っ、ちょっ、何だよ?」


そう抗議するも、周りからの眼は少しばかり温くて。


「うわあ、眠るまでベッドでって何をするつもりなんでしょうね」

「なっ、ば、馬鹿なこと・・・!」

「アユールさん。私、別にお付き合いを反対するつもりはないけど、いきなりベッドっていうのはやっぱりちょっと、ねぇ?」

「アユールさま。何もしない、とか言って、いざサーヤさんが眠りに落ちたら不埒な行為に及ぶつもりでは・・・」


などと聞こえよがしに囁かれて。


そんなつもりなど全くなく、ただの思い付きをそのまま口にしただけだったアユールは、途端に耳まで赤く染め上げて、訳のわからない奇声を発したのだった。

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