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正しい善意の示し方

クルテルくんから話を聞いたことをアユールさんだけには報告した。


事情を知らない人たちに、僕から話すのはどう考えても筋が通らない、そう思ったから。


アユールさんは、いつもみたいに笑って、頭を撫でてくれて、それから、ありがとうって言ってくれた。


アユールさんには、アユールさんの後悔があるみたいで。


最初はただの行き倒れか家出かなんかだと思っていたから、じっくり休ませてやろう、そう思って、外傷を治癒魔法で治し、後は過度の疲労だけだったから、ゆっくり寝かせて自然回復に任せてしまった、と。


ただ眠り続けて二日。

うとうとしながら、たまに目を覚ましては水を飲んでまたうとうとして、体力を回復するまでに更に二日。


さっさと完全治癒魔法をかけてやれば間に合ったかもしれない、と、今でも悔やんでいるそうだ。


「誰かの為に動くって、難しいことなんですね・・・」


そうぽつりと呟くと、アユールさんは、また頭を撫でてくれた。


「それが分かってない人間の方が多いんだよ。だから、お前は大丈夫だ」


アユールさんの掌は、いつも温かい。


アデルさんたちは悪い人ではない、とアユールさんは言っている。

僕もそうだと思う。


でも、クルテルくんと一緒に住んで面倒をみたいという願いが強くて、将来についての計画も彼らだけで色々と立てているらしい。

だから、魔法使いになりたいと家を飛び出して弟子入りしてしまった事が気に入らなくて。


時々現れては、帰ろう、帰ろう、と騒いで、クルテルくんに追い返されてるんだって。


人の心は難しい。


あの人たちにとって、クルテルくんが大切なのは本当で。

でも、そのやり方は、クルテルくんを傷つけるばかりで。


話しても分かってもらえなくて、どこかですれ違っている。


だからきっと、また、あの人たちはやってくる。

にこにこと、自分の善意を疑うこともなく。


アデルさんは優しそうな人だった。

ソフィさんも、クルテルくんの事が大好きみたいで。

呼び戻そうとしているんだから、お父さんもクルテルくんのことを気にかけているに違いない。


でも、そうだとしても。


僕はこの屋敷の従者見習いで。

クルテルくんの友達だから。


クルテルくんの意思を尊重したい。

この次、もしアデルさんたちが現れたときは、僕はクルテルくんの側に立ちたい。


もし、そのときが来たら。


そんなことを思って、ちょっと覚悟も決めていたけれど。

それとは別の、まったく予想外の客がこの屋敷を訪れた。


今日のお昼過ぎのことだった。


「・・・大事な話ってなんだよ」

「今さら、会わせる顔もないことは分かっているが、お前に必要な情報ではないかと思ってな」


気まずそうに、そう口を開いた人はシェマンという人だった。


警戒心をむき出しのカーマインさんの背中にはレーナさんが、そして、これまた眉を思いっきりしかめたアユールさんの後ろにはサーヤさんが隠れている。


敵ではないらしいけど、一度、アユールさんを裏切ったって聞いている。


そのせいか、扉近くに立ったランドルフさんの目つきも結構厳しくて。

クルテルくんは、窓の側に立って、外を警戒している。


「ダーラスが何か言ってんのか?」


少し低い声でアユールさんが尋ねると、シェマンさんは首を横に振った。


「王はオレがここにいることを知らない。あくまでもオレ個人の判断で動いている。・・・サルマンのことだ」


その場にいた者のほぼ全員が、ぴくりと反応した。


「今、結界を張られた獄に拘禁している。奴の屋敷も押収、捜査済みだ。その上で、これを見てくれ」


そう言ってシェマンはすっとテーブルの上に何かを置いた。

分厚い紙の束だ。


「・・・これは?」

「調書だ。サルマンの供述した事が書かれている。・・・目を通してくれないか?」


アユールは静かに紙束を手に取ると、ばらり、ぱらり、と確認しながら巡っていく。


と、ある部分で、アユールの手が止まった。


「アユールさま?」

「師匠?」


動きが止まったことを不思議に思った周囲の者たちから声がかかる。


「こ、れ・・・は・・」

「ああ、十四年前のレナライアさま襲撃事件について話した部分があるだろう? そして、その時に使った禁呪についても」


その言葉に、カーマインが一歩前に出る。


「サルマンが自白したのか」


シェマンが頷く。


「オレはこの辺りの事情はよく知らないが、あの王城での闘いの時に、そのようなことを話していたのを思い出してな。もしやこれが役に立つのでは、と、そう思って・・・」

「ああ、助かったよ、シェマン」

「いや、役に立てたのなら何よりだ。これでオレの罪を償えるとは思ってはいないが、また何か分かったら連絡する」

「頼んだ」


笑みを浮かべたアユールの顔を眩しそうに見つめた後、シェマンはその後ろのサーヤに視線を移した。


「・・・貴女がレナライアさまのお子でいらっしゃいますね」


声をかけられた瞬間、ぴくりと肩が跳ねるものの、アユールの背に守られているからかそれ以上の動揺はなく。


ただ静かに、こくりと頷いた。


「・・・成程、声ですか」


そう呟くと、シェマンはアユールの手にある報告書の束を指差し、口を開いた。


「アユール。サルマンがかけ損なった禁呪、その解除方法についての大きなヒントがそこにある」

「なに?」


その場にいた全員から驚きの声が上がる。


次に、シェマンはカーマインの方へと顔を向けた。


「カーマイン・サリタス殿。王城での会話から判断すると、貴方がサルマンの禁呪を軽減なさった。・・・そうですよね?」

「その通りだ」

「それでは、恐らく貴方も何かの機能を代償として奪われた筈。もしかすると、それも取り返す事が出来るかもしれません」

「・・・!」

「本当?」


カーマインが何か言うより早く、後ろにいたレーナが口を開いた。


「現時点では、オレの推測に過ぎませんが、恐らくは」

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