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あなたを想う理由とは

「亡失魔法が完全にかかっていなかったのが、不幸中の幸いでした」


カーマインの声は、あくまでも穏やかで。


長年にわたり共に支えてきた者、役に立ちたいと新たに加わった者、助けた者、助けられた者。


その場にいるのは事情も背景も様々だったが、皆、真剣に、そして静かにカーマインの説明を聞いていた。


「貴女にお渡しした月光石、あれにかけておきた保護魔法が発動したようでした。私が駆けつけたときには既に貴女は意識を失っており、手には粉々に砕けた月光石を握りしめておられました。・・・完全にはかかっていなかったからこそ、軽減魔法が可能となったのです」


あの夜の事は、今でも鮮明に覚えている。


レナライアの苦しそうな呻き声。

捜索のために城内を走り回る兵たち。

闇に覆われていく視界。


そして、あの夜以来、会うことはおろか、見ることも叶わなくなった、美しい女性(ひと)の姿。


「最強にして最悪の禁呪です。完全にかけられた状態ならば、私の命を懸けたとしても軽減することは出来なかったでしょう」

「サリタス・・・」


それまでレーナは、目を伏し、ただ黙って耳を傾けていたが、カーマインの言葉を聞いてゆっくりと顔を上げた。


「軽減のせい、なのね・・・?」

「レナ・・・レーナ」

「あなたの視力が犠牲になったのね?」


カーマインはそれに直接には答えず、ただ薄く笑んだ。


「だから・・・私の記憶を変えたの? 私が貴方に・・・罪悪感を持たないように・・・?」

「・・・勝手なことをいたしました。申し訳ありません」

「・・・本当よ」


頭を下げるカーマインに近づくと、むにっとほっぺたをつまんだ。


「ぬぁ、ぬぁにうぉ・・・」

「何言ってるかわかんない」


両頬を引っ張られて焦るカーマインに、じとっとした目を向ける。


「ねぇ、サリタス。記憶を消して、貴方の眼の事を知らないことにすれば、それで済むと思ったの?」

「・・・」

「私が覚えていようがいまいが、貴方が私を助けるために物凄い犠牲を払ってくれた事実は変わらないのに」


そこでようやく、レーナは頬から手を離した。

よほど強く引っ張っていたのか、つまんでいた部分が赤くなっている。 


「記憶が無くなりさえすれば、その事実も消せるとでも思ったの? 簡単に消してしまえるほど、私と貴方の間にあった絆は小さなものだった?」

「レナライアさま・・・」

「もう、またそっちの名前で呼んでる」


眉を挟めてむっとした顔になる。


「すみません。つい」

「ねぇ、サリタス。私とサーヤは貴方に命を救われたのよ・・・。せめて、その事実に感謝くらいさせてくれてもいいじゃない」

「・・・申し訳ありません」

「何で貴方が謝るのよ。もう、視力を失ってまで助けたのに、謝るっておかしいでしょう?」

「・・・そうですね」


そう言って、ふっと笑う。

つられてレーナの顔にも笑みが浮かんだ。


「ふふっ。サリタスの馬鹿。お礼ぐらいちゃんと言わせてよ。とんだ礼儀知らずになっちゃったじゃない」

「こちらこそ、とんだご無礼を」

「もう・・・サリタスったら」


笑っているレーナの瞳に、涙が浮かぶ。


「本当に意地っ張りなんだから」

「自覚しております」

「・・・助けてくれて、ありがとう」

「いえ」


ぽろぽろと涙が零れだして、カーマインの眉が下がる。


「ごめ・・・。また涙が・・・」

「ご存分にお泣きください。サリタスはここにおりますから」

「うん・・・。ねぇ、サリタス」

「はい」


涙をごしごしと手で拭いながら、レーナは言葉を継いだ。


「あの夜、駆けつけてくれて・・・視力を犠牲にしてまで、私たちを助けてくれてありがとう」


そう言って、レーナは花のように微笑んだ。


「礼には及びませんよ。貴女をお助け出来たことは、私の人生で最大の功績だと思っておりますので」


カーマインはそう答えながら、眼裏で彼の方の笑顔を思い浮かべていた。




◇◇◇




「いやー、熱々だったな」

「うん・・・。カーマインさんは、もともと母さんの前ではいつもデレてたから、今さら驚かないけどね」

「そうだな。記憶が戻る前は、叔父貴のしょうもない片想いかと思ってたけどな」

「ふふ、母さん、可愛かったね」

「あれは、王宮にいたとき、叔父貴に相当助けられてたな」


二人は、少し遠い目で、ほんの数時間前に目にした光景を思い出しながらそう言った。


「まぁ・・・。幸せそうだったから、いいんじゃないか?」

「そうだね」


示し合わせたかのように、ふふっと笑いあう。


「あとは・・・お前の呪いだけだな」

「うん。そうだよね。・・・でも」

「ん?」


何か言い渋る様子に、アユールがぐっと顔を覗き込む。


「でも・・・何だ?」

「・・・えぇと、カーマインさんの眼も、見えるようになるといいのになぁって、そう思って」

「・・・」


そう話すサーヤの顔は、少し寂しそうで。


「ああ、そうだな」


アユールは、そう言葉を返すことしか出来なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何か主人公カップルそっちのけであつあつラブラブな人たちが。脇カップルの話が好きなので大歓迎ですが。
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